私は重雷装巡洋艦、北上。
軽巡の中でも特出して変人及び奇人の集まる球磨型の三番艦。
私たち球磨型は今のところ四番艦の大井っちを除いて四人いる。
球磨姉ぇも多摩姉ぇも、木曾っちも私に良くしてくれるけど、正直孤立してる感が否めない。
それは突然に起こった出来事。
私は何時ものように、第一艦隊の雷撃要員として繰り出して任務から帰ってきたときだった。
「北上さーん!」
提督に報告書を提出して廊下を歩いていると、奥から私を呼ぶ声が複数聞こえた。
声からして恐らく駆逐艦だ。
面倒そうだな……
そんなことを思ってしまう。
駆逐艦は基本、その性能から砲撃で牽制しながら雷撃で敵を叩く。
それは雷巡である私からすれば、随分と意気地ない戦い方だ。
雷撃の特性は初撃の隠密性と艦底に直接爆撃出来る点だ。
それを砲撃で敵の注意を誘うなんて、わざわざ見つけてもらうような戦い方をして意味があるのだろうか。
私なら発見次第爆雷撒いて即沈めるし、それを実行している。
話が逸れた。
まあ何が言いたいかと言えば。
私は駆逐艦が好きじゃない。
「北上さん、任務お疲れ様です!」
「お疲れさまー!」
私のもとに来たのは第六の駆逐隊の四人だ。
暁、響、雷、電。
初期こそ遠征任務に明け暮れていたが、今じゃ睦月型にその座を奪われた悲しき駆逐艦たち。
「何の用?」
思わず冷たい口調になった。
まあいいか。
「実は、北上さんに魚雷のこと教えて欲しいの!」
暁が代表して要件を言ってくる。
ほら、やっぱり面倒事だ。
駆逐艦は砲撃もするが、爆雷攻撃の方を主とするはずだ。
それなのに、今更魚雷のことを知りたいなんて、勉強不足にも程があるだろうと思う。
そんなんだから遠征隊からも外されるんだ。
そう思うも、口には出さない。
艦娘のいる現代の鎮守府は特殊とはいえ、軍部の一つ。規律や法令は絶対遵守であり、特に仲間を貶す言葉は禁忌だからだ。
私だって仮にも軍事側の艦娘なので、それに逆らうことはしない。
「……まあ、いいよ」
面倒事なのだが、どうせ暇だし。と二つ返事で了承した。
それから数日後。
任務を終えて報告書を提出したから執務室を後にしようとしたとき、提督に呼び止められた。
「なにかな」
「貴様、溜め込んでるだろう」
ドキッとした。
何について、とは言及されなかったが、恐らく提督は気付いている。
私が駆逐艦を好ましく思ってないことに。
「……だったらどうしたのかな?」
「いやなに。貴様は我が鎮守府において最も雷撃能力を備えた艦娘である。故に、あまり溜め込まれて任務に支障を来たしても、とな。
不満があるなら、直接ぶつけるがいい」
なるほど。
確かに、不平不満を溜め込んで精神的に無理しても、私たち艦娘は戦闘で隙を作る可能性がある。
人格がある故の欠点の一つといっていい。
提督はそれを解消したいんだろう。
「……でも、いいの?」
解消するのはいいけど、私がそれを吐き出したりすると、寧ろ戦力低下につながりそうな気がする。
なにせ駆逐艦に暴言吐く行為になるだろうからだ。
少なくとも駆逐艦の子達は傷付く。
提督もその辺はよく分かっているだろう。であるにも関わらずオーケイ出すってことは、何かしら問題ない理由があるんだろう。
それでも、多少不安に駆られる。
提督は目を伏せて言った。
「ああ、問題ない。私に任せろ」
それを聞いて、多くなく少なくもない不安が拭いさられた気がした。
少なくとも、今ならなんの躊躇いもなくいける。そんな気がする。
「……うん、分かった。言ってくるよ」
バン、と扉を開けて駆ける。
これまでの不満を開放するように。
これまでの不平を撒き散らすように。
「だからほら、何も心配することなく言うがいい。大井がいなくて淋しいのだろう、今なら誰も聞いてーーーあれ? 北上?」
私は言った。
駆逐艦共に言ってやった。
ウザイ。騒がしい。喧しい。魚雷のこと少しは勉強しろ。クソガキ。鬱陶しい。砲撃なんか使ってんじゃねーよ。意気地なし。
それはもう罵詈雑言の嵐。
暁型は泣き出し、
睦月型は言葉の大破轟沈、
吹雪型は尽く自主解体、
陽炎型は総じて海に投身、
白露型は鎮守府から逃げ出し、
島風に至っては攻撃してきた。
しかし、私は止めない。
この2年も溜め込んだ不満は留まることを知らない。
攻撃こそしないが、口から出るは魚雷なんてもんじゃない、絨毯爆撃。
その日、鎮守府からは一時的に駆逐艦が消えた。
私は重営倉行きとなった。
北上「解せぬ」
ちなみに営倉とは、軍部において懲罰用の独房みたいなものです。知ってるとは思うけど一応の補足。