朋也にデートに誘われた。もしかしたら朋也はデートじゃなく単純に気分転換で遊びに誘ったのかもしれないけども、事情を知らない人たちから見れば、あたしと朋也の二人が恋人同士に見えるのかもしれない。
「出かけるのは明日なのに、何であたしは今から緊張してるんだろう」
約束の時間は明日の午前九時。現時刻は午前十時なので、まだ一日近く先なのに、あたしの鼓動はずっと早いテンポを刻んでいる。
「落ち着け……朋也はデートだなんて思って無いんだから」
悲しい自己暗示。だけどこうでもしなければ、あたしの心臓は大人しくなってくれない。早鐘を打ち過ぎて疲れてしまうかもしれないのだ。
「とりあえず、明日着る服を決めないと……」
本当に心臓を落ち着かせたいのなら、明日の事は考えずに普通に生活するのが一番なのだろうけども、それだけはどうしても出来そうにないので、あたしは出かける事以外の事を考えて落ち着かせる事にした。
「改めて見ると、あたしってろくな服持ってないのね……」
幼稚園の先生なんて、お洒落する機会など殆ど無い。加えてあたしには恋人なんていなかったので、機動性重視の服装になってしまうのだ。要するに、デートに着て行くような服を、あたしは持っていないのだ。
「って! デートじゃないんだってば!」
誰に言い訳するでもなく大声でツッコミ、あたしは頭を抱える。
「あーどうすればいいのよー! 誰か相談出来る相手は……」
真っ先に思いついた相手は椋。妹の椋なら相談しやすいと思ったのだけども、あたしとあの子じゃ決定的に違う部分があったのを思い出して止めた。
「他の部分は同じくらいなのに、何であの子はあんなに成長してるのかしら……」
自分の身体に目を落とし、そして頭の中で椋の身体の一部分を思い浮かべる。双子と言っても、あたしと椋とでは決定的に違う場所が存在するのだ。
「今度秘訣でも聞いてみようかしら……」
あたしも小さくは無いけども、椋と並ぶと霞んでしまうのだ。それくらいあの子の胸は大きいのである。
「そう言えば最近また大きくなってるような気が……」
もしかしたら、勝平さんに揉まれているのかもしれない。別におかしい事は無いわね、夫婦なんだから……
「でも、それが秘訣だと言われたら、あたしは誰に揉んでもらえば良いんだろう……」
そんな相手などいないし、今も朋也とデートだと考えるだけで早鐘を打つくらい、あたしは異性との付き合いが乏しいのだから……
杏を気晴らしに誘ったのは良いが、アイツはそれで元に戻るのだろうか……勝平や椋からそれとなく誘えというオーラが出ていたし、杏の気持ちを何となく知ってる身としては、誘わざるを得ない感じがしていたのも理由の一つだ。
「(俺は、杏の事をどう思っているんだ?)」
高校時代からの友人、悪友、容赦なく言い合える数少ない異性。あげればきりが無いだろう。だいたい、高校時代に俺や春原に普通に話しかけていたのは、高校三年の時を除けば杏くらいなものだ。
委員長って事も多分にあったのだろうが、アイツはそんな事関係なく話しかけてきてただろう。とにかく一緒にいて楽なのだ。
「(楽ってのは一番大事だよな……)」
一緒にいて疲れる相手と付き合うのは大変だろう。例えそれが恋人だろうが友人だろうが関係なく、一緒にいるなら出来るだけ楽な相手が良いと思う。
「(まぁ、椋や勝平は少し大変だけどな)」
あの二人は基本的には大変ではないのだが、二人とも頭のネジが緩いのか、とんでもない大ボケをかます時があるのだ。その点だけは何とかしてほしいのだが……
「(杏も、酒さえ飲まなければめんどくさくは無いんだよな)」
弱いくせに酒を飲みたがるので、毎回介抱させられている身としては、何としてでも酒を断ってほしいと思う今日この頃、それさえなければ本当に杏は一緒にいて楽な異性だと言えるだろう。
「(明日、自分の気持ちをちゃんと考えるとするか)」
目を逸らしてきた……いや、分かってて触れようとしなかった事柄に触れなければいけない時が来たのだろう。俺はとりあえず今はこの事を考えないようにして、仕事に集中し直す事にした。
「(そもそも、俺は杏の事を友達だとずっと思ってきたんだから)」
そう自分に言い聞かせ、俺は目の前の仕事に集中する事にしたのだった。
次でデートまで行くかな……