朋也君と杏さんがお付き合いを初めて暫くして、僕たち夫婦と朋也君と杏さんの四人で出かける事になった。
「お姉ちゃん、本当に邪魔じゃないの? 付き合って初めてのデートでしょ?」
「そんな大袈裟なものじゃないわよ! それに、また緊張してまともに喋れなかったら嫌だし……」
なるほど、そっちが本音だな。この間朋也君と杏さんの二人でお出かけした時の事は、まだ僕の記憶に新しい。あの惨状は確かに酷かったな……
「勝平さん、なに考えてるのかしら?」
「えっ? ……何でも無いです」
年齢的には僕の方が上だけど、杏さんはお義姉さんなのだ。睨まれたらそう答えるしかないのだ。
「じゃ、そういう事だから。朋也にも了承は取ってるからね」
「二人がそれで良いなら私は構わないけど……」
「僕もお邪魔じゃ無きゃ良いですよ」
「じゃ決まり! それじゃあまた今度ね!」
嵐のようにやってきて、嵐のように去って行った杏さんを見送り、僕は椋さんに話しかけた。
「本当に良いのかな? この間の事は椋さんにも話したから知ってるだろうけど、今回もああなるとは限らないんじゃないのかな?」
「でも、お姉ちゃんがああ言ってますし、勝平さんがああなったお姉ちゃんに逆らえるとは思えませんけど?」
「……椋さんの言うとおりだね。あの杏さんに逆らえるのは朋也君くらいだと思うよ」
春原君なら絶対に逆らえないだろうし、他の人間だって逆らい難いだろうな。そう考えると朋也君ってかなり凄い人なんだな。
「おかざ……じゃなかった、朋也お義兄さんも了承してるのなら、私たちがとやかく言う事じゃないのかもしれませんね」
「椋さん、本人がいないんだから呼びやすい方で良いと思うけど」
椋さんは未だに朋也君を「お義兄さん」と呼ぶのに慣れていない。まぁ、実質二週間も経ってないのだから仕方ないのかもしれないけどね。
「でも、いないところでもこう呼んで行かないと、本人を前に呼べないですよ」
「朋也君は気にしないと思うけどなー」
実際、気にしてるのは杏さんだし。朋也君は呼ぶたびに詰まってる椋さんを見て苦笑いを浮かべてるだけだもんね。多分前の呼び方で呼んでも、朋也君は応えてくれるだろう。それは言いきれる。
「勝平さんは私にお姉ちゃんを怒らせろ、って言うんですか?」
「……確かに怒りそうだね」
付き合うまでに色々あった二人だけど、相性は悪くない、むしろ良い方だろう。既に結婚まで意識しているのだろうか、杏さんは椋さんが朋也君の事を苗字で呼ぶ事を禁止したのだ。理由は、いずれ自分もその姓になるのだから、だろう。
「岡崎杏さん、か……」
「それ、お姉ちゃんの前で言ったら失神するかもしれませんね」
「そうかもね。二人きりで出かけるのも難しいのに、そんな事聞いたら失神するかもしれませんね」
僕は椋さんにそんな感じでプロポーズしたのだけども、杏さんには刺激が強すぎるかもしれないな。そう考えると、実は椋さんの方が肝が据わってるのかもしれない。
「勝平さん、今何を考えてました?」
「えっ? 杏さんより椋さんの方が肝が据わってるのかも、って思ってただけだよ。ほら、僕のプロポーズの言葉はさ……」
「確かにそうかもしれませんね。お姉ちゃんだったら卒倒してるかもしれない言葉ですものね」
ちなみに、僕が椋さんに言った言葉とは――
『柊椋。木偏が揃ってて何だかイケてない?』
――という感じだ。
手術を拒み、生きる事を諦めていた僕に希望を与えてくれた椋さんに、朋也君の前で言ったのだ。あの時は椋さんの嘘に動揺したけど、あれは僕に生きてほしいと言う椋さんなりの精一杯だったのだ。
「お姉ちゃんって意外と純情ですからね」
「そう言ってる椋さんだって、それほどスレてるわけじゃないけどね」
二人で笑いあって、僕たちは週末のデートの事を考える事にした。僕たち夫婦も、そう考えるとデートしてないんだな……殆どリハビリだったし。
人の事は煽るのにな……