漸く退院する事が出来た僕の為に、週末退院祝いをしてくれる事になった。何故週末かと言うと、朋也君も杏さんも仕事が休みで、かつ春原君もわざわざ駆けつけてくれるらしいのだ。何故らしいとしか言えないのかというと……僕は朋也君から「春原も呼ぶ」としか聞いていないからだ。
「退院したのはいいけど、特にする事も無いから病院にいても変わらないんだよね」
誰もいない部屋……僕は一人ごちて布団に入る。まだ一人で外出する事が出来ない僕は、椋さんが仕事に行ってしまうと部屋に篭ってるしか過ごしようが無いのだ。
「あ~あ……病院にいれば椋さんに会えるのに……」
そんな事言っても入院費だってバカにならないのだ。退院の許可をもらったのに何時までも病院にとどまるのもおかしいし、何より病院にだって迷惑なのだ。
「朋也君は何してるんだろうな」
そろそろ仕事の時間も終わりだろう。そうなると朋也君も比較的自由な時間があるだろう。ちょっと前までなら病室を訪ねてきてくれたんだけど、さすがにこの部屋を訪ねてくる事は無いだろうな……だってここは椋さんの部屋だし……
「早く回復して僕も働かなきゃ!」
入院する前に借りていた部屋は、さすがに契約を解除している。難病とされ脚を切るしかなかった病気だったのだ。何時戻れるか分からない僕とずっと契約してくれるわけもないしね……
そんな事を考えていたら、来客を告げるチャイムが鳴り響いた。僕は宅配業者かと思い覗き穴を覗く。するとそこには……
「杏さん? それに朋也君も……」
何故二人が一緒にこの部屋を訪ねてきたのか……当然の疑問が浮かぶ前に、僕の心は嬉しさでいっぱいになった。
「おじゃまします、勝平さん」
「何で俺まで……」
「いいでしょ。どうせ仕事終わりで暇だったんだから」
「勝手に決めるな!」
「えっと……どうぞ」
家主である椋さんは不在だけど、とりあえず来客をもてなす為に僕は二人を部屋に招き入れる。
「でも如何したの? 二人一緒にここに来るなんて……」
「この間幼稚園の家電の修理に朋也が来たのよ。その名刺に書いてあった番号に電話してあたしが呼んだのよ」
「俺は迷惑だって言ったんだけどな……」
「なによ!? あたしが迷惑だって言うの?」
「勝平はまだ退院したばっかだ。来客があっても困るだけだろうが」
朋也君の考えは実に一般的だ。確かに退院したての僕はろくに来客をもてなせない。だけど杏さんの気持ちもありがたいのだ。暇を持て余した僕にとって、この来客二人はとても嬉しかった。
「そういえば朋也、アンタ陽平に電話したの?」
「いや? 勝平にかけさせようと思って」
「えっ、僕?」
まさかの朋也君のセリフに、僕は思わず固まってしまった。
「まぁ嫌なら俺がかけるが」
「ううん、僕が春原君に電話するよ」
朋也君から春原君の電話番号を受け取り電話を掛ける。二回コール音がして、寮長らしき人が電話に出た。
「そちらでお世話になっている春原陽平さんをお願いします」
春原君に繋いでもらう為に、僕は自分の名前を告げ待った。
『勝平っていうなー!』
「うわぁ!?」
急に叫び声が聞こえ、僕は思わず朋也君に受話器を渡した。
「あーもしもし春原か? ……ああ、そうだ。それでお前明日仕事が終わったらこっちに来い。……あ? お前俺の言う事に逆らうのか?」
朋也君が半分脅すような感じで春原君に話しかける。すると面白そうと言って杏さんが受話器を朋也君から受け取った。
「あ、陽平? 来ないなんて言わないわよね? ……そうそう、アンタは大人しくあたしと朋也の言う事を聞いてればいいのよ」
「うわぁ……」
高校時代、春原君は二人の友人(自称)でからかわれたりパシられてたりしてたらしいけども……これは嘘でも無ければ誇張でも無かったんだろうな……二人とも春原君に対して高圧的だよ……
「じゃ、勝平さんに返すわね」
杏さんから受話器を受け取り、僕は春原君に話しかける。
「えっと……大丈夫?」
『ハイ、ボクハオカザキトキョウノイウコトヲキキマス。サカライマセン……』
「うわぁ……」
なんだかロボットみたいな受け答えだったけども、如何やら春原君もこっちに来てくれるみたいだった。
「さて、それじゃあ呑むわよ!」
「明日も仕事だろうが……」
「細かい事は気にしないの! 大体アンタだって呑むでしょ?」
「いや、俺は止めておく。車運転するからな」
「明日には抜けてるって」
杏さんが朋也君にお酒を勧めているけども、朋也君はそれを頑なに拒否している。なんだか逆ならあり得そうだなと思ってたけども、まさか杏さんがお酒を勧めるとは……
「勝平、この駄目な義姉を何とかしろ」
「僕には無理だよ……朋也君の方が付き合い長いんでしょ? 何とかしてよ」
酔っ払う前から絡んで来る杏さんを、僕も朋也君も持て余し、結局椋さんが帰ってくるまで杏さんの暴走は続くのだった……
名のあるキャラはこれで全部ですかね。