朋也君と杏さんを待っている間、何度か椋さんが料理をしそうになったけども、僕はそれを全力で、かつ作らせないように必死になっている事に気づかれないように頑張っていた。
「お姉ちゃんや岡崎君ばかりに準備させるのは、やっぱり悪いですよ。今日は私たちが呼んだんですから。私たちがホストなんですから」
「朋也君も杏さんもそこは気にしないって。それに、もう外にいるみたいだし」
視線を逸らした先に、杏さんが手を振っているのが見えたので、僕は椋さんの意識をそちらに向けさせた。これ以上は厳しかったので、このタイミングで杏さんと朋也君が来てくれたのは本当にありがたい事だったのだ。
「やっほー! 来たわよ」
「お姉ちゃん、岡崎君と一緒に来たんですね」
「コイツがあたしについてきたのよ」
「目的地が一緒なのに、何でわざわざ別の道をいかにゃいかんのだ」
「はいはい。心優しいあたしは、別にアンタの事をストーカーだとは思ってませんわよ」
杏さんの気持ちを知らなかったら、何でこんなにも悪辣な言葉を吐くんだろうって思ったかもしれないけど、気持ちを知っている上でも、やっぱり悪辣な言葉にしか聞こえないのは何でだろう……椋さんが言うには、杏さんはツンデレだかららしいのだけども、最早ツンデレって言葉で如何にか出来るレベルの悪辣さでは無いような気もする。
「勝平、ちょっとこっち来い」
「ん? 如何かしたの、朋也君」
杏さんの悪辣な言葉には特に反応しなかった朋也君だけども、何か思う事があるらしく僕に対して手招きをしている。
「いったい何の用だ?」
「何の事?」
「惚けるな。今日俺と杏を呼んだ理由は何だ?」
朋也君が目を細め睨んで来る。朋也君としては睨んでるつもりは無いらしいんだけども、僕から見れば十分睨んでると言える目だ。
「偶には、四人でのんびり過ごせたらなってさ」
「本当にそれだけだな?」
「うん……」
訝しむ朋也君の視線に耐えながら、僕は本当の理由を隠した。まさか「二人の仲を進展させようと思って」などと本当の事を言えば、朋也君は怒るか呆れるかして帰ってしまうだろうから。
二人が差し入れで持って来てくれたもので晩御飯を済ませ、僕たちはお酒を飲む事にした。まぁ、病み上がりでお酒に強くない僕と、杏さんがいるから、という理由で朋也君はお茶を飲んでいるのだけども……つまりは姉妹の飲み会に、僕と朋也君が参加している感じなのだろうか。
「なぁ勝平、お前、本当になにも隠し事をしてないんだよな?」
「そ、そうだよ?」
「目が泳いでるし言葉が疑問調なのは何故だ?」
「それは……その……」
「まぁ勝平、怒らないから言ってみろ」
「……本当に怒らない?」
「やっぱり隠し事はしてるんだな」
「あっ!」
朋也君の誘導尋問じみた仕掛けにまんまとはまり、僕は今回の招集理由を朋也君に話す事になってしまった。
「……なるほどな。余計なお世話だ」
「でも、椋さんの話だと、杏さんは高校時代から朋也君の事が……」
「あたひがらんらって?」
「……もう酔っ払ってるのかよ」
朋也君に事情を説明し、思い至った理由を話そうとしたら杏さんが絡んできた。既に酔っ払ってるらしく、普段以上にスキンシップが過激だ。
「らいはいへー! あんはがもうしゅこひひゃっきりしゅてきゅれれば……」
「何だって?」
「なはらー!」
「……さっぱり分からん」
既に呂律が回らない杏さんの言葉を何とか理解しようとしたけども、僕も朋也君もさっぱり理解出来なかった。
「ほれはー! おねひゃんらってはるいんじゃはいんでふはー?」
「らにひょ、ひょうらって朋也の事をひゅひってひったしゃないのー!」
「……スマン椋! 杏も黙れ!」
「「ゴフッ!?」」
「えっ、なに? 朋也君、今なにをしたの?」
良く分からない会話をしていた二人が急に黙った、と思ったら、朋也君が強制的に黙らせたようだった。
「訳の分からない会話を聞かされるのも面倒だったからな。少し寝てもらった」
「状況だけ見たら、朋也君が二人を酔わせて気絶させて、この後襲うのかと思うよね?」
「そんな思考をしているやつとの関係は改めた方がいいんだろうか」
「じょ、冗談だから! 冗談だからそんなに睨まないでよ」
「だから睨んでねぇっての」
朋也君に睨まれて、僕は身の危険を感じて必死に言い繕った。朋也君は睨んでないって言うけども、あれは完全に睨んでるって表現出来ると思うんだよね……あぁ怖かった。
酒の力って凄い、って聞きますけど実際は如何なんでしょう?