Fate/magic bullet   作:冬沢 紬

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おひさしぶりです。やっと書きあがったので投稿です。すみません、ISの二次書いてました。


07

「龍之介。この素材でウーヴル(作品)を作るのは駄目ですわ」

「え? なんで?」

 その場には目隠しと猿轡をされ、縛られて転がったアイリスフィールという名の女性がいる。俺がセイバーとの騙しあいに勝ち、ここに連れてきたのだ。

「それはもちろん、この方が次なる布石となるからですわ」

 そう言って俺はおもむろに目隠しを取る。すると、怯えきった表情で俺を見るアイリスフィール。殺しはしない、殺しはしないさ……。それじゃあ、つまらなくなるからな。アイリスフィールはここに充満する妙な臭いに気付いたのだろう、あたりをきょろきょろと見回す。しかし、暗くて辺りは見えない。俺はアイリスフィールの頭をぐいとつかみ、俺の目に目線を合わせる。そして、一言。

「comodes」

 アイリスフィールの目から光が消え、濁ったような目になる。うつろな目をしたアイリスフィールに、龍之介はどうしたんだと俺に問いかけた。

「あれあれ? 一体何しちゃったわけ?」

「これでこちらの言うことを素直に聞くお人形さんになったのですわ。拘束を解いた途端に魔術でドカン、なんてオチは漫画だけにしてほしいものですし」

「拘束を解くって……何するのさ」

「お茶会ですわ。客人を招いたのにお茶の一つも出さないなんて、お里が知れますわ」

 俺はそう言ってお人形遊びよろしくティーセットを呼び出し、そこの椅子に座らせる。

「ほら、龍之介もお座りなさい?」

 そうして指パッチンでアイリスフィールの目を覚ます。

「あ、あれ? 私は……」

「そんなことより、お茶会ですわ。ほら、いい茶葉がありますわよ? いかがかしら」

 戸惑いつつも、ありがとう、と言って大人しくお茶を注がれるアイリスフィール。辺りを照らすのは物寂しげな燭台が一つのみ。

「ミルクは……残念ながらないのですけれど、極上のモノが最近手に入ったので、いかがかしら?」

「極上の……もの?」

 俺は薄く笑う。

「ええ、飲んでみてのお楽しみ……。舌に合うといいのですけれど」

 俺はそう言いつつ、アイリスフィールに注いだお茶に、銀の容器から滴を垂らす。

「どうぞ、召し上がれ……」

「え、ええ。ありがとう」

 そうして一口、口に含んだ瞬間、アイリスフィールは妙な顔をした。

「ごめんなさい、上等なお茶というのはわかるのだけれど、なんだか変な風味がして……」

「そうかしら……? まぁ、人を選ぶモノだということはわかってはいたつもりだけれど……。次は、普通にストレートかしら?」

 そう言いながら俺は自分の分を一口づつ味わうように飲んでいく。

 お茶会は、始まったばかり。俺は口の端を歪めた。

 

■ ■ ■

 

 暗い礼拝堂の中、男の声が朗々と響き渡る。

「此度の聖杯戦争は、重大な危機に陥っている」

 誰もいないというのに、そこにまるで誰かがいるかのように堂々と弁を振るう一人の男……身なりからして神父だろう。

「戦争に参加する一騎であるキャスターのマスター。そやつは近頃冬木市を恐怖に陥れている連続誘拐、殺人事件の犯人だということがわかった。よって私は聖杯戦争非常時の監督権限を発動することにした。つまりは暫定的なルール変更だ……。あらゆるマスターはすべからく互いの戦闘行為を中止し、キャスター討滅に移行せよ」

 神父はそこで言葉を切ると、おもむろに自身の右袖を捲り上げた。

「見事討ち取った者には……」

 そこに刻まれていたのは……幾重にも重なった大量の令呪。

「追加の令呪を与えよう」

 そしてその右袖もそのままに、「一人もいない」そこにいる来賓たちを見渡しながら、言い放った。

「質問のあるものは? ……まぁ、人語を解するもののみ、とするが」

 そう言い、ニヤリと笑った。

 その言葉と同時に、その場から去る無数の気配。いたのだ、確かにそこには。何かしらが。

 数瞬後。そこには何もいなかった……。

 

■ ■ ■

 

 夜のアインツベルンの城。そこには焦燥を浮かべた黒スーツの少女と、落ち着き払った壮年の男がいた。

「マスター! このままではアイリスフィールがどうなることか分かったものではありません! 早急に救出を……!」

 だが、マスターと呼ばれた男……衛宮切嗣は泰然自若としたものだった。

「要求があるにせよ無いにせよ……何らかのアクションが僕たちにあるのはわかりきったことだ。ならば、わざわざアウェーで相手してやることもあるまい。ホームで、迎え撃つ」

「ですが……」

「待った」

 切嗣はそこでスーツの少女、セイバーの言葉を遮った。

「獲物が二匹、網に引っかかったようだ。セイバー、出撃の準備を。舞弥、例の仕込を。君は直接戦闘に加わらなくていい」

 そうして、モニターを覗き込む切嗣。そこには、森の中を虚ろに歩くアイリスフィールの姿があった。

「誘い……でしょうね」

 セイバーがつぶやく。

「好都合だ。このまま城に入れてしまおう」

「しかし!」

『セイバー?』

 そのときだった。モニターの向こうからキャスターが微笑みかけてきたのは。

『さあさ、いらっしゃいな。お茶会の準備はもう済んでいてよ? ほら、ゲストもこんなに……』

 そう言いつつ手を置いたのは、まだ幼い少女の頭。少女は、自我を取り戻す。その魔女が呪いを解くことによって……。

『ヒッ、あっ、こ、ここ……』

そしてその手はその少女を鷲掴みにし――

『痛……! うぁぁ! あ、ああああああああ!』

『エッセンスに、なぁれ』

 握り、潰した。

 辺りに飛び散る飛沫は朱く、その臭気までも容易に想像させる。未だ手のひらから滴るそれを、魔女は脇に用意してあった容器の中にポタポタと集めていく。そしてそれを、自身の紅茶に一滴二滴、垂らす。

『さぁ、お待ちしていますわ……』

 

 城の一室は静まり返っていた。

「巧妙に隠した数百メートル先の監視カメラを見破ることなど造作も無い……か」

 切嗣が何の感情も込めずに言う。

「私はっ! アイリスフィールの救出に向かいます! どうしてもというのならば、令呪を以って止めるがいい!」

 それだけ言い残すとセイバーはその場から走り去った。

 

 森の中。走る、ひた走る。セイバーはこれ以上の凶行を止めようと、主の伴侶を救おうとひた走る。そして、足を止めた。そこには……。

 首の無い、少女の遺体が無造作に転がっていた。その先に視線を移すと、そこには一組の椅子とテーブル、そしてそこに座る白い女性がセイバーの目に映った。

「アイリスフィール!」

 そして、駆け出そうとするそのセイバーの足を、たった一言の声が止めた。

「お待ちしていましたわ」

 風の流れるような音とともに空いた椅子に姿を現したのは、誰であろう、そう。キャスターだった。

「セイバーさんもいかが? わたくし自慢の紅茶を……」

 そう言ったところで、ああ、とキャスターは手をポンと打つ。

「お茶会には、芸術品鑑賞も欠かせませんわね」

 キャスターが指を鳴らす。すると、暗がりから怯えた表情の少年が現れた。自分の意思かそうでないのか……その歩みは、キャスターの方へ。

「さぁ、お行きなさい? あの御仁が良く見えるように……」

 そうキャスターがその少年にささやくと同時に、彼は悲鳴を上げてセイバーの方へと走り出した。その足取りは先程とは違い、しっかりしている。おそらく自分の意思だろう。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 その少年を、セイバーはやさしく抱きとめる。そして、抱きしめたまま言った。

「なんの……つもりだキャスター!」

「芸術鑑賞会ですわ。まぁ、少々お待ちになればわかりますわ」

 その時、少年がセイバーの腕の内で身震いした。そして、安心しなさいというようにセイバーが目を向けた瞬間。

 

 爆ぜた。

 

 少年が、裏返った。そうとしか形容ができない。内臓があたりに飛び散り、断末魔の悲鳴をあげるまもなく裏返って死んだ。

 そしてそれを、キャスターは微笑みながら見ている。

「うふ。うふふ。我が主も、中々オツなことをするものですわね」

 セイバーは、頭の中が真っ白だった。

 イマ……コノ子ハドウナッタ……?

 人の尊厳を無視するかのような、冒涜的な死。ただの作品と成り下がった、幼い少年。

「きさ……ま……」

 セイバーは、吼えた。

「キャスタァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 


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