朋也君に紹介してもらった事務所に面接を受けに行ったのだが、その場で採用されてしまった。どうやら本当に人手不足だったらしく、面接に来たはずなのにすぐに働かされてしまった……まぁ、明細の整理と計算だけだったからそれ程大変じゃ無かったんだけど。
「でもまさか、受けに来たその日に働かせるとは……」
今日はまだ正式に採用されていたわけじゃ無かったので日当が貰えた。中身は結構入っていたので、間違いじゃないかと確認したほどだ。
「正式な採用は明日からだけど、今日だけでこんなに貰えるとは思ってなかったな」
どうやらあの事務所で働いている人の殆どが、明細の整理と計算が苦手なようで、古いものだと二ヶ月くらい前の明細なども出てきた。期限などは良いのだろうかとも思ったけど、これだけ放置されていても誰も焦って無かったのを考えると、二ヶ月くらは大丈夫なんだろうな。
「勝平」
「んっ? あっ、朋也君」
帰り道の途中で朋也君が声を掛けてくれた。どうやら朋也君も仕事終わりのようで、その手には今晩のおかずらしきものが入ったスーパーの袋が握られていた。
「面接に行ったんだろ? どうだった?」
「うん、なんかその場で採用してもらって、いきなり働かされたよ」
「まぁ明細とか山積みだったからな……」
「でもちゃんと日当貰えたし、明日から正式に働かせてもらえる事になったしね」
「事務だから足の事気にする事も無いしな」
「そんなに歩かないからね」
その事も考慮して、朋也君はあの事務所を紹介してくれたのだろう。高校の時は不良だとか言われていた朋也君だけども、そこら辺の人より余程優しい心の持ち主なのだ。
「ところで、その袋は?」
「杏に頼まれた。買い物する時間が無いから代わりに買ってこいだと」
「ふーん……あれ? 朋也君と杏さんって同居してるわけじゃないよね?」
「ああ。行き来するだけだな」
「……じゃあ何で朋也君が代わりに買い出しさせられてるの?」
「知らん。何だか忙しくてタイムセールに間に合わないから、とか言ってたが……何で俺がスーパーのタイムセールに行かなきゃいけないんだよ……凄い浮いてたんだぞ」
「あはは……お疲れ様です」
主婦の方々に交ざって朋也君がタイムセールに挑んでいる姿を想像したら、乾いた笑いしか出て来なかった……朋也君の言うように、確かに浮いてしまっているのだ。
「まぁ別にいいけどな。俺も食うんだし」
「朋也君が作るの? それとも杏さん?」
「家主が作る事にしてる。だから今日は杏が作る日だな」
「毎日行き来してるの?」
「いや、三日に一度だな。杏が酔い潰れたらそのまま泊まる事もあるが」
「そうなんだ……まぁ、籍は入れてあるんだから問題は無いもんね」
「一段落したら、もう少し広い部屋を探そうとは言ってるんだがな」
僕と椋さんみたいに、漸く一緒に暮らせる夫婦とは違い、朋也君と杏さんは本物の新婚さんだ。一緒に住める部屋を探すのは、なるべく早い方が良いのではないだろうか?
「そう言えば、春原君からメールが着たんだけど」
「春原から? なんだって?」
「最近朋也君にメール送っても返って来ないって」
「メール?」
僕の言葉を聞いて、朋也君が携帯を取り出した。
「あっ、春原からメール着てるわ。全然気づかなかった」
普段から仕事用にしか使ってないので、朋也君は基本的に携帯を弄らない。だからメールが着ても気づかなかったのだろう。
「アイツ、向こうに友達とかいないのか?」
「まぁ春原君だし」
かなりひどい事を言ってる自覚はあるけども、「春原君だから」で分かる朋也君も大概なんだなと思いながら、僕は朋也君と家路を歩いたのだった。
そんなに溜めこんだらダメだろうな……