ミラとバザンのデュエルが終わった所に現れた女性。それはバザンが探し求めていた存在なのだろう。その女性は刹那達の前に立ち、凛とした視線を向ける。
「って、自己紹介がまだだったね。私は
「組織……?」
刹那の怪訝そうな視線には気づいていないのか、早雲と名乗った女性は続ける。
「そ。キングダムって裏世界の組織。さっきのあいつは組織の構成員ね」
「わ、わ、あくのそしきって事?」
「優希、しーっ」
特撮好きな優希の目がキラキラと輝いているが、早雲はそれに苦笑しながら頷いた。
「平たく言っちゃえばそうなるかな。で、金髪の娘に聞きたいんだけどさっきのデュエルでダメージを受けた時、いつもと違わなかった?」
ミラに視線を向ける早雲。ミラはその通りだと頷く。
「そう、ね。いつもの何倍もの痛みが体に走ったわ」
「あれこそがあいつが装着していたデュエルディスク、イレイザー・デュエルディスクの力。装着者とデュエル相手に、実際のダメージを与える事ができる危険な代物だよ。今回は助かったけど、あいつがその気になってたら、君はあの攻撃で死んでいたかもしれない」
「それってもしかして、モンスターの攻撃が現実のものとなってお嬢様を襲っていた、ってことですか?」
メイレンが恐る恐るといった様に尋ねると、早雲は頷いてみせた。メイレンの顔が蒼白になる。
「そこの綺麗な娘、ご名答。正確にはモンスターが実体化する、ってことだけどね。実体化すれば当然、その攻撃もリアルになるから」
「おねえちゃんが死んじゃう……? うあーん! そんなのやだよー!」
クリフがミラに抱き付いて泣き始める。ミラはクリフを落ち着かせるように彼の頭を撫でながら早雲を軽く睨みつけるが、早雲は自分にクリフが泣いた原因があるとは思っていないらしく、きょとんとしていた。
「……そういう事なら、聞きたい事がある」
「ん、どうしたの?」
刹那はすっと前に出る。さっきから早雲が言っている事は刹那の中にある記憶を呼び起こす。
「そのキングダムってのは、四年前にも活動してたのか?」
「そうだけど?」
「神崎功也って名前知ってるか?」
早雲は暫く考え込む仕草をみせるが、やがてゆっくりと首を横に振った。
「その頃の私はまだお子様だったから、父様がどういう事をしているのかもよく知らないでいたんだよね……。でもどうして?」
「その人はオレの父さんだ。そして四年前にデュエル中にモンスターの攻撃によって殺された」
それを聞いた早雲の目が見開かれる。どうやら、それで刹那の言いたい事は察した様だった。
「つまり、キングダムが君のお父さんを殺したかもしれない、って事だよね」
「そう、なるな」
早雲は何とも言えない複雑な表情になる。そんな彼女とは裏腹に、刹那の中には一筋の光が差し込んでいた。
今までずっと分からないでいた、復讐の相手。それが見つかるかもしれないのだ。これは希望以外の何物でも無い。
「あの~、取り込み中失礼するけど」
そこにやや遠慮がちに『ギラス』の店長が早雲に声を掛ける。
「このドアの修理代、請求する相手がいなくなったけど関係者のあんたに請求すればいいのか?」
「あ」
完全に忘れていたのであろう早雲は、呆けた顔を見せた。
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結局、店のドアの修理代は早雲が何とかするという事で話が付いたのだが、当てがあるのか不安だった。まさか逃げ出した実家に請求する訳にもいかないはずなのに。本人は何とかなるよ、と言っていたがどうにもその心配は拭えない。
夜になり、七人はミラ達の部屋があるマンションに集まっていた。ミラが行くあての無い早雲を暫く匿う事になったからである。有名会社を経営する一族が経営するマンションならセキュリティも万全なので、万が一敵が探しても、すぐには見つからないだろう。
優希とクリフはミラの部屋で遊ばせ、残った五人はリビングに集まった。メイレンがお茶を振る舞う中、早雲が口を開いた。
「さて、まずは改めて自己紹介しておこうかな。私は皆月早雲」
「オレは神崎刹那だ。よろしくな」
「私は観月舞よ」
「私はミラ。ミラ・シーベル。こっちは私の付き人のメイレン」
「メイレン・マグナスと申します。よろしくお願いします早雲さん」
それぞれの自己紹介が終わると、早雲は思案に耽る。何処から話すべきか考えているのだろう。
「じゃあまずはキングダムがどういう組織なのかから話すね。簡単に言うと、デュエルモンスターズ界の掌握を目論んでいるんだよ」
いきなり大きくなりそうな話に、刹那達は息を呑む。
「デュエルモンスターズ界を意のままに操り、自分達の王国を築き上げる。キングダムの名前はそこから来ているんだよ」
それを聞いたミラが物言いたげな顔をしているのに気づく。
「ずっと前にパパが邪魔な存在がいる、って話していた事があったけどひょっとして」
「キングダムの可能性がありますね」
メイレンも納得したように頷く。この二人の家は大きな力を持っている故に、そういう所から狙われる事もあるのだろう。だからこそ、刹那は何故父が狙われたのかが分からないでいた。
「キングダムは自分達の妨害になる存在を良しとしない。多分、刹那のお父さんも何らかの形でキングダムに関わったんだと思う」
それが果たして刹那が連れ攫われた事と関係があるのかどうか。刹那は拳を握りしめる。
「多分、さっきのデュエルは奴らに感知されているはず。そうなったら私という餌がいる以上、皆を巻き込むことになるよ」
そう言って早雲は刹那達四人の顔を見渡す。つまり、もしキングダムに襲われた時に戦う覚悟があるのかどうか、問うているのだろう。刹那の答えはもちろん決まっている。
「へ、オレは父さんの死の真相を突きとめなくちゃなんねぇ。そのチャンスが転がっているのに逃げ出せるかよ」
「私もよ。クリフを危ない目に遭わせた事を後悔させないと気が済まない」
「私はお嬢様と何処までもお供します」
「優希の身にも危険が迫るかもしれないしね。放ってはおけないわ」
皆、理由はどうであれ気持ちは一緒の様だ。早雲は何処かほっとした顔を見せる。
「それより、アンタはなんでそこから逃げ出したのよ?」
ミラが気になっている事を早雲に尋ねた。早雲の目が徐々に曇り始めるのが分かった。
「私は小さい頃から、組織の跡継ぎとして英才教育を受けていたんだよね。その頃はそれが当たり前だと思っていたし、何の疑問も持たなかった。でも、段々とそれが嫌になってきて。だから抜け出したんだけど」
自嘲気味に笑う早雲。そして窓から星空を見上げる。
「いつも同じ場所で勉強して、外には出られない……そんな窮屈さにうんざりしてきて。外の世界を知りたくなったから、出てみたんだ」
早雲の目は純粋な興味によって輝いている。さっきからリビングのあちこちをチラチラと見ていた。
「あっ、と。それはそうとして。実は抜け出した時にあっちにあったカードを一枚持ち出してきたんだ。けど、私には使いこなせないみたいだからそれを使える人を探すのも、目的の一つだったんだけど」
そう言って差し出してきたのは、『ティマイオスの眼』という魔法カード。カードには緑色の竜が描かれている。
「これは、見た事ないカードだな」
「それはそうだよ。だってキングダムが開発したカードだからね」
「……もしかして、それを持ち出したのも追われる原因なんじゃねーの?」
刹那がそう言うと、早雲は舌をぺろっと出しながら「そうかもね」と答えた。もちろん、早雲自身が組織の跡継ぎというのがあるにしてもだ。
「そんな訳で、誰か私とデュエルしてみない? 使えるかどうかは、デュエルで試すのが一番だし」
「それなら、まずはオレがやってるよ。お前の力も見てみたいしな」
刹那が前に出ると、早雲は嬉しそうに頷いた。
全員でマンションの駐車場前に出る。刹那と早雲はデュエルディスクを起動させ、デッキをセットする。早雲のデュエルディスクはバザンが使っていたのと同じタイプだが、ダメージを与える機能はカットされている。
「さて、どうなる事やら」
刹那は早雲から受け取った『ティマイオスの眼』をデッキに加え、オートシャッフルする。早雲の方も準備を終えた様で既に手札を手に取っている。
「じゃあ、準備はいいかしら?」
審判役を買って出た舞が確認すると、二人は頷く。ミラとメイレン、優希とクリフはその様子を見守る。
「デュエル、スタート!」
『デュエル!』
舞の掛け声が合図となって、デュエルが始まりを告げた。
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その頃。眠る事を知らないビル群の地下。そこでは非合法な賭けデュエルやカードの取り引きなどが横行しているデュエルモンスターズの闇市と呼ばれる場所である。己の欲望をむき出しにした目付きの男達が、様々なやり取りをしている。その中を歩く一人の男がいた。
黒のマントを羽織り、大柄な体を揺らす様はまるで自分の領域を示しているかの様に、他の荒くれ者達が彼の通る道を避けている。それは邪魔だから渋々、といった感じではなく男の発する威圧感に負けて避けていると言った方が正しい。事実、何人かの人物は明らかな怯えの色をその瞳に宿していたのだから。
男はマントを一度翻すと、一瞬だけため息を吐いた。
「バザンが敗れたか。姫様を連れ戻すと言っておきながらとんだ失態だな」
その声色には明らかな呆れの色が混じっており、同時に失望も感じさせる。
「これでは俺の責任問題にも発展するか。こうなれば、俺が直々に姫様を」
「その必要は無いみたいだぜい、アトス」
背後から聞こえてきた少しくぐもった呑気な声に、呼ばれた男、アトスは振り返る。そこにいたのは中肉中背の、アトスと同じ黒マントに身を包んだ少年。アトスとは違いフードは外しているので、顔がはっきりと見える。
手入れを特に行っていないのか、ボサボサとした質感の短髪とやる気が感じられない腑抜けた目つきが印象的だ。タバコ替わりなのか、口元にはシガレットを加えている。それを少しだけ噛み砕き、食べる。二人の傍では、フードで顔を隠した暗い雰囲気の物売り二人がカードを並べて地べたに座っている。
「王様から次の命令が出たんでい。次は俺が姫さんを連れ戻してこいってねい」
「もうお前が行くのか。今はまだ我々王国三銃士が動く時ではないと思っていたが」
「一応、念のためって奴ですねい。姫さん自身がこっちに牙向ける可能性を考慮しての措置みたいでい」
王の命令とあれば、アトスとしても従うしかない。アトスは気だるそうに群衆の中に消えていく少年の姿を見送る。
「頼んだぞ……ボルトス」
アトスはそう呟き、ボルトスの姿が完全に消えるのを確認すると、その場を離れるのだった。アトスが去った後、カード売りの二人がフードを外し、顔を覗かせてから立ち上がる。
一人は男性としては小さい身長ながら、獲物を捕らえた様な鋭い目付きが印象的だ。短い黒髪は闇の中に溶け込んでいる。
もう一人は落ち着いた雰囲気を纏った女性。男性よりも背が高く、腰の辺りまで届く黒髪が靡いて落ちていく一本一本の髪が宝石の様な輝きを放ち、女性の鋭利な美しさを際立てる。瞳は強さと冷静さを兼ね備えた光を放ち、ボルトスが去った場所を見つめる。
「聞いていたな?」
「ええ。しっかりね。他の皆はどうするの?」
「ふん、俺達だけで充分だ。群れを成して行く意味が無い」
「それもそうね」
二人は互いの顔を見合わせると、頷き合った。
「行くぞ、
「ええ、
互いの名前を呼びあい、二人は歩を進めるのだった。