とりあえず落ち着きを取り戻したあたしは、朋也と一緒にブラブラと歩く事にした。本当なら電車を使ってどこかに行く予定だったのだけども、あたしの体調を気にしてか朋也がそう提案してくれたのだ。
「悪いわね、ホント……遅刻した挙句に予定を変更させるなんて」
「気にするな。別に大した予定を組んでた訳でも無いんだ」
「そうなの?」
「俺とお前の二人だからな。テキトーに歩いても楽しめるだろうし、気になった場所に寄るって感じで良いだろうと思ってたからな」
確かにそれでも十分楽しいだろう。なんといってもあたしと朋也は昔からそんな感じで付き合ってたんだし、それが大人になっても変わらないのは嬉しい事だ。
でも、ちょっとだけ残念に思っている自分がいる事に、あたしは驚いた。何がそんなに残念なのかは、自分では分からないフリで誤魔化したのだけども……
「しかし、この街も変わらないよな」
「そうね。あの店って昔陽平に奢らせた場所よね」
「あったな、そんな事も。あの時の春原の顔、最高にヘタレだったよな」
「うんうん。まぁ、陽平は何時もヘタレだったけどね」
「違いない」
高校時代の事を思い出して、朋也と談笑する。こういう風に特に意識することなく会話出来る時は問題ないのだ。だけど、一度意識してしまうともう駄目。朋也とまともに会話する事すらままならなくなってしまうのだ。
「今度春原の地元にでも行ってみるか」
「何しに?」
「アイツの高校時代の『武勇伝(笑)』を広めに」
「面白そうね。でも、あたしもアンタもそこまで暇じゃないわよね」
「そうなんだよな……春原みたいに土日祝日が確実に休みってわけでもねぇしな。特に俺は」
「あたしも運動会とか色々行事があったりするからね。やっぱり陽平にこっちに来てもらって、それでパシらせるのが一番よね」
「そうだな。アイツは俺たちにパシられる為にこの街に来るんだもんな」
どうしても話題は共通の知人(下僕)である陽平の事になってしまう。近況報告とかそんな事で盛り上がれるほど、あたしと朋也は会って無い訳じゃないのだから。
「そういえば、ボタンのやつは元気なのか?」
「ボタン? あの子なら幼稚園にいるわよ」
「マジで!?」
「うん。子供たちに大人気なのよね~。乗れるって」
「……あの子供だったボタンがそんなに」
「人間とは違うからね」
そう言えばボタンって、朋也に懐いてたのよね。何でか分からないけど、朋也にはあっさりと心を開いたのよ。もちろん、最後まで陽平には心を開かなかったんだけども……
「ねぇ朋也」
「ん?」
「今度ボタンの散歩に付き合ってよ」
「散歩? アイツ、まだ散歩するのか?」
「当たり前でしょ! それに、ちゃんと見て無いと野生のイノシシと勘違いされて狩られちゃうし」
「近所じゃ有名なんじゃないのか?」
「ここら辺一帯なら知ってるでしょうけど、全員がこの街の人、って訳じゃないでしょ」
「それもそうか……別に構わないぜ。俺も久しぶりにボタンに会いたいし」
「じゃ決定ね! 今度電話するわ」
思わぬ形で朋也に電話する機会を得たわね。
「(ありがとう、ボタン! 今日の晩御飯はお好み焼きにしてあげるわね)」
心の中でボタンに感謝して、その印としてボタンの好物を作ってあげる事にした。
「この交差点」
「ん?」
「お前が勝平を撥ねた場所だよな」
「……嫌な事思い出させないでよね」
「お前、俺や勝平以外の人間を撥ねたりしてねぇだろうな?」
「失礼ね! あたしがそんな事するように見えるわけ?」
「見える」
そりゃそうよね……逆切れだって分かってるし、実際に朋也と勝平さんの事を撥ねてるんだから……
「安心しなさい。あたしが撥ねた事あるのはアンタと勝平さんだけよ」
「安心出来るか! そもそもあれはどう考えても交通事故だろうが!」
「うっさいわね! 昔の事をグチグチと言ってるとモテないわよ!」
「大きなお世話だ!」
周りの人が聞いたらかなり物騒な会話なんだろうけども、あたしと朋也の間ではそれほど物騒な会話ではない。むしろ昔から続いている言い争って楽しむ、って感じなのよね。
素直になれないけど、こうやって昔の感じのままで言い合えるのは、やっぱり朋也だけなんだと思った。
気まずい関係ながらも、友達だから大丈夫……ある意味自己暗示……