この鎮守府には航空戦艦が四人いる。
扶桑、山城、伊勢、日向。
まあつまり現在確認されている航空戦艦は全て揃っている。
航空戦艦は伊勢以外が異色揃いで有名だ。
扶桑型の不幸姉妹は言うまでもない。
では、残りの日向はどのように有名なのかーー
「いい加減仕事してくれませんかねぇ……?」
その日、ローテーション秘書艦業務に従事していた睦月型駆逐艦八番艦である長月が、珍しく敬語で話していた。
目を細め、額には青筋が浮き上がり、口元をヒクヒクと痙攣させた笑みとは言い難い笑顔で。
その相手は伊勢型航空戦艦日向だった。
「まあ、そうなるな」
日向は食堂前にある小さな公園のベンチで1/7.2スケールラジコン瑞雲の双フロートを磨きながら答えた。
答えになってはないが。
「そうなるな、ではなく……」
「航空戦艦だからな、そうなるのも致し方はない」
「いや、だから……」
「しかしな、私は確かに航空戦艦だ。しかし、しかしだ、キミはどうだ? 残念だ、実に残念だよ。飛行甲板を手にしてから出直すんだな」
話を聞かなすぎる。
長月は細められた目を限界というまで見開き、歪になる表情とちぎれるどころか爆発寸前の堪忍袋を懸命に抑え、この航空戦艦は自分の手に余ると判断して立ち去った。
その足跡はアスファルトの地面にヒビを入れていたという。
「あのニート戦艦をどうにかしろ」
長月が開口一番にそんなことを言ってきた。
ニート戦艦? などと疑問に思うことはない。我が鎮守府においてニートなんざ、日向か那珂くらいなものだ。
あぁ、那珂の処遇はどうしたものか……
「逃避するな。話を聞け」
「と、言われてもな……」
現実逃避をしようとしても長月に戻されてしまう。
「私には無理だ。彼奴は某鎮守府で噂される、飛行甲板と飛行甲板を扱う者と飛行甲板が必要な武装以外は泥の塊に見える奇病を患っている」
「それは病ではない、名状し難いサイコパスのようなナニカだ」
「サイコパスなんぞ精神疾患と似たようなもんだろう」
「いや、待て。話をずらすな。日向をどうにかしろ」
「だから無理だと言ってるだろう。これまで千歳、最上、三隅、龍驤、加賀、伊勢に扶桑が説得を試みるも、そのすべてが『航空戦艦だからな』で撃沈だ」
「……解体してしまえ、あんな奴」
長月も分かってるだろうに、そんな提案(?)をしてくる。
「那珂を見れば答えは分かってるだろう。
それに、ヤツは働かないとはいえ、他に替えのない航空戦艦だ。それだけで戦力も価値も無視できん」
「はぁ……」
長月が諦めたような、悟ったような溜息を吐く。是非とも私も吐きたいものだ。
「いっそ、長門でもぶつけてみるか……」
「むっ、なるほど。採用」
「は!?」
食堂前にある小さな公園。
そこでは怒りに満ち溢れた表情の長門と、涼しげな表情の日向、それを見守る提督と秘書艦の長月がいた。
「日向、もはや私も我慢の限界だ。これまでも成敗してやろうと思っていたが、遂に提督からの許可も下りた。
貴様の性根、この私が直々に叩き直してくれる!」
「まあ、そうなるな」
それは日向以外が使うセリフだろう。この場の誰もがそう思った。
「さあ、この木刀を取れ! 提督が支給してくださった、貴様に戦艦としての矜持を与える鉄槌だ!」
「ただの戦艦ではない、航空戦艦だ」
「揚げ足を取るな!」
このニートは人の気を逆なでするのが天性的に巧いらしい。
思わず対峙していない長月までもがイラッときてしまった。
「さあ、構えろ! こんな陸で遊んでいるより、深海棲戦と戦っているほうがマシと思えるようにしてくれる!」
「ふむ、なるほど……」
日向は地面に突き刺さる木刀を取り、片手持ちで構える。
「つまり剣道がしたかったのだな」
この航空戦艦はやはり話を聞かない。
飛行甲板を持つ艦娘達がこの場にいたならば、恐らく「長門の言葉を認識している時点でまだ良い方だ」と言うだろうが、それを抜きにしても逆なでどころか堪忍袋に爆薬を仕込む程度にはイライラしてくる。
「ちょっと待て」
「なんだ、提督」
そこで提督が待ったをかける。
「せめて防具を着けろ。危険は見逃せん」
「問題ない、多少の怪我は承知済みだ」
「いや、そうではなくて……」
「だが日向、怖気つくのなら防具を着けても構わんぞ?」
「そうだな、後部甲板は盾ではないからな」
決定的に話が噛み合ってなかった。
「っ、この……っ、覚悟しろ!」
その言葉をどう受け取ったのか知らないが、長門が激昴したように木刀を構えなおす。
そしてヒュッと日向との距離を詰めた。
が、次の瞬間ーー
ガッ!
その場の誰も、認識できなかった。
気付けば日向は木刀を振り下ろしていたし、気付けば長門が地面に沈んでいた。
1秒にも満たない刹那の出来事。
須臾で起きたそれは、飛行甲板を持つ艦娘達にとってすら驚愕を隠せなかったろう事。
錬度15程度しかない日向が、錬度85もある長門を沈めた。
んな馬鹿な。ひとり残らずそう思った。
「踏み込みが足りんな。戦場では相手の力量は即座に見極めねばならん。今の私が深海棲戦だったら、長門は轟沈を喫していたぞ」
剣道は終わりだ、とでも言わんばかりに木刀を地面に突き刺し、どこからか1/7.2スケール瑞雲を取り出してフロートの磨き作業に取り掛かる。
「ふむ、しかし……」
思案顔になり、手を止めて長門の方を見る。
「飛行甲板を持たん者の考えは分からんな」
提督と長月は全てを諦めた。
日向「これからは航空戦艦の時代だな」
こんな日向はいやだ(切実)
細かい設定は気にしないで頂けると助かります(震え声)