本営から指輪が届いた。
それだけならまだいい。いや良くはないが、とりあえず置いておく。
その意図や如何に、と共に送られてきた数枚の書類にも目を通す。
どうやら艦娘の士気向上及び戦力増強のため、指輪に秘められたなんかこう、すごい幾何学的且つ学術的なナニカによって装着した艦娘になんかアレな技術導入がなされ、練度の上限が増えるらしい。
そして、装着するには最高練度に達している者にのみ限ると。
それだけなら良かったのだが、その儀式的な何かの軍令部正式名称が「ケッコンカッコカリ」とはどういうことか。
上層は戦線を桃色空間か何かと勘違いしているのか。
我々戦線に立つ提督と艦娘は常に血と消炎と死の匂いが充満した戦場に生きる軍人であり、そんなピンク色したお花畑に生息してなぞいない。
そんな感じの文章がつらつらと綴られた文書と、ついでに配給される資材の少なさや備品の高値についてやら、建白書として幾度となく送り付けた。
少々過激な内容となってしまったが、まあそれぐらいがこちらの要望がいかに重要であるかも理解出来るだろう。
しかし待てど暮らせど、一向にケッコンカッコカリ制度はなくならず、我が鎮守府の備蓄は呼んでもないのに出現してくる戦艦や空母の連中に食い潰されていくばかり。
そればかりか本営は何を考えてその結論に至ったのか「さっさとケッコンしろ」とまで催促してくる。
もはや私の愛刀『丑三胡蝶蘭』を引っさげて本営に乗り込んでやろうかとも思ったが、そんなことをすれば戦線は混乱に陥り、そこに付け込んだ深海棲艦によって鎮守府を落とされてしまうやもしれん。決してビビっている訳ではない。そんなもの、母親の胎内に残してきた。母は私の性格について小言を申すばかりだが、その程度だ。
さて、そんな訳で本営が喧しいのでさっさとケッコンするか、となったのだが。
「相手がいない」
それなりの広さを誇る会議室にて、それについて議論した。
「いない、って……最高練度の艦娘は既に何人かいるクマよ? 適当に選べばいいクマ」
そうのたまうのは軽巡球磨。まったく、これだからクマなのだ。
「おい待て、それどうい意味クマ」
「良いか、球磨。名称に仮とは付いていても、結婚なのだ。貴様、この私に誰でもいいから結婚しろとでも言うつもりか?」
「それ以外の何があるクマか。結婚と言っても仮クマ。別に結婚したら夫婦になるとか夜の営みをするとか、そんな同人みたいな事はないクマ」
「そんなものは当然だ。だが、仮とはいえ結婚なのだ。真剣に決めねばならん」
「結婚とはいえ仮だクマ。いいから適当に決めるクマ」
私と球磨は互いの主義主張を譲らない。結婚が先か、仮が先か。鶏と卵に失礼な話ではなかろうか。
そこで会議に同席していた雪風が提案を出してきた。
「じゃんけんで決めてはどうでしょう?」
「それ雪風で決定って意味クマ」
即座に没された。
「なら、結婚したいって艦娘を呼んで、その中から何かしらで決めるのはどう?」
同じく会議に出席していた北上から提案が出た。
「なるほど、その案でいこう」
それから数日後。
「誰も来ない…………」
「まあ考えれば当然クマ」
ケッコンカッコカリの応募をして早五日。我が鎮守府で最高練度に達している艦娘は十名ほどいるにも関わらず、誰一人として私の前に現れない。
それどころか、最近食堂に行くと「結婚を安く扱っている」だの「女の敵」だのと噂話まで耳にする始末。
だから真剣にと言ったのに。
「昨日なんか曙が放送コードに引っ掛かるレベルの罵詈雑言言ってたクマね」
「逆さピースとか何処で覚えたきたんだかな……」
米国で逆さピースをやると殺されても文句は言えない。
さて、こうしてケッコンしないまま無為に時間を浪費していても、軍令部から「さっさと結婚しろ被検体」といった苦情が止まない。先に真剣に決めるとは言ったものの、特に思い入れのある艦娘はいないし、艦娘の方も私に思い入れのある輩はいなかろう。
ならばもう戦略的な面で見るしかない。
現在、最高練度に達している艦娘は伊勢、扶桑、、加賀、青葉、北上、天龍、吹雪、電、曙、夕立。
どれも我が鎮守府において初期からいる古株である。
さて、この中で誰が最も適任かーー
「というわけで、私とケッコンしてくれ」
「ぽいっ」
私の目の前で元気に吠える犬。
そう、私が選んだのは夕立だ。
夕立は改修により、火力面で凄まじく向上し、その力は重巡と肩を並べるほどである。
ここでケッコンによりなんかこう謎の技術的なオカルトマイクロテクノロジーが導入されれば、きっとあれスゴイパワーアップが見込めるんじゃなかろうか。
そんな感じで決めた。
何分、どこがどのように変化するのかは試験的な段階であり、未だハッキリとしていないらしい。
しかし戦力向上は確かなようだし、それなら夕立が適任だろうと考えた。
夕立は駆逐艦でありながら重火力。我が鎮守府の最高戦力の一つと言っていい。
それをさらに強くするのだ。これ以上はいまい。
「さあ、犬。指輪を……」
「ぽいぽい? ぽいー!」
字面だけ見ると指輪を捨てられてる気がするが、そんな事はない。
こうして、私は犬とケッコンした。
後日、金剛からは泣き付かれ、曙からは今までにない罵詈雑言を頂いた。解せん。
久々に覗いたら赤評価でした。軽くポルナレフ状態
感謝の言葉が尽きません。ついでにニヤニヤも尽きません