結婚式は兎も角、衣装を借りて写真だけは撮る事に決まった。朋也君と杏さんは間違いなく新婚だけど、僕と椋さんは既に結婚してから数年経っているので、少しだけ違和感があるのだ。
まぁ、結婚しても暫くは僕は入院生活を余儀なくされていたし、椋さんも忙しそうにしながらも僕の病室に顔を見せてくれただけなので、本当の意味での結婚生活は僕が退院してからの、この数ヶ月なんだろうけどね。
「椋、最近また胸大きくなって無い?」
「そ、そんなことないよー」
「嘘! だってこんなに揉みごたえが……」
な、何をしてるんだろうか……姉妹二人きりでお風呂に入っているのだけど、その声はこっちの部屋まで聞こえていた。
「何をしてるんだアイツは……」
「朋也君、なんだか落ち着いてるね」
「ん? まぁ杏の奇行は今に始まった事じゃないしな」
「そうなんだ」
妹の胸を揉むなんて、普通に考えたらおかしいんだけどな……朋也君の中では杏さんならやりかねないと思える範疇の行動のようだ。
「それにしても、漸く結婚した実感が湧いて来たんだよな」
「そうなの? まぁ朋也君たちは今のところ同居はしてないもんね」
「契約の関係上な。もうじき杏の方が契約満了だから、その機会で同居はするつもりだ」
「僕の場合は入院してたからそんな事考えなかったけどね」
まず部屋が無かったのだから、契約云々は考える必要が無かったのだ。その点では朋也君と杏さんよりかは簡単に同居する事が出来たんだろうと感謝している。
「お前が入院してたから、椋も満足に新婚生活を送れなかったんだろ」
「それは僕も同じだよ。椋さんと一緒に生活出来なかった数年は、本当にもったいないと思うもん」
「そうか……ところで、アイツらは何時まで風呂に入ってるつもりなんだ?」
朋也君に言われて、僕は時計に目をやった。椋さんと杏さんがお風呂に入ってから既に一時間は経っていたのだ。
「女の子のお風呂は長いんじゃないの? 椋さんだって何時も三十分以上は入ってるけど」
「そうなのか? 杏の奴は早いと十分で出てくるんだが……まぁ良いか。偶には男同士でゆっくり話し合うのも」
「そうだよね。あっ、そう言えば写真を撮る時に、春原君の分の写真も焼き増ししてもらった方が良いのかな?」
「春原の? 何でアイツの分を考えるんだ、勝平は」
「だって、僕も朋也君も結婚したという事実を突き付ければ、春原君も焦るかなと思って。それに、未だに僕に未練があるようだし……」
「あぁ……アイツは変態だからな……」
昔、春原君は僕の事を女だと勘違いしていたのだ。一応誤解は解けたはずなのだけど、それでも春原君は僕にただならぬ視線を向けてきたりしていたのだ。
「ここ最近は普通に接してくれてるけど、何時までも男の僕に未練を残してるのもね、彼の為にならないからさ」
「別に焼き増ししなくても、アイツにその写真をメールで送れば良いだけだろ。データは貰えるんだろうし、PCさえあればそのデータを携帯に送る事も可能だろ」
「そうなの? 僕PCとか詳しくないんだけど、朋也君は出来るの?」
「一応はな。それじゃその作業は俺がやるとして……何だか風呂場からおかしな声が聞こえるんだが」
朋也君が訝しげな目をお風呂場に向ける。つられるようにして僕もお風呂場の方に視線をやると、確かにおかしな声が聞こえてきた。
『おね~ひゃん、私らってまけらいんだから』
『ひゃっ!? 椋、もうひゃめてよ~』
「……アイツら、酒でも飲んだのか?」
「逆上せたんじゃない……」
呂律が回って無い椋さんの声と、普段の強気が影を潜めている杏さんの声を聞いて、僕と朋也君は揃ってため息を吐いた。こんなんで明日の写真撮影は大丈夫なのだろうかと、一抹の不安を抱きながら……
次回を最後にしようと思ってます