「王……。王とな? そう言われては出て行くしかありませんわね……!」
小男――青年は、どこから声がするのかキョロキョロしているが、それ以外は俺の方に注目する。
弓を手にしたまま、優雅にその場に舞い降りる俺。純白の絢爛豪華なドレスをはためかせ、静かに着地する。
「お初にお目にかかりますわ……。聖杯戦争ゆえ、名を明かせぬ無礼を先に謝っておきますわ」
俺のことを5者5様に値踏みする。いや、隠れているものも含めれば、もっとか。倉庫の上、クレーンの上、コンテナの上……。そんな俺に、まずは、とばかりにセイバーが問いかけた。
「貴女は……アーチャーとお見受けするが、いかに?」
「この子がすべてを物語っておりますわ」
弓を撫でるだけで、俺はまともに答えない。この場にアーチャーがいない以上、俺がアーチャーだと錯覚させられる。それは大きなアドバンテージとなる。アーチャーともなれば、容易には手は出せまい……。そんな思惑からだ。
次いで口を開いたのは、ライダー。
「ほう……お主も王とな……。重ねて問うが、我が軍門に降る気は?」
「ハッ、笑わせてくれますわ……。私が見ているのは世界ではなく、今のみ。今ある自分を認めてこその、王ですわ!」
心にも無いことを言う。俺がしたいのは、ただの人殺し。のんべんだらりと暮らす愚民どもを、怨嗟の渦に落としいれ、苦痛と絶望と憎しみの中殺していく愉悦……。それしか考えていない。
だが、それがばれるのはまずい。この場には義を重んじるサーヴァントが少なくとも3騎。3対1では、さすがにキツイ。
俺の言葉に何かを感じたのか、わずかに表情をゆがめるセイバー。
そして、このままアーチャーとして挨拶が終わるかと思ったのだが、現実は厳しかった。虚空より、突如として声が響き渡る。
「俺を差し置き王を僭称するとはなぁ……。しかも、3匹か……」
「あら、尊き王の血に連なる私のこの出自。偽る気はさらさらありませんことよ?」
突如として現れた金ぴか鎧の男に、俺はそう返す。しかし、俺の言葉にも耳を貸さない。
「真なる王とは、天上天下、この俺ただ1人! 他の有象無象は雑種にすぎんわ……!」
その言葉に反応したのはライダー。拳を振り上げ、しっかりとその金ぴか鎧を見据えて言う。
「そこまで言うのであれば……名乗るぐらいの事はしたらどうだ? 貴様も王であるのならば、己の名を知らしめることに何の躊躇いもあるまい」
その瞬間だった。金ぴか鎧のまとう雰囲気が変わった。今までとは違う。俺は、いつでもデリヴランス――純銀製のハンドガンを顕現できるように構える。
「問う、だと? この俺に、問を掛けると……? 雑種ごときが……! 拝顔の栄に浴してなお、知らぬと……? ならば、そのような無知蒙昧は生きる価値すらない!」
そう言って腕組みをする金ぴか鎧の背後からは、空間の歪みと共にいくつもの武具の穂先が突き出ている。
「ほう……アレでアサシンをやったのか……!」
ライダーのつぶやきを俺は聞き逃さなかった。
(なんと……。もうアサシンが脱落していたとはな……)
意外な情報に心を弾ませながらも、俺の心は少しささくれていた。
『なんだぁ、あいつ?』
龍之介の念話も耳に入らない。だんだん怒りが増してくる。そうだ、怒れ。もっと、もっとだ。あいつは、あの金ぴか鎧は俺の言葉を無視しやがったのだ。取るに足らない羽虫以下の存在として。
答えは一瞬で出た。あの金ぴか鎧を怒らせる答えは。あとは、実行するだけ。
そして、タイミングを見計らって、俺はそいつを見据えてあっけらかんと言い放った。
「知りませんわ。どこのどなたですの? 最も古い由緒正しき血統の前で王を名乗る田舎者は」