思った以上に長くなりそうなので中編ってことで
時は進み、龍田を除く偵察隊が帰還した。
直撃などの被害はなかったものの、掠ったりなどの小さな傷が多く、随時補給と入渠となった。
その中で球磨と伊勢は執務室に通された。
「……状況を報告せよ」
「偵察の結果、私達はホ級にリ級、ル級、ヲ級を総数目視百以上を確認しました。いずれもflagship及び改flagship。それと、姫級に飛行場姫も目視で確認」
「飛行場姫か……また厄介なヤツがいたものだ……」
「それと、言いづらいのですが……」
提督と天龍はなんとなく察していた。この場にいない者……その者の行方。どうなったのか。
彼女はそういう者だ。いつも適当のような振る舞いで、その実は任務に極めて忠実。必要ならば捨て艦にもなろう。勝利に対して己の全てを捧げる。
「……旗艦、龍田。私達の撤退に合わせて囮となり、轟沈しました」
だから、わかっていた事だ。予想できた事だ。彼女ならばそうする。
「……そうか」
その後、詳細を報告書にして提出するよう言い渡して二人を入渠させた。
「ヒドい顔をしているな」
第一艦隊である長門が執務室を訪れていた。先の報告を入渠前の伊勢から聞いたからだ。
「ブサイクにもなる。実に勿体無い……最高の駒をひとつ使い潰してしまった」
「……後悔しているのか?」
現状、艦娘は極めて重宝されている存在だ。現代兵器の効かない深海棲艦に唯一有効的な手段だからだ。
しかし、彼女らは無敵でもなければ姿形は人間のソレである。提督という立場の者の中には"そういった"働きを行う者もいれば、資材を浪費して"そういった"作戦を取る者もいる。
ここの提督はそういう手段は決して取らない。艦娘が人間のソレと同じならば、当然士気というものも重要だからだ。故に提督は解体させない。轟沈もなるべくならばさせない。
しかし愛らしい少女らとはいえ、艤装を付けて海に出ればそこは戦場。何があるかは決して分からない。無論大破などままある。
艦娘が轟沈する時。轟沈とはよく言ったもので、まさしく轟きながら沈んでいく。人としての尊厳も、艦としての尊厳もなくなり、海の藻屑と成り果て、血潮を撒き散らし、肉片を砕かれながら海底へと消えていく。
提督は一度だけ、その瞬間を肉眼で見たことがある。鎮守府近海で、新米ということで無茶なレベリングが祟った。その光景は人の老人など生易しく見えるもので、提督は三日三晩吐き続けた。
だから提督は轟沈させないことを信条にしている。だが、いくら掲げたとして、戦場とは無慈悲なもの。今回のように、艦娘が沈んでしまうこともある。
特に今回のような巨大な危険が迫っている時、龍田のような現状を正しく把握できる艦娘はこのような行動を取る者もいる。艦娘は艦船の具現化。勝利の渇望は非常に強い。
「雨粒一滴ほどの後悔もしていない……!」
故に提督は後悔しない。
本当は悔しいし悲しい。泣き叫び、悔いを大声に表したい。しかし後悔だけはしない。後悔は沈んでくれた艦娘に対する最大の侮辱と考えているからだ。
「そうか……提督はスゴイな。私は後悔してばっかりだったよ」
いつの間にか執務室に天龍はおらず、長門は艤装を装着していた。
長門なりの戦意の現れなのだろう。
「……艦隊を編成する」
□
天龍は港から海を眺めていた。
自身でも不思議なもので、気持ちは随分と穏やかだ。荒波を立てず、時化もなく凪ぎいている。
天龍と龍田はこの鎮守府でも古参の軽巡洋艦だ。
今でこそ遠征任務が主であるが、最初期には第一艦隊所属でもあった。あいにく指揮能力では龍田の方が優れていたが、天龍は何よりも士気を高めることが得意だった。
己を鼓舞し、仲間を鼓舞し、敵陣へと突っ込み敵艦を沈める。龍田の指揮能力と合わせ、当時は鎮守府近海でならば敵無しだった。
天龍は、龍田無くして自分の強みは発揮できなかったろうと考えている。普段は自分の事を世界水準の艦船だと言っているが、それは己の力を過信しているわけではない。実際に、龍田と共にならば、世界水準なんぞ軽く越せる。そう本気で考えている。
だがそれは同時に、龍田がいなければ自分は木っ端な軽巡だと言っているのだ。天龍が仲間の士気を高める際、必ず言っている事は「最強である自分がいるのだから恐るな」ということであるが、それには必ず龍田が一緒であること前提なのだ。
龍田がいなければ、士気を高めることもできない。
そして、龍田の指揮能力は、何に置いても天龍の能力を軸に置いたときこそ本領が発揮される。
お互いの事を仔細にまで知っているがために成せる連携。天龍型が今日まで性能を奮ってこれたのはコレがためである。
よって、龍田がいない天龍に仲間の士気を向上させる術は、ない。
「……」
故に。
今の天龍の士気ーー戦闘意欲は、これまで生きた中で最も高い値を弾き出す。
軍港に、刀を擦り合わせる音が鳴り響いたーー
■
「敵軍規模は依然未知数と言わざるを得ない。
しかしだ、既に解っているとは思うが、我々のすべき事は何も変わらん」
作戦会議室へと集められた第一艦隊の面々と、他艦隊旗艦や戦隊旗艦。
提督の話に耳を傾け、その空間には提督の言葉以外の音はない。
「現状を正しく理解するならば、敵軍は我々よりも戦力が上だろう。
私の信条に従うならば、今作戦は本営へと掛け合い、大規模連合を組まざるを得ん。
それでいいのか? 否、否否否! 断じて否ッ!!
奴らはやってはならぬ事をした。私の信条を踏み躙り、我々の仲間を食い荒らした。
ならば私が与える命令は唯一つだ。
奴等を殲滅せよ。
焦熱の砲火を放ち、戦列を粉砕せよ。
鋼鉄の鳥獣を繰り、烈火の如く破砕せよ。
雷鳴の如き鮫でもって、奴らを鉄クズよりも醜い海中の塵芥へと変貌せよ。
貴様らは多士済々と私は考えている。
ならばこそ、奴等を烏有に帰せれるだろう。
その様を私は睥睨している。
多くのことは求めん。私の求める報告は一つだけだ。
ーー殺せ」
□
北方の海は波が荒く、水温が非常に低い。
そのため海底資源を取ろうにも低すぎる水温により人は潜れず、また深海棲艦も同様に冷たすぎる海底では動けない。
これまで深海棲艦が北方に拠点を作らなかった理由の一つである。
艦娘も人の身体を持つため、北方海域では満足に動くことができない。
酷いときには凍傷を起こす者まで出てくるので、ホッカイロや手袋、厚着等の防寒装備が必需品だ。
また深海棲艦や日本が北方海域に手を出さなかった理由はもう一つある。霧が深いのだ。
北海やバルト海は寒さや気候のせいもあり、年中を通して深い霧に覆われている。
そのため、北方海域の殆どはロシアのホームだ。深海棲艦といえど迂闊に手出しができず、日本も下手な接触は避けてきていた。
故に今作戦にはドイツから友軍が来ていた。
「さすがに深いわね。水平線も見えやしないわ」
「ああ。龍田達はよくぞ、この中から敵軍を見つけてくれた。さすがは伊勢の瑞雲と言ったところか?」
「私の瑞雲でもこん中からは見つけらんないわよ。霧が晴れるギリギリの所を通ったの。おかげで細かい偵察が出来たってわけ」
特級主軸戦艦戦隊。
今作戦のためだけに編成された戦艦のみの任務群である。
「今回はイージーな作戦になりそうネー。なんせ、ベストに活躍したバトルシップが付いてるしネー?」
「あらァ、褒めちゃってくれてるのかしら、ダイヤモンドちゃん?」
Bismarck級戦艦一番艦、Bismarck。
ドイツが誇る欧州最大の戦艦である。
ビスマルクはバイエルン級戦艦を参考として造られた戦艦であり、元となった艦船の古さ故に側面装甲の厚い近距離戦闘向けの艦である。
そのため、視界が悪く必然的に近距離戦となるバルト海や北海で戦うことを想定されて造られたのだ。
霧の深い海域で行う今作戦の主軸戦力である。
「先行した三級水戦から連絡よ。敵軍を発見、此方の現在地より零時真正面、距離六千。彼処に目立った動きは無し」
「ではこのまま進むとしよう。一級、二級水戦、一級、二級航戦、一級重戦! この長門に続けっ!!」
長門の号令により、海域内に広がっていた各艦隊が動き出す。
今作戦の概要は特に難しい行動もなく、至極単純であり最も危険の少ない作戦である。
つまるところ、正面衝突。
敵軍の詳細が不明な現状、下手な策謀は逆に危険を増やすという結論に達した。
策謀というのは自軍の動かし方やタイミングを決めてしまう。つまり不測の事態に陥った場合の動きを阻害する恐れがあるのだ。
一瞬の迷いが死に繋がりかねない状況、策を巡らせるよりも臨機応変な行動に任せた方が危険度は遥かに低くなる。
「三級水戦、十分後に砲撃域より離脱終了するわ」
「では十分後に特級隊は砲撃を開始する。全艦、用意!」
他の戦隊が左右に別れ、特級戦隊だけが前進を続ける。
そして十分が経ち、三級水戦より離脱完了の報告がきた。
「全艦、全主砲斉射ーー撃てェッ!!」
長門の一喝により、特級戦隊に組まれた陸奥、金剛、伊勢、武蔵、ビスマルクが霧に向けて一斉射。
『だんちゃーくーーいまっ』
数十秒後、三級水戦旗艦の長良からの報告と同時に炸裂音が響き渡った。
『敵軍損害規模……ちょっと見えにくいですけど、少なくとも中破三隻以上!』
「三級水戦はそのまま動き回りながら観察を続行しろ。二級航戦は霧海域周辺にて警戒態勢・厳。一級重戦、特級戦は敵軍へと肉薄しろ、交戦状態へ入る!」
長門ら戦艦隊と利根率いる重巡隊が全速で霧の中を突っ走る。
先の一斉砲射は三級水戦の報告通りならば、ほぼほぼど真ん中に落ちた。ならば敵は多少なりとも混乱の只中にあると見ていい。この先十メートルと見えない霧の中で攻撃されたのだ。自分でも混乱する、そう長門は考えた。
実際、この見解は正しいだろう。敵軍規模が委細不明ということがネックではあるが、視界不良の霧や夜間戦闘であれば一気に敵へと肉薄して攻撃を叩き込む電撃作戦は極めて有効である。かの有名な逆落とし作戦がまさにソレだ。
しかも現状でいえば、今さっきに不可視からの攻撃で敵に混乱と打撃を与えている。この電撃作戦は殆ど必ず成功するだろう。
敵が一般的な戦闘思考スキームを持っていれば、の話だが。
『ザザッ――』
「っ、全艦とま――
「アァ、見ツケタ見ツケタ」
目の前に現れた深海棲艦は、存在を想定された中で最も最悪の個体だった。
士気に関わる内容だったので提督は敢えて話さなかったが、彼の考えでは”ソレ”が敵軍に居たとしたら、勝の目は三割は減るだろうと予想していた。
元々の勝算さえ不透明にもかかわらず、三割という数字を弾き出した理由。彼女との戦闘による損害率からこの数値を設定したわけであるが、これでさえ希望的観測なのだ。
恐らく、この深海棲艦がいた時点で、今作戦は速やかに放棄し、即時撤退しなければならなかったのだろう。
「全ク無茶スルネ、コンナ中デ砲撃ナンテサァ?」
この”戦艦レ級エリート”がいた時点で。
結構パk……オマージュした感じの描写が多々あったりします。元ネタは明かしませんが。
所々で自己解釈してあります。自分は戦略観とか学んだこたぁないので鵜呑みにしないでください(誰もしないとは思いつつ)
感想とか批判とかあればどうぞいってやってくださいませ