長くなりそうなので二つに分けます。取り敢えず書き上がった前半をあげます。
ここまで書いて随分疲れた……
「偵察、ですか?」
執務室に呼ばれた軽巡洋艦龍田は、確認するように繰り返した。
上層部及び近辺の鎮守府から入った情報で、オホーツク方面の海域にflagship級の深海棲艦が戦闘艦隊レベルの数で確認されているらしい。
その海域はこれまで深海棲艦が確認されていなかった外交用のルートであり、つまりあらゆる国の要人が航行する。そのため深海棲艦がおらずとも、艦娘による護衛などが為されていたが、先日の護衛任務にて十隻以上の任務群が数郡確認。その時は護衛隊の数や質では手に余るとされ、あえなく撤退となったが。
今回はその深海棲艦の偵察任務である。
「うむ。龍田は日頃からの遠征報告から、観察眼に優れている。特に敵を見る眼がな。
そこで、貴様には偵察隊の旗艦を任命する」
「はぁ……拝命致しましたぁ」
いつもの間延びした言い方だが、龍田はその持ち前の観察眼から、提督が何かを憂いている事をなんとなく察していた。
「……それでぇ、偵察のメンバーは?」
「駆逐艦を主とした編成になっている。睦月、如月、三日月、球磨、そして伊勢だ」
「…………えぇっ!? こ、航空戦艦ですか?」
龍田はいつもの間延びした言い方も忘れ、素で聞いてしまう。
それも致し方ない事だろう。航空戦艦伊勢は練度にして90。偵察などといういつもの遠征とさして変わりない任務に付ける艦娘ではない。
それでなくとも、偵察はそもそも斥候に近しいところがある。航空戦力は確かに敵を見る偵察として優秀かもしれないが、それは撃滅することを前提とする。戦艦という足の遅い艦種がいては戦線区域からの離脱も難しくなる。
「一応の保険だ。伊勢の航空機練度は我が鎮守府でも空母に負けておらん。それにもしもがあれば、伊勢の力ならば信頼もできる」
「それは……杞憂ではないですかぁ? 確かに伊勢さんは頼れますが、偵察任務に航空戦艦は戦力過多ですよぉ」
「ただの戦力過多で終わってくれるなら、願ってもないことだ。
……今回は嫌な予感がする」
龍田は柄にもなく驚いてしまった。戦闘の時は常にずっしり構え、戦いに出る艦娘達に安心を与えてきた提督が、冷や汗を流していた。
普段の提督はアホだ。龍田は自信を持ってそう言える。
球磨と遊んだり、突然奇行に駆られたり、頭の悪いイベントを開催したり。普段の提督はアホなのだ。
しかし、こと作戦行動になると変わる。二手三手先を読み、その場凌ぎは決してない。なんの意味がある、と考えていた作戦行動が敵艦隊の致命的なミスを誘うことだって何度もあった。
普段の提督はアホだが、戦闘において右に出る者は限りなく少ない。それが龍田の持つ提督への純粋な評価だった。
その提督が嫌な予感がすると、冷や汗を流している。
「……まあ、良い予感がするなんてこと、ありませんよねぇ」
故に龍田は提督の緊張を解く事にした。
「……そうだな。
よし、軽巡洋艦龍田。一三三丸に鎮守府より出撃。それまでに装備を整えろ。今回は偵察任務である。故に交戦はできる限り避けろ。少なくともコチラから仕掛けることを一切禁ずる」
「了解致しましたぁ」
■
一五丸丸。
龍田達偵察隊が鎮守府から出撃してから一時間半の時間が経過している。
鎮守府から北方海域は遠く、約二時間の航行を経てようやく北海道が端に見えてくる。
外交用のルートは青森の津軽から日本海を横断する。日本海側は深海棲艦があまり多くなく、要人を輸送するならば日本海を通るしか道はない。
今回はそんな日本海に深海棲艦が多数出現した形となる。日本海側ではその殆どをロシア軍が制圧している事を考えれば異常だ。現在の国際情勢では、ロシア軍とアメリカ軍は質の戦力で日本海軍に劣るとはいえ、アメリカ軍は嘗て月刊空母やらと呼ばれていたほどの工業力もあれば、ロシアに至っては世界最強の潜水艦隊まで作り上げている。
ロシアの潜水艦隊を潜りくけて、深海棲艦が北方海域に多く集まっている。これは間違いなく異常事態だ。龍田は今更ながらに事の重大さを痛感した。
「……そろそろ、情報にあった海域が近いわねぇ。伊勢さん、航空機お願いできますぅ?」
「ええ、任せて」
伊勢が瑞雲を発艦させる。
今回の偵察は敵の動きを見るものであり、戦力偵察はあくまでも二の次である。現状、深海棲艦が北方海域に集まっている、ということしか分かっていないので、敵の目的を知ることが第一の目標となっているのだ。
上層部の推論では深海棲艦による大規模侵攻が議論の要だ。日本海側を抑えることが出来れば、ロシアの太平洋艦隊及びバルト艦隊と正面から当たることが出来る。深海棲艦は戦力の薄い日本海を制圧し、油断しきった太平洋艦隊を落とす算段……というのが、日本海軍の概ねの見解だ。
「……提督の考えが、なんとなく読めてきたわねぇ」
龍田は、おそらく提督の推論は違うだろうと考えていた。
太平洋艦隊は確かに脅威だろう。日露戦争では太平洋艦隊によって日本の第二艦隊が動けずにいた。
だが、どうにも理由としては弱い気がする。大侵攻を仕掛けるならば、太平洋艦隊は寧ろ避けるべきだろう。自分ならば黒海から仕掛け、黒海艦隊と当たった方がコストパフォーマンスがいい。
ならば北方海域に集まる理由。敵の目的は日本なのではないか? ロシアに近い位置なのは、こちらの意図を惑わせる事が理由。さらには日本海側はほぼノーマークだったのだ。
言うなれば、深海棲艦の新たな拠点。
「…………」
その考えに至った時点でゾッとした。これまで日本海側に拠点を作られなかったのは資源とロシアの太平洋艦隊が問題だった。
日本海側は波が荒く、海底は凄まじく冷える。よって海底資源は便りにならない。周辺の孤島はロシアの艦隊が抑えている。つまるところ、艦隊決戦を行うには資源が絶望的に足りない。
そこに拠点を置くということは、その問題が何らかの形で解決している可能性が非常に高い。でなければロシアに睨まれている北方海域に拠点は置かない。
故に北方海域は完全にノーマーク。この偵察の重要性は何よりも高いことが窺い知れた。もし情報がなければ、ノーマークのままに防衛の薄い日本海側を攻められているからだ。
「……おっと、なんか引っかかったよ」
「あら?」
「これは……イ級eliteね」
「ただのイ級eliteなら問題なさそうね〜」
如月が睦月と笑い合う。実際彼女らの練度は平均60以上であり、eliteとはいえイ級程度なら問題はない。
「ーーいえ」
それが一匹や二匹程度なら、の話だが。
「数が多すぎる……!」
「偵察機の目視確認だけでも五十はくだらないって数よ」
「冗談キツイクマ……イ級とはいえ、そんなにいたら間違いなく負けるクマ……」
「すぐにでも撤退すべきじゃないですか……?」
三日月がそう提案するが、龍田は思案顔だった。
通常時であらば既に撤退する。五十という数は流石にマズイ。今すぐ帰投し、上に報告する必要があるだろう。
現在地は鎮守府からそれなりに離れている。故に無線は暗号であってもなるべく使わない方がいい。傍受される危険性が高いからだ。
これが鎮守府近海ならば途中海域に敵が潜んでいる可能性は極めて低い。自分たちが通ってきたのだからそれはそうだ。しかし、これだけ長い距離だと途中で撃滅しながら来たとしても、再度出現している可能性もある。
今回は敵とは出会わなかったが、居ないと考えるのは楽観的過ぎる。ここから報告するならば艦上機に任せた方が遥かに良い。
「……このまま進むわぁ」
龍田は帰ることを良しとしなかった。
「龍田」
伊勢が目を細めて龍田に問いかける。
「なんでしょぅ?」
「なんで撤退はしないの?」
その質問に睦月、如月、三日月が同意する。普通なら撤退する筈だからだ。
しかし球磨は現状を理解していた。
「伊勢さん、これは異常事態クマ。イ級eliteがこの数集まってるなら事態は火急を要するクマ。集まりだしたならまだしも、既に集まってるなら目的を明かさないとクマ」
「……なるほどね」
そして龍田主導で大まかな動き方をまとめ、イ級の集団を大きく迂回しながら海域の奥地へと向かうことにした。
「伊勢さん、一応鎮守府に一機飛ばしといてくれますぅ?」
「……分かったわ」
□
執務室では本日の秘書艦である天龍が書類仕事に追われていた。
演習の各行動や結果、出撃の報告書、上層部からの大型建造の催促や近隣の鎮守府との情報交換など。築一隅々まで確認しながら手書きというのは存外骨が折れる。
「……提督、仕事しろよ」
「ん、あぁ」
窓から空を見ている提督に注意を促すも、何処吹く風のうわの空。いつも仕事だけはキチンとこなす人なだけに、天龍は疑念を抱く。
「なんかあったのか?」
「……」
「そういや、近隣からの情報書にとんでもねぇこと書いてあったぞ」
「……! どんなことだ!」
急に大声を出されて驚く。様子が尋常ではないことが天龍でも窺い知れた。
「……いや、遠征の連続失敗による降格処分の話なんだが」
「なんだ……そんなことか」
「おい、本当にどうしたんだ? なんかあったなら話してくれよ」
「…………」
やはり提督は答えない。艦娘には公開できないような事なのか、それとも天龍にだけ言えない事なのか。残念ながら天龍にはそれを判断できるだけの観察眼はなかった。
その時、秘書艦用の内線電話が鳴り響いた。
「はいよ、こちら秘書艦天龍。大淀か、どした? あぁ、瑞雲?」
天龍は二三言話したあと受話器を置く。
「提督、遠征中の伊勢さんから経過報告の瑞雲が来たってよ」
「……内容は?」
「その前に」
天龍は執務机に身を乗り出し、提督に迫る。
「伊勢さんが遠征ってどういうことだ。航空戦艦を遠征任務に使うとか普通じゃねえ。本気で何があった」
「……」
提督と天龍が睨み合う。数秒ほどそうして、提督がとうとう折れた。ため息を一つ吐く。
「……深海棲艦が北方方面に集っている」
「北方に? ロシア関連か?」
「そうであるなら救いはあるんだがな、私の見立てでは日本が標的だ」
「……ちょっと待てよ。北方にゃあロシアの太平洋艦隊がいるだろ。そんな中で日本を?」
「太平洋艦隊なぞ奴らにとっては資材さえどうにかなれば凌げる域だ。ロシアを攻めるならば黒海艦隊辺りから攻める。最悪日本と挟み撃ちになるからな。十中八九ロシアは攻めん。つまり日本だ」
「……」
理にかなっている。確かに太平洋艦隊と日本の挟み撃ちになるだろう。現状、ロシアは基本的に日本と友軍を取ろうとしない。深海棲艦の後を考えているからだ。
一刻も早く深海棲艦を撲滅したい日本は助けるが、逆はないだろう。つまり、ロシアが攻められれば日本は助けるが、日本が攻められてもロシアは助けない。
「それで、報告の内容は?」
「ぁ、あぁ……。『イ級eliteを五十以上確認』……はぁ!? 五十!?」
大淀から送られてきたファクシミリの内容に、天龍は驚きの声をあげる。
「……『他深海棲艦は確認出来ず。随時偵察の要ありと判断し、任務を続ける』。おいおい、マジかこれ」
「どうやら最悪の予感が的中したらしいな」
「最悪の予感……?」
「恐らく……深海棲艦の新拠点だ」
■
龍田率いる偵察隊は砲弾と艦載機の雨をくぐり抜けていた。
イ級の集団を大きく迂回して進んだところ、これまた馬鹿げた数のリ級やタ級、ヲ級らを発見。その中には飛行場姫という最悪の深海棲艦も確認できた。
その時点で伊勢や球磨は撤退を具申していたが、龍田はそれを却下。敵艦、特に姫や鬼は少なくとも五匹は事前情報であったのだから、艦種を見極める必要があると考えていたのだ。
しかして、事は起こった。
偶然哨戒中だったヲ級の艦載機に龍田達は呆気なく発見され、百はいようかという深海棲艦の集団から逃げるハメとなった。
不幸中の幸いというべきか、飛行場姫からは何も発艦しなかったが。これは龍田と球磨が既に予想していたことだ。
観察眼に優れる龍田と、物事を瞬時に整理できる球磨により、あらかじめ発見された場合の予想があった。今生き残れているのはそのおかげだと伊勢は強く思った。
現状から割り出せる敵の弱点は数が多すぎることだ。つまり連携が取れない。艦載機が機銃を撃とうものなら、他のヲ級から発艦した艦載機やリ級などに当たる。タ級が砲撃しようものなら他の深海棲艦が邪魔になる。
それが分かっていた龍田と球磨の用意した逃走方法は"単艦での蛇行"だ。
要は散り散りになって蛇行しながら逃げるというもの。
これによって狙いはまず定まらない。そのおかげか、未だに全員が逃げおおせている。
最も逃げにくいだろう伊勢でさえ問題がないのだから、この逃走方法が何においても正解であることは目に見えていた。
「でも、このあとは……っ!」
この後が問題であったが。
このまま逃げ続けたとして、深海棲艦が他の海域、それどころか鎮守府や内地近くまで大量に迫ってくる可能性が極めて高い。
それも六人がバラバラに逃げているため、こちらも連携が取れない。誰か一人でも深海棲艦を連れて内地に行けば被害数はかなりのものになるだろう。
ならばどうするべきか?
龍田はその答えを、身を呈して示した。
「龍田……!? 何やってるのよ!」
離れた所で、逃げることを辞めた龍田が深海棲艦の前に立ちふさがる。
「このままじゃぁ本土決戦になりかねませんもの〜。なら、こうするしかないじゃなぁい?」
伊勢が慌てて近づこうとするが、深海棲艦の砲弾の雨に阻まれてしまう。
水しぶきと轟音で龍田の声も姿もよく感じられない。
「伊勢ッ!!!」
龍田が大声を張り上げた。
初めて聞いた龍田の怒声ともいえる声。普段は余裕を持って、冷静に事を成す龍田だが、今この瞬間に限っては普段のような余裕さが見られない。
ほんの一瞬、水しぶきの中から見えた龍田の表情は、何かを覚悟し、それに賭けている顔だった。
「旗艦命令ッ!! 私を囮に、本土へと全力で撤退せよッ!!」
伊勢は一瞬迷った。が、その怒声と先の表情で、伊勢も覚悟を決めた。
「…………了解!」
伊勢と他の艦娘達の姿が水平線へと消えたことを確認し、安堵のような息を吐く。
たった一隻で、この百の深海棲艦を相手に何が出来るか。いつもの観察眼をもってして、出来ることなど一つしかない。
既に覚悟は決めた。憂いも断った。最後に残った悔いも……ない。
持ち前の艤装である薙刀を振りかぶる。
「死にたい艦はどこかしら?」
次弾装填中……
シリアス系って、文章で色々伝えるの大変ですね。
上手に伝えられてる人を尊敬します。
結構くどい文になっちゃってて、私伝えられてるのか不安です。後半も書こうと思いますけど、評価低かったらこれ消して今までみたいなの書こうかと思います。
オラに評価と感想をわけてくれ……(白目)