HDDの肥やしになってた短編晒し   作:クヤ

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fate 出だしの出だしだけまともに書こうとしました。

 その日、空には穴が開いていた。

 ドロドロと粘りを持ち次々とその穴からあふれ出るように出てくるそれ。

 Dies irae。怒りの日。

 世界の終わりとはきっとこのような時に用いるべき言葉なのだろう。

 あふれ出たそれはすべてを飲み込むようで。いや、ただ破滅を振りまいてた。

 町は火にあふれ、舞い散り、助けを呼ぶ声がこだまする。

 火の爆ぜる音が聞こえる。

 それはどこか非現実的で、なんだか無性におかしかった。

 何かが砕ける。

 誰かが哄笑を上げている。

 穴から出たそれを見つめ続けていると、やがて狂うのだろうか。

 黒い破滅は、ただただ気持ちが悪かった。

 だけどそれはなんだかとても悲しいような気がした。

 そして僕は……。

 

 そしてわしは目覚めた。

 かつて僕だったわしは壊れてしまったらしい。

 本来は外付けHDD程度で終わるはずが僕を下地にわしが上塗りされてしまった。

 それ自体はどうでもいいことだ。

 未だ破壊は続いている。

 穴はふさがれたらしいが、出てきたものはこの地を汚染し、呪いと破滅を振りまいている。

 地は燃え上がり、見上げた空は怨嗟と噴煙に彩られていた。

 このまま何もしなければ死ぬだろう。

 魂すら汚染されそうだったから、わしが目覚めた。

 死の危機に際し、自動防御と外付け記憶が解放される設定だった。

 記憶を読み取る僕が壊れてしまったから、一番最初たるわしが出てくることになったようだ。

 確かにそんな設定を組み込んだ記憶がほのかに存在している。

 一番最初の錬金術師だったわしは俗にいう転生者で、アトリエ世界とでもいうべきところに二度目の生を受けた。

 そのまま錬金術を極め、おまけに魔法をかじっているにわか魔法使いでもあった。

 永遠に続く生に飽き、しかしここまで高めたものを捨てるにはもったいないと感じてしまった。故に魂を改造してわしのすべてを焼き付けた。

 わしを活用するには強い渇望か死の危機しかないようにして、わしじゃないわしとして新しい生を歩むことを選んだのだ。

 大体摩耗しつくしたわしはそうして、情動を取り戻しその人生をデータとして取り込み続けて今に至る。

 なにが言いたいかというと、とりあえず生きるか。

 

 生きたまま火事場を脱出したところで、家も親も何もかも焼け落ちたことに気が付いた。

 とりあえず孤児院スタートか。生きるのが途端に面倒くさくなった。

 文明がある程度成熟していると、途端に怪しい人物や子供が一人で生きるのが面倒になるこの仕様はなんとかならないものか。

 そうしてふと思い出す。

 あれ、この状況というか現象どっかで見たことある気がする。

 運命の夜とかいうキャッチ―でありましたわ。

 型月時空か。孤児院とか教会という名の愉悦神父がいるとこじゃね?うっわ面倒くさい。

 一般家庭に押しかけて、引き取らせるかな。

 ああ、乗っ取っても良心が一切呵責しないで、異常性を欠片も隠さなくていい物件が一つあったわ。

 まあ、良心とかだいぶ昔に投げ飛ばした気がしないでもないけど。

 

 そして、物件を入手すれば目の前には瓶詰チンコ蟲と眠った幼女が残った。

 どうしてこうなった。

 大体わしのせい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おい幼女よ。先に言っておく。この家はわしが乗っ取った。わし自己中だから。お前の事情とかわしの意志の前には何の関係もないから」

 

 きっぱりとわしの問答無用さを幼女に教育する。

 しかし幼女は聞いているのかいないのか、反応がとても薄い。実に目が死んでやがる。

 

 「おじいさまは?」

 「そこで瓶詰めしてある蟲のことか」

 「瓶詰め?」

 「見たらわかるだろうこのチンコ蟲だ」

 「おじいさま?」

 「なんだ、あのジジイの本性を知らなかったのか?お前の心臓に寄生していた寄生虫があのジジイの本体だ」

 「おじいさま」

 「お前はおじいさましか言えないのか?ぶっ殺してもよかったがこの世界だとあれ単品もそこそこ貴重品で売ればそれなりの値段がつくらしいからな。ただ殺すのももったいないだろう。売り手が付き次第売っ払う」

 「おじいさまいないの?」

 「だからそこのチンコがそうだと。なんだかお前を構うのがすでに面倒になってきたぞ」

 「あなたはだれ?」

 「ようやくまともな質問が出てきたが、遅いぞおい。まあいい、答えてやろう。異界の錬金術師にして偉大なるマナの力を持って転生を果たした……あれ?今世の記憶がぶっ飛んでやがる。マジ余計なことしかしねえあの泥。適当に付けるか、ああいや間桐真至(まとうしんじ)今日からお前の兄だ」

 

 音はいっしょだ。問題なかろう。本人たちは追い出すしな。転生者とかいたらめんどくさい。

 これくらいなら、誤差で済むだろ。

 ふゆきちゃんねるネタとか、結構好きだったが実際沸かれたら面倒で仕方ねえ。

 突撃厨とかそこそこの人数いれば絶対現れるし、聖地巡礼とか言って観光に行って地雷踏むバカとか絶対いるし。

 最低限自衛できる能力もないのにそういうところに顔を出すとか豪胆を通り越してアホでしかない。

 

 「おにいちゃん?」

 「そうだ。だから今日からわし以外にいじめられたら、わしに言ってこい駆逐してやる。ただしわしにはいびられるんだぞ。便利に使われろよ」

 「魔術は?」

 「なんだやりたいのか?この家の魔術って蟲に集られるやつだろ。お前ドМなのか?ちょっと引くぞ。人としてどうかと思うぞ」

 

 ないわー。ないわー。とサブ芋がたった腕をさすりながら何ともいえない目を向けてやる。

 

 「やらなくていいの?」

 「えっむしろなんでやるの?ヤリタイの?やっぱりマゾなの?」

 「やりたくない!」

 「おお、初めて感情的な発言が出たな。お前ガキらしくないよな。ああ、なんかそうなっちゃう背景あるんだっけか。わしあんまり覚えてないんだけど。確か遠坂さんちから売られてきたんだっけ?」

 「うん。わたしいらない子だから」

 「そうか。まあどうでもいい。今日から新生間桐家の子でわしの妹という設定だからしっかり頑張るんだぞ」

 「なにするの?」

 「家事とかだろ。そりゃ。いや、たしか前に作った自動人形があったな。じゃあ家事いいのか?まあ、家事ってことで。お子ちゃまだからまずは勉強な。最初からできるとは思ってねえから。あとでだしとく自動人形の鹿角に教わるんだぞ。わしに教わろうとするな、めんどくさい。そしてわしがぐうたらできるように頑張るんだぞ」

 「うん」

 「良し、じゃあ寝ろ。もう遅いしな」

 

 

 

 

 

 さて、チンコ蟲は時の石版から改造して作った、時留の瓶に入ってるから劣化しないししまっとこう。

 えーとあとしなくちゃいけないのは……鶴野だっけか、アル中のあいつをいくらか金やって追い出して対外用ジジイ(偽)をいつでも使えるように作って、鹿角も出しとかないとな。待てよ家政婦とか雇ってんのかなこの家。

 いくら、魔術師とか言っても飯の支度するような人材がいないぞ。

 そうするとその人、クビにするのは気が引けるな。

 非が一切ないのにクビになるのはさすがにどうよ。

 まあいくらか金やって、クビにするか。

 賢者の石があるから金とか作り放題だしな。

 というかあの世界に作ろうと思って、才能さえあれば作れないものはまずなかったからな。

 まったくとんでも世界だぜ。

 というか人工マナに不可能はねえ。

 

 

 

 

 

 用事を片してさあ、俺も寝るかというところで、桜がなんか泣いてた。

 こいつ感情が死んでるんじゃなかったっけ?

 普通に泣いてるんだが。押し殺すような泣き声ってやつ?

 とりあえずうざいので扉を蹴破る。

 なんかめっちゃビックッとしてて笑える。

 

 「なに泣いてんのうざいんですけど」

 「ごめ、んなさい。ごめんな、さい」

 「謝られてもあれなんですけど。お前がうるさいから今日は俺の抱き枕な」

 

 我ながらなんという理不尽意味わからん。

 とりあえず、片手を脇にまわして抱いて残った手で頭を撫でつける。

 ガキなんてこうしてりゃ大体泣き止んで寝る。

 あーめんどくせえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日はあのときまでいつもと何も変わらない日だった。

 わたしを助けてくれると言っていたウソツキおじさんは、おじいさまに勝てるわけもないのに刃向って死んじゃった。

 遠坂の家にいたころはたまに遊んでくれるおじさんだったけど。

 間桐の家に来てからはおじいさまに口だけで文句を言っていた。

 でもわかってる。おじいさまが怖かったんだ。

 でもだんだんおかしくなっていって、最後には何も見えてなかったみたい。へんなの。

 葵さんと凛ちゃんのところへ帰るんだって。

 わたしいらない子だからこの家に来たのにおかしいんだ。

 帰るところなんてないのに。

 そんなことを考えていた時だった。

 おじいさまが怖い感じになったのは。

 なんだろうって思ってみたら男の子がいた。

 この子もおじいさまに殺されちゃうんだ。そう思っていた。

 その子はおじいさまと二言三言、会話をすると突然笑い出して、おじいさまが凍り付いた。

 なにがどうなっているのか、まったくわからなかった。

 わたしは何か言おうとした気がするけど、それが口から出る前に眠ってしまった。

 次に目覚めたときは寝た時からそれほど経っていなかったみたい。

 起きたら最初に目に映ったのはあの時の男の子だった。

 なんで生きてるんだろう?おじいさまは?

 なんでもこの家を乗っ取ったらしい。おじいさまは?

 あのいっぱいいた蟲と変わらないこれがおじいさまなんだって。

 おじいさまがいなくなったなら魔術はどうするんだろう。聞いてみた。

 やりたいの?って変な顔して聞かれた。やりたくない!っていった。

 大きな声出しちゃった怒られないかな。

 おじいさまよりこわい。

 気にしていないみたいだった。よかった。

 男の子の名前は間桐真至っていうらしい。

 今日からわたしのおにいちゃんになったそうだ。

 おにいちゃんはいじめるけど、ほかの人にいじめられたら助けてくれるらしい。

 言っていることはよく分からなかったけど、そうらしいってことは分かった。

 あとわたしは明日から家事をすればいいらしい。できないだろうけど鹿角さんという人が教えてくれるそうだ。

 じどうにんぎょうってなんだろう?よく分からない。

 おにいちゃんはまだすることがあるみたいで、話が終わったらわたしに寝るように言って出ていった。

 

 布団に入って目をつぶる。

 今日あったことを思い出す。おじさん死んじゃった。おじいさまはどうなんだろう。

 でもきっと死んじゃったのと変わらない。

 この家に知ってる人がいなくなっちゃった。

 わたしどうなるんだろう。わたしにひどいことをしてたおじいさまはもういない。

 代わりにおじいさまをやっつけちゃった男の子がいる。

 おじいさまみたいにひどいことするのかな。

 こわいな。こわいよ。

 あ、だめ。泣いちゃう。

 ないたら喜ばれてもっとひどいことされるから。

 うっうっ涙が止められない。

 最近はもう泣くことなんてなかったのに。

 なんでだろう。おじさんが死んじゃったから?あの男の子がこわいから?

 泣くのがやめられない。

 その時、扉が勢いよく開いた。

 一瞬だけ泣くのが止まった。でもよけいに涙が落ちてくる。

 なんだか怒られた後にわたしは抱き枕になるみたい。

 よく分からない。

 抱きしめられる。あったかい。こわい。

 頭が撫でられる。なんだか懐かしい。こわい。

 だんだんと頭がぼんやりしてきて、なんだかあったかいなと思いながらわたしは眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 それから数日たって、雑務がようやく終わった。

 鹿角は出してすぐに活躍した。さすがはわしの作りだした最強の家政婦。

 万年ぐーたら病に罹患しているわしは誰かの世話がなくても死なないが、基本ぐーたらしている。

 そんなわしを絶妙なお世話で最高にぐーたらさせてくれる最高のメイドよ。

 そういえば、出したとか言いながら一切触れていなかったが、わしの魂には俗にいうアイテムボックス機能がついている。

 自力ではどうやっても実現できなかったので、最後の手段マナパワーによるごり押しで実現した。

 マナパワーを使わなくても大抵のことができる素のわしにもできないことはあった。才能が足りんのだよ。才能が。

 正確にはアトリエ世界につきものの倉庫を改造しまくったものを魂に取り込むという卑怯臭い手法をとった。

 その際さらに改造して、アイテムボックスに許されるか怪しい機能をつけまくった。

 たとえば一個単位での温度調整とか、時間を止めるまでのタイマーとか、魔力使用の増殖機能とか、自然回復分の魔力とかが自動で貯金される機能とか。

 わしも若かった。500超えてた気もするが。

 それと、マナになるのは生きていれば簡単だった。まず人工マナが開発されるのを待ちます。作られたマナに死にたいと願う男を蹴り飛ばし、マナにそういう存在に改造してくださいと頼む。

 人工マナとして誕生します。(結構賭けだったことは否定しない)

 ついでに死にたがっている男のせいで寿命を減らした少女の寿命を元に戻し、死にたがっている男に惚れている女を呼び出し、男を押し付けます。

 そして、最初の人工マナは人間とほとんど変わらないようにし、これまた呼び出した女に男の子供として引き取らせます。

 最後に、考えただけで願いがかなうのは大変危ないので、まず発音しない言葉を解放キーにして、さらに言語化された願いしか叶えないように設定しつつマナとしての力を封印します。

 これでいつでも使えるドラゴンボールの完成です。

 実に楽。

 さて話が盛大にそれたが、忙しかった雑事はわしの戸籍の書き換えと、遺産関係の処理に雑貨類の買い物。家政婦さん解雇。桜と鹿角の顔合わせ。

 あとはこまごましたので大したイベントはない。屋敷は改装したが。

 それから、なんか桜がわしの部屋に寝に来るようになった。

 初日以外泣いてないからいいじゃん。

 とは思うもののそれほど面倒でもないので抱き枕にしている。どこに懐かれる要素があったのだろうか。大いに謎だ。

 鹿角が昨夜はお楽しみでしたね。とかいうのがなければなおよい。

 わしら肉体的には幼児よ。さすがに無理だって。

 ポークビッツ見てるとなんだか悲しくなるし、起つことは起つが性欲とかさすがにねえよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからだいぶたった。そろそろ俗にいう原作が始まるんじゃなかろうか。

 原作との一番の違いは真至がここにこうしていることだろう。特に何かするつもりはないが、家政婦を増やすのもいいかもしれないなとは思っている。

 まあ、自動人形たる鹿角がいるので手は足りているし、最近は桜も熟練の手つきで家事を行う。

 必要かどうかで言えば、目の保養以外の価値はない。

 

 次の違いはこの世界には割と転生者が蔓延っていたことだろうか、時計塔の上部にもそこそこ紛れ込んでいるらしく漏らしたバカを時々研究コース行きにならせているらしい。要はしっぽきりだな。

 真至の記憶が覚醒したころにはzeroの物語は終わっていたので確証はないのだがリューちゃんは例のごとくひどい目に合った挙句殺されてしまったらしい。ふゆちゃんが存在したことに笑いつつも、みんな結構好きなんだなと妙に感心したものである。

 そうしてマスター権は誰か別の人間が拾ったらしいのだが、結局特に流れは変わらなかったらしい。

 それで学んだのか家に訪ねてくる怪しい人間はいない。

 まあ、ジジイロボが徘徊している間桐家に乗り込んでくるような人間は、勇者以外の何物でもない。

 導入した当初から桜には不評であったが、最近ではようやく慣れたらしい。

 そうそう、桜はと言えば実に従順な妹に仕上がった。実は病んでいるのだろうなと確信を持っているが、俺には被害がないので別にどうでもいい。

 特にそうなるように強制したわけでもないのに原作っぽい。これが世界の修正力かと草を生やしながら真至は思った。

 衛宮士郎とは先輩後輩の間柄ではあるものの特別親しいというわけでもない。それはそうだろう慎二の親友ということで接点があり、自己犠牲精神が疲れた桜を癒し惚れさせたのだから。

 こちらの真至は衛宮士郎のことがそれほど好きではない。便利な奴とは原作同様に思っているが、あり方が気持ち悪い。無償の愛が悪いとは言わないが不特定多数に振り撒くなよ。表面上付き合う分には問題を感じないが、少し深く付き合えばないわという結論に至る。真至にとって士郎はそういう存在だった。

 おそらく、おそらくなのだが、桜が一番好きなのは真至であろう。幼少期からなんだかんだと世話を焼き、焼かれ。兄さんには私がいてあげなくちゃなどと考えているに違いない。

 真至は来るものを基本的に拒まないので、桜が求めればあっさり答えることだろう。他の誰かが求めればそれにもあっさりと答えるが。

 かくしてブラコン桜は今日も逝く。負けるな桜。がんばれ桜。待て次回。

 と、まあ冗談は置いておいて、運命の夜は近いのかもしれない。しかし、慎二が弓道場の掃除を押し付けないから始まらないで終わる可能性を否定もできないのであった。

 

 「間桐君」

 

 ある日学校でのこと真至は屋上へと呼び出されていた。

 屋上と言えば、喧嘩告白などイベントにことかかない場所である。そんな色気のある呼び出しではないのだが、相手がそれなりの美少女であることも手伝ってよけいに残念な感じもする。

 それよりも桜がこの呼び出しを聞けばどういう反応をするかと言った方が、興味深い。

 

 「なんだい遠坂。こんなところに呼び出して。下駄箱に手紙なんて入っているからラブレターかと思ったじゃないか。いまどきそんなシチュエーションがあるのかと少し期待してしまったよ」

 

 そんな古風な手段を用いる相手がいまどきいるのか、そんなドキドキを返してほしい全く。

 

 「それは悪かったわね。違って」

 「それじゃあ、何の用だい?君はわしに興味も特になかっただろう」

 「分かっているでしょう。聖杯戦争よ。間桐は出るのかしら?」

 「必至だねえ遠坂は。そんなに妹が心配かい?」

 「なっあなた知って……。妹なんかじゃないわ」

 「そりゃあ知っているさ。仮にも兄だしね。しかし、妹じゃないね。君がそう言うのならまあそれもいいさ」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしているが、その言葉を聞いても今更桜は、何も感じないだろう。君が桜のものに手を出さない限りはね。

 

 「それで聖杯戦争だったか、今のところ令呪は出ていないね。まあ出たら参加するんじゃないかな。好んで宿す気はないけれど人がいなければ出ることになるだろうね桜が。一応そういうものだから」

 「間桐は聖杯に興味がないの?」

 「爺様はまだ諦めてないんだろうけどねえ。正直金はあるし、容姿には困ってないし生きていくうえで必要なものはそろっているからわしはいらないがね」

 

 真至のあまりにもどうでもよさそうな様子に、凛は訝しそうな顔をしている。本人だってどうせやるなら一番などといった魔術師らしくない思考で参加を決めているのだろうに。ひょっとすれば金がある、の所で動いた眉を見るに、その表情には別の意味でもあるのだろうか。

 唯一聖杯に興味があった、諦めていなかった爺様は既に売られていって、今どうなっているかは知らない。つまり今の間桐に聖杯に興味がある人間はいないということだ。

 

 「それで話は終わりかい?だったらわしは失礼させてもらうよ」

 

 凛に背を向けると片手をひらひら振って屋上の扉から真至は出ていった。

 一人残った凛は真至の消えていった扉をただ見つめていた。

 

 「あいつもよく分からない奴よね……わしとか」

 

 扉から視線を切るとなんとはなしに空を眺める。

 思い出すのは桜のこと、家から出ていったものと仲良く振舞うことは許されない。父に言含められたこと。

 父が死に、母が廃人のようになってしまった前回の聖杯戦争。それからは兄弟子である神父から武術をそして魔術を習い我武者羅に前を向いてきた。

 魔術はすぐに教わることはなくなり、自分で発掘するように勉強を重ねた。頼れるものは己だけ。

 家訓である常に優雅たれという言葉を守るように、誰にも弱みなど見せられなかったから。

 それでもそばに桜がいてくれれば何かが違ったのではないだろうか。

 今も桜がそばで笑っていてくれる未来もあったのではないだろうか。

 遠坂先輩と、桜に呼ばれるたびに生まれるこの名状しがたい気持ちはなんなのだろうか。

 

 「未練ね」

 

 小さくため息をつくと、凛は出口へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 「桜、遠坂に呼び出されたよ」

 

 食事の最中、ピクリ、動きをわずかに硬直させる桜。

 桜の中では未だに遠坂家は、ある種のトラウマ、タブーになっているのだろう。

 

 「遠坂先輩が兄さんにどんな御用だったんですか?」

 

 怪訝そうな表情から、愉快ではない感情が桜の内を渦巻いているのだろうことを感じさせる。

 真至が邪推しているだけかもしれないが、物事は主観で成り立っている。故に真至が思ったのならそれは真至の中では事実になったことでしかない。

 戯言だが。

 真至はそんなことを妄想しながら桜に答える。

 

 「ああ、聖杯戦争の件だよ。以前話したよね。それで間桐は参加するのかってね」

 

 真至の返事を聞いた桜は合点がいった様子で問うてきた。

 

 「参加するんですか?」

 「今のところその予定はないかな。欲しいものなんてないし、あっても自力でどうとでもなるしね。令呪が出ていたら最低限召喚か、神父に話を通して令呪をもらってもらうかだけど。あの愉悦神父のところには行きたくないから召喚しないとねえ義務だから。それより桜には令呪出てないかな」

 「令呪ってどんなものでしたっけ?」

 「なんかこう覚えのない痣っぽいのから始まって、刺青みたいになるんじゃなかったかな。わしも直接見たことがあるわけじゃないけれど」

 「……痣あります」

 「ああ、やっぱりか。遠坂が聞いてきたから桜にも出たんじゃないかと思ってたんだよね。間桐には優先権があるから。遠坂には出てないって言ったけどさ」

 「私、聖杯戦争に出るべきなんでしょうか」

 「どっちでもいいよ。召喚はするべきだけど、なんだったらわしが召喚してもいいし。桜は何か願い事ないの?」

 「願い事ですか?兄さんがいてくれればいいです」

 「桜もわしが大好きに育ったよねえ。別にそういう教育してきたわけでもないのに」

 「迷惑ですか?」

 「いや、別に。わし基本来るものは血縁者でも拒まないし。逆にいうと独り占めはできないタイプなんだけど」

 「いいんですよ。兄さんはずっと私の兄さんだから。エッチなこともいっぱいしてくださいね。きゃ」

 「ただれてるなあ。別に血がつながってるわけでもないし普通に嫁にしてもいいよ」

 「いえ、この兄妹なのにという関係がいいんです。お嫁さんも悪くないですけど」

 「なんでこんな子に育ってしまったのか。鹿角に教育を任せきりにしていたせいなのか」

 「私のせいではありません。人のせいにしないでください」

 

 初登場鹿角さん。ぶっちゃけ見た目しか似てないけど鹿角さん。認識を誤魔化す呪いとセットになった角を装備した鹿角さん。

 実は食事の傍らに控えていたのです。食事ができるつくりなのに食べなくてもいいからと、めったなことでは食卓を共にしてくれない。

 正直、作成者にして主人である真至とは会話の機会がダントツで少ない鹿角さん。

 

 「そうですよ鹿角さんは私を立派な乙女に育ててくれました。私のお母さんです」

 「ならどうしてそうなったし」

 「真至が甘やかしたからだと答えます」

 「そうですよ。絶望していた私を何もかも気にせずにひたすら温かく包むだけ。惚れてまうやろー!」

 「桜。キャラが崩壊しています」

 「すいません。取り乱しました」

 「本当にどうしてこうなったし」

 

 いろいろ面倒だっただけなんだがなあ、と思いながら遠くを見る。

 そうして横着して更なる面倒を呼び寄せる真至であった。

 

 

 

 

 

 結局、桜が召喚をすることになりました。特に深い意味もなく。

 

 「兄さん本当にこれが呪文なんですか?」

 「本当本当。兄さん面白そうなことにしか嘘つかない」

 「じゃあ、嘘ですね」

 

 何故わかったし。

 

 「でもこれでやってみますね」

 

 何故気づいたのにやってみちゃうし。

 

 ――――HEY!YO! 汝来たりて、我任す!

 

 セイントなカップ従って、なんかいい加減にイイヨって思っちゃったらさあ大変!

 

 私とってもいい人ヨ!私とっても我儘ヨ!

 

 さあ来い!いま恋!?とにかく来い!めでゅーささーん!――――

 

 「ふう、決まった」

 

 やばいよマジでやっちゃったよ。振付まで書いておいたらその通りだし、しかも、もわもわといかにも召喚されました風に煙がたってやがる。真至は戦慄を隠せない。

 

 「あなたが私のマスターですか。サーヴァント、ライダー。あなたの望みをかなえるため参上しました」

 「わーわー本当に召喚できましたよ兄さん。私、間桐桜です。よろしくお願いしますライダー」

 「そうだねー。その子の兄で間桐真至。仲良くしてやってねー」

 

 世界って言いうのは意外といい加減にできているものなのさ。真至は悟っていた。

 

 「兄ですか。よろしくお願いします。マスター、真至」

 「なんだかむず痒いです。桜って呼んでくれませんか?」

 「ええ、あなたが望むのなら」

 

 柔らかく笑うライダー。その微笑みは目元が隠れていても目じりが下がっているのだろうなと思わせるものだった。

 石化邪眼標準装備の人は裸眼で他人が見られないのである。

 

 「んじゃ、早速で悪いんだけどさー。ライダーは聖杯にどんな願い事ある感じ?」

 「いえ私に望みはありません」

 「えっじゃあなんで聖杯戦争に呼ばれてくるの?」

 

 我ながらなんという茶番と思いながらも質問する真至。しかしここで聞いておかないとなぜなにが後で生まれてしまうかもしれない。

 

 「私は将来怪物になる人間が呼ぶことで現れるのですが……桜は別にそのようになりそうにありませんね」

 「あーあれだよ。昔はなりそうだったし。今も若干ヤンデレ入ってるしな。絶対にならないかと言ったらそうでもないんでない?」

 

 架空元素虚数は、無限の可能性を秘めているんだ。

 主にヤンデレ的な意味で。

 

 「そうですか。では、今桜は幸せなのですね」

 「はい。幸せですよ。兄さんがいますから」

 「良い兄なのですね」

 

 はたして、自動人形と妹に家事等投げっぱなしにしたうえで、家にいるときはこたつに入りごろごろしている人間がいい兄と言えるのであろうか。

 

 「いや、そうでもないんじゃない?むしろ人間としてはだめな部類だと思うよ。桜ってばダメ男が好きだから」

 「そんなことないですよ。兄さんはすごい人です。でも好きになったらだめですからね」

 「わしにとってはダメとすごいは両立するからなー。あれ来るもの拒まずでもいいんじゃなかったのか?」

 「それはそれ。これはこれ。妹としては一度は言っておかないといけません」

 「結局真至はどういう人物なのですか?」

 「あれだよ。なんかすごい錬金術師で魔術師で基本的にダメ人間。そんな奴だよ」

 

 大体そんな感じで間違いない。伊達に魂年齢上げてないぜ。

 しかし精神的には摩耗初代を過ぎるとひたすら精神年齢がいい加減なのはどういうことなのか。

 初代意識が復活することもそこそこあったが、実にジジイだったりこんなグータラ若者だったり、俺ってすごいんだぜキリッだったりと統一感というものが碌にない。

 最初に何かバグらせたんだろうか。甚だ疑問である。どうでもいいのだが。

 

 「ざっくりしていますね。兄さん」

 「まあまあ。おいおい分かってくだろ。ということで納得しろ」

 「……はい。それで桜の願いはなんなのでしょうか」

 「私のですか?兄さんとずっと一緒にいることですよ」

 「?それは聖杯に願う必要のあることでしょうか」

 

 首をかしげるライダー。眼帯なかったらきっとかわいいそう思う真至であった。

 しかし、実はすでに魔眼殺しのメガネが家の中にあったりするわけなのだが。

 金があるってすごいよねという話。

 それはさておき、桜が巣立っていかない以上それは願うまでもなく叶うだろう。

 至高なニートだからして、学生だからニートには早くとも。

 

 「ないですよ?」

 「ではなぜ召喚を?」

 「いや、うち一応御三家だからかつ勝たないとか関係なく召喚ぐらいしておかないと。義務だから」

 「義務ですか?」

 「うん義務。聖杯からの知識にないと思うけどさ。この戦争ってサーヴァントの魂を魔力変換して器に貯めて願い叶えるんだけどさ。参加人数少なかったら根源とか至れないらしいのよ。だから数合わせは最低限いるわけ。令呪なかったら召喚しなかったけどね」

 「つまり我々は生贄と」

 「まあ、そうなるのかな。といっても今根源に至ろうとか考えてるのアインツベルンくらいだろうから、勝者には普通に魔力の塊が与えられるんじゃないかな。今の聖杯はアンリマユに汚染されてるからどんなこと願っても基本破滅だろうけど」

 「私はどうすればいいのでしょうか」

 「べつにうちの家族として遇するけど?お互いに願いがないなら引きこもっていればいいよ。誰か来たら叩きのめす感じで」

 

 かくして運命の夜はほのぼのと迎えられたのだった。

 負ける気なんて欠片もない真至は、転生者とか結構いるからなんか変わるかなと実は結構期待していた。

 

 

 

 

 「そういえば突然だけど、この世界何回か前の世界でゲームになってたんだよね」

 

 タイトルはFateね。真至はライダーが召喚されてしばらくたったある日、突然そんなことを言い始めた。

 みんなしてなぜか集まる、真至の部屋の炬燵の中で。

 

 「ゲームですか。真至が転生のたびに記憶を収集しているとは聞きましたがそんなこともあるのですね」

 「兄さんですから何でもありです」

 

 誰もその発言に疑問を覚えないあたり、真至の普段からの行いが察せられる。

 面倒だからといろいろすでに暴露済みだった。

 なぜなに対策の茶番はいったいなんだったのだろうか、真至はその場の勢いで生きていた。

 

 「それでどういうゲームだったんですか?」

 「確かに気になりますね。これからのことも含まれているのでしょうし」

 「えーと18禁のノベルゲーで、衛宮士郎が主人公」

 「衛宮先輩ですか?弓道部で兄さんの同期のあの」

 「そうそう。正直そのゲームでわしの立ち位置の人間が弓道部入ってたから、入部したようなところあるし」

 「ああどうりで、グータラしていることこそ至高と言ってる兄さんが、部活に入ったので不思議に思ってたんですよ」

 

 そういう形式的なところになぜか従いたくなる真至。もともとの実力は知ったことではないが普通に当たる。そんな腕のいい弓道部員へと仕上がっていた。

 そして兄が大好きな桜も当然のように部活に所属している。

 

 「まあ、そういうわけ。自己犠牲万歳な主人公様でゲームでは桜が惚れてたね」

 「私がですか?」

 「うん。爺さんも生きてたしアル中の息子がわしの立ち位置で家に居場所がなかったから、外に救いを求めてたんだろうね。そういう意味では来るもの全部助けるなあいつは都合がよかったのだろうさ」

 「なるほど。それでどういう本筋なんですか?」

 「三通りエンディングがあって、ああ、没になったのも入れると四通りかな。で、聖杯戦争が舞台でね」

 「今じゃないですか!」

 「だから話す気になったっていうのもあるしね。それで、相棒のサーヴァントと結ばれるの、遠坂と結ばれるの、桜と結ばれるのと没になった義理のロリ姉のがあったはず」

 「要素が多いですね。義理の姉でロリなんですか」

 「そう、ロリってのがよくなかったんだろうね。没になったし」

 「ロリコンはいけません」

 「でも年上な合法ロリだよ。ロリ出してもこのゲームの登場人物は全員18歳以上ですって言っとけばいいし」

 「ロリ姉……」

 

 なぜかライダーが遠い目をしている。

 そういえば、双子のロリS姉がいたのだったか。

 

 「桜ルートだと桜がヤンデレ化け物になって、凛に討伐されて士郎の命と引き換えに助かるんだっけ?あんまよく覚えてない」

 「私いいところないですね」

 「今でもヤンデレ入ってるんだから一緒じゃない」

 「何の話ですか。私のログには何もありません」

 「ネトゲとか結構一緒にやったからな。ネタにかぶれおって」

 「ネトゲですか?」

 

 聖杯の知識はそう言ったところまでカバーできているのだろうか。興味があります。

 

 「あっライダーも興味ある?今度一緒にやろうな。やっぱあれかなモンスターハントするのとか養殖しやすいし、英霊の能力なら余裕だろ」

 「普通のRPG系でいいんじゃないですか?」

 「それもそうだな。って話がそれた」

 「なんの話してたんでしたっけ?」

 「ゲームの話でしょう。この世界のではない」

 「あー、桜の奴は話したよなじゃあ次は遠坂のか」

 「遠坂先輩のですか。少し興味があります」

 「遠坂の奴はなあ。未来の衛宮召喚するんだよ」

 「衛宮先輩、英霊になったんですか!」

 「この時代に英霊になるとは大したものですね」

 「英霊っていうか。英霊なんだけど、守護者っていうか掃除屋っていうか?そういうのに自分からなったらしいよ。まあそれでも普通にすごいんだけど」

 

 しかし現代で英霊になっちゃうほど頑張るのはバカでしかないとひっそり心の中で思っている真至。

 世界平和とか思考制御か人類抹殺ぐらいしか選択肢がない。

 もう一つあったか、戦争をやめさせたいだけなら戦争しかけたやつが呪われるようにしたらいい。

 激痛でも不幸でも、最終的にやめなきゃ死ぬようにしておけば続けるような奴は稀だろう。

 

 「なんだかよく分からないけれど大変そうですね」

 「まあ大変なんだろ。遠坂に召喚されても摩耗しまくって記憶喪失からスタートするらしいし、雇用主がブラックなんだよ」

 「それはまたブラックですね」

 「まあ、天高く召喚されて家に落っこちて天井突き破るような事態でなければ、もう少しましだったかもな」

 「なにをやっているんですか……」

 「まあ、遠坂の家系は代々うっかりの呪いがかかっているからな」

 「なんですかその恐ろしい呪いは。私は大丈夫ですよね?」

 「桜はどっちかというと母親の血が強そうだからな。ヤンデレ属性」

 「あーあー聞こえませーん」

 「それで英霊になった衛宮士郎の目的は、英霊になる前の自分を殺すことだったんだよ!」

 「な、なんだってー!……とは言ってみたものの何でですか?」

 「なんか掃除屋人生疲れたから自分ぶっ殺せば解放されるかもっていう話だったよ。たしか」

 「自分殺しのパラドックス……しかし、英霊はそれに成る際に世界のくびきから外れます。守護者から解放される可能性は低いでしょう」

 「まあ、わかってもいい加減疲れたから藁にもすがりたいのさ」

 「なんだか大変なんですね」

 「大変なんだよ。それで遠坂ルートだとその辺の絡みで衛宮士郎対決ルートにいくのな。それでガチバトルの果てに英霊に勝利したかつての自分に蒙を開かれて答えは得たよって遠坂に奴を託して消えていくのさ」

 「なんだかいい話ですね」

 「いえ、それ以前に英霊になった自分に勝利するということが、一番の驚きなのですが」

 

 それは確かに思う。そんなときは魔法の言葉。

 

 「すごいよね。さすが主人公」

 「それで済ませていいのでしょうか……」

 「いいんだよ。それで最後になったけど相棒であるセイバーのルートね。これがまたすごいのよ。セイバーがアーサー・ペンドラゴン聞いたことあるよね?」

 「エクスカリバーの人ですよね。さすがに知っています」

 「それはまた……かの騎士王ですか」

 「しかもこいつが実は前回の聖杯戦争にも出てて、最後まで残っています」

 「あれ?じゃあ勝ったんですよね。なんで今回も出てるんですか」

 「確かに不思議です」

 「前回のっていうか、今もだけど聖杯は悪であれって望まれた英霊色に染まっちゃてて破壊しかもたらさないのよね。それを知った前回のセイバーのマスター。衛宮の養父でアインツベルンの今回のマスターの実父がセイバーに令呪で破壊させちゃったのよ。ただしセイバーはそれを知らないという。その余波が冬木の大火災ね。ここテストに出ます」

 「さらっと言いましたけど結構すごいことですよね。それ」

 「まあ、そうかな。でももう終わったことだし。で、セイバーの望みは故国の復活?えと、自分が王にならなかった場合に改変したかったんだっけ?うろ覚えだなあ」

 「過去の改変って聖杯ってすごいんですね」

 「まあな。それで前回叶わなかったから今回も出ます。召喚に使う憑代は火災の時に埋め込まれた聖剣の鞘です」

 「えっ鞘って人体に埋め込めるんですか?」

 「なんか魔術的な感じじゃない?詳しくは知らないけど。で、なんやかんやあってセイバーに士郎が惚れます。でもセイバーはつれない。でもちょっと意識してる。そんな時に前回から生き残ってるアーチャー登場。そいつは俺のものだ―恋敵登場です。まあ、アーチャー嫌われてるけど」

 「盛り上がってきましたね」

 「ええ、どうなるのでしょうか」

 「このアーチャー、古代ウルクの王、ギルガメッシュなのでした。あらゆる宝具の原点を持ち合わせており、それを射出する卑怯臭い技を使います」

 「火力主義者ですか。嫌いじゃないです」

 「桜そういう問題ではないです」

 「しかも、ひとつ対界宝具があります。慢心してるので追い詰めないと使いませんが、使われると大抵死にます。エクスカリバーより強いです」

 「慢心wでも、一撃必殺はひどいですね」

 「対界宝具……勝てるサーヴァントはいるのでしょうか」

 「ところがどっこい。聖杯への望みを諦め、士郎と結ばれてちゅっちゅしたあとにセイバーに鞘が返されます。攻守そろったセイバーに敵はいなかった」

 「ちゅっちゅのところいらなかったですよね。ところで、鞘があると何か違うんですか」

 「ああ、エクスカリバーの鞘には治癒能力と絶対防御がついている」

 「卑怯臭いですね」

 「最強の矛と盾を持ったそれは、まさに卑怯だ。奴に勝てるのは不意を打てば割と多いが正面からだと大体負ける。そしてアーチャーを打ち破った後に聖杯を破壊して、セイバーはあなたを愛していますと言って消えていったよ」

 「いい話ですね。それで私たちそんなのと戦うんですか?」

 「申し訳ありませんが、正直勝てる気がしません」

 

 桜とライダーはすでに遠い目をしていたが、まだ諦めるには早い。この聖杯戦争は全員がハイスペックなのである。

 倒した。強敵だったぜ。新たな敵がッ強すぎる。がデフォルトなので。

 

 「良しおまけだ。バーサーカーは12回違う方法で殺さないといけないヘラクレスで、ランサーは対人用の一撃必殺を持ってるクーフーリン。遠坂のアーチャーは固有結界で無限の剣が襲ってくる。キャスターは、不意打ち上等マスター狙い余裕な神代の魔女メディア」

 

 数瞬固まったのち、悟ったようなすがすがしい笑顔で言った。

 

 「ふう、とっとと脱落しておきますか?勝てる気がしません」

 「私もそれを勧めます」

 「なんだよー、それでも桜は私が守ります。キリッてやれよー」

 「私は身の程をわきまえています。無理です」

 「まあ、順当に進めばそうなるけど衛宮は死ぬ確率が馬鹿みたいに高いよ。正直、現実で生き残れるとは思えないのだが」

 「そんなにですか?」

 「だって選択一つ間違うだけでほぼ死ぬよ。ヒロインにすら全員に一回殺されるくらいには。ゲームならまだしも現実は基本非情である」

 「それはまた……」

 

 恋仲になる者たちにすら殺されるという現実に、さすがに絶句している様子。

 まあ、だからといってライダーが勝てるというわけでもないのだけれど。

 

 「それはともかく、言ったような聖杯戦争になるかは謎なんだよね。結構この世界ご同輩がいるらしいし」

 「ご同輩、それは?」

 「よーするに前世の記憶を持って別の世界から来ました系」

 「そんなっ兄さんみたいな非常識な人たちがたくさんいるんですか!」

 「兄さんみたいな非常識ってひどくない?」

 「いえ妥当です。しかし真至のようなものが大勢いるとは何て恐ろしい世界なのでしょうか……」

 「二人のわしに対する認識は置いておいて、非常識なのはそんなにいないと思われる」

 「どこにそんな根拠があるというんですか」

 

 そんな世界の終わりのような顔をしなくてもよいと思う真至なのであった。

 自分が若干世界的に見ても卑怯臭いとはいえ、世の中上には上がいる……いたらまずいのか。

 しかしこんなところに出てくるのなら前回既に参加して勝利していることだろう。

 まあ、少しくらい安心させてやってもよかろう。

 

 「ここにこんなものがあります」

 「パソコンですよね」

 

 その通りノートパソコンです。

 

 「こちらのページをご覧ください」

 「なんですかいったい?えーと冬木ちゃんねる?冬木市の投稿掲示板なんてあったんですね」

 

 桜はやはり初目であったらしい。パスワード入力しないといけないから当たり前と言えば当たり前なのだが。

 ヒント:この掲示板を見て連想されるタイトルを英小文字4文字で答えなさい。

 これを知っている人間しか見ることができないのだ。

 

 「パスワードはfateな」

 「パスワードなんてあるんですか。フェイトというと運命ですよね。あれっ?さっき話していたゲームのタイトルって」

 

 気づいたらしい。少し遅かったな。

 

 「そこ転生者って便宜上呼ぶけどそういうのが集まってるのよね」

 

 きわめて軽く真至は言い放った。それは桜とライダーを混乱へと陥れた。

 

 「えっこれこんな簡単にアクセスできていいんですか?兄さんが前にばれたらホルマリンコースだって……え?」

 

 その認識はたいへん正しい。実際ホルマリンかは判然としないが研究所行きは間違いないだろう。

 今だってばれていないのではなく、一部の有志による粛清によって平穏が保たれてると言っても過言ではない。

 ある程度のエサがあれば人間、意外と満足するものだ。

 

 「そこにはいったい何が書かれているのですか。真至」

 「大したことないよ?前回の聖杯戦争についてだとか、転生者あるあるとか、今回の聖杯戦争のさっき話したようなことが詳しく書いてあって、ゲームに登場する人物に対するストーカー状況が実況されてるぐらい」

 「それ大体全部大事ですよね」

 

 そうだろうか。転生者あるあるなんかは意外と面白いがそれ以外はさほど興味をそそられない。

 聖杯戦争に参加すると参加者からは状況の実況がまずないだろうし、ストークする人たちからの客観的事実から推測するしかないのは正直面倒だった。

 

 「桜とかライダーからてみると意外と面白いだろうから今度目を通しておきなよ。ああ、自分でアクセスするときは串刺してね匿名性の高い奴。どこかで漏れてへんなの沸いたら面倒だから」

 「兄さんが余裕そうなのは、非常識な人がこれを見る限りいなさそうということなんですね」

 「大体あってる。聖杯戦争に参加されて怖いようなのはこんなとこ来ないで悠々自適に暮らしてるよ。たぶん」

 

 聖杯戦争なんて者に参加したがるクレクレくんたちは、現代日本人の精神性を持っていると仮定すれば基本的に妄想力が激しいバカか何も考えていないアホォである。

 真至は主に二つ目にあたる。具体的に言えば好き勝手生きようと思っていたのに自分から型枠にはめて面倒が降ってくるような、そんなアホォである。

 自由とは束縛されることすら選べることであるとは、誰が言ったことだったろうか……。

 だが、あえて断言しよう。真至のそれは考えるのを面倒くさがった短絡思考によるものであって御大層な意味はない。

 そんなアホォが何人もいるはずはなく、妄想力たくましいバカが厄介な敵であるわけもなく。つまり大多数の転生者諸君は基本的にテレビや新聞を眺めている程度の感覚でこの戦争を俯瞰してみているだけの対して害のない人々なのだ。

 無意識の悪意というもののたちの悪さはあるがここでは置いておこう。

 そもそも、普通の人間は、わざわざ何かが起こるとわかっているようなところには近づかない。

 それで何か得るものがあるならまだしも、精々が英霊が入手できるかもしれない可能性がある。では、うまみがあまりに少ない。

 それでも参加したがるような連中に、真至のような規格外なアホォが混ざる確率は本来ならないと言っていいレベルだろう。

 既に混ざっていることにはどこかの関係者の方に頭痛が痛いをやってもらうとして、何も見なかったことにしよう。

 よってfate通りの英霊諸君の方がよほど脅威である。

 一体どうゆうことだろうか、転生者は大丈夫アピールによる安心感が、たった一行によって大いなる不安をあおっているのは……。

 

 「まあ、なんとかなるさー」

 

 そう言ってパソコンの前で妙に真剣に議論を交わす二人を見ながら、真至はこれ以上聖杯戦争について考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 「突然だが衛宮士郎が死んだらしい。アーサー王の鞘を回収してきました」

 

 なんだかんだで生き残ると思っていただけに真至は大層驚いた。

 主人公補正はどこへいったのか。

 修正力などが設定に組み込まれている世界だというのに仕事しろよ世界、と別に誰が悪いわけでもないのに憤慨した。

 故人となった衛宮士郎氏に哀悼の意を表すとともに、その魂がタイガー道場へと拾い上げられ、並行世界の衛宮の糧となってくれることを願うものである。

 

 「そうですね。主人公補正が足りなかったんですよ」

 

 と桜が言う。大した接点もなく、好感度が高いわけでもなかった衛宮は桜の心を動かすには至らなかったらしい。

 というより冬ちゃんによる情報収集の結果、真至より桜やライダーの方がfateに詳しくなってしまったという。

 その結果、世界に主人公補正がまともに機能していなければ、十中八九死ぬという結論に至っていたらしかった。

 

 「そして鞘を回収してきたって、使えるんですかそれ?」

 

 もっともな疑問だった。実際改造すれば使えるようになるだろうが、そこまで気力がわかない真至は、コレクションにして終了する予定だった。セイバーがいまだに現界していればそちらから流れてくる力で、大変便利な回復アイテムにして盾であっただろうが。

 しかし、人間に宿ったままさよならするのがもったいなかったのだ。

 アイテムボックスに叩き込んでおけばいつか活用する自分がいるかもしれない。

 その点で言えば衛宮士郎本体も大変な貴重品であったかもしれないが、藤村大河は嫌いな人間ではなかったのでせめて遺体ぐらいは弔いたいだろうという配慮だった。

 真至は敵でない女の子には優しい生き物だった。

 

 「それでどうやって死んだんですか?正直死に所が多すぎるせいで予想がつかないんですけど」

 「いろいろ複雑なんだが、あくまで予想になる」

 

 だって見てなかったから。そう前置きして真至は語りだす。

 

 「正直なところ衛宮がどうなろうと興味はなかった。かかってきたら殺すなり服従なりするけどね。だから当然監視なんてしていなかったし、さらに言えば召喚をしない可能性もあった」

 

 「だってそうだろう?原点における衛宮士郎が最初に巻き込まれたのは慎二が道場の掃除を押し付けたからだ」

 

 故に衛宮士郎はアーチャーとランサーの戦いの前に帰宅の途についているはずであり、接触することがない。

 つまりは遠坂凛との蘇生イベントは発生せず、ランサーが自宅まで追いかけてくることもない。

 蘇生イベントも桜が衛宮の家へと通ってない時点で、衛宮との接点が生まれず、知己でもない状況となっている。万が一同じ原因で死亡したとしても、蘇生自体が見送られるような気もするが、ともかく何事もなく帰宅。

 

 「それで召喚したか、していないかは謎だが、衛宮士郎は死んだ。おそらくはロリ姉の強襲によるものだろう」

 

 召喚していて聖杯戦争参加を断り、セイバーに殺された可能性もこの時点では存在するが、衛宮士郎の精神性を考えればその選択肢は、ない。

 馬鹿力でぐちゃっと死んでいたので犯人はバーサーカーでまず間違いない。

 

 「召喚していない時点で死ぬと令呪の再配布があるかもしれないのでたいへん面倒だ。よって召喚したということにしておこう」

 「いえ、しておこうって兄さんが決めることじゃないですよね」

 

 まったくもってその通りだった。世界はこんなはずじゃないことばかりだよ。

 真至は、考えるのが面倒になった。ふて寝。

 

 

 

 

 

 「って寝ないでください!ほら兄さん。今が活躍の時ですよ」

 

 「嫌だよ。だるい。めんどくさい」

 

 我儘真至は、便利使いする予定だった妹になぜか動かされる。仕事をしろとは言われなくとも関係ないところで。

 

 「大変です真至。サーヴァントがこちらに向かっているようです」

 

 とあまり大変でなさそうな様子でライダーが現れる。

 実にタイミングが良く悪い。

 世界は桜向けに設計されているのだろうか。

 

 「それは大変ですね!兄さん!ほら動いて!」

 

 真至を動かそうとする桜だが

 

 「いや、ライダーのマスターおまえだろ。ライダーも何故わしに報告するかなあ」

 「いえ、なんとなくですが。私たちの中でリーダーと呼ぶべき存在は真至でしょう?」

 「そんなのいいですから!ほら妹の一大事ですよ。一人で放っておかれたら死んじゃうんですよ!」

 「うるさいな。分かったよまったく」

 

 のそのそと炬燵から立ち上がると真至はだるそうに足を引きずるように玄関を目指していった。

 そしてそれに続くように二人もついて行くのであった。

 

 

 

 

 

 「お出迎えご苦労よ。でどっちがマスターだ?」

 

 玄関から出ると「青いぴっちぴちのタイツを装備した変態がそこに」

 

 「誰が変態だゴラァ!!!」

 

 内心で吐露していたつもりだったが口から現れていたのだった。その発言を聞いていた桜とライダーも思わず吹き出す。

 

 「ぷっ、変態」

 

 「そっちの二人も笑ってんじゃねえ!ったく調子が狂うぜ。大体俺のかっこうが変態だっていうならそっちのサーヴァントはどうなんだよ」

 

 その発言を受けてちらりとライダーを見やる。

 目隠し、ボディコン、ハイソックス、鎖装備。実にアブノーマル。

 真至は確信を持って言った。

 

 「エロはすべてにおいて優先されるのだよ。そんなこともわからないのかい?」

 

 ついでに言えば男のタイツとか誰得だよと真至は思っていた。

 確かに英霊を感じさせる覇気。鋭い眼光は獲物を見つめる狩人のごとし。

 だがしかし、それでも真至は言う。タイツとかないわー。

 真至は妙な迫力を放っている。ランサーは気圧された。ライダーはショックを受けている。桜はさらにつぼに入った。

 

 「いえ、あの真至?そうではなくてh「そんなことはともかく!」

 

 真至はライダーの発言を遮った。それ以上言わせねえよ、と言わんばかりに。

 ライダーは変態を否定してもらえないことを悟った。真至がヤダーと口で適当に言うときならともかく態度で否定しているときは何を言っても無駄だと。

 

 「男のタイツとか誰得なんだよ!」

 

 「話が変わってねえ!」

 

 ランサーは戦慄した。この話題まだ続くのかと。

 

 「男は普通の服着てろよ!なんだよタイツとか!そこは鎧にしておけよ!男の前で男が体のラインが見える服装をしていいのは海だけなんだよ!その点見ろよ。うちのサーヴァントを!まず女だろ!かわいいだろ!美人だろ!服装がエロいだろ!この脚線美!腰から足にかけてのライン!ちょっとよそではお目にかかれませんよ!よく鍛えられたさすが英霊と言わんばかり、しかし、その実とてもむっちりしていてエロい!そして巨乳!おっぱいに貴賤はない!ないが!大きいことはいいことです!」

 

 ランサーは何か発言に思うところがあったのか、ライダーを見ている。

 その視線と真至の口上にとても居心地が悪そうなライダー。

 

 「なるほどな。そんだけほめるだけあっていい女だ」

 

 だろうと真至はたいへん満足げだった。

 

 「だがそれは置いといてよ。そろそろ一戦いっとこうぜ。マスターがとっとと戦えってうるさくてよ」

 

 「ライダーいけるな?」

 

 「はい、真至」

 

 「じゃあいっちょ相手してやろうか」

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