クリフは体の自由を奪われながら、目の前の光景を見せつけられている。
大好きな姉が不気味なモンスターに痛めつけられ、苦しむ様を。正直に言って、目を逸らしたい。
姉は強くてかっこよくて綺麗で、憧れの存在だ。自分が危ない目に遭った時はいつも助けてくれる。
デュエルを教わる時だけ怖いけど、それ以外ではすぐに甘えさせてくれるし、抱きしめられると凄く安心する。
その姉が今、窮地に陥っている。クリフから見ても状況が絶望的なのは分かった。
でも、友達の観月優希がいつも言っている言葉をクリフは思い出す。
『ヒーローは、どんなピンチになっても絶対に負けないんだよっ』
クリフにとって、姉はヒーローだ。そのヒーローが負けるはずがない。だからクリフは泣きそうになりながらも姉に声援を送る。絶対に姉が勝つと信じて。
ミラ:LP500
手札:0枚
場:伏せ1枚
オルガ:LP8000
手札:3枚
場:Nо.15ギミック・パペット―ジャイアントキラー、伏せ1枚
「私のターン!」
痛みが走る自らの体に気合いを入れながら、ミラはカードをドローする。その様子をニヤニヤと眺めているオルガを見ると寒気がするが、今ドローしたカードを確認すると、すぐディスクにセットする。
「魔法カード、『貪欲な壺』発動。墓地から『光子竜の聖騎士』、『銀河騎士』、『銀河戦士』、『ギャラクシー・ドラグーン』をデッキ、『銀河眼の時空竜』をエクストラデッキに戻してカードを二枚ドローするわ」
希望を手にするために、ミラはカードを求める。ドローしたカードをオルガがジロジロと見ているのが気になったが。
(ホホホ。さあ、『ティマイオス』のカードは引き当てられたのでしょうかねェ……)
「『フォトン・クラッシャー』を召喚!」
現れたのは、打撃で振り回すための武器を手にした、人型のモンスター。その体は光の粒子で構成されている。その攻撃力は2000と、攻撃力1500の『ジャイアントキラー』を上回る。
「んん?」
「『フォトン・クラッシャー』で『ジャイアントキラー』を攻撃!」
何やら、オルガの表情が訝し気なものに変わったが気にしない。『フォトン・クラッシャー』は『ジャイアントキラー』の巨体目がけて飛び掛かり、脳天に渾身の力を込めた一撃を見舞う。
『ジャイアントキラー』はまるで効いていないかのように動かなかったが、やがて額にヒビが入り、少しずつ広がっていく。一度表面化した綻びは瞬く間に人形の全身を蝕んでいき、遂に人形の巨体が崩壊し、粉々になって崩れ去った。
「ダメージステップ終了時、このモンスターは守備表示になる。そしてカードを一枚セットして、ターンエンドにするわ」
ミラ:LP500
手札:0枚
オルガ:LP8000→7500
手札:3枚
「ふぅむ、あのカードはまだ来ていない様ですねェ……」
これによってようやく相手モンスター攻略しつつダメージも入れる事が出来たが、その数値は500。オルガは何とも無い様な顔で呟いている。
「あのカード? 何のことよ?」
「いえいえ、こちらの話なのでお気になさらずゥ」
そう言ってオルガははぐらかす。しかし、ここでミラは考える。そもそも奴は何故ここに来たのか? バザンの敵を討ちに来たという風には見えない。そうなると考えられるのは。
(まさか、『ティマイオスの眼』……?)
そう考えると、先程の発言は失言だったかもしれない。オルガはスルーしていたが、恐らく彼はミラが『ティマイオス』を持っているという前提でここに来たと考えられる。
とは言え、ここで刹那が使ったのを何故向こうが知る事が出来るのかという疑問は残るが、今はそれに関しては知りようがない。ミラは舌打ちしたくなる気持ちを抑え、相手が自らのターンを始めるのを待つ。
「では、ワタクシのターンですねェ。墓地の『ネクロ・ドール』の効果を発動しまァす。墓地の『マグネ・ドール』を除外して特殊召喚ですゥ」
再び棺が出現し、その中から金髪の不気味な人形がむくりと起き上がる。クリフはそれを見ない様に目をぎゅっと瞑っていた。
「更に手札から『ギミック・パペット―ギア・チェンジャー』を召喚しますゥ」
現れたのは、黒いギアを頭とした細身の青い人形。やせ細っている様にも見えるのでやはり気味が悪い。
「『ギア・チェンジャー』の効果発動でェす。このカード以外のギミック・パペットモンスターを選択し、このモンスターのレベルを選択したモンスターと同じレベルにしまァす。『ネクロ・ドール』はレベル8。よって『ギア・チェンジャー』のレベルは8になりますゥ」
「……またエクシーズ狙いって訳ね」
「その通りィ! ワタクシはレベル8の『ネクロ・ドール』と『ギア・チェンジャー』でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築ゥ。エクシーズ召喚!」
二体のモンスターが漆黒の光となって異空間に吸い込まれ、爆発が起きる。
「神のみぞ操りし運命の糸よ。穢れた愚民共に今こそ天上の裁きを与えなさァい! 『Nо.40ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス』!」
現れたのは、片翼の天使を思わせる風貌の人形。しかしその顔は青に近い髪色と相まって惨悽なものとなっており、刃の部分が広い剣を携えている。
その攻撃力は3000と、『銀河眼の光子竜』と互角だ。
「では、バトルと行きますよォ。『ヘブンズ・ストリングス』で『フォトン・クラッシャー』を攻撃しますゥ」
『ヘブンズ・ストリングス』が守りの姿勢を取っている『フォトン・クラッシャー』に剣を振りかぶる。このまま通す訳にはいかない。ミラは伏せているカードを発動させる。最初のターンからセットされているにも関わらず、ずっと発動できなかったカードを。
「そう簡単には通さないわよ! 罠カード、『光子化』を発動! この効果で相手モンスターの攻撃を無効にし、私の光属性モンスターの攻撃力を次の私のターンのターン終了時まで攻撃したモンスターの攻撃力分アップさせる!」
これにより、『フォトン・クラッシャー』の攻撃力は一気に5000にまで跳ね上がった。これで突破口を開こうと考えていたのだが。
「それならば、今のうちに叩いておけばいいだけの話ですよねェ? 罠カード、『エクシーズ・リボーン』を発動でェす。 墓地からエクシーズモンスターを一体特殊召喚し、このカードをオーバーレイ・ユニットにしますゥ。『ジャイアントキラー』を復活させますよォ?」
再度出現する、巨大な操り人形。クリフは先程の恐怖からか、震えながら目を背けていた。
「『ジャイアントキラー』で『フォトン・クラッシャー』を攻撃ですよォ?」
『ジャイアントキラー』がその大ぶりの鞭を振り回し、『フォトン・クラッシャー』を攻め立てる。『フォトン・クラッシャー』はあっさりと吹き飛ばされ、消滅する。
「メインフェイズ2に入り、『ヘブンズ・ストリングス』の効果発動でェす。オーバーレイ・ユニットを一つ使い、このカード以外の全てのモンスターにストリングスカウンターを一つ乗せますゥ。するとそのモンスターはどうなるでしょうかァ? 貴女のターン終了時に爆発しィ……一体につき500ポイントのダメージを与えるのですよォ」
「そんなっ……それじゃ、お嬢様が『ジャイアントキラー』か『ヘブンズ・ストリングス』を破壊しないと」
メイレンが青ざめた表情になる。
「んゥふふふゥ……文字通り、貴女にとっての死刑宣告となるのですよォ? カードを一枚セットして、ターンエンドですゥ」
しかし、ミラはニヤリと笑った。
「ん~?」
「なんで、そんな顔ができるかって? 答えはこれよ! エンドフェイズに永続罠、『リビングデッドの呼び声』発動! もう一度来なさい、『超時空』!」
ミラのフィールドに現れる、三つ首の金龍。その姿を見たオルガは苦々しい表情で改めてターンを明け渡した。
Nо.15ギミック・パペット―ジャイアントキラー
ストリングスカウンター:1個
「私の、ターン!」
『超時空』を取り戻したとはいえ、その存在自体は非常に脆い。何か耐性がある訳でもないし、効果も使えない。除去された時点でまたもミラは無防備になる。
ドローしたカードを見て、ミラはニヤリと笑った。まだ勝負の女神は自分を見捨てていない。
「魔法カード、『光の護封剣』を発動するわ。これであんたは3ターン攻撃できない。『超時空』で『ジャイアントキラー』を攻撃よ!」
『超時空』が三つの咢を開き、金色の閃光を巨大な人形に浴びせる。人形は無表情のままバラバラになっていき、消滅した。
「ぬ、ぐうううっ……やってくれますねェ……」
「やったー! おねえちゃんの反撃だー!」
クリフが喜んでいるのが見え、ミラは少しだけホッとする。
「これで『ヘブンズ・ストリングス』の効果は無意味になったわ。ターンエンドよ」
ミラ:LP500
手札:0枚
オルガ:LP7500→4500
手札:2枚
「ワタクシのターンですよォ……。ふゥむ、ここは『ヘブンズ・ストリングス』を守備表示に変更しましょうかねェ。そして永続魔法、『機甲部隊の最前線』を発動してターンエンドですよォ」
光の護封剣:残り2ターン
「私のターン!」
ドローしたカードを確認するが、ミラは顔をしかめる。必要なカードは一枚だけでは無いのでこれで揃ったら都合が良すぎるのだが。
「『超時空』で『ヘブンズ・ストリングス』を攻撃よ」
『超時空』の放つ金色の閃光が『ヘブンズ・ストリングス』を吹き飛ばすが、オルガは口元に笑みを浮かべていた。
「『機甲部隊の最前線』の効果を発動しますよォ? 戦闘で機械族モンスターが破壊された時、デッキから破壊されたモンスターの攻撃力以下の同属性モンスターを特殊召喚しますゥ。『ギミック・パペット―シャドーフィーラー』を特殊召喚しますよォ」
現れたのは、足が四本生えた様な気色悪いモンスター。ミラは顔を歪めながらも自らのターンを終えた。
「ワタクシのターンですよォ……まずは速攻魔法、『ダブル・サイクロン』を発動しましょうかァ。ワタクシの『機甲部隊の最前線』と貴女の『光の護封剣』を破壊しますよォ?」
フィールドに巻き起こる二つの竜巻が、オルガとミラのカードをそれぞれ吹き飛ばす。
「更にリバースカード、『異次元からの埋葬』を発動しまァす。除外されている『マグネ・ドール』と『ナイトメア』を墓地に戻しますよォ。そして墓地の『ネクロ・ドール』の効果を使いましょうかねェ。墓地の『ジャイアントキラー』を除外して、特殊召喚ですよォ」
何度でも出てくる棺、そしてその中から現れる薄気味悪い少女の人形。その度にクリフが怯えているのが分かるので、ミラとしては不愉快だ。
それにしても、先程のタイミングで『異次元からの埋葬』を使う必要はあったのだろうか。『ネクロ・ドール』の効果を使ったはいいが、除外しているのは『ジャイアントキラー』だ。『ネクロ・ドール』の効果のコストを確保するのに使った訳ではないのが引っ掛かる。
「そしてェ、魔法カード『ジャンク・パペット』を発動しますよォ。このカードは墓地のギミック・パペットを特殊召喚できるカードですゥ。『ギミック・パペット―ギア・チェンジャー』を特殊召喚しますよォ」
こちらも墓地からの復活となったモンスター。その効果を使い、レベル8になった。つまりオルガの狙いは三体のモンスターによるエクシーズ召喚である。
「ワタクシはレベル8のモンスター三体でオーバーレイ! エクシーズ召喚!」
三つの黒い光が時空に吸い込まれ、爆発を起こした。
「勝利の運命を司りし獅子王よ、今こそ降臨し愚民共を見下ろしなさァい! 『Nо.88ギミック・パペット―デステニー・レオ』!」
現れたのは、これまでオルガが召喚してきたモンスターとは一線を画すいで立ちだった。
剣を地面に突き刺した姿は威風堂々とし、王の風格に満ち溢れている。獅子の顔は獰猛ながらも威厳に満ちており、睨まれただけで足がすくみそうになる程の存在感を放っていた。
「これが、ワタクシの切り札ですよォ? 『デステニー・レオ』の効果発動ォ! このカードはワタクシのフィールドに魔法、罠カードが存在しない時、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことでこのカードにデステニーカウンターを一つ乗せます。この効果を使ったらバトルフェイズは行えませんが、このデステニーカウンターが三つ乗った時、ワタクシはデュエルに無条件で勝利できるのですよォ?」
その効果を使うために、『異次元からの埋葬』を前倒しで使ったということになるのだろう。しかし『デステニー・レオ』の攻撃力は3200。『超時空』の敵ではない。
「だから何よ。『超時空』で破壊すれば問題ないわ」
「んゥふふふゥ。カードを一枚セットして、ターンエンドですよォ」
不気味な笑みを顔に張り付けながら、オルガは自らのターンを終えた。『デステニー・レオ』の特殊勝利を当てにしているとは思えない。なら、あのリバースカードに何かあるのだろうか。
「……私の、ターン!」
だが、それに臆しては却ってオルガの術中に嵌る事になるかもしれない。ミラはどうするか、心の中で決めていた。
「『
手札交換となるが、このドローがミラの運命を決める。勝利の運命は自らの手で掴むしかない。ミラは勢いよくカードをドローした。
「……行けるわ。クリフ、見ててね。ギャラクシーと名の付くモンスターがいる事により、『銀河騎士』をリリース無しで召喚!」
『貪欲な壺』で戻したカードを再度引き当てた形になったが、再び現れる銀河の騎士。
「この方法で召喚したことにより、『銀河騎士』の効果発動! 攻撃力を1000ダウンさせて墓地から『銀河眼の光子竜』を守備表示で特殊召喚!」
三度出現する、ミラの魂のモンスター。もちろん、これだけでは終わらない。
「更に装備魔法、『銀河零式』を発動。墓地のフォトンかギャラクシーモンスターを一体、特殊召喚してこのカードを装備させるわ。『銀河暴竜』を特殊召喚!」
現れたのは、銀色の体躯を持つ恐竜。これでミラのフィールドにも三体のレベル8モンスターが揃った。
「行くわよ、レベル8のモンスター三体でオーバーレイ、エクシーズ召喚!」
『銀河眼の光子竜』は竜の形をした光となり、残りのモンスター達と共に異空間に吸収される。
「逆巻く銀河よ。今こそ怒涛の光となりて、その姿を現すがいい! 降臨せよ、私とクリフの魂! 『超銀河眼の光子龍』!」
現れたのは、真っ赤な体を持つ三つ首の龍。クリフから誕生日プレゼントとして貰った、彼との絆のモンスターだ。
「ボクがあげた『超銀河眼の光子龍』だー!」
クリフの喜ぶ声が聞こえ、ミラは頷く。このモンスターでオルガを粉砕してみせる。
「『超光子』の効果発動! 『銀河眼の光子竜』をエクシーズ素材としたとき、このカード以外の表側表示で存在するカードの効果を無効にする!」
『超光子』の体から波動のエネルギーが放たれ、『デステニー・レオ』と『超時空』の力の一端を奪っていく。
「これで特殊勝利は不可能になったわね。更に『超光子』の効果発動! オーバーレイ・ユニットを一つ取り除く事で、相手のエクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットを全て取り除き、取り除いた数×500ポイントこのカードの攻撃力をアップさせ、この効果で取り除いた数だけこのターンのバトルフェイズに攻撃できるわ!」
「な、なんですとォ!?」
『銀河騎士』を取り除くことで、『デステニー・レオ』のオーバーレイ・ユニットを奪い取り、吸収していく『超光子龍』。その攻撃力は5500にアップし、このターンは二回の攻撃が可能になった。
「さあ、クリフを散々怖がらせた罪の重さを思い知らせてあげる……地獄に堕ちる準備は出来ているかしら!? 『超光子』で『デステニー・レオ』に攻撃!」
『超光子龍』の三つの口からエネルギーが収束され、一気に放たれる。『デステニー・レオ』は迎撃しようと剣を構える。
「……ホホホ。地獄に、ですかァ……それに堕ちるのは、貴女の方ですよォ?」
「なんですって?」
「ダメージステップに速攻魔法を発動しまァす……『リミッター解除』をねェ!」
「っ!? しまっ……!」
発動されたそのカードに、ミラは背筋が凍りついた。
「貴女はうかつ過ぎですよォ。何故、ワタクシがあの状況でわざわざ『デステニー・レオ』を呼び、そして攻撃表示で出したのか。全てはこのためなんですよォ。『デステニー・レオ』の効果なんて、最初から囮なんですよねェ。しかし、こうも簡単に攻撃してくれるとは思いませんでしたけどォ。さあ『デステニー・レオ』、とどめを刺してしまいなさァい!」
ぺらぺらとオルガがしゃべっているが、ミラの耳には入らなかった。攻撃を止めたくても止める事はできない。リミッターを外された『デステニー・レオ』はオーラを纏った剣を振りかざし、光線を放った。その光線は『超光子龍』の放った閃光と少しの間だけぶつかり合い、やがて押し切った。
押し切られた閃光と放たれた光線が『超光子龍』に直撃する。『超光子龍』は断末魔を上げながら消滅し、その余波がミラのライフをも奪っていった。
「お嬢様あ!」
背後にいるメイレンの悲鳴が聞こえる。彼女の言う通り、自分が落ち着いていれば結果は違ったのだろうか。
「おねえちゃあああああん!」
(クリフ……ごめんね……)
――そして弟の金切り声の様な悲鳴が聞こえたのを最後に、ミラの意識はぶつりと途切れた。
超銀河眼の光子龍
ATK4500→5500
Nо.88ギミック・パペット―デステニー・レオ
ATK3200→6400
ミラ:LP500→0