シーベル家のあるマンションの駐車場内で刹那と早雲のデュエルが始まる。互いに未知の相手だが、それはデュエリストにとって新たな刺激に繋がる事になる。それを求めて、二人は相手と対峙する。
刹那:LP8000
早雲:LP8000
「先攻はオレだな。モンスターをセットしてターンエンドだ」
まずは刹那のターン。手札からカードを一枚抜き取り、それをセットしただけでターンを終える。
「んー、無難と言えば無難だね。私のターン、ドロー」
続けて早雲のターン。滑らかな動きでカードをドローし、手札に加える。最初からやる事を決めていたのか、すぐに手札のカードを抜き取った。
「相手フィールド上のみにモンスターが存在する場合、『太陽の神官』は手札から特殊召喚できる」
現れたのは、古代に生きた神に仕えし神官。無機質な表情の仮面をこちらに向ける。
「更にチューナーモンスター、『赤蟻アスカトル』を召喚」
続けて現れたのは、巨大な赤色の蟻。神官の傍に控えるような形で鎮座する。
「レベル5の『太陽の神官』にレベル3の『赤蟻アスカトル』をチューニング」
『太陽の神官』と『赤蟻アスカトル』がそれぞれ光星と光輪になり、同調を引き起こす。
「太陽昇りし時、全ての闇を照らし出す。降り注げ光よ! シンクロ召喚! レベル8、『太陽龍インティ』!」
現れたのは不気味な顔が描かれた太陽。それが強い輝きを放つと、四つの竜の首が生えるような形で出てくる。その輝きには神々しさがあり、明るくそして暖かく周囲を照らす。
その攻撃力は3000と、高数値だ。
「いきなりデカいのが来たな……」
「行くよ。『インティ』で守備モンスターに攻撃!」
四つの首が太陽から溢れるエネルギーを吸収し、光線として放つ。四本の閃光は刹那の守備モンスターである『闇・道化師のペーテン』をあっけなく消滅させる。
「『ペーテン』の効果発動! こいつが墓地に送られた時、こいつを墓地から除外することでデッキから二体目の『ペーテン』を特殊召喚する」
デュエルディスクの墓地ゾーンから飛び出したカードをキャッチすると、デッキからもカードが飛び出してきたのでそれを抜き取る。そしてディスクに守備表示で叩きつけると、何食わぬ顔をした道化師が出現し、帽子を取って早雲に一礼した。
「リクルーターかぁ……骨が折れそうかも。カードを一枚セットして、ターンエンド」
「『太陽龍インティ』、ってことはもう一枚も確実に来るわね」
「なかなか厄介なデッキを使うじゃない。私も興味出てきたわ」
舞とミラが気難しそうな表情で話す中、メイレンは黙ってこの戦況を見つめていた。
「オレのターン、ドロー」
ドローしたカードに、刹那は満足な表情を見せる。早雲はその表情を見るとやや構える姿勢になる。
「『魔導召喚士テンペル』を召喚!」
刹那のフィールドに魔法陣が浮かび上がる。そこから茶色がかった法衣に身を包んだ女性が出現する。
顔はフードで覆われているため確認できないが、それが何処となくミステリアスな雰囲気を作り出している。
「魔法カード、『グリモの魔導書』を発動。デッキからこのカード以外の魔導書と名の付いたカード1枚を手札に加える。オレは『トーラの魔導書』を手札に加える」
デッキから飛び出したカードを掴み、手札に加える。
「『テンペル』の効果発動。『魔導書』を発動したターン、こいつをリリースすることでデッキからレベル5以上の光、闇属性の魔法使い族モンスターを特殊召喚する。来い、『ブラック・マジシャン』!」
『テンペル』が何やら呪文の様な言葉を呟くと、その体が光に包まれて消滅する。そして新たな幾何学模様が出現すると、そこから漆黒の魔術師が出現し、精悍な顔を早雲と『インティ』に向ける。
「へー、『ブラック・マジシャン』かぁ。でもそれじゃ『インティ』は倒せないよ?」
「んなもん分かってるっての。魔法カード『千本ナイフ』を発動。『インティ』を破壊するぜ」
『ブラック・マジシャン』が杖を振りかざすと、その背後から無数のナイフが飛来して『インティ』をめった刺しにする。ハチの巣状態となった『インティ』はそのまま沈む様に消えた。
「『ブラック・マジシャン』でダイレクトアタック!」
リバースカードの存在は気になったが、万一のカバーはできるので踏み込むことにした。
魔力弾を生成し、早雲に向けて放つ『ブラック・マジシャン』。その攻撃は何の妨害もなく通り、早雲のライフを削った。
「一先ず先制だな。カードを二枚セットして、ターンエンドだ」
刹那:LP8000
手札:1枚
早雲:LP8000→5500
手札:3枚
「私のターン、ドロー」
先制されても早雲の表情に変化はない。まるで最初から分かっていたと言わんばかりだ。
「じゃ、こっちも少し反撃しよっかな。手札のチューナーモンスター、『スーパイ』を捨てて『THEトリッキー』を特殊召喚」
現れたのは、顔と胸に?マークが描かれた奇術師。その名の通り多彩なトリックを利用した魔法を見せる。
「更にリバースカード発動。『リミット・リバース』。これで墓地にいる攻撃力1000以下のモンスターを一体、特殊召喚する。さっき捨てた『スーパイ』は攻撃力300。このまま特殊召喚するよ」
続けてお面の様なモンスターが出現する。その顔は悪魔の様な風貌で、ケタケタと不気味な笑い声をあげる。
「レベル5の『トリッキー』にレベル1の『スーパイ』をチューニング」
二体のモンスターが星の光と輪の光となり、同調の閃光を走らせる。
「闇に月満ちる時、魔の囁きが聴こえ出す。死へと誘え。シンクロ召喚! レベル6、『月影龍クイラ』!」
現れたのは、顔が浮かんだ月。そして先程の『インティ』と同じく次々に四本首の竜が現れる。その色は青で、赤だった『インティ』とは対照的だ。
「バトルに行きたいけどその前に、魔法カード『マジック・プランター』を発動。フィールドに残った『リミット・リバース』を墓地に送ってデッキからカードを二枚ドロー。これで手札補充も完了、と。じゃ今度こそバトル行くよ。『月影龍クイラ』で『ブラック・マジシャン』に攻撃」
二体の攻撃力は2500と互角。『クイラ』は青い光線が四本首から放たれ、それを迎え撃つ『ブラック・マジシャン』も魔力弾を四連射で放つ。二つの攻撃がぶつかり合うことで発生する衝撃波は大きなもので、二体のモンスターをも呑み込んでいった。
「月が沈めば太陽が昇る。『クイラ』の効果発動。フィールドにいるこのカードが破壊された場合、墓地から『インティ』を特殊召喚できる。再び昇って、太陽龍!」
早雲の背後が明るくなり、太陽が昇っていく。しかしその太陽は四つの首を持つ竜としての顔も持つ。
「バトルフェイズはまだ続行中だから、『インティ』で『ペーテン』を攻撃!」
『インティ』の放った閃光が有無を言わさずに『ペーテン』を破壊していく。
「『ペーテン』の効果発動! 除外してデッキから三体目を守備表示で特殊召喚!」
『ペーテン』の断末魔が聞こえる中、刹那は新たな『ペーテン』を呼び出す。出現した『ペーテン』は何事もなかったかの様に舌をベロベロと出して早雲を挑発する。
「カードを二枚セットしてターンエンド――」
「その時に永続罠、『永遠の魂』を発動するぜ。その効果でデッキから『黒・魔・導』を手札に加えさせてもらう」
「う、嫌な事するね……改めてターンエンドだよ」
「転んでもたたじゃ起きないのは、こっちも一緒ってことだな。オレのターン!」
ニヤリと笑ってみせながら、刹那はカードをドローする。
「まずは『永遠の魂』の効果発動。墓地から『ブラック・マジシャン』を守備表示で特殊召喚するぜ」
刹那のフィールドに巨大な石板が出現し、黒き魔術師のレリーフが浮かんでいる。その石板が輝きを放つと、黒き魔術師が飛び出しフィールドに降り立ち、片膝をつく。
「そして『黒・魔・導』発動だ。『ブラック・マジシャン』がいる時、相手フィールドの魔法、罠カードを全て破壊する」
『ブラック・マジシャン』が片膝をついた体勢のまま、杖を振りかざし魔法の刃で早雲のリバースカード、『デストラクト・ポーション』と『最終突撃命令』を破壊する。
「これ以上、何かできる訳でもねぇしな。ターンエンドだ」
ちらりと観戦組の表情を伺ってみると、三人とも訝し気な顔になっていた。
「じゃ、私のターンだね。ん、これはこれは。魔法カード、『地割れ』を発動。『ペーテン』を破壊するよ」
『ペーテン』がいる地面に一瞬でひびが入り、割れていく。『ペーテン』は呆気に取られたまま、落下していく。
「そして『アポカテクイル』を召喚」
現れたのは、古代に伝わる雷の神の化身。奇妙な踊りを見せている。
「『インティ』で『ブラック・マジシャン』を攻撃」
『インティ』の放つ光線を『ブラック・マジシャン』が杖でガードするが、杖はあっさりと真っ二つになり、『ブラック・マジシャン』を貫いていく。
「『アポカテクイル』でダイレクトアタック」
続いて『アポカテクイル』が踊りを激しくすると、天から雷が飛来して刹那を射抜こうとする。
「く、『永遠の魂』の効果発動! 墓地から『ブラック・マジシャン』を特殊召喚!」
石板が再度光り輝くと、墓地から『ブラック・マジシャン』が蘇り、刹那を守る盾となる。
「うー、しつこいね。バトルは終了してターンエンドだよ」
「オレのターン、ドロー!」
ドローしたカードを見て、刹那は目を見開いた。そのカードは早雲から渡された『ティマイオスの眼』のカード。しかし、渡された際は良く見ていなかったがカードテキストは何やら古代文字が描かれている様だった。
「なあ早雲。今『ティマイオスの眼』が来たんだけどよ、こいつの効果って何なんだ? 変な文字がテキストに書いてあるから読めねえんだけど」
持ち出した本人なら知っていると思い、尋ねてみたのだが。
「……私にも分からないんだよね、それ」
本人は舌をぺろっと出してごまかそうとしていた。刹那は体の力が抜けそうになる。
「って、お前まさか知らないで持ち出したのか!?」
「えーと、伝説の竜のカードの一枚で他にもう二枚別のカードがあって、揃うと凄い力を発揮するって言うのは知ってたんだけど、カードそのものの効果とかは……」
「おいおい……」
がっくりとうなだれる刹那。これでは意味がないではないか。
「で、でも使いこなせる人間にはそのカードの力が分かるって父さまが言っていたから、そうじゃないとなると……」
早雲があれこれ言い訳しているのを聞いていると、急に『ティマイオス』のカードが光を放った。
「っ!?」
「きゃあ!?」
「な、何よこれ!?」
「これは……」
刹那はその眩しさに思わずカードを落としてしまう。舞やミラ、メイレンも目を細める。暫くすると光が収まり、刹那はカードを拾い上げる。
「……! カードのテキストが、日本語に……?」
なんと、カードのテキストが書き換わったかのように古代文字から日本語に変化していた。普通ではあり得ない事に刹那は混乱しそうになる。
(何だかよくわかんねぇけど、頭の中で誰かが言っている。こいつを使えって。――なら)
「オレはフィールドの『ブラック・マジシャン』を対象として、魔法カード、『ティマイオスの眼』を発動! 選択したブラック・マジシャンモンスターを融合素材として墓地に送り、そのカードを融合素材とする融合モンスターをエクストラデッキから融合召喚する!」
巨大な緑色の竜が出現し、その眼が輝きを放つ。すると刹那の頭上に空間の歪みが発生し、『ブラック・マジシャン』がそこに飛び込む。すると歪みから強い輝きが放たれ、そこから一つの影が飛び出した。
「融合召喚! 『超魔導剣士―ブラック・パラディン』!」
現れたのは、剣と杖が合わさったような武器を携える魔術と剣術を操る魔導剣士。その顔は『ブラック・マジシャン』に酷似しており、より目つきが鋭くなっている。
攻撃力は2900と刹那が呼び出せるモンスターの中では最大の攻撃力を誇り、奥の手として使うモンスターだ。
「『ブラック・パラディン』の攻撃力はフィールド、墓地にいるドラゴン族モンスター一体につき500ポイントアップする。今は早雲の『インティ』と『クイラ』がいるから1000アップして3900だ」
『ブラック・パラディン』がエネルギーを吸収してその力を増幅させる。これで『インティ』の攻撃力を超えた。
「まだだぜ。ライフを1000払い、魔法カード『拡散する波動』を発動!レベル7以上の魔法使い族モンスターを指定し、そのモンスター外の攻撃をこのターン封じる代わりに、選択したモンスターは相手モンスター全てに攻撃できる。当然、『ブラック・パラディン』を選択だ。行くぜ! 『ブラック・パラディン』で『インティ』を攻撃!」
『ブラック・パラディン』が武器を振りかざすと、魔法刃が炸裂する。『インティ』も閃光を放って迎え撃つが、『ブラック・パラディン』は跳躍する事でそれを回避。魔法刃は『インティ』に命中すると、その体躯を二つに分けた。
「『インティ』の効果はつ……」
「この攻撃で破壊された相手モンスターは、効果を発動できず無効にされる!」
「っ!?」
「次! 『アポカテクイル』に攻撃だ!」
そして今度は『アポカテクイル』に狙いを定める。『アポカテクイル』は逃げ回るが、逃れられずに餌食となる。
「うっし、ターンエンドだ!」
刹那:LP8000→7000
手札:0枚
早雲:LP5500→4600→2500
手札:0枚
「私のターン……」
カードをドローする早雲。しかし次の瞬間、デッキの上に手を置いた。
「サレンダーだよ。いいかな?」
「は? あ、ああ」
最後は呆気なかったが、これで刹那の勝利となった。ソリッドビジョンが消滅すると、刹那は『ティマイオスの眼』のカードを取り出す。
「おめでとう。君は『ティマイオスの眼』の使い手に選ばれたんだよ」
「そう、だけどよ。なんか訳わかんねえな。色々と」
「何が?」
「何が、って。カードが急に光ったこともそうだしテキストが書き換わったこともそうだし」
「うーん、私もあんな風になるとは思わなかったねー」
「それより、お前本気出してなかったろ?」
刹那がジロリと見ると、早雲は舌を少し出しておどける。
「ばれた?」
「何となくだけど、途中からな」
「まあ、私からすればそのカードを使える人かどうか見定めるためのデュエルだったからねー。勝敗はどうでもいいんだ」
「どんなカードかも分かってなかったのに、か?」
「う、それを言われると……」
そんな風に話していると、舞やミラ、メイレンもやってくる。
「はいはい、早雲を苛めるのはそこまでにしときなさい」
「早雲、次は私とデュエルよ」
「お二人とも、お疲れさまでした」
ん、と軽く答えると刹那はディスクからカードを抜き取る。デッキをケースに入れ、エクストラデッキのカードを入れようとした時。
「こいつ、は……」
「どうしたの?」
思わず目を見開く。舞が覗き込んでくると、彼女もまた目を丸くした。
「『
「ああ。けど、融合素材は『ブラック・マジシャン』になっている。まさか」
エクストラデッキを拡げてみると、もう一枚、入れた覚えのないカードがあった。それは『ブラック・マジシャン・ガール』を融合素材にする『竜騎士ブラック・マジシャン・ガール』。それが意味するのは。
「『ティマイオス』がカードとして目覚めた時、それらを創造した……?」
「ますますファンタジーの世界ね。ちゃんと使えるの?」
メイレンが唇に指を当てて考察し、ミラが訝し気にそのカードを覗く。
「でも『ティマイオスの眼』が使えた以上、それらも使えるでしょうね」
舞がそう結論づける。刹那もそれに納得する。
「そう、だな。……早雲」
「ん?」
「オレがやるべき事。つまりキングダムの連中から『ティマイオスの眼』を奪われないようにしろ、って事だよな?」
「そういう事だね。残りの二枚は父さま達の手中にあるからどうしようもないけど、そのカードさえ無ければ父さま達は大きく動けないはず」
そういう事なら話は早い。それに父の死の真相に近づけるチャンスなのだ。これを逃すわけにはいかない。
刹那は『ティマイオスの眼』のカードを掲げながら、このカードを、そして早雲を守る決意を固めた。
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その頃。何処にあるかも分からないような場所で、一人の男が豪奢な椅子に座って肘をついていた。その椅子は玉座とも言える装飾の数々が彩られており、男の存在感を際立たせる。
男は五十代前半から半ば辺りだろうか。初老の男性特有の渋みのある顔立ちをしており、彼がこれまで歩んできた人生の深みを感じさせる。
そんな彼の前に一つの影が現れる。最初から気づいていたのか、男は身動きもせずに口を開く。
「早雲の行方は掴めたのか」
「申し訳ありません、国王陛下。ですがつい先程、『ティマイオス』の力の反応がありました。今はその地点を特定している最中です」
「そうか。『クリティウス』と『ヘルモス』の適合者はどうだ」
「そちらもまだ……我らが掌握した施設にいる子供達も適合せず、三銃士も姫様を探しながらやっているそうですが」
その報告に国王と呼ばれた男は特に表情を変えることなく、口を開く。
「『ティマイオス』の反応があったという事は早雲が適合者を見つけ出した証。早雲と適合者をここに連れてくるのを最優先事項に切り替えろ」
「かしこまりました」
影が一礼すると、その場から消えるようにして下がっていく。男は傍に置いてあったテーブルに手を伸ばし、ワイングラスを手に取る。
「早雲……我が娘だろうと関係無い。この国から逃げ出すことがどういう事なのか、その身を持って思い知るがいい」
ワイングラスに注がれていた赤ワインを飲み干すと、男はパッとグラスから手を放した。
グラスは垂直に落下し、大きな音を立ててその破片を飛び散らせた。