昨日椋の部屋で呑んで、朝まで寝てたらしいんだけど……途中から記憶が無いのよね……平日だからあたしも朝から仕事なので、椋の家でシャワーだけ浴びて部屋に着替えに戻ってそのまま幼稚園にやってきた。もちろんお酒の匂いはしないか確認済みだ。
「杏せんせーおはよー!」
「はい、おはよう」
朝から子供たちに元気に挨拶されるんだけど、今日は少し頭に響く……昨日呑み過ぎたかもしれないわね……
「あれ? 冷蔵庫の調子が悪いわね……」
職員室にある冷蔵庫から水を取り出して飲もうとしたら、あまり冷えてなかった。まぁこの冷蔵庫もかなり古いものだし、そろそろ交換時期かもしれないって園長先生も言ってたしね。
「どうしようっかな……」
実はこの冷蔵庫は園長先生の思い出の品らしいのだ。一職員であるあたしの独断で捨てていいものでは無いんだけど……
「相談するか」
他の先生たちに冷蔵庫の調子が悪いと相談を持ちかけ、園長先生に報告した。壊れた訳じゃないならまだ使いたいという事だったので、町の修理屋に電話して修理に来てもらう事にした。
「こんにちは、○○産業です」
「御苦労さま……っえ、朋也?」
「杏? 何でお前が……」
修理に来た業者の人は朋也だった。そういえば昨日椋が、朋也は町のリサイクルショップで働いてるとか何とか言ってたような……
「あーここ、お前の職場か」
「そうよ! 悪い?」
「誰も何も言って無いだろ?」
朋也は苦笑いを浮かべながら、「冷蔵庫を見せろ」と言ってきた。コイツに任せて大丈夫なのかしら、とは思ったけども、まぁ見せるだけならと思い職員室に案内した。
「これか?」
「そうよ。アンタ、直せるの?」
「見てみなきゃ分からん」
そういって朋也は冷蔵庫を調べ始める。考えてみたらあたし、同級生が働いてるとこ見るの初めてかもしれないわね……
「……なるほど」
「何がなるほどなのよ?」
「ちょっと黙ってろ」
「んな!?」
邪険に扱われたのが気に喰わなくて、あたしはつい高校時代の様に喰ってかかろうとしてしまった。
「これなら直せる。ちょっと道具取ってくるから待ってろ」
そういって朋也は乗ってきた軽トラに戻り工具とか色々持ってきた。
「藤林先生、ちょっといいかしら?」
「あっ、はい!」
園長先生に手招きをされて、あたしは朋也の傍から離れる。
「何でしょうか?」
「あの人、藤林先生の知り合いかしら?」
「………」
しまったー!? つい朋也といると口調やらなんやらが高校時代に戻ってしまったのよね。職場で積み上げてきた大人しいイメージは、おそらくこれで崩壊しただろう。
「こ、高校の同級生です」
「そうなの。でも、あの冷蔵庫がまだ使えるなら嬉しいわね」
「大切なものですものね」
今更だとは思うけど、あたしは仕事用の口調で園長先生と話す。これも全て朋也の所為ね。後で辞書でも投げつけたいわ!
「おーい、杏? 修理終わった……っと、失礼しました」
園長先生の姿を確認した朋也が口調を改めた。どうやら口調が普段通りになってしまってたのは朋也も一緒だった。
「ありがとう。それで、お幾らかしら?」
「そうですね……簡単な掃除と配線の交換だけですから……これくらいですね」
電卓を叩いて料金を提示してくる朋也。意外と真面目に仕事はしているようだった。
「それで、後どれくらい使えるかしら?」
「そうですね……痛んでた配線は交換しましたし、後数年は大丈夫だとは思いますよ? もちろん、普通に使えばですけど」
朋也は意味ありげな視線をあたしに向けてきた。さすがにあたしだって冷蔵庫に八つ当たりはしないわよ。
「ではこれで。また何かありましたらよろしくお願いします」
朋也は料金を受け取ると一礼して去っていく。受け取った名刺にはちゃんと会社の名前と朋也の名前が印字されていた。
「なかなかいい人ね。藤林先生の恋人かしら?」
「い、いえ!? そんな関係じゃありませんよ……ただの同級生です」
チクリと胸が痛む。あたしはまだ朋也の事を吹っ切れてないのだろうか……
「今度から園の家電の修理は岡崎さんに頼もうかしらね」
あたしに意味ありげな視線を向けてきた園長先生に、あたしは何も言い返せなかった……
「ってな事があったのよ」
「それを言いにわざわざ?」
仕事終わりに椋の家を訪ね今日あった事を話す。ちなみに帰り道で椋を捕まえて二日続けて家飲みをするつもりだったのだけど、さすがに椋に怒られた為、今日はお茶会という事になっているのだ。
「でも、岡崎君もしっかりと働いてるんだね」
「しかもこれ見よがしに名刺まで置いていってさ」
あたしは持ってきた名刺を椋に見せる。
「あっ……ここの会社って患者さんの自宅の家電の修理も担当してるらしいよ」
「そうなの?」
「うん。この間患者さんのお婆さんから聞いたんだけどね……」
椋から聞かされた話は、朋也がそのお婆さんの家の洗濯機を修理した話だった。高校時代あれほどサボってた朋也も、仕事は真面目なんだなって思いながら椋の話を聞いていたのだった。
この二人ならこのノリだと思います。