僕の退院祝いをするために、春原君を含めたメンバーは椋さんの部屋に集合した。
「そういえば陽平、あんた仕事だったのに良くこの時間に来れたわね」
「半休取ったんだよ! だいたい杏と岡崎がそうしろって言ったんだろ!?」
「「えっ、そんなこと言ったっけ?」」
「あんたら似すぎ! 高校の頃から変わってねぇよ! この似たもの夫婦!」
「「あぁん?」」
「ヒィ!?」
春原君が朋也君と杏さんに睨まれて竦み上がった。あの眼光は確かに怖いよね。
「お姉ちゃんも岡崎君も春原君も変わってないね。高校の時のままだよ」
「椋ちゃんも変わってないよね……」
春原君は椋さんの事を名前で呼んだ。朋也君は遠慮して苗字で呼んでいたけど、春原君は無遠慮なんだな。
「それじゃ、さっそく呑むわよ! 陽平、お酒買ってきて」
「僕が!? 普通先に用意してるもんじゃないの!?」
「春原」
興奮した春原君の肩を朋也君が叩く。落ち着けとでも言うのだろうか?
「止めるな岡崎! 僕はこの暴君を倒し平和を手に入れるんだ!」
「俺ビールな」
「って! お前も僕をパシるんですか!?」
「「当然」」
「うわぁーん! 上下関係なんて、大っ嫌いだー!!」
「……あいつ、財布置いていったぞ」
「じゃ、今のうちに陽平のお金でお酒でも買いに行きましょうか」
「お姉ちゃん……」
杏さんの冗談とも取れない感じに、椋さんが冷めた目を向けた。
「いやーね、冗談にきまってるでしょ。だいたいお酒なら、すでに冷蔵庫の中で冷やしてるんだから」
「……お前、ほんと変わってないよな」
「なによ! アンタだって陽平からかって遊んだでしょ」
「まぁな」
杏さんと朋也君が笑いあって、それにつられて僕と椋さんも笑った。こうして笑えるくらいに僕は回復したんだって、改めて実感出来た。
「岡崎! 財布落とした! ……って! もう酒飲んでるし!?」
「お帰り。お前の財布ならここに落ちてたから、俺と杏で一割もらっといたぞ」
「ちょっー!? 何勝手に取ってるんだよ!」
「冗談に決まってるだろ? だいたい千円しか入ってない財布なんていらねぇよ」
春原君……なんでそれしか入ってないのさ。
「そんなことないだろ!? ちゃんと五千円入って……ない!」
「まぁ呑めって。呑んで忘れちゃえ」
朋也君が春原君にお酒を注いで呑ませる。ちなみに五千円は最初から入っていなかったのだ。
春原君が酔いつぶれて、僕たちは生温かい目で春原君を見つめていた。
「こいつ、なんでこんなに弱いんだ?」
「知らないわよ。そもそも陽平が弱いのは昔からでしょ」
「そうだったな」
「……お酒の話じゃなかったんだ」
椋さんが呆れたように二人を見つめていると、朋也君がふと思い出したように僕に言ってきた。
「そういえば勝平、お前ちゃんと椋に聞いたのか?」
「……まだ」
「何々? 何の話?」
酔っぱらった杏さんが朋也君の肩に自分の腕を回してくっつく。朋也君は鬱陶しそうにその腕を払い、椋さんに杏さんの相手を任せた。
「はやいとこ言っちまわないとどんどんタイミングを失うぞ」
「そうは言ってもさぁ……」
ついこの間まで入院していた僕に、結婚式を挙げられるようなお金はない。さすがにそこまで椋さんに出してもらうのは間違ってるだろうし……
「せめてドレスくらいは着せてやれよ。写真屋にあるだろ、貸衣装とか」
「でも……」
「とりあえずちゃんと相談はしろよ? 一人で抱え込むような問題でも無いだろ」
朋也君はそれだけ言うと、コップに残っていたビールを一気に飲み干した。
「杏はともかくとして、このスノピーは如何するんだ?」
「如何するって?」
「ここに寝かせておいていいのかって話だよ。杏はまぁ……姉妹だから問題は無いだろうが、こいつは完全なる赤の他人だろ? 泊めるのか?」
「もうそんな時間? 結構呑んだんだね」
「お前笊か?」
「どうだろう? お酒呑んだの初めてだし」
そもそも入院してたからなぁ……成人しても外に出る機会なんて無かったし。
「椋は……駄目だなありゃ。完全に酔っぱらってる」
「うわぁ……」
椋さんは、杏さんと一緒に布団に倒れこんで眠ってしまっている。
「しゃあないか。この馬鹿は俺の部屋に連れてく。おら、起きろスノピー」
「痛い……」
春原君を蹴り起こして朋也君は自分の部屋に帰ってしまった。そういえば、僕朋也君が何処に住んでるのか知らないや……
「……そういえば、この部屋僕が片付けなきゃいけないのかな?」
朋也君は帰っちゃったし、椋さんと杏さんは寝ちゃってるし……
「僕の退院祝いなのに、なんで僕が後片付けをしなきゃいけないんだろう……」
誰に愚痴るわけでもなくそう呟き、僕は空き缶や空き瓶を片付けるのだった。でもまぁ、楽しかったから良かった。
上下関係なんて、大っ嫌いだー!