椋さんも仕事で、朋也君と杏さんは二人でお出かけなので、僕は今部屋に一人だ。別に珍しい事ではないんだけども、最近は誰かしらと一緒にいたので、久しぶりに一人だと何だか調子がくるってしまう。
「もう一度尾行しようにしても、今朋也君たちが何処にいるかなんて分からないし……散歩でもしよう」
こんな事になるのなら、帰ったフリをして朋也君たちを尾行し続ければよかったよ……まぁ、すぐに朋也君にバレて終わってたかもしれないけど。
「漸く杖が無くても歩く事は出来るようになってきたし、このまま順調に行けば近いうちに出かけるのに杖が必要じゃなくなるだろうな」
今でもとりあえず持っているだけで、あまり使う機会は無いのだ。執念か、はたまた生来の回復力なのかは分からないけど、僕はかなりのスピードで回復していっているらしいのだ。
何故らしいとしか言えないのかと言えば、病院でもそう言われるだけで原因がハッキリと分からないからだ……お医者さんが分からない事を、僕が分かるはずも無いのだ。
「でも、散歩と言ってもな……ここら辺は既に何十回と歩いたし、目新しい何かが見つかる訳もないしな……」
別に新発見をしたい訳ではないんだけども、何十回と歩いた見慣れた光景を楽しむのは、少し難しい事ではないかと僕は思っている。
改めてじっくり見直したところで、些細な発見すらないくらいに僕はここら一帯の景色を見ているのだ。それしか暇をつぶす方法がなかったから……
「病院は明日だし、やっぱり散歩しか暇をつぶせる事は無いかな……料理をしようにしても、僕一人じゃまだ何も出来ないし……」
朋也君と杏さんに椋さんがいない時料理を習っているのだけども、僕の現状の腕では何一つまともに作る事は出来ないだろうと分かっているので、食材の無駄になってしまう行為は避けるべきだろう。
「さて、考えても散歩しか選択肢は無いんだし、大人しく散歩に出かけるとしようか」
誰に聞かせるでもなく、自分自身を納得させる為に呟いた言葉で、僕は散歩に出かける決心をしたのだった。
「今日はどのあたりを歩こうかな~」
散歩はかなりの回数しているのだけども、こうしてルートを考える時は未だにわくわくする。何か新しい発見があるんじゃないかと、心のどこかで期待してるんだろうな。
「商店街の方にでも行ってみようか」
僕があまり近寄らない場所だからこそ、何か新しい事が見つかるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、僕は商店街へと続く道を歩き始めた。
商店街に到着し、僕はブラブラとショウウィンドウを覗き込む。所謂ウインドウショッピングだ。
「(こうやって見るだけでも結構面白いんだな……今度朋也君か杏さん、椋さんと一緒に来てみよう)」
昔からこういった事をする方ではなかったので、今更ながらに楽しさに気付いた。この事は朋也君たちは知ってるんだろうか?
「あれ?」
そんな事を考えていたからか、前方に朋也君らしき人影を見つけた。でも、今日は杏さんと二人で何処か遠出してるはずの朋也君が、この街の商店街にいるなんて事が……
「勝平、お前まだいたのか」
「……一度帰ってまた散歩で出てきただけだよ。それよりも、朋也君たちこそ何で?」
「杏の体調が優れなくてな。遠出は諦めてブラブラと歩いてたんだよ」
確かに杏さんの顔色は、何時もの感じより少し気分が悪そうに思える。でもそれは、それなりに付き合いがある人間だけが見抜けるような僅かな変化だ。それを見抜くとはさすが朋也君だ。
「じゃあ僕も一緒してもいいかな? 一人でブラブラしてもあまり楽しくないし」
「まぁ、そういう事情なら仕方ないな。杏も構わないよな?」
「あたしは問題ないわよ。むしろ勝平さんがいてくれた方が安心出来るし」
「如何いう意味だ」
杏さんの軽口に朋也君が合わせる。これが僕だったら言葉通りに受け取ってへこむとこだけど、朋也君はあれが冗談だとすぐに見抜いたのだ。
やっぱりそれなりの付き合いと、元々の相性の良さが原因なんだろうな。この二人は一緒にいてかなり自然にふるまえているのだ……なのにどちらも想いを伝える事をしないのは何でだろう? 僕にはその事が不思議でしょうがないのだ。
そんな事を考えながらも、僕はその事を口に出さずに二人とブラブラしていた。だって聞いて怒らせたら怖いから……
デートとは思えないな……