仕事を終え家に帰ってきたら、完全に酔っ払ったお姉ちゃんと、それを何とかしようとしている岡崎君がいた。
「あっ、椋さん! 椋さんも手伝って」
「勝平さん、これはいったい……」
「杏が大量にビールを飲んでな。こんな時間から酔っ払ってるんだよ」
確かにお姉ちゃんの前には、大量のビールの空き缶が置かれている。転がって無いのは、勝平さんと岡崎君が何とかしたんだろうなと考える。
「お姉ちゃん、ホント酒癖が悪いんだから……」
「らって! 幸せそうな勝平さんをみてはら、飲まなきゃひゃっれらへらいんらもん!」
「呂律が回らなくなるまで飲むな! 大体明日も仕事だろうが!」
お姉ちゃんが暴れ出しそうになってるのを何とか止めている岡崎君がツッコミを入れる。そういえば高校時代からこの二人がツッコミを担ってたんだっけ。
「アンタだって幸せそうな二人をみれ、何かおもっらでしょ?」
「椋、この酔っ払いをどうにかしてくれ!」
「えぇ!? 私ですか!?」
「お前の姉だろ」
確かにそうなんですが、私ではお姉ちゃんをどうにか出来るかどうか……
「別に勝平でもいいが。義姉だろ?」
「僕じゃ無理だよ」
「あぁもう! 面倒だ!」
岡崎君は、手近にあった雑誌を丸めてお姉ちゃんの後頭部を叩きました。
「ぅ!」
「無理矢理寝かせるに限るな」
酔っ払いの相手に慣れているような岡崎君の行動に、私と勝平さんは引っかかりを覚えました。
「朋也君、酔っ払いの扱いに長けてるのは何で?」
「あ? あぁ、親父がアル中で酒癖が悪かったからな。高校入る前まではしょっちゅう叩いて寝かしてたんだよ。あの事故の後からはまったく関わらなかったがな」
「「事故?」」
私と勝平さんは同時に首を傾げ、岡崎君に説明を求めました。
「俺の右腕が肩より先に上がらないのは知ってるよな」
「うん。何となく聞いた気がする」
「私も。それで岡崎君は体育の授業に出ないって聞いた事があります」
「まぁサボってたのは別の理由もあるんだけどな。で、その怪我の原因が酔っ払った親父との喧嘩でな。割れた窓ガラスで肩の神経が傷ついてな。当時はバスケをやってたけどその怪我が原因でバスケも出来なくなり、推薦で高校に入ったはいいがバスケも出来ずにただうだうだと過ごしてたんだよ」
「そうだったんだ。朋也君って色々と大変な人生を過ごしてたんだね」
「お前に言われたくはないがな」
そういって岡崎君は笑いました。高校時代にその事を聞いてれば、もう少し岡崎君の力になれたのかもしれなかったと思いましたが、岡崎君は多分気にするなと言って終わっちゃうんだと思いました。
「そんじゃ、この酔っ払いは二人に任す。俺も明日朝早いから帰るわ」
「うん。じゃあね、朋也君」
岡崎君を見送り、私たちは気まずい空気を感じていた。
「気軽に聞いていいような内容じゃ無かったね」
「そうですね。でも、岡崎君の事をもっと知れたっていうのは好かったと思います。勝平さんを説得する時に、岡崎君は自分の身上を話してくれました。多分ですけど、今回も私たちになら教えてもいいと思ってくれたんだと思いますよ」
「そうだね……僕が孤児だったって言った後、朋也君は片親だって教えてくれた。その時僕は、朋也君はその残った親に愛されてるんだと思ったんだ。でも、如何やら違ったみたいだね」
「岡崎君も春原君も、色々と抱えてたんですね」
春原君は確か、部活の先輩ともめ退部に追いやられたんでしたっけ。前にお姉ちゃんから聞いたような気がするんですが、正直あまり興味が無かったんですよね……
「朋也君はさ、高校生の時荒れてたんだよね?」
「一般的な不良とはまた違いましたけども、確かにあの高校では荒れていたと表現されても仕方なかったような気がします」
「でもね、僕と一緒にいる時は普通の男の子だった。年下だけど容赦のない、だけでちゃんと僕の事を考えてくれる優しい人だった」
「そうですね。私も岡崎君に助けてもらった事があります」
高二の時の球技大会。私はお姉ちゃんと間違えられて試合に参加させられた事があります。その時ボールを思いっきり踏んづけてしまって足を捻ってしまいました。周りは私のドジに笑ったのに対して、岡崎君はその周りに怒り、私の事を心配してくれました。まぁその時岡崎君は私をお姉ちゃんだと思ってたんですけどね。
「う~ん……朋也、アンタ何で……」
ちょうどしんみりしたところでお姉ちゃんが寝言を発しました。そのタイミングに私と勝平さんはそろって笑いだしました。やっぱりお姉ちゃんはまだ、岡崎さんの事を想ってるんだな。私たちの心配よりもお姉ちゃんの方が心配だよ。
「ご飯作りますね」
「うぇ!? 大丈夫、朋也君が買ってきてくれてるから」
「そうですか」
一瞬勝平さんが嫌な顔をしたような……気のせいですかね。
良い人なんだけど、何故か不良扱い……まぁ進学校だし仕方ないのか……