シーベル家の玄関で始まったミラとオルガのデュエル。しかし、場所が窮屈過ぎなのは否めない。勢いで始めたはいいものの、息苦しさすら覚える。
「んー、ここは狭すぎますねェ。それでは」
オルガがデュエルディスクのボタンを押すと、辺りの景色が一変した。
あるはずの無い空が見え、周囲は石垣に囲まれた広大なフィールドに変化した。空は薄暗く、辺りには蝋燭が何本も灯されている。ミラとメイレンは戸惑いを隠せずに周囲を見渡す。
「これは、古代の闘技場、ですか……?」
「ご安心をォ。別に異世界に来たとか突拍子もない話ではございませんのでェ。ソリッドビジョンを応用しただけのデュエルフィールドですからァ。もっとも、他の人物がこのフィールドに介入する事はできませんけどねェ」
ニタニタと嫌な笑みを浮かべるオルガ。ミラはその傍らに囚われている弟、クリフに視線を移す。弟は恐怖で震えている。そんなものを与える様な奴を許す訳にはいかない。必ずクリフを取り戻すと誓うと、ミラは視線をオルガに戻した。
ミラ:LP8000
オルガ:LP8000
「先攻は私よ。手札から速攻魔法、『手札断殺』を発動。互いのプレイヤーは手札からカードを二枚捨てて、デッキから二枚ドローする。私が捨てるのは『フォトン・チャージマン』と儀式魔法、『光子竜降臨』」
「それではァ、ワタクシは『ギミック・パペット―ネクロ・ドール』と『ギミック・パペット―ナイトメア』を捨てることにしますよォ」
ギミック・パペット。対戦した事の無いカテゴリーだが、恐れる必要は無い。あくまで自分のデュエルに徹するだけだ。二枚のカードをデッキから補充した後、ミラは墓地から二枚のカードを取り出した。
「墓地に落とした『光子竜降臨』の効果発動。このカードを除外して墓地からレベル4になるように墓地のモンスターを除外し、手札から『
現れたのは、黒ずんだ色の小さなドラゴンに乗った白銀の鎧を纏いし騎士。ドラゴンが空中を飛び回るのを制しながら、ミラの許へ降り立つ。
「『光子竜の聖騎士』の効果発動。このカードをリリースすることで、私のエースを手札、デッキから特殊召喚する!」
「んん~……?」
竜に乗っている騎士が手にしている槍を空高く放りなげた後、光の粒子となって消滅する。直後、その粒子が空中で集まって新たなモンスターの姿になる。
「闇に輝く銀河よ。希望の光となりて我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れなさい、『
現れたのは、聖騎士が乗っていた黒ずんだドラゴンが巨大化した様なドラゴン。ミラの魂と言えるモンスターの登場に、弦に囚われているクリフの表情も明るくなる。
「おねえちゃんの『銀河眼』だー!」
「ホホホ、これが貴女のエースモンスターですかァ。随分と神々しい姿ですねェ」
「カードを一枚セットして、ターンエンドよ」
ミラの足元に伏せられたカードのビジョンが出現し、これでミラのターンは終了する。
「ではワタクシのターンですねェ、ドロー。ん~、先程貴女が『手札断殺』をやってくれたおかげで、こちらもスムーズにデュエルができますよォ?」
「なんですって?」
「ワタクシは墓地の『ギミック・パペット―ネクロ・ドール』の効果を発動でェす。このカード以外の墓地にあるギミック・パペットモンスターを除外することで、このカードを特殊召喚しますよォ? もォちろん、除外対象は『ギミック・パペット―ナイトメア』ですけどねェ?」
ディスクから飛び出してきたカードをキャッチすると、オルガのフィールドに人間大サイズの棺が地中から出現する。その棺が歪な音を立てながら開くと、中から頭に包帯を巻きつけた金髪、青い目の不気味な人形がむくりと起き上がる。その様子を間近で見ていたクリフは泣きそうな顔になっていた。
「あぅぅ……おねえちゃん、怖い……」
「クリフ! あんた、クリフになんてものを見せてるのよ!?」
「ん~~、その泣きそうな表情、いいですねェ、そそられますよォ?」
「な、何言ってるのよ!?」
愉悦に満ち溢れた声にミラの背筋が凍りそうになるが、何とか平静を装う。
「おっとォ、まだワタクシのターンでしたねェ。貴女のフィールドにモンスターが存在し、ワタクシのフィールドにギミック・パペットが存在する時、『ギミック・パペット―マグネ・ドール』を手札から特殊召喚できますゥ」
続けて現れたのは、磁石でできた木偶の様な人形。オルガのフィールドに現れた二体のモンスターは共にレベル8であるものの、攻撃力は『マグネ・ドール』が1000、『ネクロ・ドール』に至っては0である。そうなると、オルガが狙っているのは一つしかない。
「エクシーズ召喚、ね」
「エクセレント! その通りでェす! ワタクシはレベル8の『ネクロ・ドール』と『マグネ・ドール』でオーバーレイ!」
二体のモンスターが黒い光となって時空間に吸収されていく。光を吸収した空間は収縮したかと思うと、爆発を起こした。
「二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築ゥ、エクシーズ召喚! 運命の糸を操る地獄からの使者、漆黒の闇の中より愉しき舞台の幕を上げなさァい! おいでなさい、『Nо.15ギミック・パペット―ジャイアントキラー』!」
現れたのは、漆黒に塗られた巨大な人形。その表情は無機質で体中に糸を括られている。
人形の上に乗っている人物がギアを動かすと、体内にある部品が動き出して人形自体も動く。ゆったりとした動作ではあるものの、表情が無いのでより不気味さが増す。
「あぅ……」
クリフが涙目になりながらそのモンスターを見上げる。しかし。
「どんなモンスターを出すかと思えば、攻撃力1500のモンスターなんてね」
その攻撃力は僅か1500。数値だけを見れば『銀河眼』の敵ではない。数値だけを見れば、の話だが。
「それではそれではァ、『ジャイアントキラー』がお見せする素敵なショータイムの始まりですよォ! 『ジャイアントキラー』の効果発動ォ! このカードのオーバーレイ・ユニットを一つ取り除きィ、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター一体を選択ゥ。そしてそのモンスターを破壊しますよォ!」
「なっ……!」
「もォちろん! 貴女の大事な『銀河眼の光子竜』を破壊させてもらいますよォ!? 『ネクロ・ドール』を取り除き……イッツ・ショータァイム!」
直後、『ジャイアントキラー』の両腕がゆっくりと上がり、指先から無数の糸が伸びる。その糸は『銀河眼の光子竜』を雁字搦めにして、オルガのフィールドへと引きずり込まれる。
「『銀河眼』!」
すると『ジャイアントキラー』の胸の部分が開き、中からローラーが出現する。ローラーは勢いよく回転しており、『銀河眼』は『ジャイアントキラー』の体内に入れられた。
もがき苦しむ声を上げながら、『銀河眼』の体躯がバラバラになっていく。少しずつ、少しずつ細切れにされていくその無残な様に、メイレンは顔を覆い隠す。ミラも目を見開いたままこの光景が現実に起こっているものなのか、認識できずにいた。そしてクリフは。
「う、うあーーーーーん! おねえちゃんの『銀河眼』がーーーーーー!」
その泣き声に我に返ったミラ。しかし気づいた時には、『銀河眼』の姿は何処にも無かった。見せられた光景、そしてクリフの泣く声。それがミラの怒りの導火線に火を付けた。
「お……お前ええええええ!」
「んー、その怒った顔、ゾクゾクしますねェ。悔しいでしょうねェ、貴女が最も愛するモンスターが、貴女の最愛の弟の目の前で、バラバラにされちゃったんですからァ」
「っ……! お前は必ず地獄に叩き落す! 今更命乞いしても無駄よ!」
「お、お嬢様、落ち着いて」
「うるさいうるさいうるさい! あんたは黙っててメイ!」
「っ!」
燃え上がった憤怒の炎は、もう収まらない。あの忌々しい奴を葬り去るまで。いや、葬っても収まらないかもしれない。
「んっふー……美少女が怒り、怯え、小さい子供が泣き叫ぶ……極上の空間ですねェ。しかしお忘れですかァ? 今はワタクシのターンなんですよォ? 『ジャイアントキラー』でダイレクトアタックゥ!」
再び『ジャイアントキラー』の右腕が動いたかと思うと、巨大な鞭をミラ目がけて振りぬいた。
「あぐうううう!」
全身を激しい痛みが駆け巡り、ミラはその場にしゃがみ込む。
「おねえちゃあん!」
「ホホホ……美少女の悲鳴もまたいいものですねェ! もっと、もっと聞かせてくださいよォ、甘美な叫びをォ!」
オルガが甲高い狂乱じみた声で叫ぶ中、ミラはゆっくりと立ち上がり、燃え盛る怒気に満ちた表情を見せる。
「ホホホ……それでは、これにて第一幕は終幕ですよォ。カードを一枚セットして、ターンエンドとしましょうかァ」
ミラ:LP8000→6500
手札:2枚
オルガ:LP8000
手札:4枚
「私のターン!」
烈火の如く噴き出した感情は止まらない。ミラはドローカードを確認すると、すぐにそのカードをディスクに叩きつけた。
「手札の光属性モンスター、『ギャラクシー・ドラグーン』を墓地に送る事で、手札から『
現れたのは、白銀の鎧を纏い、メリケンサックを拳に装着した緑色に光る眼の戦士。シャドーボクシングの構えを見せてオルガを威嚇する。
「更に私のフィールドにフォトン、ギャラクシーモンスターが存在する場合、手札から『銀河騎士』をリリース無しで召喚できる! そしてこの方法で召喚した場合、攻撃力を1000ポイントダウンさせる代わりに墓地から『銀河眼の光子竜』を守備表示で特殊召喚できるわ! 光の化身、再び降臨! 『銀河眼の光子竜』!」
そして剣を手にした白銀の騎士が現れ、続けて『光子竜』が姿を現す。『銀河騎士』は元々の攻撃力は2800だが、妥協召喚したため1800にダウンしている。
「んー、貴女もエクシーズ召喚ですかァ? それもランク8のォ」
「当り前よ! 私はレベル8の『銀河眼の光子竜』と『銀河騎士』でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
二体のモンスターが光り輝く粒子となり、時空間に吸い込まれていく。
「宇宙を貫く雄叫びよ、遥かなる時を遡り銀河の源より蘇れ! 時空の化身、ここに顕現! 現れなさい、『Nо.107
現れたのは、黒く鋭い攻撃的なフォルムが特徴的なドラゴン。その攻撃力は『光子竜』と並び、ミラのもう一体のエースモンスターである。
「これだけじゃ終わらないわよ! 魔法カード、『RUM―アージェント・カオス・フォース』発動! このカードは私のランク5以上のエクシーズモンスターを対象にランクが一つ上のCNоをエクシーズ召喚扱いで特殊召喚する! 私は『銀河眼の時空竜』でオーバーレイ・ネットワークを再構築。カオス・エクシーズ・チェンジ!」
『時空竜』が竜の姿を象った光となって異空間に吸い込まれていき、空間が爆ぜる。
「逆巻く銀河を貫いて、時の生ずる前より蘇れ。永遠を超える竜の星! 顕現せよ、私のもう一つの魂! 『CNо.107
現れたのは、金色に輝く三つ首の龍。巨大な羽根が金色に光り輝くと、龍が大きな咆哮を上げる。
「『
「ならば、その前に発動すればいいだけの話ですよねェ? チェーンして『超時空』を対象に永続罠、『デモンズ・チェーン』を発動しますよォ? これにより『超時空』の効果は無効になり、攻撃もできませんよォ?」
突如としてオルガのフィールドから飛び出してきた黒い鎖が『超時空』を絡めとり、その動きを封じる。これによって『超時空』の効果は発動できずに終わった。
「く、ぐぅ……!」
「おやおやァ? 随分とお怒りのようですねェ? この後はどうするんですかァ?」
「……ターン、エンドよっ!」
吐き捨てる様にそう告げるしか、できなかった。地団駄を踏みたくなる気持ちだが、それをやったところでミラのターンが戻ってくる訳でもない。今はただ、オルガのターンが過ぎるのを待つだけだ。
「それではワタクシのターンですねェ。『ジャイアントキラー』を対象に手札から魔法カード、『オーバーレイ・リジェネレート』を発動しますよォ? このカードを『ジャイアントキラー』のオーバーレイ・ユニットにしまァす」
魔法カードから光が伸び、それが『ジャイアントキラー』の力になる。その事に対してミラは構える。が、一つ腑に落ちないのも事実だった。
「んー、どうにも分からない、って顔をしていますねェ。何故私がここでオーバーレイ・ユニットを増やしたのかァ。その答えは単純明快ですよォ。『ジャイアントキラー』の効果は一ターンに二度使えるのですからァ」
「なっ!?」
「それでは再び楽しいショーの第二幕と行きましょうかァ! 『オーバーレイ・リジェネレート』を取り除き、『ジャイアントキラー』の効果発動! 『銀河戦士』を破壊しますよォ!?」
『ジャイアントキラー』の指先から再び糸が伸びてきて『銀河戦士』を捕らえて自らの許へ引き込む。
胸部のローラーが勢いよく回転し、その中へと『銀河戦士』は吸い込まれていく。
呻き、苦痛、悲鳴。様々な声を上げながら『銀河戦士』の四肢は離れていく。その様子をクリフとメイレンは直視できなかった。
ミラは辛うじて見ていたが、これだけで終わらないのである。
「残念ながらエクシーズでは無いので、ダメージはありませんけどねェ。そして残った『オーバーレイ・ユニットを使い、もう一度『ジャイアントキラー』の効果発動ですゥ』
今度は『超銀河眼の時空龍』が捕らえられ、重そうながらも確実に引きずられていく。
地獄への入り口は少しずつ、ゆっくりとこの場にいる全員に見せつけるかのように『超銀河眼の時空龍』の巨躯をバラバラにしていく。ミラは自らのモンスターで立て続けにこの光景に見せられる事に震えていた。
「そぉしてェ……『超銀河眼の時空龍』はエクシーズモンスター。その攻撃力分、4500のダメージを受けてもらいますよォ!?」
バラバラに分解した後、取り込んだエネルギーは閃光として放ってミラに襲い掛かる。その直撃からは逃れられず、ミラの体に言葉に出来ない程の激痛が走り抜けた。
「ああああああああああっ!?」
「おねえちゃあん!」
「お嬢様っ!」
一瞬、目の前が暗くなった。ミラは膝を折ってその場に崩れ落ちる。
「ん~~~~、なんという極上の叫び! まるで舌の上を踊るワインのハーモニー! ですがまだ終わりませんよォ? 『ジャイアントキラー』でダイレクトアタックゥ!」
これだけでは終わらなかった。『ジャイアントキラー』が振り下ろした鞭が、ミラの全身を斬るかのように振り下ろされた。
「あっ、がっ……!」
もはや、まともな声すら上げる事すら出来ない。それでも、両手を付いて何とか耐える。ここで落ちる訳には、いかない。
「ほほう、普通ならここでダウンしているものですけど、粘りますねェ。では、カードを一枚セットして、ターンエンドですよォ?」
ミラ:LP6500→2000→500
手札:0枚
オルガ:LP8000
手札:3枚
「そんな、お嬢様がここまで手も足も出ないなんて……」
信じられない、という表情でメイレンが呟く。ミラのライフは残り500。この時点で手札も無い。最初のターンにセットしたリバースカードも発動できない。対してオルガはダメージを受けていない上に手札もまだ残っている。状況としては絶望的だ。
それでも。
「おねえちゃーん! 負けないでー!」
「……クリフ……」
弟が、目に涙を溜めながらも必死になって叫んでいる。それだけでも、ミラにとっては戦う力になり、理由にもなる。
「クリフ……!」
グッと握り拳を作りながら、ミラは立ち上がる。追い詰められたこの状況、ここからがミラ・シーベルの真骨頂だ。
ニヤニヤと張り付く気味の悪い笑みを浮かべるオルガを睨みつけながら、ミラはデッキのカードに手を掛けた――。