空がうっすらと茜色に染まり始めた時間帯。午後の授業も終わり、終礼も済ませると刹那は荷物を片手に席を立つ。それを追いかける様にして、隣の席にいる舞も立ち上がる。目的はもちろん、放課後に集まる約束をした友人の許に行くためだ。
「おっ、お二人さんはまた一緒に帰るのか? いい夫婦ぶりだなぁ」
クラスメートの一人が茶化す様に言うと、舞の顔がみるみる内に赤く染まっていく。
「だ、だからそんなんじゃないって言ってるでしょ!?」
「そうだぞ。ったく、何を期待してるのか知らねぇけどよ」
高校に入ってから約二か月が経とうとしているが、新たなクラスメート達ともだいぶ打ち解けてきたからこその茶化しなのだろう。しかし、舞とはあくまで幼馴染という間柄でしかないので、それ以上の何かを期待されても困る。
「ほら、行くわよ刹那! ミラ達迎えに行くんだから!」
「お、おい、引っ張るなよ!」
急に前に出たかと思うと、強い力で腕を掴んで引っ張ってくる。まるでこの場からすぐに逃げたいとでも言いたげに。刹那は舞に引っ張られるがまま教室を後にする。
道中、舞が何かぶつぶつ言っているのは聞こえたが、声量が小さくて聞き取れなかった。そうこうしている内に、二人は別のクラスの入り口前に到着していた。舞が顔を覗かせると、すぐに聞き慣れた声が飛んできた。
「あ、舞と刹那来たわね。今終わったばかりだからもう少し待っててちょうだい」
舞に似た勝ち気な雰囲気の声が響く。太陽の様に輝く金色の髪と明るい空色の瞳は何処となく幼さを残した雰囲気がある。スレンダーながらスタイルは整っており、それが彼女の幼い雰囲気をカバーしている様にも見える。
彼女がミラ・シーベル。中学の時に刹那と舞の学校にやってきた転校生で、大きな家の令嬢である。
「刹那さん、舞さん、お待たせしました」
続いて透明感のある透き通った声が聞こえてきた。そちらの方を振り向くと、氷の様に輝く綺麗な青い髪と瞳を持つ、優しい雰囲気の女性が傍に立って軽くお辞儀をした。
ミラとは対照的に出るところは出て、引っ込む所は引っ込んでいる理想的なスタイルを惜しげも無く曝け出しおり、穏やかながら無自覚な色気を醸し出す。彼女が通ると、傍にいた男子が見とれてしまっていた。
「相変わらず律儀ね、メイレンは。ミラなんか絶対そんな事言わないのに」
「い、いえ。そんな事は」
舞がくすりと笑いながら言うと彼女、メイレン・マグナスは遠慮がちに首を横に振る。
メイレンはミラの専属使用人として長年ミラに仕えている存在だが、年齢が同じという事もあって主従関係というよりは仲の良い親友同士に見える。
「さ、て。私も準備終わったわ」
そこにミラも加わり、いつもの四人グループになる。それと同時に刹那に対して男子からの殺意がこもった視線が集中する。
(うぐ……)
刹那から見ても、容姿が優れている女子三人に対し男子一人。嫉妬を集めるのも無理は無かった。刹那は先程の舞と同じ様に逃げる様な形で教室から離れる。不思議そうな顔をしながら、女子三人も付いてきた。舞があ、と何かを思い出したように口を開く。
「そういえば、チビ達は先に行ったの?」
「小学校の方が早く終わるから、とっくにね。さっきクリフに電話して、優希を連れて先に行ってスペース確保する様に言っておいたわ」
ミラにも弟が一人いるのだが、舞の妹である優希とはクラスメート同士で当人達も非常に仲が良い。いつの間にか互いの妹、弟の話で盛り上がって足を止めている舞とミラを見て、刹那は呆れ気味にメイレンへ視線を送る。メイレンも少しばかり苦笑いを浮かべていた。
「くすっ。ああなったら、暫く止まりませんね」
「だな。おい、舞にミラ、早く行くぞ」
このままでは埒が明かないので、二人に急ぐよう促す。我に返った二人はすぐに歩を進めるのだった。
********
四人は行きつけのカードショップ、『ギラス』の前に到着する。店舗そのものは大きくないものの、豊富な品揃えで好評の店だ。店内に入ると、既に学校帰りの学生達で溢れていた。
ガラス張りのウィンドウにはカードが所狭しと並び、パックも最新パックを先頭に幾つものシリーズが置かれている。そしてソリッドビジョンシステムを搭載したデュエルテーブルではデュエルを行っている学生とそれを見守る友人達、という図式が出来上がっていた。
「えっと、クリフからのメールだと三番テーブルにいるって言ってたけど」
ミラがテーブル席の周辺を見渡す。すると、合間を縫うようにして小さな影が二つ飛び出してきた。
「ねーねー、せっちゃんおにーちゃん! こっちだよー!」
まず舞にぶつかる様にして抱き付いてきたのは、彼女の妹の優希。待ちわびていたかのように満面の笑みを見せている。
「ミラおねえちゃんとメイおねえちゃんだー!」
「クリフー!」
そしてもう一人、ミラに抱き付いて胸に顔を押し付けている幼い少年の姿が見える。
ミラとは対照的な銀色の髪と空色の瞳。幼いながらも整った顔立ちをしており、ミラにこれでもかというくらい甘えている。
彼がミラの実弟であるクリフ・シーベル。そんなクリフの前にメイレンが視線を合わせる様にしゃがむと、クリフはメイレンにも抱き付いた。
「メイおねえちゃん!」
「はい。お待たせしました、クリフ様。今日のお勉強はちゃんと出来ましたか?」
「うん! 今日はね、かけ算をやったんだよ。ねー、優希ちゃん!」
「そだよー! えへへっ」
メイレンはその豊かな胸に顔を押し付けてくるクリフに、まるで母親の様な温かい視線を送りながら、彼の頭を優しく撫でている。そして、何故かミラがメイレンの胸を恨めしそうに睨んでいた。
「さて、早速パック買っちゃいましょ。それからデュエルね」
優希を抱きかかえながら、舞がそう告げると優希とクリフ、メイレンを残して三人でパックを購入しに行く。購入したパックを開けた後、後から来た四人はそれぞれのバッグからデッキが入ったカードケースを取り出す。丁度良くテーブルが二つ空いたので、分かれてデュエルする事にした。
「舞。まずは私とデュエルしなさい」
「あ、待ってミラ。私、昼休みに最後まで出来なかった刹那とのデュエルを仕切り直したいんだけど」
「そんなのいつでも出来るじゃない。ほら、行くわよ!」
「ちょ、待っ――」
有無を言わさず舞の制服の袖を引っ張るミラ。言い返す間もなく、舞はミラに連行されていった。
「あう。じゃあ、ボクはもう一回優希ちゃんとデュエルするね、メイおねえちゃん」
「はい、どうぞ」
「よーし、クーくんには負けないもん!」
クリフと優希は四人が到着するまでの間に何度かデュエルをしていた様だが、もう一度やるつもりでいる様だ。元いたテーブルで再びデッキをシャッフルしている。そうなると、刹那の相手は必然的に――。
「じゃあ、オレらでやるか?」
「はい、お手柔らかにお願いします」
そう言いながら、柔らかな笑みを浮かべるメイレンに刹那は思わず見とれてしまった。
「? 刹那さん?」
「あ、な、なんでもねぇ。じゃあ行くか」
心配そうにこちらの顔を覗き込んでくるメイレンにどぎまぎしながら、刹那は残ったテーブルに移動する。メイレンも刹那の反対側に座り、デッキをシャッフルしてからデッキゾーンに置く。すると初期ライフである8000の数字がテーブルの小さな画面に表示される。
刹那も同じ様にデッキをシャッフルしてセットする。そして五枚の手札を取り、メイレンに準備完了の合図を送る。メイレンも微笑を浮かべて準備が済んだ事を伝える。
一瞬の間の後。
『デュエル!』
二人の声が、交差した。
刹那:LP8000
メイレン:LP8000
「先攻は私ですね。それでは……手札から魔法カード、『独奏の第1楽章』を発動します。私のフィールドにモンスターが存在しない時、手札かデッキから幻奏モンスターを一体、特殊召喚します。私はデッキから『幻奏の音女アリア』を守備表示で特殊召喚します」
落ち着いた雰囲気の歌声が辺りに響き渡ると、天からスポットライトが差し込む。そこに現れたのはふわりとした柔らかそうな質感の髪を持つ、愛らしい姿の女性天使。露出はやや控えめながら、へそだしルックとスカートとブーツの間から覗く太ももが何とも言えない色気を漂わせる。
「特殊召喚されたこのカードが存在する限り、私のフィールドの幻奏モンスターは効果の対象にはならず、戦闘で破壊される事もありません。この効果はもちろん、『アリア』自身にも適用されます。これでターン終了です」
最初のターンという事もあるが、手札の消費を最小限に抑えつつ厄介な守りを固めてきた。このカードを起点にメイレンは自らのパターンを構築していくので、早めに処理しておきたいところだが。
「オレのターン、ドロー」
ドローカードを見て、刹那は苦笑する。いきなり都合のいいカードが来てくれれば助かったのだが、やはりそう簡単にはいかない。とりあえず刹那は、頭に浮かべていた動きをその通りに再現する。
「『ガガガマジシャン』を召喚」
現れたのは、背中に大きく『我』の文字が書かれた学ランを来た不良っぽい風貌のマジシャン。目つきも何処となく悪く見える。
「カードを一枚セットして、ターンエンドだ」
「では私のターンですね。ドロー」
メイレンは物静かな動作でカードをドローすると、唇に人差し指を当てて考え込む仕草を見せる。刹那の動きを見てこのターン、自分はどう動くのか思案しているのだろう。
「決めました。私のフィールドに幻奏モンスターが存在する時、『幻奏の音女ソナタ』を手札から特殊召喚します」
現れたのは、緑色の髪を持つ大人びた風貌の乙女天使。しかし左目の目つきは明るいのに対し右目側の雰囲気は暗く、鋭い目つきになっているのが不気味に映る。
「特殊召喚したこのカードが存在する限り、私の天使族モンスターは攻撃力と守備力が500ポイントアップします」
「げ……」
またややこしい事になったと刹那は唇を噛んだ。幻奏シリーズの下級モンスターは決して攻撃力の高いモンスターが揃っている訳ではないが、この『ソナタ』のおかげで攻撃力の底上げができ、アタッカーになれる可能性を秘めている。更に『アリア』が付与する耐性もあるので、強固な布陣を築きあげることができる。
「更に『幻奏の歌姫ソプラノ』を通常召喚です」
続けて現れたのは。赤い髪を持つ歌姫。しかしその表情は被り物のせいで窺う事が出来ない。
「もちろん、『ソプラノ』も『ソナタ』の効果を受けます」
これによって、アリアは攻撃力2100、『ソナタ』は1700、『ソプラノ』は1900となった。どれも『ガガガマジシャン』の攻撃力1500を上回っている。
「バトルフェイズに入ります。まずは『ソナタ』で『ガガガマジシャン』を攻撃します」
『ソナタ』が自らの歌声を武器に変え、『ガガガマジシャン』を攻撃する。刹那はそれを許さないとばかりにリバースカードを翻した。
「罠カード、『ガガガシールド』発動! このカードを『ガガガマジシャン』に装備させて二回まで戦闘及び効果破壊から守る」
「そう来ましたか……でもダメージは受けますし、私のモンスターは三体。これでは凌ぎきる事は不可能ですね」
「ぐ……」
にこやかに言うメイレン。彼女からすれば本当に悪気は無いのだろうけど、この状況では少々怖く聞こえる。そうしている間にも『ソナタ』の攻撃は『ガガガマジシャン』を直撃する。シールドによって守られはしたが、その余波までは防ぎきれずに刹那のライフを僅かばかり削る。
「続けて『ソプラノ』で『ガガガマジシャン』を攻撃します」
二番手は『ソプラノ』。甲高い歌声で『ガガガマジシャン』を攻撃する。シールドにはひび割れが起こる。攻撃の余波もしっかりと刹那のライフを奪っていく。
「そして『アリア』で『ガガガマジシャン』を攻撃です」
そしてラストを飾るのは『アリア』。その独創的な歌声で『ガガガマジシャン』を骨抜きにしていく。そして『ガガガマジシャン』を守っていたシールドも音を立てて崩れ去った。
「これでバトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に入ります。私は『ソプラノ』の効果を発動します。このカードを含む、幻奏融合モンスターの召喚に必要なモンスターを墓地に送ることで、その融合モンスターを融合召喚します。私は『ソプラノ』と『ソナタ』を墓地に送ります」
二体のモンスターが歌声を響かせながら、メイレンの上空に出現した時空の渦に吸い込まれる。
「融合召喚。行きましょう、『幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト』」
現れたのは、燃える様な赤い髪を靡かせる、仮面を装着した音の姫。赤や黒を基調とした派手な服装を見せながら周囲を見渡す。
「『ソナタ』がフィールドからいなくなった事で、『アリア』の攻撃力は元の1600に戻ります。私はカードを一枚セットして、ターン終了です」
刹那:LP8000→7800→7400→6800
手札:4枚
メイレン:LP8000
手札:2枚
「おいおい、また嫌なモンスター呼んでくれたな」
「そう、かもしれませんね。刹那さんのデッキは『ブラック・マジシャン』が主軸ですし」
『マイスタリン・シューベルト』には相手の墓地のカードを三枚まで除外し、その除外した枚数×200ポイント攻撃力をアップさせる効果がある。
厄介なのは、相手ターンにも使用できる点で、これでは仮に『ブラック・マジシャン』を呼び出せても攻撃力で下回ってしまう事になる。
『アリア』も何とかしなければならないし、刹那は早くも苦しくなり始めていた。
「オレのターン、ドロー!」
ドローカードを確認すると、刹那は思わず「うしっ」と声が漏れた。
「これなら行けるぜ! まずは『ガガガガール』を召喚!」
現れたのは、黒い衣服に身を包んだ可愛らしい女の子の魔法使い。『ブラック・マジシャン・ガール』に比べるとより活発そうな印象を受ける。
「そして速攻魔法、『ディメンション・マジック』発動! 『ガガガガール』をリリースして、『ウィンド・マジシャン』を特殊召喚!」
『ガガガガール』が出現した棺に吸収され、それを突き破る様にして新たなモンスターが出現する。
中央部分に『風』と大きく書かれた緑色の魔法衣に身を包み、鋭利な視線を送るマジシャンが刹那のフィールドに降り立つ。
「そしてモンスターを特殊召喚した後に相手モンスター一体を選択して破壊できる!」
「……そういう、事ですか。『ディメンション・マジック』の破壊効果は効果解決後に破壊対象を選択するので、対象をとる効果では無い。故に『アリア』の効果を無視して破壊できる。という事ですね」
「その通りだ! 厄介な『アリア』には舞台から降りてもらうぜ!」
直後、天から雷が飛来して『アリア』の華奢な肢体を焼き尽くす。これで残るは『マイスタリン・シューベルト』のみだ。
「『ウィンド・マジシャン』の効果発動! 一ターンに一度、手札を一枚捨てることで相手フィールドのモンスター一体を手札に戻す。手札の『バスター・ブレイダー』を墓地に送り、『マイスタリン・シューベルト』を手札に戻す、ところだけど『マイスタリン・シューベルト』は融合モンスター。よって戻るのはエクストラデッキだ」
『ウィンド・マジシャン』が何かを呟くと、手にしている緑色の杖が光り、杖先から風が発生する。その風に巻き込まれた『マイスタリン・シューベルト』はメイレンのエクストラデッキへと戻された。
「その後、このカードの攻撃力をこのターンのエンドフェイズ時まで400ポイントアップさせる」
これにより、『ウィンド・マジシャン』は攻撃力を1600から2000まで上昇させる。メイレンのフィールドにカードは無い。後は攻撃を通すのみとなった。
「『ウィンド・マジシャン』でプレイヤーにダイレクトアタック!」
『ウィンド・マジシャン』がまた言葉を呟くと、風の渦が発生し、メイレンに直撃する。一気に初期ライフの四分の一を削った。
「カードを一枚セットして、ターンエンド――」
「エンドフェイズ時にリバースカードを発動させます。速攻魔法、『サイクロン』。これで今伏せたカードを破壊します」
今度はメイレンのフィールドから発生した竜巻が、刹那のリバースカードを破壊する。しかし刹那はニヤリと笑う。そのカードは――。
「それは、『スキル・サクセサー』……」
「悪いな。こいつはフィールドに残したままでも、破壊されてもどっちでもいいからよ。改めてターンエンドだ」
刹那:LP6800
手札:0枚
メイレン:LP8000→6000
手札:2枚
「やはり流石ですね、刹那さん。裏をかかれました」
「よせって。なんかお前に言われると照れるっての。オレよりメイレンのがよっぽど頭いいしな」
メイレンは「そんな事ありませんよ」と謙遜するものの、何となく刹那からするとくすぐったい賞賛であった。そしてデュエル自体も刹那の手札が尽きた以上、まだどう転がるかは分からない。刹那は改めて気持ちを引き締め、メイレンのターンが始まるを待つのだった。
オリカ紹介
ウィンド・マジシャン
風属性 ☆4 ATK1600 DEF1200
魔法使い族 効果
(1):1ターンに1度、手札を1枚捨てる。相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。
(2):(1)の効果の発動に成功した場合、このカードの攻撃力は400ポイントアップする。
どうも、yun1です。第2話の方、お楽しみいただけたでしょうか。
以前、別サイトでも小説を投稿していましたが、実はマスタールール3のデュエルを書くのは本作が初となります。OCGの方は既に引退しているのもあって、不慣れな部分が多いですが、少しでも早く慣れたいと思っています。
デュエルシーンのミスは無いようにチェックしていきますが、もし見つけた場合は遠慮なく指摘してやってください。よろしくお願いします。
それでは、次回にてまたお会いしましょう。