竜の軌跡   作:LEGEND

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第1章 スタートライン
第1話


季節は春、ライノの花が街道や街で盛大に咲き誇っている季節。日曜学校へと新たに授業を受ける子供達の歓迎会という名目で大人達の飲み会がライノの花の木の下で行われている中、街外れにある比較的大きな家から2人の男女が飛び出してきた。女が扉を荒々しく開け放ち、男が扉を閉めて女の後を追って走る。

 

「ケイン!!早くしないと置いてくよ!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよリリス!そんなに慌てなくても遊撃士協会は逃げないから大丈夫だって!」

 

男からリリスと呼ばれた女はリリス・リッツァーという。少し長めの茶髪をポニーテールで結び、髪と同じ色の瞳をしている。今年で16歳になり、念願だった遊撃士協会に晴れて入ることになった。

 

家事全般が全然ダメで、何かしらの料理を作ろうとしてもいつも失敗して食材や調理器具を無駄にしてしまうほど。戦闘においては武術よりも魔術の方が得意で、ケインの後方支援をしている。いつも元気一杯でまるで太陽のような存在でもある。

 

リリスからケインと呼ばれた男はケイン・リッツァーという。目に掛かるか掛からないかぐらいの黒髪の持ち主で、リリスと同様に髪と同じ色の瞳をしている。リリスとは血の繋がらない兄妹であり、ケインが幼い頃にリッツァー家に養子として迎え入れられた。

 

リリスの代わりに家事全般全てをこなしている。東方から伝わってきた刀という武器を愛用しており、そこらの魔獣なら数秒で倒せる腕を持つが、リリスには頭が上がらないらしく、少しは改善したいと思っているようだ。

 

「うるさいわね!!私は今日が楽しみで仕方なかったのよ!!」

 

「だからって朝7時に叩き起こさなくてもいいでしょ!こっちは昨日リリスのせいで夜遅くまで片付けをしてたんだよ?それにまだ集合時間まで1時間もあるじゃないか!」

 

「う、うるさい!それとこれとは話が別よ!そんなこと言ってると本当に置いてくからね!」

 

「リリス!?ちょっと待ってよ!!」

 

2人は春の日差しの中を街の方へと走っていった。ケイン達はマリーナ王国という国に住んでいる。エウロペ大陸の南部に位置し、北東側にローシリア帝国、北西側にアルタルシア共和国という二つの大国に隣接している。エウロペ大陸には他に自治州が5つ、国があと2つあるがマリーナ王国には隣接はしていないが、貿易は行っていて国同士の関係は良好である。王国では物を造る技術が他の国と比べて抜きん出ていて、鉄道や飛行艇といった物は全てマリーナ国内の企業が造っている。

 

そのマリーナ王国の東部に位置している地方都市トレントと呼ばれている街にケインとリリスの2人は急いで向かっていた。そこには遊撃士協会と呼ばれるエウロペ大陸全土に支部を持つギルドの1支部が置かれている。遊撃士協会本部はマリーナ王国の首都にあたるマルトスに有るのだが、支部も本部も基本的にやることは同じなのであまり区別はされていないのが常識である。

 

遊撃士は『民の安全を最優先に』というスローガンの元、日夜仕事に励んでいる。主な仕事としては街に侵入してきた魔獣の対処や、街道に出た大型魔獣を撃退若しくは駆除することだ。しかし、最近では街の人々の依頼を聞いて困っていることを手伝うといった便利屋紛いの仕事もしている。各支部がおかれている街の人々にはこの便利屋紛いの仕事はとても好評で、魔獣退治よりも依頼をこなすほうがよっぽど忙しいと遊撃士が嘆いているようだ。

 

ケインとリリスの2人は、遊撃士協会の準遊撃士として経験を積みながらの仕事を始める。本来なら遊撃士協会トレント支部に11時集合の筈だが、1時間も早く支部に着いてしまった2人。扉の前で待つのは流石に邪魔なので中に入る事にした。

 

「ごめんください!!」

 

「あら?リリスちゃんじゃない。まだ集合時間には早いけどどうかしたの?それとケイン君は?」

 

「僕ならここにいますよ。フウカさん、おはようございます」

 

遊撃士協会トレント支部の扉を開けてすぐ目の前に見えるのが、遊撃士に依頼を申請するカウンターである。右手側には依頼を張り出している掲示板が。左手側にはソファーが置かれており、依頼を申請しにきた人や遊撃士の休憩スペースになったり、街の人々がおしゃべりをする場所になったりと憩いの場所になっている。

 

そのカウンターに肘をついた状態で住民が出した依頼状に目を通しているのはフウカ・タチバナというケインやリリスの姉のような存在の人物だ。サラサラとした黒髪を腰まで伸ばし、エウロペ大陸よりも遥か東方に位置している国の『キモノ』という民族衣装を着こなしている。年齢は25歳で、誰もが美人と言わせるほどの美貌の持ち主なので求婚も幾度とされているらしいが頑なに断り続けているという。理由は簡単。ケインに惚れているからだ。

 

「あらケイン君。わざわざこんな早い時間からお姉さんに会いに来てくれるなんて感激だわ。こっちとしてはいつでも身を固められる準備はできているわよ?」

 

「そんなニッコリされても困りますよ。それに実の姉のように接していたから今更結婚なんて無理だって何回も言ってるじゃないですか」

 

「『実の姉のように』っていうのは血が繋がってない人に対して言うのよ?どのように接していようが血が繋がって無いのなら容易く結婚できるけど?」

 

「そりゃそうですけど・・・。もういいです。フウカさんには何回言っても意味なさそうですね。今日は遊撃士の仕事できたんですから仕事の話をしてください」

 

「まだあなたたちは準遊撃士だけどね」

 

フウカはニコッと笑った後、カウンターの奥に入って行った。先のフウカとケインのやり取りの時に蚊帳の外にされたリリスは機嫌を損ねてしまって、ケインがリリスのご機嫌とりをしていた。そして今度何か甘いものを奢るという事でリリスの機嫌を直したところで奥からフウカが戻ってきた。

 

「さてと。今日からあなたたち2人は遊撃士協会の準遊撃士として経験を積んでもらいます。詳しくは後から教えてもらうとは思うけど、正遊撃士になるにはマリーナ王国すべての支部から推薦状を貰って王都マルトスで仕事をしたのち、本部の推薦状を貰って承認してもらうと晴れて正遊撃士になれるわ」

 

「私たちのコンビネーションなら簡単だわ!!頑張って働いて早く正遊撃士になろうねケイン!」

 

「そうだね!!」

 

「その意気やよしってところね。意気込むのは誰でもできることよ。大怪我しないように気をつけなさい。特にケイン君は私と結婚するんだから怪我しないようにね。あと、いくら準遊撃士でも人手が足りないところは徹底的に使われるから注意しなさい?それこそ正遊撃士並にね」

 

「結婚はしませんけど気をつけます。早く正遊撃士になれるよう努力します!!」

 

「わたしも魔法の腕を磨いて立派な正遊撃士になる!」

 

フウカはクスリと笑って頑張りなさいと言葉を送った。その後事務仕事として遊撃士登録をするための書類を2人に手渡し、カウンターに座って住民からの依頼状に目を通す。大型魔獣の討伐依頼はないが便利屋としての依頼が何枚かカウンターの上に無造作に置いてある。時折2人、特にケインを眺めながら時間をつぶしていた。

 

 

 

 

「そういえば2人とも。あなたたちの家に関する書類を渡したけど持ってきてる?あれが無いとこの街から外に出られなくなるわよ?」

 

ケインとリリスが登録の書類を書き終えて5分ほど経過したあと、フウカがふと思い出して2人に書類のありかを聞いた。ケインとリリスの両親も遊撃士なのだが、2人とも出張が多くなかなか家に帰らないので、リリスとケインがトレントの街を出た後は一時的にトレントの町長が預かることになっている。その旨を示した書類をケイン達に渡したのだが、2人ともその書類の事をすっかり忘れており、急いでケインが家に戻ることになった。

 

「それじゃあ急いで取ってきますね。リリスはフウカさんと喧嘩しちゃダメだよ?」

 

「わかってるわよ!早く行きなさい!」

 

はいはいと軽く返事をした後、ケインはトレント支部の玄関口を開けて家へと急いだ。フウカはケインを見送った後カウンターに戻り、リリスは支部内のソファーに座った。支部内に設置してあるお茶をコップに注ぎ、飲もうとしていたリリスにフウカはケインの事に関する質問を投げかけた。

 

「リリスちゃんってなんだかんだ言ってケイン君のこと好きよね?いつから意識しだしたの?」

 

フウカの問いに飲みかけたお茶を全て吹いて豪快に咳き込むリリス。顔を真っ赤にしながらフウカを睨むリリスの行動はどこから誰が見てもフウカの問いに対して肯定を示しているようなものだった。

 

「だ、誰がケインの事なんか好きになるのよ!!それにケインはただの血が繋がらない家族であってそういうのじゃないんだから!!」

 

「その言い方されると完全に肯定として他の人に捉えられるわよ」

 

いまだに真っ赤な顔しながら抗議を続けるリリス。フウカはそれを見てクスッと笑っていた。ケインがリリスの家に養子に来たのが約10年前のこと。10年も同じ家に血の繋がらない男女が住んでいたらいくら子供でも気にはなるだろう。しかも、一緒に遊撃士を目指す為にコンビを組んでいるほどである。

 

「もしかしてリリスちゃんは魔法で支援しつつ後ろからケイン君の雄姿を見たかったから魔法使いになったのかな?」

 

「ち、違います!元々魔法の方がうまく使えていたからであってそんなやましい理由で魔法使いになったわけじゃ・・・」

 

だんだん声量が小さくなっていって最終的にゴニョゴニョ言って何を話しているかわからなくなってしまった。そんなリリスを見ながらまたしても微笑むフウカ。

 

「本当にリリスちゃんはからかいがいがあるわ。別に誰もケイン君の雄姿を見たいからわざわざ魔法使いになったなんて思ってないわよ。誰にだって向き不向きがあるからね。ケイン君も私が教えた刀の方が魔法や他の武器よりも向いていたから使っているわけだし」

 

私よりはまだまだ下手だけどねと言葉を付け足すフウカ。元々フウカは遊撃士であり、ケインと同様刀を使用して活動をしていた。ある時、トレント支部が人手不足となって受付担当がいなくなってしまい、いやいや引き受けたフウカが今までずっと受付をしているのだ。

 

「リリスちゃんがケイン君の事を想っているのを知れただけでも儲けもんね。でも、リリスちゃんが10年ケイン君と一緒に住んでいたからといって諦める私じゃないからね?」

 

「わかってます。私もフウカにそんなこと言われても決して諦めないから。たとえ誰が相手でも私がケインを射止めてみせる!」

 

リリスが高らかに宣言している様をカウンターから見るフウカ。その後2人はケインが帰ってくるまでの間、乙女の恋話に花を咲かせていた。

 

 

 

ケインがトレント支部から家へ帰ってから10分ほど経過し2人が雑談をしていると、家のことに関する書類を持ったケインが肩を上下に揺らしながら帰ってきた。

 

「フ、フウカさんお待たせしました。探すのに手間取っちゃって少し遅れちゃいましたが・・・」

 

「お帰りなさい。別に急ぎの要件じゃないから時間なんて関係ないわ。そこにあるお茶でも飲んで一旦落ち着かせなさい」

 

「フウカの言う通り。ほら、ここのソファーに座ってなさい。私がお茶入れてあげるから」

 

「ありがとう。リリスの言葉に甘えさせてもらうよ」

 

ケインはカウンターにいるフウカに書類を手渡した後、リリスに入れてもらったお茶を飲みながら集合時間である11時までリリスやフウカとたわいない話をしながら暇をつぶしていた。

 

 

 

 

 

3人が楽しく雑談をしているとトレント支部の扉が開く鈴の音が聞こえた。3人とも扉に目をやると、鍛え抜かれた逞しい身体を持ち、とても人当たりが良さそうな笑顔を振りまけながら挨拶をする男性が立っていた。

 

「フウカ!遅くなってすまん」

 

「遅いわバルト。2人とも一時間前には来ていたのよ?」

 

「一時間前!?そりゃあ2人ともやる気があるな!ガハハハ!」

 

豪快に笑う男性はバルセルト・シュタイナーと言い、トレントの街の住民からはバルトという愛称で呼ばれている。トレント支部に配属されているB級正遊撃士で、剣や魔法といったものではなく、手甲を身につけ己の身体一つで戦う。どこかの武術の流派に通じているらしく、その実力は凄まじいものがある。笑い方が特徴的でいつも豪快に笑っているところをトレントの住民たちは毎日のように聞いている。フウカと同じ25歳でこれまたフウカと同じくケインやリリスの兄貴分のような存在でもある。

 

「そうやって笑ってごまかしても駄目よ?ほら、リリスちゃんもケイン君もバルトに挨拶しなさい?」

 

「バルトさんおはようございます・・・と、言うより『こんにちは』の方が適していますけど」

 

「おぉケイン!元気にしてか!少し用事と準備があって遅れてな。許してくれよ?」

 

「私たちも早く来すぎたのもあるんでそこまできにしてませんから」

 

「そうか!!なら問題なさそうだな!!ガハハハ!」

 

豪快に笑い飛ばすバルト。バルトの笑いが収まった所でケインが今日行う事をバルトに聞いてみた。

 

「そうだな・・・。今日は取り敢えずお世話になると思う人や店に挨拶まわりをする事と街の外の見回り、そして知っているかもしれないが遊撃士協会の規則を教えるぐらいだな」

 

「わかりました。それじゃあ先ずは挨拶まわりですね。バルトさんは来たばかりですけど行きますか?」

 

バルトはトレント支部内にある時計を一瞥する。時間は11時を少し過ぎたところを指していた。そして口元に手をやって少し考える仕草をした後、ケインとリリスに提案をした。

 

「いや、挨拶まわりをする前に遊撃士協会の規則を教えるがてら昼飯と洒落込もうと思ったんだがどうだ?勿論俺の奢りでな!」

 

「本当!!バルトさん奢ってくれるの!なら先に昼ご飯にしようよケイン!」

 

「それもそうだね。じゃあ遠慮なくご馳走になりますバルトさん」

 

「ガハハハハ!いいってことよ!それじゃあフウカ。行ってくるぞ!」

 

「はいはい。2人とも初仕事頑張ってね。行ってらっしゃい」

 

「「はい!行ってきます!」」

 

笑顔で手を振るフウカに見送られ、2人はトレント支部の扉をくぐって初仕事に繰り出していった。

 

このトレントの街の中央には街のシンボルとして煉瓦造りの時計塔が鎮座している。その時計塔を中心として東西南北に街の出入り口が設置されている。東側の出入り口を抜けたところに町長の家があり、出入り口手前には教会とホテル、雑貨屋が並んでいる。北側には炭坑へと続く山道と空港、街唯一の居酒屋が。西側には住宅街と食材を売っている商店と隣国に繋がる街道が。そして南側には遊撃士協会と小さいながらも武器屋がある。トレント支部の斜向かいにはマリーナ王国で5本の指に入るほど美味しいと評判のレストランがある。南側の出入り口を抜けると、港湾都市ラグーナに続く街道があり、その街道の外れにケイン達の家がある。

 

ケイン達はバルトに連れられて、マリーナ王国で5本の指に入るほど美味しいと雑誌に紹介されて以来凄い人気で予約もなかなか取れないレストラン『フローラ』にやってきた。2人もこのレストランの人気ぶりは知っているので、リリスは顔を綻ばせながら大喜びし、ケインは申し訳無さそうな顔をしていた。

 

「さぁ着いたぞ。今話題沸騰中のレストラン『フローラ』だ。今日は俺の奢りだから遠慮なく食えよ!だからって俺の財布がスッカラカンになるまで食うのは無しだからな!!ガハハハハ!」

 

「いいんですか?ここって結構高いと聞いてますけど?」

 

「いいじゃない。バルトさんが奢ってくれるって言ってるんだから」

 

「そうだぞ。大人しく俺の言うこと聞いとけ。値段なんか気にすんな!」

 

「そこまで言うなら断る方が失礼ですね。わかりました。遠慮なく御馳走になります」

 

「よし!それじゃあ入るか!」

 

三人は意気揚々とレストラン『フローラ』に入店した。レストラン『フローラ』は街の小さなレストランとして夫婦が思い切って開店した店で、最初は街の人々の特に主婦層の方々の憩いの場所として儲けは少ないながらも営業していた。しかし味は一流レストランにも引けを取らず、トレントではちょっとした有名店だった。そして美味しい店として口コミで広がっていき、開店してから7年ほど経った今ではマリーナを代表するレストランへと成長した。

 

レストラン『フローラ』の店内は混み合っており、各々出された料理に皆舌鼓を打っている。その中を歩いていき階段を登って二階にある『予約席』と書かれたプレートの置いてあるテーブルにバルト達3人は座った。バルトは店員を呼び、予め予約していた料理を持ってくるように頼んだ。その後バルトはケインとリリスを見て話し始めた。

 

「それじゃあ料理がくる前に遊撃士協会の規則やルールを教えるぞ。知っているかもしれんが聞いといてくれ」

 

2人は黙って頷いた。バルトはそれを肯定の合図として捉え、話し出した。

 

「まず仕事内容についてだが、これはわかっているはずだから省くことにする。第二に正遊撃士になる方法だが、フウカから聞いているかもしれんが復習の為にもう1度おさらいだ。お前たちは今のところ準遊撃士という立場にある。正遊撃士に昇格するならば、ここトレントを含むマリーナ王国内の5つの都市の遊撃士協会支部に属して働いて、それぞれの支部に認められてから推薦状を貰い、最後に首都マルトスにある遊撃士協会マルトス支部から貰った推薦状を合わせて5つの推薦状をマルトス城内にある遊撃士協会本部に渡す。それでようやく晴れて正遊撃士になれるわけだ。わかったか?」

 

バルトが一旦話を切った直後、タイミングを見計らったかのように店員が注文した料理を持ってきた。食材は詳しくは分からないが、見たところパスタのようだ。食欲を掻きたてる美味しそうな料理が3人の前に置かれる。

 

「この店の主人とその息子がコックとして腕を振るっているんだが、その息子と俺は日曜学校からの親友でな。そのコネを使って特別に今日だけここで予約なしで昼飯を食べることができたんだ。まぁ、代金は請求されるけどな。そんなことよりも取り敢えずは腹拵えだ。遠慮なしに食えよ!」

 

「それじゃあ御言葉に甘えて」

 

「早く食べようよ!もう無理。もう私食べる!いただきます!」

 

3人はそれぞれ出されたパスタ料理に舌鼓を打った。リリスは相当お腹が減っていたのか、すごい勢いで食べ進めていって3分ほどで食べ終えてしまった。

 

 

 

 

 

最後にリリスが食後のデザートを無理矢理注文して満足そうに食べ終え、3人の昼食が終わった。それぞれ口元を拭ってから感想を述べたところでバルトが遊撃士協会の規則の話の続きを始めた。

 

「さて、食事も終わったところで話の続きを始めようか。正遊撃士にはランクがあってだな、最初はGから始まって次にG+、次がF、その次がF+のように続いてA+まである。D+ランクぐらいまでならそこまで苦労せずとも上がれるだろうが、Cランクからが正念場になる。所属している遊撃士協会の支部長に認められてから本部に通達して了承されればBランクに、Aランクに上がるには遊撃士協会の本部に認められなければ上がれない。俺もトレント支部長に認められて漸くBになったところだ。因みにトレントの支部長は町長さんだ」

 

バルトは一旦話を切って、さっき頼んだであろう酒をグラスに溢れる寸前まで注いだ後、一気に飲んだ。昼間から酒を呑むのはどうだろうかと思うが、ケインとリリスにとってはいつものことなのか、気にせずに2人とも水を飲む。バルトが酒を呑んで唸った後、話が唐突に再開された。

 

「後もう1つ言うことがあるが、2人はS級遊撃士というのは聞いたことあるか?」

 

突然のバルトの問いかけに2人は少し驚いた様子を示したが、2人は顔を見合わせたあと、バルトの問いに答えた。

 

「僕は噂程度なら聞いたことがあります。なんでもエウロペ大陸に6人ほどしかいないって」

 

「私もその程度しか知らないわ。別に居ようが居まいが普通の市民にはあまり関係ない話だしね」

 

2人の話を聞いて、バルトは少し考える仕草をとった。顎に手をやり目線を下に向けて俯いている。何事かとケインとリリスは顔を見合わせていて、どうしようかと悩んでいると、バルトの顔が段々上を向いてきた。そして一言。

 

「なるほど。やっぱりその程度しか知らないか」

 

「何の話ですか?」

 

ケインの問いに対してバルトは即答した。

 

「S級遊撃士は実際にいるんだよ。公にはしてないだけ。確か5人だったはずだ。まぁ頭の中の片隅に置いといてくれればそれでいい」

 

「えぇ!!本当にいるんですか!?」

 

「根拠のない噂程度としか思ってなかったわ。流石に驚くわね」

 

2人のリアクションを見て満足したのか、バルトは席を立って少し伸びをしたあと、2人に言った。

 

「まぁ、S級遊撃士なんぞと関わり合いは持たなくてもいいぞ。滅多に会えないし誰がS級遊撃士なのかも普通の正遊撃士には教えてくれない。それにお前たちまだ準遊撃士だ。先ずは正遊撃士になれるように努力しないとな!ガハハハハ!」

 

バルトが豪快に笑った後すぐに席を立ち「挨拶回りに行くぞ!」と言って一階に降りて行った。ケインとリリスも同時に席を立ってバルトを追いかけるように一階へ降りていき、バルトの会計が終了するまで待っていた。

 

 

昼飯後の挨拶まわりは2時間ほどで終わった。中でもトレント支部長兼町長の家を訪れた際、ケインとリリスを孫のように接してくれた町長と夫人は2人が遊撃士になったことを我が子のように喜んでくれていた。逆に、大きな怪我をしないようにと心配もしてくれた。

 

街のシンボルである煉瓦造りの時計塔が午後3時を指している。陽も少し傾き始めつつある。バルト達3人は一旦トレント支部に戻っていた。支部に帰るとフウカがカウンターではなくソファーでお茶を飲んでいた。手元には住民からの依頼状が数枚あり、仕事の合間の小休憩の途中のようだ。

 

「今帰った。フウカは相変わらず仕事熱心だな。感心感心」

 

「誰も事務仕事をしないから私がやるしかないでしょ?ケイン君もリリスちゃんもお帰り。初仕事はどうだった?」

 

「初仕事と言っても挨拶回りとかだけだったんで疲れてはないです。これからの街道見回りが大変そうですけど」

 

「私は少し疲れたわ。お茶飲みながら少し休憩するわ」

 

リリスがフウカの隣に座ってお茶を飲み始めた。そして5分ほど休憩したのち、フウカに見送られながら街道の見回りの為に支部を後にした。

 

街道と言っても、街の近くだけ石造りの道になっているだけで、少し歩けばただ道をならしただけの簡素な造りになっている。港湾都市ラグーナに向かう街道は両側を深い緑に囲まれていて、魔獣の巣窟となっているため皆近づかないようにしている。西側の街道は広い平野になっており、比較的魔獣も少なくトレントの人たちはピクニックなどによく行くスポットになっている。

 

3人は東側と南側の街道の見回りをして異常なしと判断し、一回遊撃士協会に戻ってフウカがいるギルドカウンターに報告した後、ケイン達は遊撃士初日の仕事を終えた。

 

陽が傾き、空が朱色に染められ、白い雲がその風景にアクセントを加えて幻想的な風景を作り出している。その空の下をケインとリリスは歩いていた。南側の出入り口を抜けたところで、トレントの時計塔が時間を知らせるための鐘を鳴らし、大きな音色を響かせ始める。ゴーンゴーンという音を立て、トレント市民に午後6時を知らせていた。

 

「いつ聞いてもこの鐘の音は趣があるよね」

 

「そう?ただ煩いだけだと思うけど?」

 

「リリスにはまだ分からないんだよ。この鐘の音色は良いよ」

 

「ふーん。私にはよくわからないや」

 

こんな他愛もない話をしながら家へと帰る途中、なにかの鳴き声みたいな声が聞こえた。魔獣の鳴き声で間違いないが、ここらでは聴かないモノだったので、ケイン達はその鳴き声を追ってみた。近づく度にキュウキュウという鳴き声が聞こえてきた。

 

「多分ここら辺なんだけど・・・ケイン!いた?」

 

「いないよー!確かここら辺から聞こえてきたはずだけど・・」

 

ケインは草が元気よく茂っている場所を掻き分けながら中を覗き込む。すると、すぐ近くに白いモコモコした何かを見つけた。頭に天使の輪っかみたいなのを付けていて、足が無くて羽のような手のような小さいものが付いている。トレント周辺では見たことがない魔獣だ。ケインは優しくその魔獣を草むらから引っ張り出し、リリスを呼んだ。白いモコモコした魔獣は身体の至る所に怪我をしており、とても衰弱している。ケインの腕に抱かれながら弱々しくキュウと一鳴きした。

 

「この子すごい弱ってる・・・。助けてあげましょうよ!」

 

「そうだね。このまま見殺しにするのもかわいそうだしね」

 

白いモコモコした魔獣を2人は家に連れて帰り、できる限りの治療をしてやることにした。

 

 

 

 

 

ケインとリリスの両親は大陸内でも知られている遊撃士であり、ケイン達が遊撃士を目指したキッカケになった人物でもある。2人ともA級遊撃士で、トレント支部最強コンビの2人は今仕事で隣のアルタルシア共和国に行っている。仕事と言っても2人にとっては小旅行ぐらいにしか思っていないだろうとケイン達は考えている。

 

ケインとリリスは家に帰り、白いモコモコした魔獣を家のソファーにそっと寝かせて、リリスが回復魔法を唱える。すると白いモコモコした魔獣の傷がどんどん塞がっていった。

 

「やった!!なんとかうまくいったわ!」

 

「流石リリス!本当に魔法が上手だね」

 

「褒めてもなにも出ないけどありがとう!」

 

ケインの一言で上機嫌になったリリスはさておき、ケインは傷が塞がったのはいいが、まだ元気にはなっていない魔獣を見て考えていた。何か食わしてやりたいと思っていても、魔獣が何を食べるかわからないケインは、早めの夕食を兼ねてエサを作ることにした。

 

ケイン御自慢の料理の腕を目一杯振るい、一端の料理人よりも旨いのではないかと思うほどの料理を作り上げた。今日の夕食は魚料理中心となっている。先に風呂に入って寝間着を着ていたリリスを呼んで少し早めの夕食が始まった。2人同時に「いただきます」と言って食べ始める。魔獣には、ケイン達と同じ料理を少なくしてあげてみた。すると最初は警戒してなかなか口にしなかったが、恐る恐る一口食べた瞬間嬉しそうにキュウキュウ鳴きながら食べ始めた。それを見てケインはホッとして、リリスはその姿が可愛くて萌えていた。

 

「良かった。食べるかどうか不安だったけどこれでエサは考えなくていいね」

 

「そんなことよりこの子可愛いわね!!折角だから名前つけましょうよ!」

 

「そうだね。名前付けないとこれから困りそうだからいいんじゃない?」

 

2人とも魔獣を野に返すことをすっかり忘れているが、そんなこと気にせずに名前の言い合いが始まった。リリスが名前を言ってケインがそれを否定し、ケインが名前を言ってリリスがそれを否定する。なかなかいい名前が出ずに激しい議論になるかと予想していたが、ケインの一言で呆気なく終わることになる。

 

「リリスの名前は複雑すぎるんだよ。もうこの魔獣に向かって聞いてみた方がいいと思うよ」

 

「ふん!なら言ってみたらいいじゃない!ケインの付けた名前なんて気に入らないと思うけど?」

 

リリスの罵声なんて気にもせず、2人の言い合いを見てなぜかキュウキュウ鳴いて参加しようとしていた白い魔獣にケインは近寄り、腕の中に抱き寄せて聞いてみた。

 

「君の名前さぁ」

 

「キュウ?」

 

「もっと単純に考えてみようと思って閃いたのがあるんだけど、モコモコしているからモコでいいかなと思ったけどどうかな?」

 

「モコって流石に安直過ぎない?それじゃあ付けられる方が可哀想よ。流石にその子も・・・」

 

「キュウキュウ!!キュキュウ!!」

 

リリスの考えとは裏腹に、ケインが言ったモコという名前が気に入ったのか、全身を光沢させて羽のようなものでフワフワ飛び始めた。ケインはそれを見て少し微笑み、リリスは少し納得のいかない表情を浮かべていたが、モコの嬉しそうな姿を見てまた萌えていた。こうしてケイン達2人の遊撃士初仕事の日は暮れていくのであった。

 




おはこんばにちはLEGENDです。軌跡シリーズが大好きなため、自己満足のほぼオリジナル小説をかいてしまった次第です。この先だいぶ長くなるかと思いますが、見てくれたら幸いです。

今回は序章の序章ということで、主人公の2人の説明や遊撃士協会についての説明がありました。初仕事と言っていいのかはさておき、これからの2人の働きっぷりを楽しみにしていてください。

最後に、これは約1年前に書き終えたもので、少し変な文とかもあるかもしれないので教えてくれたら幸いです。

では。
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