勝平さんと共働きという事になったので、家計はかなり潤い始めています。もともと私一人の稼ぎで夫婦二人くらいなら何とかなるくらいだったのですが、そこに勝平さんの稼ぎも加わりましたので、当然のように家計は潤うのです。
「椋さんの方が稼ぎは良いからね。僕なんてまだ見習いの見習いだし」
「そんな事気にしなくて良いですよ。私の方が長く働いているんですし、勝平さんはまだ社会復帰したばかりなんですからね」
「社会復帰って聞くと、僕がまるで何処かに入ってたように聞こえるね」
「実際に入院して病院内で生活していたんですから、社会復帰でも間違っては無いと思いますけどね」
世間から隔離されていたのは同じですし、勝平さんは新聞などは読みませんでしたからね。
「そういえばお姉ちゃんが来るそうですよ?」
「そうなの? そう言えば朋也君も来るってさっきメールが着てたよ」
「久しぶりに四人ですね」
「そうだね。朋也君も杏さんも忙しそうだもんね」
お義兄さんは出世して営業部部長兼教育係として常に忙しそうにしていますし、お姉ちゃんの方も何かと忙しいようで、ここ最近はこの部屋に来る事はありませんでした。
「椋さんも忙しそうだし、僕だけおいていかれてる気分だよ」
「お義兄さんはもうしばらくすれば落ち着くとは言ってますけどね」
研修を終えていよいよ現場に出てきた新人さんたちを、お義兄さんが教育しているらしいのですが、もうじき使い物になると言っていましたし、そうなれば再びこの部屋に訪れる余裕が生まれるかもしれません。
「朋也君ってさ、うちの事務所でも信頼されてるみたいなんだよね。壊れたら朋也君に頼むって社長も言ってるしさ」
「真面目な人ですからね。それに、勝平さんの義兄である事も知られているんですし、その好もあるのかもしれませんね」
「僕なんて気を使われるまでになって無いよ。朋也君個人の実力だよ、きっと」
「謙遜する事もないんじゃないですか? 勝平さんが入ってから、あの事務所の経理がスムーズになってるとお義兄さんから聞いてますよ」
領収書の整理や見積もりなどがスムーズに進んでいるのは、間違いなく勝平さんのおかげらしいですし、その事も関係ないとは思えませんしね。
「最近では外回りにも随行してるしね」
「物凄い勢いで信頼を勝ち取ってるんですよ、勝平さんは」
「そうだな。勝平の活躍は俺の耳にも届いてるぞ」
「朋也君!」
「よっ。これ差し入れだ」
玄関横の小窓から顔を覗かせているお義兄さんが笑いながら勝平さんの活躍を認めてくれました。
「久しぶりだな、椋も元気そうだな」
「お義兄さんも。お仕事忙しいんですよね?」
「まぁ、あと少しの辛抱だろ。アイツらが使い物になれば、修理や回収は任せそうだし」
「でも、朋也君が良いって人も多いんでしょ?」
「そうみたいだな。ありがたい事に」
お義兄さんは買ってきたお茶のペットボトルに口をつけながら少し恥ずかしそうに答えてくれました。
「ところで、お姉ちゃんは一緒じゃなかったんですか?」
「杏? アイツなら一度家に帰ってから来るってメールがあったが?」
「本当ですか? ……あっ、私にも着てました」
「ついでに言えば、俺に調理は任せるとも書いてあったが」
「すみません、私がもう少し出来れば良いんですけど……」
何時まで経っても私の調理の腕は成長する事無く酷いままなのだ……
「仕方ないだろ。椋だって忙しいんだし、練習する時間だって満足にとれないんだろ?」
お義兄さんに頭をポンポンと叩かれ、そのままお義兄さんはキッチンで作業を始めます。最近では普通の兄妹のようにふるまってくれるようになったので、何となく嬉しいです。
「朋也君も『お義兄ちゃん』が板について来たね」
「そうか? 一人っ子だったし、『きょうだい』というものに憧れた時期もあったからな」
「そうだったんだ」
勝平さんと話ながらも、お義兄さんは手際よく調理を進めています……私もあれくらい、とは高望みしませんけど、もう少しくらい上達したいですよ……
実にお義兄さんらしい感じだ……