ある日の鎮守府【短編集】   作:イモリ

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我が鎮守府には犬がいる。


愛犬ぽいぬ

 

 我が鎮守府には犬がいる。

 

 ある海域にて、時雨が率いる巡回監視の艦隊が深海棲艦と衝突した際に拾ってきた犬だ。

 見た目は愛らしく、特徴的な鳴き声だが、番犬としても作用があり不審者に対して吠えたりする。

 だが私にも、我が鎮守府の誰にも吠えたり噛み付いたりしない、非常に利口で躾の行き届いた愛犬だ。

 

 さて、今日は上層部が視察に来る日である。

 私の直属ではなく、派閥が違う少将閣下がお見えになって有難いお言葉を喚き散らしてくださる、極めて面倒な日だ。

 そういう訳で、私は鎮守府前の正門にて閣下の到着を待つ。

 数分して黒塗りの高級車がきた。

 車から降り立ったのは、肥えた腹を撫でながら如何にも権力を笠に着る中年の輩。

 

「お疲れ様であります、少将閣下」

「ああ、出迎えご苦労」

「ようこそ我が鎮守府へ。本営より遠路お疲れでしょう、どうぞこちらへ」

 

 態とらしい敬語でもって出迎え、賓客用の客室へと案内する。

 

「いや、いい。それより内部の案内に努めよ」

「……了解致しました」

 

 しようと思ったのだが、出鼻をくじかれた。どうやら相手は主導権を渡したくないらしい。

 仕方なく、まずは工廠から案内する。

 

「こちらが工廠です。今現在で可能な限り、ドックは全て開放してあります」

 

「こちらは入渠施設です。こちらも可能な限り、開放してあります」

 

「こちらは演習場です。残念ながら、演習場はまだ全てではありませんが、ある程度は設備が整ってあります」

 

 無難な説明と共に施設、設備を案内していく。

 そして案内の最後にやってきたのは、艦娘が暮らす艦娘尞。

 

「最後にこちらが艦娘尞となっております。現在は八十五種、五百九十九人の艦娘が暮らしております」

「ごひゃ……?」

「お察しください」

 

 艦娘尞も無難な説明で終えた。

 が、相手さんは納得行かないらしく、いちゃもん付けてくる。

 

「内部は見れんのか?」

「艦娘にもプライバシー保護法は適用されますので……」

「構わん、見せろ。命令だ」

 

 プライバシーだっつってんだろ。

 そんな私の心の声は届くはずもなく、命令ならば仕方ないと艦娘尞に近付いていく。

 が、そこには障害があった。

 

「ぽいっ!!」

 

 鎮守府内に響く鳴き声、轟く轟音。

 威嚇の声を上げながら砲口から咆哮を放つ、我が鎮守府の愛犬且つ猟犬且つ番犬が、そこにはいた。

 

「な、なんだ!?」

 

 少将殿は喚き声と小さな悲鳴を上げながら尻餅をついた。

 視線の先には、先ほどの鳴き声と咆哮をあげた番犬、夕立。

 またの名を「ぽいぬ」。

 

「ぽいぽい、ぽい!」

「なんだね、あれは!」

「我が鎮守府で飼育している、犬です」

 

 声を荒らげて喚き散らす少将殿に、尚も威嚇するぽいぬ。

 少将殿はそれで完全に萎縮してしまっていた。

 

「くっ……き、今日のところはこれにて解散とする。案内、ご苦労だった!」

「恐れ入ります」

 

 先ほどとは打って変わっておどおどとした態度で、少将殿は逃げるように立ち去ってしまった。

 艦娘のプライバシーは守られた。

 

「ぽいぬ、よくやった」

「ぽいー」

 

 鎮守府を身を呈して守った愛犬の頭を撫でてやる。

 ぽいぬは嬉しそうな声をあげ、ゴロゴロと擦り寄ってきた。

 

「今後も艦娘尞を頼むぞ、ぽいぬ。後でドッグフード(弾薬)とミルク(燃料)でも持ってきてやろう」

「ぽいっ」

 

 ビシッと海軍式の見事な敬礼をした。

 

 今日も我が鎮守府は平和である。




ドッグフード(弾薬)とミルク(燃料)
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