刹那とメイレンのデュエルは四ターンを経過しているが、ほぼ互角と言っていい状況になっている。これを見ただけではどちらに転ぶか分からない。しかし、手札の観点からいくと手札を使い切った刹那に対し、メイレンは次のターンのドローで三枚になる。
この差がどう転ぶことになるのか、刹那は気にしつつもメイレンのターンが始まるのを待つことにした。
刹那:LP6800
手札:0枚
場:ウィンド・マジシャン(攻撃表示)
メイレン:LP6000
手札:2枚
場:無し
「私のターンです」
メイレンはゆったりとした動作でカードを引く。その度に彼女の綺麗な髪が靡いて光の反射で輝いて見える。
「魔法カード、『トレード・イン』を発動です。手札のレベル8、『幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト』を墓地に送ってカードを二枚ドローします。……カードを一枚セットして、ターン終了です」
手札の入れ替えを行うも、メイレンはリバースカードをセットするだけに終わった。手札が悪いのか、それとも何か狙いがあるのか。可愛い顔の裏で何を考えているのか分からないのが、メイレンの怖い所である。
「オレのターン、ドロー」
ドローしたカードを確認すると、刹那はメイレンが先程伏せたばかりのカードに視線を移す。
(罠は怖えけど、ここは踏み込む!)
「オレは『ウィンド・マジシャン』をリリースして『ブラック・マジシャン・ガール』をアドバンス召喚!」
風の魔術師が光の粒子になるとその粒子を糧に、愛らしい女の子のマジシャンが姿を現す。メイレンはその姿を見ると、柔らかな笑みを見せる。
「ふふっ、刹那さんのアイドルカードの登場ですか?」
「そんなんじゃねぇーっての……。『ブラック・マジシャン・ガール』でダイレクトアタック!」
刹那の声に反応すると、『ブラック・マジシャン・ガール』はこくりと頷く。そして杖に魔力を集中させると、ピンク色の魔力弾をメイレンに放った。メイレンは黙ってその攻撃を受け入れる。
(通ったか。けど、だとしたらあのリバースカードは一体なんだ?)
「ターンエンドだ」
刹那:LP6800
手札:0枚
メイレン:LP6000→4000
手札:2枚
「私のターンですね。……このままターン終了です」
今度は何もアクションを起こすことなく、ターンを終えた。このままでは攻撃を通し放題になりそうなものだが。
「なーんかその動き、不気味だぜ……。オレのターン! 二体目の『ガガガマジシャン』を召喚!」
再び現れる、『ガガガマジシャン』。その登場にメイレンの顔色が少し変わった。
「今度も行くぜ。『ガガガマジシャン』でダイレクトアタック!」
『ガガガマジシャン』がメイレン目がけて跳躍する。しかし、メイレンはすぐに反応を見せた。
「罠カード、『和睦の使者』を発動です」
彼女が発動させたのは、発動したターンのモンスターの戦闘破壊とプレイヤーへのダメージから身を守るためのカード。刹那は思わず苦笑いを見せる。
「なーるほどな。このままだとやられちまうしな」
「はい。刹那さんの墓地には『スキル・サクセサー』もありますし、このターンで使わざるを得なかったので」
「って事は、やっぱ手札事故じゃなさそうな気がすんなぁ……。オレは『ガガガマジシャン』の効果発動。このターンのみ、こいつのレベルを6にする。そしてレベル6の『ブラック・マジシャン・ガール』と『ガガガマジシャン』でオーバーレイ!」
二体の魔術師が、黒の光となって不思議な渦の中に飲まれていく。
「エクシーズ召喚! 行くぜ、『マジマジ☆マジシャンギャル』!」
現れたのは、『ブラック・マジシャン・ガール』に酷似している女の子の魔術師。しかし、衣装の色は黒に変化し、幾分か大人っぽさを増している様にも見える。
「ターンエンドだ」
結局ダメージを与えられずに、このターンは終わった。刹那はじっとメイレンのターンを待つ。
「いえ、ある意味では事故ですよ。ただ、あと一枚カードが足りないだけなんですけどね」
そう言いながら、カードをドローするメイレン。引いたカードに視線が映ると、ニコリと笑った。
「ようやく来てくれました。私は速攻魔法、『光神化』を発動します。手札の天使族モンスターを攻撃力を半分にして特殊召喚できます。私は『幻奏の歌姫ローリイット・フランソワ』を特殊召喚します」
メイレンが抜き取ったカードが輝くと、ゆったりとした動きでそのモンスターは舞台に舞い降りる。
現れたのは、ピアノを奏でる美しき妖精。その旋律はまるで歌声の様に聞こえる。
「『ローリイット・フランソワ』の効果発動です。一ターンに一度、私の墓地に存在する天使族、光属性モンスターを一体手札に戻します。ただし、この効果を使用したターン、私は光属性以外のモンスターを特殊召喚できません」
「んな事言ったって、メイレンのデッキのモンスターは全部光属性じゃねぇか」
「くすっ、そうですね。私は『幻奏の歌姫ソプラノ』を手札に戻し、召喚します」
再びメイレンのフィールドに現れる、魅惑の歌姫。透明感のある歌声とピアノの旋律が相まって、幻想的な空間が出来上がる。
「『ソプラノ』の効果を発動します。このカード自身と『ローリイット・フランソワ』を墓地に送って融合します」
二体のモンスターが重なり合い、眩い輝きを放つ。その輝きに混じってスポットライトが当たる。
「天使のさえずりよ、旋律の詩人よ。タクトの導きにより力重ねよ。融合召喚。今こそ舞台に勝利の歌を。行きましょう、『幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ』」
現れたのは、華が咲いている様な衣装を纏った小さな歌姫。その瞳は澄んだ輝きを放ち、主に似て穏やかな色を見せる。そしてその歌声は聞くものを虜にする魔力があるのではないかと思うほど、綺麗なものだ。
「げっ!? メイレンのエースじゃねぇかよ!?」
「『ブルーム・ディーヴァ』で『マジマジ☆マジシャンギャル』を攻撃します。『ブルーム・ディーヴァ』の攻撃力は『マジマジ☆マジシャンギャル』より下ですけど、効果により戦闘では破壊されず、私へのダメージもありません」
その言葉通り、『ブルーム・ディーヴァ』がその歌声を響かせて自らの武器とするが、その攻撃力は僅か1000。それだけでは攻撃力2400の『マジマジ☆マジシャンギャル』は倒せない。
「特殊召喚したモンスターがバトルの相手だった場合、そのダメージ計算後に更なる効果が発動します。攻撃した相手モンスターとこのカードの元々の攻撃力差分だけ、相手にダメージを与えて相手モンスターを破壊します」
『ブルーム・ディーヴァ』と『マジマジ☆マジシャンギャル』の攻撃力差は1400。その分のダメージが刹那を襲い、『マジマジ☆マジシャンギャル』を破壊する。
「くそっ、迂闊だったぜ……そいつの存在を忘れてた」
舞やミラが血気盛んなため、二人とは良くデュエルをするが、控えめなメイレンとはデュエルをした回数は決して多くない。それでもどんなデッキかは分かっているので、単純に刹那のミスと言える。その事に、刹那は頭を掻きながら苦笑いをする。
「いえ、刹那さんのみならず今や特殊召喚主体のデッキは多いですからね。だからこのカードが便利とも言えますけど。カードを一枚セットして、ターン終了です」
刹那:LP6800→5400
手札:0枚
メイレン:LP4000
手札:0枚
「オレのターン、ドロー! ……リバースカードを一枚セットして、ターンエンドだ」
手札も一枚しかない状況が続くため、一歩間違えれば即敗北に繋がりかねない。そんな緊張感が漂う中、メイレンはデッキに手を伸ばす。
「私のターンです。私のフィールドに幻奏モンスターが存在する時、『幻奏の音女カノン』を手札から特殊召喚できます」
現れたのは、逆立った髪にマスクから覗く鋭い視線が印象的な音の姫。
「バトルです。『ブルーム・ディーヴァ』でダイレクトアタックします」
まずは『ブルーム・ディーヴァ』が歌声を音波として刹那に攻撃する。
「続いて『カノン』で攻撃します」
更に『カノン』も自らの歌を刹那の耳に大きく響かせる。鼓膜が破れるかと思う大音量で。
「ぐおっ!?」
何とか耳を塞いだが、頭が少しクラクラする。見ると、メイレンがにこやかな顔で唇に指を当てている。
「……こういう時、舞さんなら『これで決める』ってなりますね」
「は? 何言って――」
「――リバースカードオープン。速攻魔法、『融合解除』です」
「……んなっ!?」
そのカードが翻ると、『ブルーム・ディーヴァ』が消滅して『ローリイット・フランソワ』と『ソプラノ』が代わりに現れる。二体の攻撃力の合計は3700。刹那のライフは3000にまで減少している。メイレンの言うとおり、本当にこれで決まってしまう。
「行きますね。『ソプラノ』が特殊召喚に成功した時、このカード以外の墓地の幻奏モンスターを手札に加えます。私は『アリア』を手札に加えます。そして『ソプラノ』でダイレクトアタックです」
「って、マジで決めさせてたまっかぁ! リバースカード発動! 永続罠、『リビングデッドの呼び声』! 墓地から『マジマジ☆マジシャンギャル』を特殊召喚!」
墓地から急いで『マジシャンギャル』を呼び出し、攻撃の盾にする。メイレンは残念そうに息を吐いた。
「『ソプラノ』はもちろん、『ローリイット・フランソワ』の攻撃力では、『マジマジ☆マジシャンギャル』の攻撃力に100ポイント及びませんね……。攻撃は中止です。メインフェイズ2に入って『ソプラノ』の効果発動。再び『ブルーム・ディーヴァ』を融合召喚します」
二体のモンスターが再度、『ブルーム・ディーヴァ』へと融合する。これでまた『マジマジ☆マジシャンギャル』が効果の対象になってしまう。
「『カノン』の効果を発動します。一ターンに一度、幻奏モンスターの表示形式を変更します。私は『カノン』自身を守備表示にしてターン終了です」
刹那:LP5400→4400→3000
手札:0枚
メイレン:LP4000
手札:1枚(幻奏の音女アリア)
「オレのターン、ドロー。……うしっ。魔法カード、『貪欲な壺』を発動。墓地の『ガガガマジシャン』二体と『ガガガガール』、『ウィンド・マジシャン』、『ブラック・マジシャン・ガール』をデッキに戻して二枚ドロー」
墓地から選択した五枚のカードをデッキに戻してオートシャッフルした後、新たなカードをドローする。このドローが勝敗を分けるかもしれない。祈る様にカードを見る。
「いよっし、これなら。バトルだ! 『マジマジ☆マジシャンギャル』で『ブルーム・ディーヴァ』を攻撃!」
「ええっ、破壊されるのを承知で攻撃する、ということはひょっとして」
「ああ。ここで速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動! 『ブルーム・ディーヴァ』の攻撃力を400ポイントアップさせる代わりにその効果を無効にする!」
「っ! やはり、ですか」
これにより、『ブルーム・ディーヴァ』の攻撃力は1400になるものの、戦闘における優位性は消えた。これで『マジマジ☆マジシャンギャル』でも戦闘破壊が可能になる。
『マジマジ☆マジシャンギャル』が杖を大きく振りかざすと、杖先に紫とピンク色の魔力光が集まっていく。充分に溜まりきると、それを勢いよく放った。『ブルーム・ディーヴァ』も迎撃しようとするものの、間に合わずにそのまま直撃を受けて消滅した。
「よっしゃあ、これで厄介なモンスターは消えたぜ。カードを一枚セットして、ターンエンドだ」
刹那:LP3000
手札:0枚
メイレン:LP4000→3000
手札:1枚(幻奏の音女アリア)
「ここぞという時の引きの強さは流石ですね。私のターンです」
メイレンの目はまだ追い詰められた様な色にはなっていない。ドローしたカードを見ると、あっと声を上げた。
「私も同じカードを使わせてもらいますね。『貪欲な壺』発動です」
「うぐ……」
「墓地から『マイスタリン・シューベルト』、『ブルーム・ディーヴァ』、『カノン』、『プロディジー・モーツァルト』、『ローリイット・フランソワ』をデッキに戻して二枚ドローします。『マイスタリン・シューベルト』と『ブルーム・ディーヴァ』は融合モンスターなので、エクストラデッキに戻りますけど」
先程の刹那と全く同じ行動を取るメイレン。ドローしたカードを確認すると、思わずといった感じで顔が綻んだのが見えた。
「魔法カード、『融合賢者』を発動です。デッキから『融合』を手札に加えて、発動です」
「ってことは、もう一枚の手札は……」
「はい。さっき墓地から戻した『アリア』と『ローリイット・フランソワ』を融合します」
二体のモンスターが三度、交じり合う。そしてディーヴァは歌うのをやめない。輝ける舞台がある限り。
「けど、それを待ってたぜ!」
「えっ?」
「罠カード、『黒魔族復活の棺』発動! こいつの効果で特殊召喚された『ブルーム・ディーヴァ』とオレの『マジマジ☆マジシャンギャル』を墓地に送って、デッキから『ブラック・マジシャン』を特殊召喚する!」
ようやく現れた、刹那が信頼するエース。しかも相手のエースを除去しての登場なのでメイレンにもダメージを与えられたはず。
「う、うぅ……もう出来る事はありません。ターン終了です」
「オレのターン、ドロー! 魔法カード、『千本ナイフ』発動! 『ブラック・マジシャン』がいる時、相手モンスターを一体破壊。もちろん『カノン』を破壊だ!」
『ブラック・マジシャン』が何かを呟くと、無数のナイフが飛んでくる。『カノン』はそのナイフによって飲み込まれ、消滅する。
「『ブラック・マジシャン』でダイレクトアタックだ!」
「で、ですけどまだ私のライフは……。あっ……!」
しまった、という表情を浮かべるメイレン。その表情に刹那はニヤリとした笑みで返す。
「忘れた訳じゃねぇよな。墓地の『スキル・サクセサー』を除外して効果発動! オレのモンスター一体の攻撃力を800ポイントアップさせる!」
フィニッシュは、序盤にメイレンが『サイクロン』によって破壊した『スキル・サクセサー』。これによって『ブラック・マジシャン』の攻撃力は3300にまで上昇する。
『ブラック・マジシャン』が高く飛翔し、杖から紫の魔力弾を放つ。それはしっかりとメイレンを捉えてライフを全て削った。
メイレン:LP3000→0
デュエル終了を告げるブザーがなると、ソリッドビジョンが消えていく。メイレンは負けたものの清々しい表情をしていた。
「負けましたけど、楽しかったです。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げるメイレンに、刹那は頬を掻く。やはりこの娘はしっかりとしているのだなと思わされる。
「こっちこそサンキューな。課題も見つかった気がするし」
「それなら、良かったです」
ふわっと柔らかく笑うメイレンに、刹那の視線は奪われる。しかし、それはすぐ引き戻される事になる。
「メイおねえちゃーん!」
「きゃっ!?」
デュエルをしていたはずのクリフが勢いよく走って来たかと思うと、そのままメイレンに抱き付いてきた。メイレンは慌てつつも、しっかりと抱きとめた。
「クリフ様。デュエルはもう終わったのですか?」
「終わったよー! メイおねえちゃん、おしかったね!」
「そうですか?」
「そうね。最後付近でメイに『アリア』を特殊召喚する手段があったら、デュエルの流れはメイに行ってたわ」
「改めて思ったけど、やっぱりメイレンもやるわね」
こちらもデュエルを終えたらしい、舞とミラ、舞に手を引かれた優希がやってくる。
「だよなぁ。結構ギリギリの勝負だったと思うぜ」
実際、メイレンが最後の『アリア』、『ブルーム・ディーヴァ』を特殊召喚する事が出来ていたら、刹那は詰んでいたかもしてない。その紙一重の中で掴み取った勝利だと言える。
「ま、課題も見つかったし良かったぜ。また機会あればやろうな」
「はい、その時は是非」
クリフをあやしながら頷くメイレン。そして六人はカードを見て回ったり相手を変えてデュエルしたりと、濃密な時間を楽しむのだった。