竜の軌跡   作:LEGEND

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第2話

初仕事をした翌日、ケインはリリスとモコと自分の朝飯を作るため、毎日のようにリリスより早く起きていた。

 

「ふぁぁ~・・。また今日も寝不足だなぁ」

 

「キュウ?」

 

「いや、モコのせいでは無いけど・・・リリスには困ったもんだな」

 

実は昨夜、リリスがモコと一緒に寝ると言い出したのだ。ケインは別に良かったのだが、モコがケインの傍を離れようとしなかったわけで。それを見て執拗にモコに迫るリリスと、ブルブル震えながらケインの後ろに隠れるモコをケインが見て、モコが嫌がっているから俺が一緒に寝るとケインは言った。すると御察しの通りリリスがああだこうだと言い始め、夜遅くまでリリスがケインに突っかかってしまう。結局なんとか収めて寝たのだが、全然眠れなかったというわけだ。

 

「さてと・・顔洗ってから朝ご飯作るかな」

 

「キュウ♪」

 

ケインは早速洗面所に行き、冷たい水で顔を洗って目を無理矢理醒ました後、簡単な朝飯を作り始めた。

 

「・・・・おは・よ・う・・・zzz」

 

「おはようリリス。ほら、立ったまま寝ないで顔洗ってきたら?」

 

「・・・ん・・・・・」

 

ケインが朝飯を作り終えようとしたところで、リリスがタイミングよく起きてきた。いつもはポニーテールで纏めている髪も寝るときは外している。そのせいで朝は毎日のように髪がボサボサになっている。それに加えてリリスは朝が凄く弱いため、髪をセットするだけで相当時間が掛かってしまう。

 

「もうすぐ朝ご飯できるから早く用意しろよ」

 

「んー・・・」

 

気のない返事を聞いたケインは朝食用のベーコンエッグを素早く仕上げ、リリスを待ちながらモコに朝飯をあげていた。モコは人間の食べるものにも関わらず美味しそうに食べていた。

 

 

 

 

「お待たせケイン。いつもごめんね?」

 

「いいよ。いつものことだから。それじゃあ少し冷めちゃったけど食べようか」

 

リリスが顔を洗いに行って20分ぐらい経ったあと、リリスが髪をポニーテールにセットしてリビングに戻ってきた。リリスは急いでリビングにあるテーブルのケインが座っている席の向かい側に座る。そして2人同時にいただきますを言って他愛ない話をしながら朝食を平らげた。モコはというと、朝飯を食べたあとケインの膝元にフワフワ飛んで行って、すぐにスヤスヤ眠り始めてしまった。結局モコはケインたちが朝食を食べ終わるまでケインの膝の上で眠り続けていた。

 

 

 

 

 

 

朝飯を食べ終わったケイン達はそれぞれ身支度を整えた後にトレント支部へと向かった。モコを家に置いていこうと思っていた2人だったが、モコがケインにくっついて離れないため、仕方なく連れて行くことにしたようだ。リリスはモコと触れ合いたいのにケインだけにくっついているから気に入らないと不機嫌になっていた。

 

5分ほど歩いてトレント支部の扉を開く。カウンターにはいつものようにフウカが居て、休憩スペースにはバルトがどっかり座っていた。バルトとフウカが2人に気づくと手招きをして2人を呼んだ。

 

「よぉ!お二人さんおはよう!」

 

「リリスちゃん、ケイン君おはよう」

 

「おはようございますフウカさん、バルトさん」

 

「フウカもバルトさんもおはよう!!」

 

ケインとリリスは2人に挨拶し、休憩スペースにいるバルトの隣に座った。バルトが住民からの依頼状を見ていると、ケインに抱かれている何かに白くうごめくものが目に入った。何かと思いケインの方へ振り向くと、ケインに抱かれているモコが目に入った。

 

「おいケイン!その腕の中にいるのって『シャイニングポム』じゃないのか!?」

 

「シャイニングポム?モコはャイニングポムっていう魔獣なんですか?昨日凄く弱っていたから助けたんですよ」

 

「そうなのか・・・。いやぁ、実物を見るのはこれで2回目だから驚いたんだよ。ただソイツは滅多に人前に姿を現さないから、ケイン達の前に姿を現したということは何かが起こる前兆だったりしてな!ガハハハハ!」

 

「そ、そんなこと言わないでくださいよ!」

 

ケインとバルトはまた笑い合った。モコはそんなこと気にもせずにグッスリと眠っていた。そんな中バルトが思い出したかのように席を立ち、ケインとリリスに声をかけた。

 

「そうだ!そういえば今日2人に良い経験ができる依頼が来ていたぞ」

 

「良い経験?どんな依頼ですか?」

 

「アルタルシア間道に大型魔獣が出たという依頼だ。遊撃士の真の目的は大型魔獣の退治と言っても過言ではないからな。俺もついて行くから倒しに行くぞ」

 

バルトは言いたいことだけ言うとそそくさ先に行ってしまった。ケインとリリスはそれぞれ準備をして、バルトの後を追いかけていった。アルタルシア間道とはトレントの時計塔を中心とした東西南北の出入り口の西側にあたる街道だ。長閑な平野なのでトレントの人達がよくピクニックに行く街道でもある。そこに大型魔獣が現れたとなると住民が襲われかねないので、バルト達3人は急ぎ足で向かった。

 

トレントの住宅地を抜けて西側の出入り口を越えてすぐ右隣には割と大きな池がある。ここの池は釣り人達の穴場スポットとしてそれなりの知名度を誇っている。目撃情報によると、この池を迂回し、街の出入り口ではない方の岸部にいたらしい。バルト達は魔獣に襲われないよう気を付けつつ、池の周りを歩いていく。すると池の近くにある大きな木の木陰に、鳶の羽根が生えた猫(通称鳶猫)が羽を休めていた。鳶猫は人間に直接害は無いのだが、農作物を荒らすことが多いので農家達の天敵となる魔獣だ。通常サイズなら放っていても問題ないのだが、木陰で休んでいる鳶猫は通常サイズの4・5倍もある。更に、大型鳶猫の周りには通常サイズの鳶猫が7匹もいた。因みにモコはフウカさんに預けてきている。鳶猫に狙われたら大変だからだ。

 

「大きい鳶猫ですね。鳶猫達のボスでしょうか?」

 

「まぁ十中八九そうだろ。普通の鳶猫があのデカい奴を守っているみたいに辺りを飛んでいるからな」

 

「そんな考察なんて要らないわよ。さっさと片付けちゃいましょう」

 

リリスが自分の得物である魔導杖を展開させて鳶猫に近づこうとしたところをケインがリリスの腕を掴んで制止させた。リリスがケインを睨みつけて言った。

 

「何すんのよ。離してケイン」

 

「後方支援のリリスが突っ走ってどうするの?ここは俺とバルトさんで鳶猫達を引きつけるから、そこに魔法を叩き込んで。わかった?」

 

少し納得いかない顔をしていたリリスだが、ケインの言うことが正しいのでリリスも引き下がった。バルトはこの一連の会話を聞いて、あれだけ揉め事や喧嘩をするのにやっぱり何年も一緒に住んでいるだけはあるなと感じていた。

 

「おまえ等の会話を聞いているとロベルトさんとエリカさんを思い出すな」

 

「父さんと母さんですか?それはどうして?」

 

「エリカさんが無茶を言ってロベルトさんがそれを止める。エリカさんは納得いかない顔をするけど結局は引き下がってロベルトさんの指示を聞く。行動パターンがさっきのおまえ等と全く一緒だったぞ!」

 

「そうだったんですか。でも今はあの鳶猫をどうにかしないと・・」

 

「そうだったな!ガハハハハ!じゃあ俺が最初にひと暴れするから後は頼んだぞ」

 

「わかりました。リリスわかった? 」

 

「わかってるわよ!!」

 

「そんなに怒らなくても・・。バルトさん頼みます」

 

「おう!任せておけ!」

 

バルトは2人に向けて親指を立てて拳を突き出して肯定の合図を出した後、木陰で休んでいる鳶猫に向かって一直線に突き進んでいった。その後を時間差をつけてからケインが追いかけていった。

 

「オラァァァァァッ!!」

 

「バルトさんそんなでかい声出したら鳶猫達にバレますよッ!!」

 

「あの2人はそろいもそろってバカなのかしら」

 

リリスの手厳しい一言も掻き消すぐらい大きな声を出した2人のせいで、案の定鳶猫達が臨戦態勢に入っていた。大型魔獣に特定された鳶猫も昼寝を邪魔されたからなのか、怒っているように見える。

 

「先ずは一匹目だッ!」

 

バルトは鳶猫目がけて走り、通常サイズの鳶猫の一匹をすれ違いざまに力任せに殴る。殴られた鳶猫は凄い勢いで大きい鳶猫が寝ていた側にある木に叩きつけられた。そしてその鳶猫はそのまま白い光となって空に消えていく。

 

この世界の全ての生物が最期を迎えるとき、白い光となって総て空に消える。白い光となった者がどこに消えるかはわかってはいないが、皆死んだものが行き着くこの空を畏れ崇めている。そして大昔から今なお続く空の女神を崇める宗教が誕生した。

 

バルトが鳶猫一匹を倒したお陰で周りの鳶猫達が本気で2人を敵と見なしたようだ。バルトは殴った鳶猫に気を取られて後ろから2匹攻撃する気満々の鳶猫がバルトに向かっているのを感じ取れなかった。それを見たケインは腰に挿してある刀の柄を握って急いでバルトに近づく。

 

「させるか!居合・絶影」

 

一瞬でバルトの近くにいる鳶猫に近づき、すれ違いざまに刀を抜いて鳶猫2匹を居合い切りで一刀両断した。そのまま2匹は白い光となって空に消えていく。そのままケインはバルトの側まで移動していた。

 

「助かったケイン!ありがとうな」

 

「いえいえ。当然の事をやったまでです。それよりこの状況はヤバくないですか?」

 

ケインがバルトを後ろから狙う鳶猫に気を取られすぎて、いつの間にか通常サイズの鳶猫4匹と大型鳶猫に囲まれていた。

 

「ちょっとマズいな。俺の蹴りならコイツ等を一蹴できるがお前がいるからな・・」

 

「僕も刀の間合いにバルトさんが居るから無闇に刀を振れません・・」

 

2人で話している間にも鳶猫達はどんどん近づいてくる。2人が背中合わせにしてどうにかしなければと策を講じていたとき、火の粉を撒き散らす蝶が2人の頭上を優雅に飛んでいた。

 

「なんだこの蝶?」

 

「この蝶は!!バルトさん伏せてください!!これはリリスの魔法です!!」

 

蝶の数がどんどん増えていく。そしてケインが少し離れたところで魔導杖を持って呪文を唱えようとしているリリスを確認した直後にリリスが叫んだ。

 

「私を忘れてもらっちゃ困るわ!!『フレアバタフライ』!」

 

ケイン達の上を優雅に舞う蝶が一匹一匹膨らみ、それぞれが小爆発を起こす。何十匹も飛んでいたため大きな爆発になって普通の鳶猫たちをケインとバルトを巻き込んで全滅させた。リリスは同時に『アースガード』をケインとバルトに掛けていたので2人には傷一つ無かった。爆発が収まり、ケインとバルトが目を開けると大型の鳶猫がこっちを睨んでいる。2人が鳶猫を警戒していると、リリスがケイン達の居るところまで走ってきた。

 

「ケイン!バルトさん!無事だった?」

 

「あぁ、なんとかな。それにしてもリリスの魔法の成長具合には驚かされたな!」

 

「いやー助かったよリリス。ありがとう」

 

フウカにケインが好きと公言してしまったせいか、前よりも少しケインの事を気にしだしたリリスは、面と向かってケインに笑顔で礼を言われたせいで頬を赤く紅潮させていた。

 

「そ、そんなお礼なんてべ、別に要らないわよ!そんなことより早くアイツを倒しちゃいましょ!」

 

ケインと面と向かって話ができないのか、リリスは顔を背けてチラチラとケインの顔を見ながら話していた。そして3人は気づいたように揃って逃げようとしていた大型の鳶猫を発見し、攻撃を再開した。

 

「逃がすわけにはいかんぞ!!竜闘流参の型・竜砲!!」

 

先ずバルトが逃げようとした鳶猫へ一気に近づき、鳶猫の腹に骨の軋む音が聞こえるほどの重い拳を叩き込む。殴られた鳶猫はケインの方に吹っ飛んでいき、ケインは居合いの構えを取って目を閉じ、鳶猫が飛んできた所で刀を抜いた。

 

「居合・朧月」

 

ケインは一歩も動かず刀を抜き、鳶猫に致命傷を与えた。ケインが刀を鞘に戻すと同時に鳶猫が三日月の弧を描くように切断され、身体が少しズレた所で白い光となって空に消えていった。

 

「ふぅ・・・・。なんとか片付きましたね」

 

「そうだな!それよりも俺はおまえ等2人がここまで成長していたことに感激した!!兄貴分として鼻が高いぞ!ガハハハハ!」

 

「大型魔獣も倒したし早く戻りましょうよ!早くモコにモフモフしたくてたまらないの!!」

 

「ありがとうございます。リリスが早く帰りたいって言っているんで帰りますか」

 

「そうだな!!」

 

こうして2人にとって初めての大型魔獣討伐を達成し、報告をするべく3人はトレント支部に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

トレント支部に戻るやいなやフウカとリリスの言い争いが始まった。発端はフウカがモコにモフモフしていたこと。モコに顔をうずめて癒されていた所をリリスが発見。私もしたいと言い出してモコを奪おうとして言い争いが始まったわけだ。言い争いの中心人物(?)のモコはというと、そそくさとケインの方に寄ってきてケインに抱かれている。ケインの腕の中がモコにとって一番落ち着く場所らしい。フウカとリリスの言い争いが終わる様子を一向に見せないので、バルトが「後はやっておいてやるからもう帰っていいぞ。今日の仕事は終わりだ」と言ってくれた。バルトの言葉に甘えたケインはモコと一緒に少し早めの帰路に着いていた。

 

「今日はいつもよりどっと疲れたなぁ。初めて大型魔獣も倒したしモコを巡っての2人の言い争いは始まるし・・。今日は早く寝ような」

 

「キュウ♪」

 

モコがなぜだか嬉しそうにケインの腕の中で跳ねたり踊ったりしている。ケインはそれを見て少し微笑み、まるで夏のような日差しを照り付けている太陽が輝く青空を、手で日陰を作りながら見ていた。するとそこに飛行船でもなく鳥でもないなにかが空を飛んでいた。それに気がついたケインは目を凝らして見てみたが、あまりにも空高く飛んでいたのでただの黒い点にしか見えなかった。そしてその黒い点も白い雲に隠れて見えなくなってしまった。

 

「何だったんだろ今の影・・・。あんな高い所を飛べる鳥なんて聞いたことないし・・・。それに飛行船の形でも無かったような・・・」

 

「キュウ?キュウキュウ!キュキュキュウ!」

 

ケインが考えながら歩いているのをまるで危ないから止めろと言いたげな感じで騒ぎ出したモコ。それに気がついたケインは考えることを一旦止めて、モコにありがとうと礼を言ったあと、また我が家に向かって歩き始めた。その黒い点が後ほど大きく関係してくることにケインが気付くはずなどなかった。

 

 

 

ケインが家に帰った3時間ほど後にリリスが今日の報酬ということでフウカから7000ベルを貰って帰ってきた。疲れきった表情をしたリリスを見て早めの晩御飯を作り、リリスはモコに癒しを求めることなくすぐにベッドへと直行した。ケインとモコもいつもより早く寝て明日に備えるのであった。

 

 

 

 

 

翌日、少し眠たそうなケインは、珍しく寝癖が酷い髪を掻きながらリビングへとやってきた。そのあとをモコがついてきている。モコもすごく眠たそうだ。ケインは眠気眼をスッキリさせるために洗面所へ欠伸をしながら歩いて行った。

 

 

「さて、朝御飯を作るか。モコはリリスを起こしてきてくれないか?」

 

「キュウ♪」

 

洗面所で顔を洗って着替えた後、ケインは朝食を作るためにキッチンへと移動した。モコにリリスを起こしに行くよう頼むと、モコは嬉しそうに階段をジャンプしながら昇っていく。ケインはそれを確認した後、冷蔵庫を開けて食材を取り出して調理を始めた。

 

砲丸レタスは葉っぱを一枚一枚剥がしていき、フレッシュトマトは包丁で輪切りにしていく。そして、そこまで値が張らないバルファロという魔獣のベーコンをフライパンで焼いていき、フライパンの余ったスペースに片手で割った卵を二個入れて肉と同時に火を通していく。美味しそうな匂いが漂う中、ケインは鼻歌を歌いながら楽しそうに朝食を作っていった。

 

数分後、リビングのテーブルには野菜のサラダにベーコンエッグ、調理しながら作っておいたトーストが並べられていた。テーブルに料理を配置した直後にリリスが腕にモコを抱きながら二階から降りてきた。

 

「おはようリリス」

 

「おはようケイン。また豪勢な朝ごはんね」

 

「そうかな? 野菜と肉をそろそろ食べないと悪くなると思って全部使っただけだよ」

 

「そうなの。私お腹減っちゃったわ。早く食べちゃいましょう?」

 

「そうだね。いただきます」

 

ケインとリリスは「いただきます」と言ったあと、楽しく会話しながら朝御飯を平らげていった。勿論、モコもケインと同じものを食べている。傍から見たらある朝の夫婦のような一コマだ。朝食を平らげた3人(2人と1匹)は後片付けを協力(モコは皿を頭に載せて運んでいた)して終えた後、支度をして遊撃士協会へと足を運んだ。

 

「あらケイン君おはよう。リリスちゃんもおはよう。昨日のモコちゃんのことについては譲らないからねリリスちゃん」

 

「おはようございますフウカさん」

 

「キュウ!」

 

「おはようフウカ。私もモコのモフモフ権を譲る気は全くないから」

 

昨日の言い争いがどれだけ凄まじかったのかはケインの知るところではないが、モコのモフモフ権とやらをめぐる言い争いは相当激しかったようだ。フウカに宣戦布告のような事をした後、リリスは掲示板を見に行ったので、ケインとモコは休憩スペースで取り敢えず座っておくことにした。

 

「そういえばバルトさんはどうしたんですか?ここには居ないみたいですけど」

 

「バルト?バルトなら朝早く出掛けていったわよ。ツヴァイ支部から応援要請が入ったのよ」

 

ツヴァイというのは、マリーナ王国の中で工業都市と言われているぐらい工業が発展している都市だ。トレントの正反対の場所に位置している。マリーナ王国の地形が少し変わっている(簡単に言えばドーナツ状になっている。真ん中にはカロッツェリア湖という大きな湖がある)ので、トレントから行くには飛行船を使わないとツヴァイには行けない。一応カロッツェリア湖を横断する船があるのだが、飛行船が開発されてからは滅多に使われなくなってしまった。なのでバルトは朝早くから飛行船に乗ってツヴァイに行ったことになる。

 

「大変ですねバルトさん。まぁB級遊撃士だからしょうがないですけど」

 

「そうね。ケイン君もリリスちゃんも早くバルトに追いつけるように努力しないとね」

 

ケインはバルトに早く追いついて一人前の遊撃士になろうと心に誓った。そこに掲示板を見終わったリリスがやってきた。その手には掲示板に貼られていただろう依頼書のような紙を手に掴んでいた。

 

「ケイン!依頼が有ったわよ」

 

「本当?どんな依頼?」

 

「エリナの両親が経営するルネラウス牧場からよ。詳しいことは牧場で話すから来てくださいって書いてあるわ」

 

「ルネラウス牧場か・・。何時から行けばいいって書いてある?」

 

「えっと・・・。午後1時から始めたいから、12時に来てください。昼御飯はご馳走しますだって」

 

ケインがトレント支部の時計を見て時間を確認したところ、今は午前11時を少し過ぎたぐらいの時間。約束の時間までまだあるようだ。

 

「だったらアルタルシア間道の見回りも兼ねて先に行こうよ」

 

「それもそうだね。フウカ、この依頼を受けることにするわ」

 

そう言ってリリスはフウカに依頼書を渡した。フウカは依頼書を貰ってなにやらハンコのような物を依頼書に押し、そしてケインとリリスのフルネームを依頼書に書き込んだ。

 

「はい。これでこの依頼はあなた達に受理されたわ。さあ行ってきなさい」

 

「わかりました。それじゃあ行こうかリリス」

 

「ええ!早く行きましょう!エリナに会うのが楽しみだわ!」

 

ケインとリリスとちゃっかりモコも一緒にルネラウス牧場へと向かった。

 

 

 

 

エリナというのは、エリナ・ルネラウスと言ってケイン達と同級生の女の子で、たくさんの弟や妹達のお姉ちゃんとして日々相手をしている。リリスと特に仲が良く、日曜学校にいた頃からの親友でもあった。だが、リリスとケインが遊撃士になるために勉強を始めてからなかなか会う機会が無かったため、久しぶりに会うリリスはとても楽しみにしている訳だ。

 

アルタルシア間道の見回りも兼ねて真っ直ぐ西へ進み、途中に木でできた簡素な看板を目印として左に曲がり、少し行ったところに目的の場所のルネラウス牧場がある。ここでは最高級の肉として有名なピッカードを育てている。外国からも注文が来るとか来ないとか。

 

ケイン達は12時より15分ほど早くルネラウス牧場に到着した。右手にはルネラウス家の住む大きな家とピッカードを飼っている柵で囲まれた牧地、目の前にはピッカード達の餌になる野菜を栽培している大規模な畑、そして左手には小さいながら川が流れている。

 

「僕達はどこに行けばいいんだろ?」

 

「取り敢えず家のチャイムを鳴らしてみましょう」

 

リリスは家の玄関の隣についているボタンを押した。すると家の中からハーイという大きな声が聞こえた。そしてたくさんの足音が聞こえてきて、玄関の扉が開かれた。

 

「どちら様でしょうか?」

 

「久しぶりエリナ!元気にしてた?」

 

「えっ?リリス?本当にリリス!?久しぶりー!なんでまた急に?」

 

エリナとリリスは両手を繋いで久しぶりの再会を喜んでいた。エリナの後ろにはエリナのまだ小さい妹達が警戒しながらケインとモコをチラチラ見ている。それに気づいたエリナはリリスから少し離れてリリスの後ろを見た。

 

「えぇ!?なんでケイン君も居るのよ!本当に今日はどうしたの?」

 

「久しぶりエリナ。今日は遊撃士の仕事で来たんだよ。依頼を遊撃士協会に出していただろ?」

 

「え、えぇ。確かに出していたけどそれって遊撃士しかできないはずじゃ・・・。も、もしかして!!」

 

「そうよエリナ。私たちは晴れて遊撃士になったのよ!!」

 

「まぁまだ見習いの準遊撃士だけどね」

 

「スゴーイ!!本当に遊撃士になることにしたのね!」

 

リリスとエリナがまた2人でワイワイやり始めた。ケインがそろそろ家の中に入れて貰って仕事の内容を知りたいなと思っていると、今度は男の声が家の中から聞こえてきて、エリナの後ろから人影が現れた。

 

「エリナ。お客さんかい?」

 

「あ、お父さん!遊撃士になったリリスとケイン君だよ」

 

「お久しぶりですケディスさん。今日は遊撃士として依頼の仕事をしにきました」

 

「こんにちはおじさん。ニーナおばさんは元気?」

 

「おお!ケイン君とリリスちゃんも。そうか遊撃士になることにしたのか。これから大変だろうけど頑張ってね!!仕事として来たのなら上がりなさい。仕事の話をしよう」

 

「さぁ2人とも上がって!!お母さんのご飯をご馳走するわ!」

 

ケインとリリスはエリナとケディスに連れられてエリナの家に上がらせてもらうことにした。モコは一応外に待機させることにしたが、なかなか離れなくて苦労したところは割愛させてもらおう。

 

 

ここの牧場はエリナとその両親。そしてエリナの1つ下の弟と3つ下の妹の5人で今のところは切り盛りしている。エリナの父親の名前はケディス・ルネラウス。母親の名前はニーナ・ルネラウスという。2人はトレントでは有名なおしどり夫婦である。エリナにとっても自慢の両親だと言っていた。そしてニーナはトレント1じゃないかと言われるほど料理の腕がある。料理が得意じゃない人のために料理教室を開くほど。そんなニーナの料理を食べ終わった2人はそれぞれ感想を述べた。

 

「御馳走様でした。ニーナさんのご飯はいつ食べても美味しいですね!僕も見習いたいぐらいですよ」

 

「本当よね。おばさん御馳走様でした。いつ食べても美味しいわ」

 

「あらやだ。こんなおばさんを誉めても何にも出てこないわよ」

 

口に手をあてて少し上品に笑うニーナ。ケインとリリスは、ニーナさんがどこかの良家の出身だと聞いたことがあるがその詳細は不明である。

 

「母さんの自慢の料理を食べ終わった所で悪いが仕事の話をしていいかな?」

 

「あ、はい!お願いします」

 

ニーナがテーブルの上に並べられた皿を片付けてキッチンに持って行き、ケインとリリスが座っている向かいにケディス、ケディスの左隣にエリナが座り、右隣にニーナが座った。ニーナが座ったのを確認したあと、ケディスが口を開いた。

 

「ケイン君達が来たのは本当に有り難い。実は仕事というのは子供達のお守りをしていてほしいんだよ」

 

「お守り・・ですか」

 

「そうだ。正確にはお守りだけでは無い。エリナは君達と同い年だからいいが、まだまだ小さい子もいる。親に甘えたい年頃の子ばかりだ。私達も相手をしてやりたいんだが、今日はピッカード達を連れて隣のラグーナに行かないといけないんだ。その後はマルトスにも行かなきゃならん。だから帰るのは夜遅くになってしまう。それまでエリナと協力して牧場の仕事をしながら子供達の面倒も見てもらいたい。頼めるかな?」

 

「エリナと一緒なら牧場の仕事も教えてもらいながらできるし別に問題ないわ。私はいいわよ」

 

「なら僕が牧場の仕事をやることにするよ。判りました。その仕事喜んで引き受けさせていただきます」

 

「そうか!本当に助かるよ!なぁ母さん!」

 

「そうね。ケイン君とリスちゃん、子供達を頼むわね?」

 

「「はい!頑張ります!!」」

 

ケディスとニーナはケイン達の言葉で安心しきった表情を浮かべて微笑んだ。ケインとリリスもその顔を見て釣られて笑っていた。

 

依頼内容を聞いた後、御馳走してもらったお礼にケインとリリスは協力して洗い物を片づけることにした。リリスが皿洗いをしてケインはケディスとニーナの為にコーヒーを淹れてあげていた。ほんわかとした食後の時間を過ごした後、ケディスとニーナが出ていく準備を始めたので、ケインは2人を送り出す為に外へ出ていった。

 

「それじゃあ帰りはたぶん21時か22時ぐらいになるけどそれまで子供たちを頼むよ?」

 

「晩御飯を作る材料は冷蔵庫にあるから好きなもの使って良いから。遠慮なんてしなくていいから休む時は自分の家みたいに思ってくれていいからね?」

 

「判りました。お二人も道中気をつけてください」

 

「おぉ、ありがとう。それじゃあ行ってくる!」

 

ケディスとニーナはピッカード達を載せた小型の自動車を走らせていった。自動車を持っている家というのは結構珍しいものであり、庶民には値段的にとても手が出せない代物だ。富豪の人達にとっては贅沢品でしかないためとても高いが、ルネラウス家のような遠くまで物を運ぶ人たちには、安く手にはいるような工夫がマリーナ王国政府によってなされている。詳しいことは判らないが、取り敢えず助かっているらしい 。

 

「さて、それじゃあ仕事に取り掛かるかな」

 

「キュウ!」

 

「おう、待たせたなモコ。寂しくなかったか?」

 

「キュウ!」

 

足下でケインの足にスリスリしていたモコを抱き上げ、ケインはピッカード達のいる牧場まで取り敢えず移動することにした。

 

 

〔リリスside〕

 

 

リリスは、エリナとその3つ下の妹であるクラリアと一緒に妹弟達を外で遊ばせていた。リリスは全員で5人いる子供達がエリナと一緒に庭で遊んでいるところを座りながら見ていると、クラリアがリリスの隣に座ってリリスに話し始めた。

 

「リリス姉ちゃんはみんなの名前を覚えてる?」

 

「流石に覚えてないかなぁ・・アハハハ・・。エリナとクラリアとキースとアルぐらいかな。でも顔は判別できるわよ」

 

「それはだって小さい頃から一緒に遊んでるもん。私だってリリス姉ちゃんやケイン兄ちゃんにたくさん遊んでもらったし」

 

「そうね。確かに毎日のように遊びに来てたもんね」

 

ケインとリリスはよく日曜学校帰りや平日の日でもしょっちゅうエリナの家で日が暮れるまで遊んでいた。特にエリナの1つ下のキースと3つ下のクラリアはケイン達のことを兄や姉のように慕っていた。クラリアの場合初恋はケインのようで、このことはケイン以外皆知っている。それは今でも継続中だ。

 

「いいなぁリリス姉ちゃんは。大好きな人といつも一緒に居ることができて」

 

「それはだって私とケインは家族だから当然のことでしょ?」

 

「それでも羨ましいよ。リリス姉ちゃんがケイン兄ちゃんのこと好きなのは知ってる。私なんかじゃ到底勝てないことも判ってる。でも・・・」

 

クラリアは哀しくなったのか顔を伏せてしまった。リリスもどう声をかければいいのかわからなくなっていた。自分と同じ人を好きになり、圧倒的な差があることも自覚している。今のところ一番関係が深いリリスがクラリアに声をかけたところで慰めにもならないのではないのかと。

 

「なにふてくされてるのよクラリア」

 

「エリナ姉・・」

 

そこにさっきまで妹弟達と遊んでいたエリナがやってきた。クラリアは顔を上げてエリナの顔を見て、また顔を伏せてしまった。

 

「はぁ・・。クラリア、リリスなんかに遠慮しちゃいけないわ。好きだったら略奪愛でもする勢いで頑張らなくちゃリリスやフウカさんには勝てないわよ」

 

「私なんかじゃ到底適わない人達がライバルなんて勝てっこないよ・・・」

 

「へぇ、そうなんだ。じゃあクラリアのケイン君を想う気持ちなんてそんなものなのね」

 

「そんなことない!!」

 

エリナの挑発的な一言に勢い良く立ち上がり大声を上げて抗議したクラリア。妹弟達も何事かと一瞬こちらを見たが、気にすることなくすぐに遊び始めた。クラリアも少し恥ずかしかったのか頬が紅潮していた。

 

「そんなことないんだったら何でそんなに弱気なの?」

 

「それは・・」

 

「まだまだねクラリア。私の妹ならもっと自信を持ちなさい!ケイン君を振り向かせるぐらいの魅力ならクラリアにもあるわよ!」

 

「そ、そうだよね。まだ勝負もついてないのに諦めるなんて早すぎるよね・・」

 

「そうよクラリア。都合がいいことにケイン君はこの手に関して酷すぎるぐらい疎いからまだチャンスはあるわよ!」

 

「うん!私もう少し頑張ってみるね!」

 

クラリアの目には自信が戻ってきたのかいつも以上に輝いて見えた。クラリアはリリスの隣から立ち上がって少し歩いた後、リリスの方に向き直って大きな声で言い放った。

 

「リリス姉ちゃんに絶対負けないからね!!ケイン兄ちゃんの心は私が絶対射止めてみせるからね!!」

 

そのままクラリアは自分の妹弟達の方へと走っていった。当のリリスは自分がフウカに言った言葉をそっくりそのまま言われてしまったせいで呆気にとられていた。座ったまま動かないで居ると、今度は隣にエリナが座った。

 

「またしても強力なライバルが出現したねリリス」

 

「エリナ・・・。そうね、私もウカウカしてられないわ」

 

「ケイン君への想いの強さはクラリアもあなたもフウカさんも一緒よ。誰がケイン君の心を射止めてもおかしくない。リリスも負けないようにね」

 

「負けるわけないでしょ!!私が一番ケインと関わってきたんだから!」

 

リリスは立ち上がり空に向かって大声で叫んだ。その姿を座りながら見ていたエリナは微笑みを浮かべている。そこにエリナの妹であるリーザとレアがやってきた。

 

「ねぇーたちもあそぼう?おにごっこやろ?」

 

「おにごこやろ?」

 

「じゃあねぇーも遊ぼうか」

 

「わーい!」

 

「わー!」

 

リーザとレアはエリナの言葉を聞いて喜びながらそのままクラリア達のいる方へと走っていった。

 

「今のは誰と誰?」

 

「まだしっかり言葉が話せない方がレアで違う方がリーザよ。レアはリリスと一緒でポニーテール、リーザはツインテールよ」

 

「流石お姉ちゃん。全部わかるのね」

 

「当たり前じゃない!私はあの子たちのお姉ちゃんなんだから。わからない方がおかしいわよ。ほら、リリスも行くよ」

 

リリスは先に行くエリナを追いかけて少し早めに歩いた。ここで突拍子もなくある疑問がリリスの脳裏に浮かび上がった。今までずっと一緒に過ごしてきたエリナはケインのことをどう思っているかという疑問だ。ちょうどエリナに追いついたのでリリスは聞くことにしてみた。

 

「エリナはケインのことをどう思っているの?今まで一緒に過ごしてきたけど」

 

「私?そうね・・。内緒!」

 

エリナはそのまま鬼ごっこをやっている妹たちの輪へと入っていった。

 

「な、内緒って!ちょっとエリナ待ってよ!!」

 

リリスもエリナを追いかける形で鬼ごっこに参加していった。クラリアやエリナがリリスのことを鬼だと言ったため、リリスが最初の鬼になって遊んでいるうちに、エリナの思わせぶりな一言もリリスはいつの間にか忘れていた。

 

 

 

〔ケインside〕

 

 

 

「リリスは楽しくやってるようだね。ここまで声が聞こえてくるよ」

 

「ケイン兄ちゃん。そんなこと言ってないでちゃんと手伝ってよ」

 

「キュウ!」

 

「うわぁ!だからお前はこっちくんな!!ケイン兄ちゃんのところに行ってろ!」

 

「キュウ・・・」

 

「キース、あんまりモコをいじめるなよ?」

 

ケインはエリナの1つ下の弟であるキースと一緒にピッカードの世話をしていた。さっきまでピッカードが寝る獣舎の掃除をしており、今はピッカードを外に出して放牧状態にしている。天気もいいのでピッカードも各々遊んだり昼寝をしたりとのんびりした空気が広がっていた。

 

「手伝うって言ってもピッカードが柵より外に出ないかを見るだけでしょ? 2人も要らないと思うけどね」

 

「だからってピッカードに囲まれながら芝生で横になる必要ないと思うけど」

 

「しょうがないだろ。僕が寝てたところに集まってきてピッカード達も昼寝を始めちゃったんだから」

 

獣舎の掃除が終わってなかなかに疲労が溜まったケインがピッカード達を放牧状態にさせてすぐ芝生に横になった。天気の良さも相まって睡魔がケインに襲いかかった時に、ピッカード達がケインの周りに近づいてきてケインのように眠りだしたわけだ。

 

「このあと何かやることはある?」

 

「このあと?ピッカード達を獣舎に戻してエサをやって終わりかな?」

 

「それだけで終わりか。それじゃあ僕達もリリスの所に参加しようかな」

 

ケインがピッカード達を起こさないように慎重に立ち上がり、ピッカードに紛れて昼寝をしていたモコを腕に抱いてキースの側までやってきた。服に付いた芝生を手で払っていると、キースが何やらケインに言いたいことがあるような雰囲気を醸し出していた。

 

「なにキース?言いたいことがあったらちゃんと言わないと伝わらないよ?」

 

「う、うん・・・。ケイン兄ちゃん」

 

「なに?」

 

「俺に剣を教えてくれないか?」

 

「ダメだね」

 

「な、なんでだよ!教えてくれよ!」

 

「ダメなものはダメ」

 

剣というものは魔獣を倒すための道具でもあり、簡単に人を殺せる凶器にもなるもの。易々と人に教えて良いものではないとケインは思っていた。

 

「教えて貰いたかったらそれなりの理由と自前の剣を持ってくること。そしたら考えてあげてもいいよ。その前に剣とは何か教えてあげる。あのね・・・」

 

いつものケインとは違う何か威圧感のようなものを感じたキースは黙り込んでしまった。ケインとしてもあまり言いたくなかったのだが、剣を筆頭とする魔獣退治用の武器は使い方を誤れば犯罪になりかねない。キースに限ってはないだろうが、憧れや格好良さを求めて扱って良い代物ではないことをキースにじっくりと教えた。

 

「・・・というわけ。わかった?この話を聞いてもまだ剣を扱ってみたいというのなら、さっきも言ったがそれなりの理由と自前の剣を持ってくること。そうしたらキースの師匠にでもなって教えてあげるよ。わかった?」

 

「わかったケイン兄ちゃん。絶対ケイン兄ちゃんに僕の師匠になってもらうからな!」

 

「まぁ頑張ってね。それじゃあそろそろピッカード達を獣舎に戻そうか」

 

「そうだね。それじゃあまた手伝ってケイン兄ちゃん」

 

「おう!モコも手伝ってくれよ?」

 

「キュウキュウ!」

 

モコは返事をしたあとケインの腕の中から飛び降りて、ピッカード達がいる場所にフワフワ飛んでいった。何事かとケインとキースが見ていると、ピッカード達がいる辺りの丁度真ん中に降り立ち、どういう構造なのか判らないがモコが自分の体から輝かしい光を放ちだした。それを見たピッカード達はまるでモコに操られているかのように、規則正しい列で獣舎に戻っていった。

 

「どうなっているんだろあれ? モコが自分の意思をピッカード達に伝えているのか、操っているのかな? 滅多に見ない珍しい魔獣だとはバルトさんが言っていたけどここまでとはね」

 

「いつも素直に獣舎へ戻らないピッカード達がいとも簡単に戻るなんて・・・」

 

そして最後のピッカードが獣舎へ戻った所でキースが扉を閉めて仕事は終わった。モコは光を納めて何故だか嬉しそうに飛び跳ねながらケインの所へと戻っていき、ケインがモコを抱きかかえた。

 

「モコは凄いな。今のどうやったの?」

 

「キュウ。キュウキュキュキュウキュ。キュウキュウ!」

 

「何か伝えようとしているのは判るけど、何言っているか全然判らない」

 

「ケイン兄ちゃんの言葉が判るのかな?」

 

「どうだろうね。話がわかるかどうかなんて僕達には判らないよ。それよりも仕事が終わったからリリス達の所に行こうか」

 

「キュウ!」

 

ケインとキースとモコは、さっきから子供達の笑い声や遊んでいる声が聞こえる所へ歩いていった。

 

 

 

ケイン達がリリス達と合流してからは妹弟達といろんなことをして遊んだ。モコはエリナやクラリアに弄ばれて疲れきった姿をしており、ケインは子供達とずっと遊んでいて、ピッカード達の世話よりも遥かに疲れた表情をしていた。

 

太陽が傾いて来て空も夕焼けに染まり始め、時間も午後6時を過ぎていた。ケイン達は子供たちを庭で遊ばせることをやめて家の中に戻らせて、ケインを筆頭にして晩飯を作り始めた。

 

「みんなは何が食べたい?」

 

「リーザカレー食べたい」

 

「カレー食べる」

 

リーザとレアはカレーライスが食べたいと言った。一番年下の妹達を優先する決まりなのか、みんなそれでいいと言った。ケインはカレーで使う野菜達と多分ピッカードの肉であろう肉を冷蔵庫から取り出し、大鍋にまず肉を入れて炒める。その間に野菜を小さい子にも食べられるように小さく切り、大鍋に入れて少し炒めてから皿に入れて置いておく。そして大鍋に大量の水を入れて火をかけ、沸騰したところでカレーのルウとさっき炒めた野菜と肉を入れて煮込む。

 

大鍋のカレーを煮込みながらゆっくりかき混ぜていると、クラリアが手伝いをすると申し出てきた。ケインは快く承諾して、2人でカレーを作ることになった。

 

「そろそろできるはずだから皿にご飯を盛っといてくれないかな?」

 

「わかった。それ以外になにかやることあるかなケイン兄ちゃん」

 

「そうだな・・・。カレーだけじゃ寂しいからなにかもう一品作ってくれる?」

 

「わかった。サラダでいいかな?」

 

「そうだね。好きなように作ってくれてもいいからお願いできる?」

 

「うん!できたら味見してね?」

 

「おう。まかせとけ」

 

このようなやり取りをリビングから見ていたリリスは、内心凄く羨ましかった。自分は料理ができないから一緒にご飯を作ることもできなければ、自分から積極的に動くこともできない。だからクラリアとケインが笑顔を交えながら晩御飯の準備をしている姿は、リリスにとってクラリアに一歩リードしているところを見せつけられているような気がした。

 

「はぁ・・・」

 

「どうしたのリリス。ため息なんてあなたらしくないわね」

 

「私だってため息ぐらい吐くわよ。あんなの見せられたらね」

 

リリスが目配せでクラリアとケインが仲良く晩御飯を作っているところをエリナに教えた。エリナはそれを一瞥して、少し微笑んだあとまたリリスを見て言った。

 

「ふふふ。そりゃあれを見たらため息も吐いちゃうわね。クラリアにあんな宣言されたから余計にね」

 

「はぁーあ。私もケインに対してもっと積極的に行動しないといけないわね・・・」

 

「ケインの事が好きな人が多いから確実に一歩リードしておかないといけないからね。でもリリスはケインと一緒に旅して各地を巡るんでしょ?それを考えたら他の人より相当リードしてると思うけど?」

 

「まぁそれはそうだけど・・・。トレントを旅立つのがいつになるのかわからないし私とケインが旅立つ前に他の人とケインが恋人関係になるかもしれないじゃない」

 

リリスが少し語気を強めて話す。

 

「そんなの絶対嫌!一緒に各地の支部を巡る旅なのに私以外の女に後ろ髪引かれながらするぐらいなら私一人で各地を巡って一人で正遊撃士になってやるわ!」

 

「少し声が大きいリリス。まぁその意気で頑張ればきっとケイン君は振り向いてくれるよ。私は姉としてクラリアを応援するけど、親友としてリリスを応援するわ。だから他の街で見ず知らずの女なんかにケイン君を取られないように見張っておきなさいよ?」

 

エリナから激励と言って良いのかはわからないが応援してもらったリリス。クラリアとケインの2人が仲睦まじく料理をしている姿をもう一度見た後、今後の正遊撃士になるための旅で絶対今の家族の関係から一歩踏み込んだ深い関係に進展するぞと心の中で誓うリリスだった。その隣のエリナはケイン達の旅が成功して無事正遊撃士になれるよう決して言葉にせず心の中で願うのだった。

 

 

 

 

「みんなー。晩御飯ができたぞー。食器とかはできるだけ自分で用意してね」

 

「みんなご飯を食べる前に手を洗ってきてね」

 

リリスとエリナが妹たちの様子を確認しながらおしゃべりに華を咲かせていると、ケインの大きい声がキッチンの方から聞こえてきた。クラリアがケインの後ろから妹たちに優しい声でそう言うと、みんな一斉に洗面所へと走っていった。そして皆が帰ってきて席に着くと一斉に「いただきます」を言って、楽しい晩御飯の時間が始まった。晩御飯を食べているところは割愛させていただく。

 

晩御飯はみんな大満足のようで、ケインは胸をなでおろしていた。その後子供達を風呂に入れて寝かしつけ、今の時刻は夜10時を少し過ぎたところ。起きているのはケインとリリス、エリナにクラリアとキースの5人だけ。ケインとキースは色々な話で盛り上がっているようだ。女性グループでもファッションの話や色恋沙汰などの話で盛り上がっていた。すると、家の外からエンジンの音が聞こえてきて、すぐに家の玄関の扉が開く音がすると、ケディスとニーナの姿が見えた。

 

「ただいま!」

 

「ただいま。子供達はもう寝たのね」

 

「はい。皆ぐっすりと寝ていますよ。あと晩御飯ですが、僕が作ったカレーが鍋の中にあるので、温めて食べてください」

 

「それは助かるよ。もうお腹ペコペコだからね」

 

ケディスが笑いながら荷物をテーブルの椅子の所に置く。そして荷物の中を手探りで何かを探して、「お、あったあった」と言って取り出すと、ケディスの手には巾着袋が握られていた。

 

「ケイン君、リリスちゃん。今日は本当にありがとう。これが今日の報酬だよ。受け取ってくれ」

 

ケインが巾着袋を受け取ってその中を確認すると、ピッカードの肉をパック詰めしたものと10000ベルが入っていた。

 

「こんなにたくさん・・・。いいんですか? ピッカードの分も合わせたら20000ベル以上の値段になりますよ?」

 

「いいんだよ。ケイン君やリリスちゃんにはいつもお世話になっているし、子供達の面倒も見てもらっているからね。今日やっと今までのお礼ができたって私達は思っているから」

 

「そうよ。遠慮せずに貰ってくれないかしら?」

 

「ケディスさんとニーナさんが貰ってくれって言っているんだから貰いなさいよ。貰わないのは逆に失礼よ」

 

「リリスの言うとおりだね。わかりました。ケディスさん、ニーナさん。この報酬有り難く頂戴いたします」

 

ケインは報酬の入った巾着袋を自分が持ってきていたカバンにしまい、もう一度ケディス夫妻にお礼を言った。

 

 

 

ケイン達はルネラウス家を後にして、今は星空が綺麗な空の下を歩いている。モコは子供達の相手をずっとしていて疲れたのか、ケインの腕の中で規則正しい寝息を奏でている。ケインが星空を仰ぎ見ながら歩いている側で、リリスは葛藤に駆られていた。

 

(今は夜だから誰も見ていないはず。それに今はケインにアピールする大チャンスじゃない!!腕を自分から組みに行けばきっとケインでも私の気持ちに気付いてくれるはず!勇気を出せわたし!)

 

「リリス?さっきから何かブツブツ言ってるけどどうしたの?」

 

「えっ!?な、なんのこと?」

 

「いや、腕を組むとかどうとか言っていたから何かなぁと思って」

 

いつの間にか心の声を実際に出していたリリスは、ケインのご指摘で顔を真っ赤にして俯いてしまった。ケインが気になってリリスの顔を覗こうとした時、リリスがケインに向かって腕を振りかざした。ケインはそれを何とかモコを起こさずに避けて後ろに下がった。

 

「いきなり攻撃してこないでよ!危ないだろ!モコを起こしちゃうから」

 

「うるさい!!勝手にケインが私の独り言を聞くから悪い!!」

 

そう言ってまたリリスはケインに向かって殴りかかる。ケインはそれをギリギリでかわしたが、ケインが激しい動きをしたせいでモコが「キュゥ・・」と言って起きてしまった。ケインは取り敢えずリリスを宥めるのが先だと考え、モコを少し離れた場所に避難させておいた。

 

「僕が盗み聞きしたのは謝るから取り敢えず家に帰ろう?今は夜だから何かに躓いて転んで怪我するのも馬鹿らしいからね?」

 

「ふん!!まぁ確かにそうね。だったら早く帰ってケインを殴らせなさい。そうしないと気が済まないわ」

 

リリスは一旦落ち着きを取り戻す。ただ単に恥ずかしくて俯いていただけなのにケインが急に顔を覗き込んでしまったために余計恥ずかしくなってしまって咄嗟に手が出たなんて今更言えるわけがなく、リリスは帰ったら一発ケインを殴るという意味不明な約束をすることで少し自分を落ち着かせる。ある程度落ち着いたところで再び歩き出すと、幸か不幸かたまたま足元に落ちていた石か何かに躓いて前のめりに倒れそうになったしまった。

 

「キャッ!?」

 

「危ない!!」

 

ケインは前のめりに倒れていくリリスを急いで抱きかかえ、倒れそうになりながらもなんとか持ちこたえた。そして、そのまま抱き締める形になりながらリリスの耳元で話をし始めた。

 

「だから言ったじゃん。何か躓くかもしれないだろって。ま、怪我がなくてよかったよ」

 

ケインはリリスの肩を持って少し体から離してリリスの顔を覗き込んで笑顔を見せた。リリスはその笑顔を見て顔を紅潮させ、ケインの顔を直視できなくなっていた。ケインはどうしようかと考えた末、離れた場所でスヤスヤ眠っていたモコを片手で抱きかかえ、俯いたまま動かなくなっていたリリスの腕を強引に組んで歩き始めた。リリスはケインの行動に慌てふためき必死に離れようとしたが、ケインが結構な力を込めていたため離れることができなかった。

 

「ちょっと何するのよ!?離しなさいよ!誰かに見られたら恥ずかしいじゃない!!」

 

「今は夜の11時前だよ?この時間帯に街道をうろつく人なんていないから見つからないよ。それにこうした方が何かに躓いても助けてあげられるでしょ?」

 

「それはそうだけど・・・」

 

「さっさと帰って早く寝よう。僕はもうクタクタだよ。楽しかったからいいけど」

 

(私は仕事よりも今が一番緊張してるんだけど!まぁでもなんだかんだで腕を組むことができたからよかったのかな?)

 

こうして、ケインはモコを片手で抱きかかえながらリリスと腕を組むことなど気にせず歩き続け、リリスは恥ずかしいけど自分がして欲しいことをしてもらったから嬉しいというよくわからない想いに駆られながら帰路に着いた。

 

 

 

ケインは家に着いたあとリリスと組んでいた腕を外してそのまま自分の部屋へ急いでモコを寝かせに行った。リリスは少し残念そうな表情をしたが、すぐ頭を横にブルブル振って速足で自分の部屋に入っていった。 ケインもリリスもそのまま眠りについて明日に備えることにした。ただ、リリスはさっきのケインの行動のせいでなかなか寝付けなかったのは言うまでもない。

 




おはこんばにちはLEGENDです。今回は主人公の2人に初依頼をこなしてもらいました。大型魔獣との戦闘描写は上手く書けてるかどうか不安ですが、まあ大目に見てください。

この投稿も書き溜めたものを区切りながら投稿していますので、キリがいい所で区切っていたら約2万字まで伸びてしまいました。読みにくかったと思いますが、後書きを読んでいるということは、そんなに気にもしていないという事ですね(ニッコリ)

今後の2人の活躍に期待してください。では。
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