私の名前は山城。
最近、航空戦艦に改造された艦娘だ。
私には扶桑という姉さんが一人いて、姉妹で不幸を背負う悲しい艦娘だ。
青空の下を歩けば鳥のフンの局地的ゲリラ豪雨が降り、海域に出れば羅針盤が壊れて空島しか指さなくなり、せっかくの航空戦艦なのに瑞雲しか積んでもらえない。
しかし、それも今日で終わりだ。
私の姉、扶桑姉さまが今日、不幸除去手術を行う。
「姉さま……」
「そんな不安げな顔をしないで、山城」
手術台に横たわった扶桑姉さま。
どこか誇らしげのような、安心したような表情だ。
妖精さんが姉さまに麻酔を打つ。
「目が覚めたら、不幸じゃなくなった私なのね」
「……姉さま」
「一時、おやすみなさい、山城。大丈夫、この航空戦艦扶桑を、信じてなさい」
そうして姉さまは眠ってしまった。
手術が、始まる。
手術は十一時間にも及ぶ大手術だった。
五時間を過ぎたあたりで、姉さまに何かあったのでは、と私は慌ててしまったが、終わってみればなんてことはなかった。
そして病室にて、姉さまが起きる。
「ん……」
「姉さま!」
「……山城?」
姉さまが目覚めた。
私は一も二もなく、妖精コールを押す。
一分とせずに妖精さんがやってきた。それも、沈痛そうな面持ちで。
「妖精さん……」
「ふそうさん、おつかれさまできた」
「妖精さんこそ、お疲れ様。あの、手術は……?」
「……けっかでいえば、せーこうです」
やった、姉さまの不幸が取り除かれた!
妖精さんの表情に疑問は残るも、私は飛び上がる勢いで喜んだ。
しかし、それもつかの間。
「ですが、ざんねんなおしらせです」
私も姉さまも、何があったのか怖かった。
もしかして重大な欠陥でもあったのだろうか。
「ふそうさんのふこうは、ほぼぜんしんにおよんでました。
ガンのてんいのようなものです。
しかし、かんむすはにくたいがつよい。なのでぜんしんをひらいて、とりのぞきました。
……ですが、わたしたちは、ぜつぼうをみました」
妖精さんが一枚の写真を取り出す。
レントゲン写真だ。
「なんと、ふそうさんのふこうは、たいないでせいせいされていたのです。
いまはいちじてきに、とりのぞかれていますが、おそらく、ひとつきもすると、もとどおりでしょう」
レントゲン写真には、姉さまの心臓のあたりだろうか。
見たことの無い臓器から禍々しい液体状の、名状し難いナニカが噴出しているように見えた。
絶望した。
確かに、手術はある意味成功だろう。
不幸は取り除かれ、今の姉さまは不幸ではない。
しかし、それも、妖精さんの見立てで、一ヶ月の期間だけ。
絶望した。
私も姉さまも、ずっと不幸だった。
私たちが少しでも写真に映っていれば、必ず禍々しい幽霊の類も一緒に映り込んでいた。
私たちが台所に立つと、最低三匹以上のゴキブリが湧いた。
私たちが出掛けようとすると、外は常に台風が襲っていた。
なんてことだろう。
神様は、私たちのことが嫌いなのだろうか。
「……ふふっ」
不意に、姉さまが笑った。
「姉さま……?」
「ふふ、山城? 何を沈んだ顔をしているの?」
「だって……だって、こんなのって……」
「私、今とっても嬉しいわ」
嬉しい?
何故、嬉しいと思えるんだろう?
「ずっと不幸だ、不幸だって行ってきた。毎日、毎日。
でも、今日から一ヶ月、私は不幸だって言わなくて済む。
あぁ、私は今、幸せよ」
ああ、そうか。
姉さま、やはり私の姉さまだ。
いつも不幸を背負ってきた私たち。
でも、だからこそ、束の間の幸福が、なんとも嬉しい。
姉さまが幸福でいられる。
姉さまが幸福でいてくれる。
なら、私も言おう。
私はいま、幸せです。
でも一ヶ月後の反動が怖いです。
幸福を知ってるからこそ不幸だと思える。