昨日の夜、早々に逃げ出した朋也君が、お昼過ぎに再びこの部屋にやって来た。ちゃんと食材の買いだしを済ませてきて……
「と、朋也!」
「あ? 何だよ」
「昨日、あたし変な事言わなかった?」
朋也君が来てすぐ、杏さんが昨日の発言について確認を取り始める。
「あぁ、俺が好きだとかどうとか言ってたな」
「ッ!? じょ、冗談だからね! 本気に取らないでよね!」
杏さんもいい加減素直になればいいのに……僕がそんな事を思ってると、僕の横で椋さんが僕と同じ目をして杏さんを眺めていた。おそらく……いや、確実に僕と同じ事を思ってたんだろうな。
「別に酔っ払いの言葉を本気に取るような真似はしねぇよ」
「いやーあれは杏の……ゲバァ! なにするんですかねぇ!?」
春原君が余計な事を言いそうになったので、杏さんが傍にあった辞書で春原君の顔面を振り抜いた。あれは痛そうだな……
「陽平、素巻きにされて川に流されるのと、コンクリート詰めにされて海に流されるのと、どっちがいい?」
「ステキな選択肢だね……出来ればどっちも遠慮したいかな……」
「ダメ。素巻きにしてコンクリート詰めしてあげる。そして川から海まで漂流しなさい」
ステキな笑顔を浮かべながら、杏さんが春原君に死の宣告をする。春原君もこうなるって分かってるのに、何で杏さんによけいな事を言うんだろう……
「そもそもあたしが朋也を好きになるわけないじゃないの!」
「お姉ちゃん、ちょっとコッチ来て」
「えっ、椋? なによいったい……」
杏さんの腕を、椋さんが引っ張って朋也君の側から移動させる。僕も二人についていく事にした。
「お姉ちゃん、いい加減素直になりなって。岡崎君の事好きだって、昨日言っちゃってるんだからさ」
「あ、あれは! 酔っ払ったから言った戯言よ! 本気なわけないじゃないのよ!」
「私にウソを言っても意味無いって。お姉ちゃんの気持ちは高校の時から知ってるんだから」
「僕も何となく知ってましたし、椋さんから聞きましたので」
杏さんが朋也君の事が好きだって事は、僕と椋さんだけじゃなく春原君も気が付いている。朋也君も気づいてるけど、あえてそれに気付かないフリをしているのだ。
「ちゃんと告白しなよ。岡崎君だって何時までもあんな態度を取るのも大変だと思うよ?」
「……どういう意味よ」
「気づいてるんでしょ? 岡崎君もお姉ちゃんの気持ちを知ってるって」
散々お酒の力を借りて言っているのだ。いい加減朋也君も冗談じゃないって気づいてる。いや……もしかしたらその前から気づいてたかもしれないのだ。
「春原君じゃないけど、昨日のアレだって本心から言ったんだよね?」
「だからあれは……」
「あれは?」
言い訳をしようとしたのだろうが、椋さんが真っすぐに杏さんを見詰めていたので、杏さんの言葉は途切れてしまった。
「……本心です」
「でしょ? だったら今度は酔っ払いの戯言なんかじゃなく、素面のお姉ちゃんで言えばいいだけでしょ」
「それが出来れば苦労しないわよ……」
「お姉ちゃん……昔から思っても無い事はすんなり言えるのに、どうして本心になるとこんなに言い淀んじゃうのさ?」
「分からないわよ、そんなの……」
「今日中に岡崎君に告白する事。じゃないと私から岡崎君に言っちゃうからね」
「なっ!? ……分かったわよ。今日中に朋也に『好き』って言えばいいんでしょ!」
自棄になったのか、杏さんは僕たちの前で、今日朋也君に告白する事を宣言した。これで朋也君と杏さんが付き合う事になって、結婚までいけば、僕は朋也君と家族になれるんだな……何だか不思議な気分だ。
あとはどう展開させていくかですかね……