東方平々凡々録   作:さんま(北海道産)

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東方平々凡々録31 ただいま

「ここが私の住処、白玉楼よ」

 

白玉楼の大きな庭で真ん中の葉も付いていない大きな桜を境に俺らは向かい合った。風が吹かない冥界だが不可解なことに桜の木の枝がなにやら小刻みに動いている。時々枝から発せられるピンク色の眩い閃光のような光が暗い冥界に妖しく灯っては消えていく。

西行妖、それがこの桜の木の名前だ。今この桜の木に春が集まっている。ピンク色の閃光が順調に集まっている証拠だ、あの閃光がもっと激しく、強く光り出し、木に桜が咲き誇ったその時に目的は達成される。

 

「あの桜の木、妙ね」

 

咲夜さんは何か感づいたのか桜の木を凝視している。霊夢は相変わらず眉すら変えずに桜を一瞥した後こちらに向き直して、札を取り出した。魔理沙は桜なんて気にしていない、ただ俺だけを見ていた。

 

「はじめましよう、春の奪い合いを....」

 

「目的のため、春は頂くぞ」

 

木刀を構え直して深く腰をすえ、臨戦態勢に入る。俺の相手は魔理沙、タイマンならあの火力さえあたりはしなければ俺にだって勝機はある。我慢だ、一瞬の隙を奪うんだ。

 

「早く春を返してもらうわ、寒いのは嫌いなの」

 

「黒いローブの男....勝負だ。」

 

「帰りを待っている方がいるので、早めに終わらせてもらいます。」

 

西行妖の閃光がまた瞬く。さきほどより強く、さきほどより激しく。時が満ちるのも時間の問題か。

 

 

 

 

 

「これでどうだ!」

 

空中から大量にばら撒かれた弾幕。ごり押しなのか緻密さがない。縫うように躱しつつ叩き落としていく。もはや理性で戦っているのか、本能で戦っているのかわからない。顔を真っ赤にして弾幕を次々打ち出す彼女の姿が、あまりにも平常と変わり果てていて困惑している。どんな時でも笑顔で、楽しんでいた。

 

「ふんっ!」

 

斬撃を飛ばして反撃するが、彼女はかわすことなく弾幕放つ。互いにぶつかる瞬間線香花火のように弾け、相殺した。

 

「拉致があかない!ならこれでどうだ!」

 

空中から一気に降下し、距離を詰めてきた。なにをする気だ?減速しないとぶつかるぞ?後ろに下がりつつ斬撃を飛ばすがそれをまた相殺する。ぶつかる、誰もがそう思う瞬間箒の穂先が光る。

 

「どりやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

地面スレスレを飛行しつつ、こちらに向かって物凄いスピードで突っ込んできた。

鈍い音とともに身体中が宙に浮いた。浮いた感覚が痛みより先に脳に伝わる、浮いたのかと状況を理解した頃に、痛みが神経を通った。

声が出ない、力も出ないのでされるがまま流されるまま低い軌道を描きながら地面に激突した。数回バウンドして転がった、背中には最初の衝撃で小石が食い込んでいる。頭を打ったのか少し朦朧としている。

 

「成太!大丈夫!」

 

天使の声が聞こえた、今まででも珍しい焦った声をしている。

 

「大丈夫だ...死んじゃいない。」

 

体をゆっくり起こす。半霊半人でよかった。人間ならどこか折れていただろう。

 

「許せないよ...ボクがいこうか」

 

「いいよ、俺に任せろって言ったよな」

 

「でも!」

 

「...もう、こまらせないでくれ」

 

そう小さく告げると天使の声は聞こえなくなった。心配は受け取っておく、だけど俺はもう大丈夫なんだ。

 

「くっ!!」

 

立ち上がり木刀を持った瞬間、腕に激痛が走る。思わず木刀を落としてしまう。古傷だ。フランとの戦いで怪我をした右腕の痛み。まさかこんな時に

 

「まだ、やるのか?」

 

「...も、もちろんだ」

 

魔理沙の勝ち誇ったような目、その中に慈悲なんてない。さきほどの攻撃に手加減は一切なかった。俺が折れるまで、負けを認めるまで徹底的にやるようだ。

魔理沙は俺の返事を聞くと六角形の道具を俺に向けた。躱さないと、だけど足が言うことを聞かない。

 

「....マスタースパーク!」

 

六角形から発射された七色の光が俺の予想を超える速さで襲いかかってきた。ダメだ、直撃だ。目を瞑り踏ん張った。そんな俺を飲み込んだ。

ピチューン

 

肩が上下に大きく揺らして呼吸する、全身の力をごっそり持っていかれたようだ。足の力がうまく入らない。

 

「成太を...本当に殺したのか?」

 

魔理沙は俯きながらか細く俺に言った。死んではいない、目の前の男が複井成太なのだから。けど彼女は知らない。真実を打ち明けようした時、あれを思いとどまらせる。今の俺は演者だ、複井成太を襲った男だ。自分に言い聞かせる。

 

「そうだ...」

 

荒い呼吸の中なんとか答えた。その言葉を聞くと更に俯き

 

「返せよ....」

 

小さく何か言った。聞こえなかった。

 

「返せよ」

 

今度は聞こえた。少し悲哀が混じった普段より高い声だ。なにも返せない。

 

「返せよ!成太を!」

 

真っ赤な顔で声を荒げだと思うと箒がスピードを上げ俺にまた突っ込んでくる。次食らえばどうなるか。身構える、重心を下げて飛ばされないように。こんな足じゃ無駄だってわかっている。だけど今できることなんてこれしかない。

 

「さすがに、もう我慢できない」

 

「え?」

 

天使の声、やめろと言おうとした時には遅かった。

魔理沙は俺を通過していた、俺を通る直線コースを突っ込んできたのに俺を通過していた。

 

「流石に、これくらいかな」

 

よかった。思わずへたり込む。

どうやらもうダメだ、疲労と痛覚の限界だ。俺の負けだ

 

背中から聞こえる魔理沙の足音。

 

「もうダメ?」

 

いつのまにか目の前には西行寺さんがいた。後ろ姿でその先の霊夢達を相手にしているらしい。

 

「すいません、情けないのですがもう体が....」

 

「そう、お疲れ様。休んでていいわよ」

 

そう言って消えた、いや飛んだんだ。空で蝶形の弾幕を飛ばし続けていた。

 

「もうダメみたいだな」

 

魔理沙が俺の背中に聞く。俺は向き合うことなく黙っていた。数秒の沈黙の後、魔理沙は言葉を続けた。

 

「私、どうしたらいいのかわからない」

 

「私の大切な人を殺したんだから、許せない」

 

西行寺さんの弾幕が空を覆う、色とりどりの弾幕に心を奪われているとピチューンと音がした。どうやら咲夜さんが被弾したようだ。

 

「だからなにをしたらがいいのかわからない」

 

「殺すことなんてできない、殴っても返ってくるわけじゃない。汚い言葉を並べても意味なんてない。なにもできない。なにも...」

 

想像以上に重い。正体を現すタイミングが掴めない。冷や汗が止まらない。

 

「だったらせめて、顔ぐらい、成太を殺したお前の顔だけでも!」

 

魔理沙はいきなり近寄るとフードを思いっきり剥がし、回りこみ俺の顔を見た。フードをかぶっていた時より、少しはっきりと見える。顔を真っ赤にして、目に涙を溜めている。

 

「...え?」

 

「....は、は」

 

一番かっこいいタイミングなのに、なんとも微妙な空気になった。

 

「成太?」

 

「お、おう」

 

「本当にか?」

 

「いや、まぁこれにはいろいろ事情があってな」

 

魔理沙が動いた、目でそれを確認した時には、背中に手を回していた。

 

「良かった...良かった」

 

「えっ、魔理沙?あの?」

 

耳元から聞こえる小さな安堵の声、温かなぬくもり。

 

「しんぱいしたんだから....うっうぅっ」

 

涙声、肩が濡れているのがわかる。

そうか、ごめんな

 

「ごめんな、魔理沙。......ただいま」

 

ひとまず、今のままにしておいておこう、なにもできない臆病な俺はただ声だけをかけた。




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