朋也君と杏さんが何処かに出かけてしまったので、僕と椋さんは部屋でのんびりと昼下がりを過ごしていた。
「上手く行きますかね?」
「お姉ちゃんの事ですし、また思っても無い事を言っちゃうんじゃないですかね」
「あー、あるかもしれないですね、それ。朋也君も杏さんの気持ちを知ってるんだから、朋也君から告白してあげるって考えは出来ないんですかね?」
「岡崎君は今のままの関係でも良いって考えなんじゃないですか? 自分から告白するのは違う、って思ってるのかもしれませんし」
「ありえるかもしれないね。朋也君は面倒事を嫌うから」
椋さんとしみじみとお茶を飲みながら話していると、下の方から声が聞こえてきた。
「あのー、僕は何時までこんな格好でいなきゃいけないんですかね……」
「あっ、春原君いたんだ」
「すっかり忘れてました」
「何気に酷いよね……二人ともさ……」
素で忘れていた事を謝って、春原君を縛っていた縄を解く。それにしても、杏さんは何処でこんな縛り方を習ったんだろう……複雑に絡み合って解きにくかったよ……
「それで、岡崎と杏は何処にいったのさ?」
「それは僕たちにも分からないよ。杏さんの気の向くままに出かけたんだし」
「そうですよ。それに、今二人の邪魔をしようとすれば、馬に蹴られちゃいますよ」
「は? 何で馬に蹴られるのさ?」
椋さんの遠回しな答えの意味に気づけない春原君……そう言えば高校時代、現国の成績は酷い物だったって朋也君が言ってたな……普通に勉強してれば分かっただろう表現も、春原君には通用しなかった。
「とにかく、今は大人しくここにいる事を勧めるよ」
春原君の分のお茶を淹れて、僕は春原君にこの場所に留まる事を勧めた。はっきりと言わないと探しに行きそうだし、こうやってお茶を出せば大人しく留まってくれるだろうしね。
「いいや、僕は杏に文句を言わなきゃ気が治まらないからね! 探してくる!」
「あっ、ちょっと……行っちゃったよ……」
「まぁ昔から空気が読めない人でしたからね、春原君は」
椋さんの何気ない一言に、僕は苦笑いを禁じえなかった……だって、さらっと毒を吐いたから……
「まぁさすがのお姉ちゃんも、いい加減告白はしたと思いますけどね」
「それじゃあ朋也君は僕の義姉である杏さんの恋人になったのかな? お義兄ちゃんって呼んでみようかな?」
「私は岡崎さんのままで良いのでしょうか? それとも朋也さん?」
「う~ん……呼び方を変えるのって難しいよね」
昔、朋也君が僕の方が年上だと分かった時に慌ててたけど、それと同じような感覚が今の僕にもある。急に呼び方を変えようとしても出来る物じゃないもんね。
「当面は今のままで良いかな。でもいずれは変えなきゃいけなくなるのかな?」
「どうでしょう? もし結婚まで行けば変える必要もあるでしょうけども、岡崎君が私の事を名前で呼ぶ時も結構時間が掛りましたしね」
「朋也君はずっと『藤林』って呼んでたもんね」
椋さんの旧姓である「藤林」の苗字で朋也君は椋さんの事を暫く呼んでいた。何回か僕と椋さんで注意、お願いして漸く「椋」と名前で呼ぶようになったのだ。
まぁ、朋也君が渋ってた原因は僕にもあったんだけどね……夫である僕が「さん」付けなのに自分が呼び捨てにするのはおかしい、って朋也君は言ってたっけ……いまだに僕は椋さんの事を呼び捨てに出来て無いけどね。年上で夫なのに……
「どうかしましたか?」
「えっ? ううん、何でも無いです」
しかも、まだ敬語が抜けきって無いし……椋さんもだけど、彼女は年下って事もあっておかしくは無いけども、僕はどう考えてもおかしいよね……夫婦で、しかも僕は年上なのに……
「後で朋也君に相談しよう……」
「何をですか?」
「えっと……人と上手く付き合う方法、かな?」
「?」
僕の表現が変だったのか、椋さんはずっと首を傾げて、僕の事をじっと見つめていた。嬉しいけど恥ずかしい気分になるよね、こうやって見つめられるのは……
春原、ホント阿呆だな……