資料探しのため投稿が遅れてしまったのですが、結局ほとんど集まりませんでした。
なので、この作品の第三天はフルに私の妄想より作られています。
座の機構が変になっていたりと、多々おかしいところがありますが、どうか広い心で読んでください。
第三天が顕現した。
細身の男であった。
侵しがたい美貌から象られる微笑は、怖気だつほどに美しく、常人が直視すれば発狂するか、または自ら命を断つだろう。
それほどの格。
ここに悲想天が――降り立った。
同時に、爆発する。
ネツィヴ・メラー。
それは、かつて文明を滅ぼした式。
「停まれ……ッ!」
そんなものをむざむざ発動させるわけがない。
すぐに夜刀の太極で押しつぶす。
――ほう……。
機械的な声が感嘆の声を漏らした。
感情の篭らぬその声音は幽冥の如く無機質ではあるが、どこかが違うと感じさせる。
「……チッ」
夜刀が舌打ちを打った。
歴代の神格は、座の特性によりある関係が成り立っている。
すなわち「先代よりもその次代のほうが強い」ということである。
程度こそ存在するが、ほぼこれが道理だ。
しかも、その歴代において、第三天と第四天には明らかな差が生じている。
故に、第五天の守護者たる夜刀と、第三天である目の前の男には、相応の差がある。
今の夜刀ならば、簡単にとは言わずとも倒すことができるだろう。
ましてや、力量はともかく、中身が全く感じられない。
座に記録されている残滓を、まるで糞で固めて形作ったような。
ただの木偶だ。
そんなものに、負けるとは思えない。
しかし、それが複数となると勝手が違う。
目の前で、二つの残滓が形を成していた。
第一天と第二天が同じように召喚されていた。
第一天。最初の座。
善と悪という二元論を流出させ、自らそれに苦しんだ、哀れな女。
そしてそこから生まれた第二天。
堕天奈落。
善の存在の為に悪を、原罪を背負ってしまった。
人としては自然だが、無謬の善はありえない。
流出させた本人の理想とかけ離れた灰色の理。
やはり負けるとは思わないが、手こずるだろう。
ならば――と。
夜刀は構え、そして紡ぐ。
彼の太極を――真に流出させる。
「海は幅広く 無限に広がって流れ出すもの
水底の輝きこそが永久不変
永劫たる星の速さと共に 今こそ疾走して駆け抜けよう
どうか聞き届けて欲しい
世界は穏やかに安らげる日々を願っている
自由な民と自由な世界で どうかこの瞬間に言わせてほしい
時よ止まれ 君は誰よりも美しいから
永遠の君に願う
俺を高みへと導いてくれ――」
流れ出し、宇宙を染め上げるのは刹那への祈り。
何よりも守りたかった刹那はもういないのに――
彼は、言葉を刻む。
流出
Atziluth――
新世界へ語れ超越の物語
Res novae――Also sprach Zarathustra
顕現したるは夜刀の随神相。
蛇の尾をもった半人半蛇の蛇神の姿。
あまりにも強大で、巨大だった。
それは夜刀の格のあらわれだ。
不退転の覚悟。
必勝の気位。
今の夜刀を形成しているそのすべてが、彼を高みへと導いていた。
――……
二元論と堕天奈落が動く。
だが、明らかに動きが鈍い。
神格としては、ありえないほどにだ。
第三天に至っては、動こうともしていない。
これこそが、夜刀の理。
時間の永続停止。
いくら神といえど、この宇宙を逃れることは難しい。
そして――
「血 血 血 血が欲しい
ギロチンに注ごう 飲み物を
ギロチンの渇きを癒すため
欲しいのは 血 血 血
――罪姫・正義の柱
マルグリット・ボワ・ジュスティス」
随神相――轟哮
蛇神の口から放たれる極大の一撃。
天を崩落させ天体すら打ち砕くそれは、波旬もろともに二元論、堕天奈落、悲想天を葬らんとする。
波旬は動かない。
動く必要など、微塵も感じていないようだ。
それはいい。
奴にとっては、認識する必要もないのだろう。
しかし、他の三柱はどうだ。
二元論と堕天奈落は距離を取ろうとするが、おそらく無理だ。
時間停止の影響を受けているのだから、逃げられるはずがない。
明けの明星は――やはり動かない。
おかしい。
先の二柱が動けて、第三天が動けないというのはありえない。
だが現実に、目前に極大の一撃が迫っているというのに動こうとしない。
波旬とは違い、この一撃を受ければ負傷は必至。
それどころか、今の夜刀の攻撃はどれもが必殺の威力を秘めているのだ。
いくら中身のない木偶であっても、それがわからぬ相手ではないはずだ。
現に、二元論と堕天奈落は回避をとった。
しかし。
明けの明星は動かない。
そして――
あろうことか、蛇神より放たれた破壊光を受け止めた。
高慢にも。
だが、拮抗する。
――ふん。気に入らん。
――まったく、何を呑まれているか。
呑まれている?
誰が。
夜刀が?波旬に?
そんなことは――ない。
――ならばこの状況はあり得んだろうが。
――ああ、気に入らん。
第三天が吐き捨てた。
傲慢に。傲岸に。
夜刀は――
「――あ、ああ、ああああああああぁぁぁぁぁッ!」
叫ぶ。
破壊光の勢いが増す。
停止の法がより強固になる。
否、ようやく本来に戻ったのだ。
二元論と堕天奈落が停止する。もう、逃げられない。
さらに、破壊光の勢いが強まったことで、拮抗が崩れた。
明けの明星が押し負ける。
二元論と堕天奈落が消滅した。
その瞬間――こじ開けられた。
並みの神格なら抵抗もさせずに消し飛ばす破壊光を。
天すら重みに耐えかねて崩落するというのに。
こじ開けた。
その先にいたのは――夜刀。
その背に生やす八枚の刃が、鎌首をもたげ、明けの明星をとらえていた。
――それでいい。
第三天の首が飛んだ。
明けの明星の残滓が消える。
迷いはない、躊躇はないと言っておきながらも、夜刀は呑まれていた。
ほかならぬ第六天波旬の質量に。
呑まれて、嘘で自身を固めてしまった。
だが、虚構の自分をさらに圧倒する。
今度こそ、嘘偽りなく、誓おう。
「俺は女神を愛しているッ!」
波旬の宇宙を、必ず滅ぼすと。
「滅尽滅相――ッ!」
随神相――轟哮
二撃目の破壊光が、波旬に向かって放たれる。
そして、直撃。
――したように見えた。
そこにいたのは。
破壊光を迎撃したのは、
「メルクリウス……」
かつて殺し合い、そして共に戦ったこともある――水銀の王であった。