リリスを鉱員達に任せたケインとモコは、破壊した岩の奥へと進んでいた。鉱員達が閉じこめられていた場所はちょっとしたドーム状の形をしており、なかなかの広さだ。
「凄いな。まさかこんな場所になっているとは思わなかったよ。休憩所としてはもってこいの場所だね」
鉱員達が閉じこめられていた場所というのは、鉱員達が普段休む休憩所として造られた場所になる。勿論鉱石も掘っていたのだが、今は鉱員達の休憩所としての役割の方が強い。そのため、椅子やソファーといったものから仮眠をとるためのベッドも置かれていた。
「今まで鉱山道を通ってきたけど大型魔獣が住み着くような場所は無かった。もしかしたら壁一枚向こう側に自然の空洞があるのかもしれない」
「キュウ♪」
ケインが壁際の調査を始めている足元で、何故か喜びながらピョンピョン跳ねているモコ。ケインは微笑ましくなりながらも調査を続行する。休憩所の壁を一通り触ったり耳をかざしたり、壁をたたいて反響する音がないか調べたりしてみたが、十分な成果は上げられなかった。疲れてしまったケインは、仮眠用のベッドに横になって身体を休めていた。
「ダメかー。何かあると思っていたけど思い違いだったみたい・・・。ちょっと休憩したら帰ろうかな」
「キュウキュウ♪」
ケインが横になっている隣でモコも何故かニコニコしながら休んでいた。天使の輪っかのようなものが休憩所の光源によってキラキラ光っている。ケインはそれを見ながらもこもこしているモコを撫でていた。
「さて、リリス達が待っているからそろそろ帰りますか!」
ケインは横になっていたベッドから立ち上がり、モコを連れて帰ろうと腕の中に収めようとしたところ、モコがベンチから勢いよくジャンプして一心不乱に休憩所内を動き出した。ケインはモコを追いかけるために一緒になって走っていると、ある場所で急に立ち止まり、ここほれワンワンと言っているかのように発光し始めてその場で一定のリズムをとりながら跳び始めていた。
「なんだモコ?そこに何かあるの?」
「キュウキュウ!」
「でも掘る道具がないから確かめようがないし・・・」
ケインが何か掘れる道具がないか周りを見回していると、モコの光が急に強くなって目も開けられないぐらい眩しく光り始めた。
「くっ!モコ!!一体どうした!」
「キュウゥゥゥゥウウウ!!!」
モコは今まで出したことのない大きな叫び声をあげた。そして光は更に勢いを増して、目をつぶっていても眩しいくらいの輝きを放っている。まるで閃光弾を目の前で破裂させられたような強い光のせいで、光がだんだん収まってきているのにも関わらず、目をあけることができないケイン。少しして視界が元に戻り、ケインが目を開けるとそこにはアリジゴクが住んでいるような穴が開いていて、足元にはまるで褒めて褒めてと言っているようにモコがピョンピョン嬉しそうに跳ねていた。
「これはモコがやったんだよね・・・」
「キュウ♪」
「凄すぎて言葉が出ないよ・・・。それにこの穴は下に繋がっていそうだね」
アリジゴクが住んでいそうな穴の一番下には人が3人ほど入れる穴が開いていて、その中には光源がない通路が見えた。
「光源が無いっていうことは人工的に造られたものではないみたいだね。でも明らかに整地されている通路だろうから、もしかしたら妖精かそれと同等の知能を持った魔獣が造った可能性が高いな」
『妖精』というのは、人間並みに知能が高く群れで行動する魔獣である。森の中に集落を造って生活する部族も居れば、一定の場所に集落を造らずに絶えず移動しながら生きる部族もいる。何十種類という膨大な数が確認されているため、一括りで『妖精』と呼ばれている。
「取り敢えずここは降りて探索を試みた方が良さそうだね」
ケインはアリジゴクの穴の中へモコと一緒に降りていき、目印として鉱山長から貰った松明を置いて、ランプで足元を照らしながら探索を始めた。
*
その頃リリスは、鉱員達にトレント鉱山の外へ運んでもらった後、遊撃士協会トレント支部へ戻っていた。体調はまだ万全ではないらしく、フウカに看病されながら二階にあるベッドで身体を休めている。
「なんで私だけこうなっちゃうのかな? ケインと一緒に調査したかったのに・・・」
「リリスちゃんの場合ケイン君とただ単に一緒に居たいだけじゃないの?」
ニヤニヤしながらリリスの言葉を訂正するフウカ。フウカの言葉で顔を真っ赤にして俯くリリス。そしてすぐフウカに反論するリリスだが、軽く流されてしまってふてくされたリリスをフウカは楽しげに見つめる。トレント鉱山で大事故が起きているにも関わらず、そんな空気を一切感じないほど平和だった。フウカはリリスをからかった後、思い出したかのように机に置いていた本を手に取りリリスに見せた。
「そうだ!リリスちゃんこの本見てよ!」
「なにこのボロボロの本。これがどうかしたの?」
「一通り読んでみたんだけど、信じられない話が沢山載ってて面白いのよ!」
リリスはフウカから丁重に本を受け取って中身を読んでみる。その本には、今では確認されなくなった伝説の魔獣『竜』の話や、古代の遺物の話などの常識では考えられない話が多数載っていた。
「なにこれ・・。雲まで届いた塩の巨大な柱に月を貫く古代魔術兵器、空に浮かぶ秘宝の島、不老不死の伝説・・・。作り話としか思えないものばかりじゃない」
「だから楽しいんでしょ? この本の作者の想像力の高さに圧巻されるわ。それに本当にあった話のようなものも所々に紛れているしね」
「え?そうなの?」
ちょっと待っててと言ってフウカは本を丁寧に捲っていき、本の中間ぐらいのページの所まで捲ったところでリリスにページを見せた。
「『遺跡が降る夜』?」
「そう。大昔のとある夜に空から遺跡が降ってきて、近くに住んでいた青年が中を探索すると見たことが無い文字と共に宝が眠っていたっていう話。実はこれ遊撃士協会が発足した辺りの古い資料に載ってるのよ。実際は何人もの遊撃士が探索したけどもぬけの殻だったみたいね」
「そんなことってあるの?なんで空から遺跡が降ってくるのよ!」
ベッドで寝ていたリリスはいつの間にか起き上がってフウカに詰め寄っていた。あまりの顔の近さに少したじろぐフウカだったが、冷静さを取り戻しリリスの肩を掴んで少し自分との距離を置いた後に話を続けた。
「そんなこと私が知るわけないじゃない。当時の記録が残っているだけで遺跡が降ってきた原因なんて載ってないもの」
「なんだか腑に落ちないわね。そんな摩訶不思議なことがあったっていう記録だけじゃ信じられないわ」
「それはそうだけど・・・。まぁいいわ。取り敢えずこの話は置いといて、私が今気になっているのはこの話よ」
フウカが本のページをパラパラ捲り、あるページのある話を指差した。それはフウカが図書館で見つけたカロッツェリア湖に浮かぶ星印と鐘のことが書かれている話だった。
「なにこれ?この話も所々色褪せていて読みにくいわね。辛うじてカロッツェリア湖は推測で読めるけど他は全然解らないわ」
「私もよくわからないのよ。でも最後の部分は意味だけなら何となく分かるわ。最後に書かれている『魔』というのは魔獣のことだと思う。そしてそれが騒ぎ出すと何かが始まるとこのページから推測できる。そして最近トレント鉱山もそうだけど他の都市の近くでも大型魔獣の討伐依頼が増えてきているのよ。これは絶対偶然なんかじゃないと思っていたけど、もしこの本のこのページに書かれていることが本当だったら今の状況にピッタリ当てはまるでしょ?」
フウカは自信たっぷりの様子で手振り身振りを鬱陶しくなるぐらい使ってリリスにこの事を説明した。しかしリリスはフウカの推測にあまり納得がいっていないようだ。
「そんな自信たっぷりに言ってるけど、ただの偶然の可能性が極めて高いと思うわよ。いくら大型魔獣の討伐依頼が増えてきていると言っても、それが全ての魔獣が行動を起こしているとイコールにならないじゃない。だからフウカの推測は合っているとは言い難いわね」
「そこまではっきり否定されるとへこむわね・・。ちょっとは肯定してくれてもいいのに・・・」
リリスに真っ向から否定されたフウカは、体育座りをした状態で頭を垂らし、指で『の』の字を書きながらぶつくさ言い始めた。それを見ていたリリスは少し言い過ぎたかなと思いつつも、謝ると調子に乗りそうだったのでそのまま放っておいって、再びベッドに潜って寝始めるのだった。
*
その頃のケインはというと、モコが何かしらの力で開けた穴に入って探索を続けていた。人一人が通れるほどの小さい通路には光源など無く、手元にあるランプとモコの体から発する謎の光を頼りに進んでいく。途中には分岐点や分かれ道といったものは無く、ただひたすら一本の道をケインとモコは歩き続けていた。
10分ほど歩いたところで、少し広い場所に出てきた。鉱員達の休憩所よりかは小さいが、それでも十分広いスペースだろう。明かりは手元にあるランプだけなので、奥に何があるのかはっきり分からない状態だ。ケインとモコは少し周りを警戒しながら奥へと進む。
「何だろうこの場所・・・。またすごい場所に出てきちゃったよ」
1人でぶつぶつ言いながら奥へと進んでいくケイン。モコもケインの後ろを光りながら付いていく。そして光源が無いため入り口が目視できないところまで歩いたところで、急に地面が大きな音を立てながら揺れ始めた。
「なんだなんだ!?また落盤でも起こるのか!」
ケインは上にランプをかざして落盤が起こらないか確かめようとしたが、天井には落盤が起こる気配はしなかった。だが、それ以上の物が存在していた。
「何これ・・・。へ、壁画?しかも竜と人間が一緒に暮らしているものばっかりだ・・・」
ケインが見た天井には、今ではもう絶滅してしまったと言われている竜がたくさん描かれている。中には人間と一緒に共存しているものや、竜が人の姿に変わって人間と仲睦まじくしている様子も描かれていた。竜が人型に変わるときは耳が普通の人間よりも長く尖っており、尻尾も出ているようだ。
ケインはこの壁画を最後まで見るため、さっきよりも歩を進める速度を上げた。とても平和で幸せそうな生活を描いていた壁画も、先に進めば進むほど悲しいものに変化していく。竜と共存していた人達の村が炎と思われる赤いモノに覆われている。竜には火を操る能力があったと後世に伝わっているほどで、ただ単の炎では竜に傷を負わせることはできないだろう。だが、人間は違う。壁画には、竜と一緒に暮らしていた人間が炎に焼かれている場面も描かれていた。
「なんでこんな酷いことを・・・。ただ竜と一緒に暮らしていただけなのに・・・」
「竜と一緒に暮らしていたからじゃよ」
ケインは咄嗟に後ろを振り返り、刀の柄を握っていつでも抜けるようにして戦闘態勢に入った。壁画に集中しすぎて気配を感じ取れなかったのだろう。しかし、ケインが後ろに振り返っても人の姿は見えず、魔獣のような生物も確認できなかった。
「あれ?さっき確かに声が聞こえたはずなのに・・・。どこ行ったんだ?」
「下じゃ。下を見るのじゃ人の子」
「へっ?下を見るって・・・」
「儂はここにおるじゃろ?」
「うわっ!?」
ケインが下を見ると、背丈が1mにも満たない猿のような魔獣?が堂々と仁王立ちしてこちらを見ていた。赤味がかった黒色をしたマントを風に靡かせていて、何かの生き物を象った白色の帽子を被っている。マントの中には幾何学模様の服を着用していて何故か下はパンツ一丁という斬新な格好をしていた。
「何を驚いておる。驚きたいのはこちらの方じゃよ。我らの神聖な地に見回りに来たら人の子が居るんじゃから。人の子など何百年振りに見たことやら。取り敢えずその手に握っておる物騒なモノから手をどけてくれんかの?」
「貴方はいったい何者ですか?貴方の素性が知れるまでこの手を刀から離すわけにはいきません」
「ふん、頭が固い人の子じゃ。儂がお前さんを襲うとでも思うとるのか?」
「思いませんけど一応確認のためです。見た限り人間ではありませんね。かと言って魔獣の類というのも考えにくい。もう一度訊きますけど、貴方は一体何者ですか?」
ケインが一向に態度を崩さないのを見て、謎の人物が溜息を吐きながら渋々といった表情で話し始めた。
「儂はベカンコ族という種族の長をやっているオットレーというものじゃ。人間の世界ではベカンコ族というのは妖精として総称されとる部族の一つじゃ。儂は今丸腰じゃからお前の命を取ることはできん。ほれ、これで満足かの?」
ケインは刀の柄から手を離して警戒を解き、オットレーに対して協力してくれたことに礼を言ったあと、この場所は一体何なのかを訪ねてみることにした。
「ここは大昔の世界を描いたものじゃよ。誰が何のために描いたのかは我らベカンコ族には伝えられてはおらんが、我らの歴代の長たちが長年ここを守ってきたのじゃ。儂も体験しとらんからわからんのじゃが、大昔は人間が言う妖精たちと、ある程度知性を持った魔獣達が人間たちと共存しておったらしい。その絵を見れば判るが特に竜達とは一緒に暮らして子を宿すぐらい親密な関係だったようじゃ。しかし、当時の一部の人間、人類至上主義のような考えを持つものはそれを良しとはしなかったようでの。儂らも実際にこの絵がいつ描かれたのか判らないんじゃ」
「そ、そんなに長い年月の間ずっと見守ってきた場所なんですか・・・。上の世界ではこんな歴史は伝わってないと思います。妖精と交流を持っていた人が居たというのは知っていますが・・・」
「何せ何万年も前の話じゃ。紙もペンもない時代じゃから仕方ないと思うがの。それにここの場所を長年守ってきたのはこれがあるだけではないのじゃ。ここで会ったのも何かの縁じゃ。見せてやるからついてまいれ」
オットレーは、ケインが来た道の反対側へと短い脚からは想像もできないぐらい速く歩き始めた。最早走っているといった方が適切なぐらいのスピードを出しているので、ケインも自然と走って追いかける。
500メートルぐらい走ったところで、前方に大きくて如何にも頑丈そうな扉が姿を現した。そして扉の目の前まで来て上を見上げると、天井が一体どこまであるのか判らないぐらい高く、扉もそれに乗じて恐ろしく高かった。ケインが唖然としながら扉を見つめていると、オットレーはそうなることを見越していたのか、ホッホッホと笑いながらケインを見上げて話を始めた。
「人の子よ、驚いたか?」
「ええ・・・。こんな高さのあるものなんて僕たちの住んでいる世界には有りませんよ。でも不思議ですよね。こんな高さがあるのなら上に住んでいる人がすぐ見つけそうなのに・・・」
「それは儂らが住んでいるこの場所がお主等人間が住んでおる場所と少し変わったところに住んでおるからじゃよ。簡単に言えば次元が違う場所に住んでおるのじゃ」
オットレーの言葉を聞いたケインは一瞬オットレーが何を言ったのか理解できなかったが、少し経って理解したのか物凄い大声をあげて驚きを表現した。ケインがこうなるのも見越していたのかオットレーはまたもやホッホッホと笑っていた。
「驚いたようじゃの。ここは人間が竜を畏れ始めて排除しようとした時代に、人間から姿を晦ますために創った空間じゃ。竜が人間などに後れを取るなど有り得んが、竜のつがいとなった人間と我らのような知性を持った魔獣を守るために創ったわけじゃ」
「そ、想像も付かない話ですね。こんな話日曜学校の授業では聞いたことないですよ」
「そりゃそうじゃ。この場所に外から人間が来ることなんて先ず無いからの。お主が二番目になるかのぅ。最初にここを訪れた人の子を思い出すわい」
オットレーは、目を閉じて昔を懐かしんでいる表情をしていた。どれだけ昔の事なのかはケインには容易に想像できないが、最初にここを訪れた昔日の人間はとてもいい人だったのだろうという事が、オットレーの表情を見れば一目瞭然だった。オットレーは少し思いを馳せた後、2、3度頷いてケインに向き直った。
「ホッホッホ。こんな所で油を売っていてもいかんな。さぁ付いてまいれ」
そう言ってオットレーは目の前にある扉を、手で押して手動で開けてしまった。天井が見えないほどの高さでとても頑丈そうで重量も人間の体重の数百数千倍もある扉を、1mにも満たない体で易々と開けたオットレーを見ていたケインは口をあんぐりと開けて、開いた口が塞がらないという諺と同じ姿をしていた。そんなケインなどお構いなく中に入って行ったオットレーを追いかける形で、ケインは扉の中へと入って行った。
*
「こ、これって・・・」
「ここの世界はそなた達人間とは違う次元に住んでいると言ったが、そんな摩訶不思議な現象を生み出せることができているのも此奴のおかげじゃ」
扉を潜り抜けた向こう側には、高さ4,50mにも及ぶ巨大な緋色の鐘が緋色の支柱に支えられており、途轍もない存在感を放っていた。鐘には大きな幾何学模様が1つだけ彫られており、何かを象ったものように思えるが、ケインの知っている限りでは見たこともない模様だった。オットレーはケインの様子を窺った後、鐘の説明に入った。
「この鐘はさっきも言った通り人間達から姿を晦ませるために創った空間を、人間から見つからないようにするために竜が造った代物じゃ。空間を維持する力の媒体としてこの鐘が造られたと言ったほうが良いかの」
「そうなんですか・・・。あの鐘に刻まれている模様はなんですか?僕たちが住んでいる世界じゃ見たことがないんですけど・・・」
「あれはここの空間を創りだした竜の紋章じゃよ。解かりやすく言えば家紋ということじゃ」
「ここの?という事はここ以外にこのような場所があるんですか?」
「そうじゃ。世界には確か20程の場所がある。ただ鐘を媒体としているのは人間達がいうマリーナ王国だけしかないがの。ここを数に数えて全部で五つじゃ。お主がここの次元に入ることができたのはさっきから隠れているシャイニングポムのおかげじゃろ?」
ケインがオットレーのことを無害と感じていてもモコはそうは思っていなかったらしく、さっきからケインとオットレーの間に一定の距離を開けて付いてきていた。心なしか表情が怒っているように見えているが、オットレーは気にせずケインを見上げた。
「あのシャイニングポムがなぜここの場所にお主と共に入れたのかは判らんが、この場所に入れたのなら他の四つの場所にも入れるじゃろ。もし興味があるのであれば訪れてみるといい。このような鐘がそれぞれの場所にあるはずじゃ」
「そうですか・・・。丁度王国を一周して正遊撃士になる修行をしているところだから一石二鳥か・・・。そうですね、旅の目的が一つ増えるからいいですし何よりも面白そうですから回ってみますね」
「ホッホッホ。若いと行動力が違うの。あやつの行動力も凄まじかったが・・・。さぁそろそろ日を跨ぐ時間じゃ。お主も元の世界へ帰るといいじゃろ」
「もうそんな時間ですか!!折角ならこの目で竜を見たかったけど仕方ないか・・・。そういえば、ここからどうやって帰ればいいんですか?」
「帰り方ならたぶんまだ距離を開けて近づいてこないシャイニングポムが判っておるはずじゃ。予想だとシャイニングポムに触れていれば勝手にシャイニングポムが元の場所に帰してくれると思うが?」
ケインがモコを見ると、モコは体を上下に振って肯定を示した。それを見たオットレーはホッホッホと笑ってやはりそうじゃったかと呟いた後、またケインを見上げた。
「それではそろそろお別れの時間じゃ。人の子よ、数百年ぶりに人間に会えたがなかなか楽しかったぞ。今回は特別な例じゃが『出会い』を大切にするのじゃ。他人との出会いが自分自身を良くも悪くも変えてくれるはずじゃ。良い方に変えるには自分自身の判断で決めることじゃが出会いが無ければ何も始まらん。いい出会いがあるよう祈っておる。良い旅を」
「ありがとうございます。オットレーさんもお元気で!」
ケインはオットレーに別れを告げて、少し離れた場所にいたモコの所まで走っていってモコを抱きかかえた。するとモコが休憩所で見せたような輝きを放ち始めた。そして本来ならここで元の場所に戻るはずだったのだが、それは叶わなかった。
「なんじゃこの揺れは!!こんな強い揺れなど感じたことがない!」
「うわっ!!」
地響きと共に地面が激しく揺れ始めたのだ。あまりの揺れの大きさにオットレーは片膝を付いて態勢を維持し、ケインはモコを抱えたまま尻餅をついてしまった。目視できない高さにある天井から小石がパラパラと雨のように降ってきて、ケインは少し痛みを感じながらなんとか態勢を立て直す。30秒ほど揺れた後、急に揺れが止まった。
「さっきの揺れは一体?オットレーさんに会う前にも少し小さい揺れを感じたし・・・」
「こればっかりは儂にもわからん。人の子よ、今のうちに元の場所に帰るのじゃ。何か良からぬ気配を感じる」
冷静に言葉を並べるオットレーも、辺りを見回しながら警戒を怠らない。ケインも元の場所には帰らずに気配を察知するため、目を閉じてその場に留まる。モコはケインの傍にピッタリ張り付いて離れようとしない。傍から見ると何かに怯えているようにも見える。そして何かを感じたモコがケインの服の中へ逃げるように潜り込んだ。
「何か来ます!!!」
ケインが声を荒げたのと同時に、鐘が置いてあるすぐ近くの地面から身の丈7mほどもある大蛇が岩盤を破壊して姿を現した。鐘と同じ緋色の体で蜷局を巻き、頭には耳にも見える黄色の鶏冠をピンと張り、口からは舌をシュロロロといった感じで出している。
「ななななななんだこいつはぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「どう見ても蛇じゃが蛇にしては大き過ぎじゃ!!この世界にもこんな大きい蛇はいないはずじゃぞ!」
二人が動揺を隠せない中、大蛇はそんな二人を一瞥した後、二人には見向きもせずに鐘を凝視する。そして大きな口を限界まで開けて、大きな牙を使って鐘を噛み砕かんと襲い掛かった。
「いかん!!鐘だけは破壊させんぞ!『白銀の障壁』!!」
オットレーは無詠唱でケインが聞いたこともない魔法を唱えた。すると、鐘の周りに光の壁が現れ、大蛇の牙を体ごと跳ね返して鐘を守った。光の壁にはヒビ一つはいらず、壁によって勢いよく跳ね返された大蛇は土壁に激突して土煙を上げて、少し伸びていた。
「オ、オットレーさん!!さっきの魔法は何ですか!!あんな属性の魔法は見たことも聞いたこともないですよ!」
ケインは大蛇が伸びている間に、鐘の周りを守っている光の壁を指さして声を荒げた。オットレーは大蛇の様子を一瞥して時間があると判断して、ケインに簡単ながら説明した。
「この魔法は『精霊魔法』と言っての。人間達には使えない我ら妖精のみ使用可能な少し特別な魔法じゃ。判ったか人の子よ」
「わかったかと言われてもすぐに理解できないですよ。それよりも今はあの気色悪い蛇はどうするか考えましょうよ。あの鐘を狙っているみたいですけど」
「あの鐘を破壊されたら人間の世界と我らの世界との境界が無くなってしまうのじゃ。そんなことをしては大混乱を招いてしまう。なんとかして大蛇を退けてあの鐘を護らねば!!お主も協力してくれぬか?」
「当たり前ですよ!人間の世界に混乱を招かない為にも頑張らさせてもらいます!」
「心強い言葉じゃ。それでは人の子よ、手助けを頼むぞ!」
「了解しました!!」
ケインは腰に挿している刀を抜き、オットレーは精霊魔法と呼ばれる魔法を唱え始める。2人が戦闘態勢に入ったと同時に大蛇が復活し、標的を鐘から2人へと変えた。大蛇が口を大きく開けて牙を誇張して威嚇を始め、それを合図に戦闘の火蓋が切って落とされた。
先ず大蛇がケイン達を噛み砕かんと襲いかかる。2人は大蛇の攻撃をそれぞれ左右に避け、左側にケイン、右側にオットレーが大蛇の頭を境目にして分かれた。
「人の子よ!!儂が子奴の気を逸らしておる隙にお主の得物で斬りつけるのじゃ!刃が通じるか試してみてくれ!」
「判りました!」
オットレーが魔法の詠唱に入り、ケインは大蛇の脇腹の方へと走り出す。地面に刺さった牙を抜いた大蛇は、自分の脇腹へと走っているケインに尻尾を鞭のように振るって襲いかかる。
「こいつ僕をペチャンコにする気か!オットレーさん早くしてくれー!」
掠っただけでも大怪我をしそうな勢いで振り下ろされる尻尾を辛うじて避け続けるケイン。そしてもう少しで脇腹に辿り着く所でオットレーの詠唱が終わり、精霊魔法が放たれた。
「待たせたな人の子!!深淵にて燃え盛る業火よ、今我の名の下にかの者を焼き払え。『地獄の業火』!」
オットレーが魔法を唱えると、大蛇の頭上にまるで燃え盛る太陽のような形をした炎が姿を現した。大蛇はケインから炎へと標的を変え、大きく口を開けて牙を出し威嚇する。
「業火よ墜ちるのじゃ!」
オットレーが声を張り上げると、大蛇の頭上にある業火が少しずつ下降し始めた。大蛇は本能的に危険と判断したのか、尻尾を鞭のように振るい、業火をオットレーの方へと叩き落とそうしたが、それは叶わなかった。
「爆散!!」
オットレーがそう叫ぶと業火の表面が膨れ始め、そして目が眩むほどの光と爆音がしたのと同時に業火が一気に爆発した。爆発はオットレーとケイン諸共大蛇を炎の渦中へと飲み込んでいった。
爆発が収まり、地面や天井には焦げ痕があちらこちらにびっしり付いている。術者であるオットレーは無事だったが、眩し過ぎる光のせいで視界がおかしくなっていった。
「人の子よ!大丈夫か!まぁ心配せんでも大丈夫だろうが」
「大丈夫ですけどなんですかあの魔法は!!僕まで魔法に巻き込まれるから死ぬかと思いましたよ!何の影響も無かったから良かったですけど」
「それは儂が敵と認識したものにしか効果が無いようにしたからの。そんなことよりもあの蛇はどうなったかの。これで終わればいいんじゃが・・・」
オットレーの視界が徐々に回復していき、周りが確認できるようになると、オットレーの隣にいつの間にかケインが移動しており、大蛇は地面に巨体を預けていて動く様子は見られなかった。
「ふぅ・・・。なんとかなりましたね。都合がいい魔法でこんなに呆気なく終わるなんて思いませんでしたけど」
「都合がいいは余計じゃ。あとはこいつの処分じゃがどうしようかの。魔法をかけて食材にするかそれとも放置して天に召されるのを待つかの・・・」
オットレーは考える仕草をとりながら大蛇の周りを練り歩いている。ケインは一応大蛇が生きていることを考えて警戒をしている。すると、大蛇の尻尾が微かに動いたように見えた。
「オットレーさん!!こいつまだ生きてますよ!!早く大蛇の側から離れてください!!」
ケインの言葉を皮きりに大蛇の尻尾がケインを襲ったときのように振るわれた。凄い砂埃がオットレーの周りに舞ったせいで、ケインからオットレーの姿が見えなくなってしまった。
「不意打ちはやめてもらいたいの」
砂煙でオットレーの姿は確認できないが、喋り方から推測してどうやら無傷のようだ。ケインは安堵の溜め息を吐いたあと、刀を抜いて戦闘態勢に入る。
「オットレーさん!大丈夫ですか!」
「心配ご無用じゃ人の子よ。だが久しぶりにこやつを呼び出してしまったわい」
オットレーがそう言った直後に砂煙が徐々に晴れてきた。するとそこにはオットレーの身の丈2倍はあろうかという高さで、装飾も派手さも全く無い無機質な感じを持たせる赤黒い鉄鎚を握ったオットレーがいた。柄の部分は銀色に輝いているのだが、正六角形の形をした打撃面には赤黒い斑模様が描かれている。オットレーは鉄鎚を使って大蛇の攻撃を防いでいた。
「あまり使いたくなかったんじゃが、まぁそんなことを言っている余裕など無いのでな」
そういうと、大蛇の尾を横にいなしてすぐケインの傍へと逃げてきた。大蛇は攻撃を防いだことに驚く様子など見せず、ケインとオットレーに対して威嚇することをやめなかった。
「さて、これからどうするかの」
「そうですね・・・。平和的交渉で解決できればいいんですけどね」
ケインはチラッと大蛇を見るが、口を大きく開けて舌を出して威嚇をしている。とても平和的交渉などできる状態ではないし、先ず交渉ができるような相手ではない事など一目瞭然だ。
「物理的に黙らせるしか方法は無さそうですね」
「あの鐘を狙っている以上帰させるわけにはいかん。ここで眠ってもらうことにしようかの」
ケインは刀を握り直し、オットレーは鉄鎚を肩に掛けて大蛇を睨みつける。大蛇がもう一度大口を開けて2人を噛み砕かんと襲いかかった。
ケインとオットレーは、さっき避けたように左右に飛んで大蛇の攻撃をやり過ごした。
大蛇の牙が地面に深く突き刺さり、体をくねらせながら牙を必死に抜こうとしているがなかなか抜けない大蛇。2人は攻撃のチャンスだとみて大蛇に襲い掛かったが、まるで鉄を打つかのような甲高い音が洞窟内に響き渡った。
「な、なんだこの固さ!?こんな固い体を持った魔獣初めてですよ!!」
「体と言うよりは鱗のようなものが全身に纏わりついておるようじゃ。儂の鎚でも傷一つつかないとは。これは苦労しそうじゃ」
2人はいまだに牙が抜けない大蛇から距離を取るために後ろへ下がり、今一度合流した。
「斬撃も通らないし打撃も意味なし、しかもオットレーさんの魔法も通用しないとなるとどうすることもできませんよ!」
「まだ儂の魔法が全て効かないと決まったわけじゃないがおそらく効果は薄いじゃろう。何とかして撃破あるいは撃退して鐘だけは死守しなければマズイことになるからの・・・」
牙を地面から引き抜いてこちらを威嚇している大蛇を見ながら話すオットレー。攻撃が全くと言っていいほど通じない相手にどうやってダメージを与えるかを模索しているケインもオットレーの話に頷いているが、はっきり言ってお手上げの状態だ。
「考えるだけでは此奴は倒せん。何とかして突破口を見つけなければの」
「ジリ貧な戦いになりそうですね・・・」
「儂らが音を上げるのが先か突破口を見つけて此奴を倒すのが先か・・・。我慢比べの始まりじゃ!」
大きく口を開けて攻撃モーションに入った大蛇に向かって2人は得物を手にして走り出す。大蛇の鱗とオットレーが目一杯の力で振るった鉄鎚とが当たった音が戦いのゴングとなって洞窟内を突き抜けていった。
大蛇がもう一度大きく口を開けて2人を噛み砕かんと襲いかかるが難なく避けるオットレーとケイン。
「同じ攻撃ばかりとは芸が無いの。いくら巨大でも蛇は蛇ということかの」
オットレーは鉄槌を構え走り出す。それに乗じてケインも負けじと攻撃にかかるがまたしても2人の攻撃は弾かれてしまう。
弾かれた反動で少しよろけた2人に大蛇がすかさず鞭のように尾を振り回す。危なげながらもなんとかバックステップで攻撃を避ける。
「くっ、埒があかないですね。このままだと完全に持久戦になりますよ。持久戦になってしまったらこちらの負けは確定してるようなもんです」
「あやつの頭を儂の得物でぶん殴れば少しは有利に進めると思うんじゃがの。あの巨体でも頭を殴れば少しは効いてくれるはずじゃが、流石にあの高さは跳べないの」
大蛇の頭がある位置はケインを縦に並べた高さよりも少し高い位置にあるためオットレーの身長ではまず届かない。ケインが跳んでも届かないだろう。
2人の額にはうっすら汗が滲んできているが、大蛇は余裕しゃくしゃくといった感じだ。
「次は儂の魔法を得物に纏わせて攻撃してみるからの。ケインは援護を頼むぞい」
「えっ?武器に魔法を纏わせることができるんですか?」
「できるぞい。だが詳しい話は後じゃ。今はあやつを倒すことが最優先じゃからの」
そういうと、オットレーの身体から魔法を詠唱してる時よりも倍近くの魔力が溢れてきた。溢れた魔力はオットレーの得物である鉄鎚に集中し始め、オットレーが全身に纏っていた魔力は全てオットレーの鉄鎚へ完全に移動した。
「こんなところかの。これであやつを攻撃してみて効くかどうか試してみんとの。援護頼むぞい」
「わかりました!」
ケインの了承の言葉を合図に2人は動き出した。ケインが大蛇の前で効かないと判っている攻撃を繰り出し大蛇の注意をオットレーから逸らさせる。オットレーは大蛇の動きに合わせながら鉄鎚に纏わせた魔力に属性を付加させる。鉄鎚が纏っていた魔力が白から赤へと徐々に変化していた。
「準備が整った!人の子よそこから離れるのじゃ!」
「はい!」
ケインは大振りの攻撃をやめ、大蛇から距離を取る。それと入れ替わるようにオットレーは鉄鎚を構え走り出す。完全に赤へと変わった鉄鎚の魔力から業火が勢いよく燃え盛った。業火を纏った鉄鎚を持ち走るオットレーに気が付いた大蛇は、こちらに近づかせないようにまたもや尾を振るって応戦するが、同じパターンの攻撃のため難なくかわす。
「本当に同じことしかできぬやつじゃの。いくら体格の利があってもそんなことでは儂らには勝てんぞ!」
オットレーの言葉の意味が判ったのか、尾を使った攻撃ではなく強引に噛み砕こうとオットレーに飛び込んだ大蛇。大蛇が飛び込んでくるにもかかわらず、怯えるどころかニヤリと笑うオットレー。走るのをやめて立ち止まり、業火を纏った鉄鎚を構える。
「こんなワザとらしい挑発に引っかかるとは。やはりただの大きい蛇だったの。ここは神聖な場所。お主のような邪険なものは即刻ここから立ち去るがいい!」
オットレーは、噛み砕こうと至近距離まで迫った大蛇の側頭部に鉄鎚をフルスイングした。大蛇の側頭部を捉え、鉄鎚がヒットした瞬間強烈な爆発が起こり、大蛇は壁へと吹き飛ばされていた。
オットレーからの強烈な一撃を喰らった大蛇は、壁に頭がめり込んでいて必死に抜け出そうともがいていた。あれほどの爆発と衝撃を喰らっても倒すどころか気絶さえしていない大蛇を警戒しつつ、ケインはオットレーのいる場所まで走っていった。
「あれだけの攻撃を喰らっても倒せないなんてどれだけ硬い鱗を纏っているんですか!?」
「今の攻撃では致命傷どころか傷さえできてないかもしれぬの。だが、少なからず影響は出ているはずじゃ。もう一度儂の一撃を喰らえば流石のあやつも傷を負うはずじゃろ」
オットレーは再び鉄鎚を構えて魔力を全身に纏わせる。さきほどの一撃をもう一度大蛇に喰らわせるようだ。鉄鎚に纏わせた魔力が赤く変化して業火が燃え盛るのと同時に、大蛇が大きな音を立てながら壁にめり込んだ頭を抜いていた。そしてすぐにケインとオットレーが居る場所に向き直って睨み付けていた。明らかに殺意が籠っている目線を一身に浴びて、ケインは少し身が竦みそうになりながらも刀を構えて戦闘態勢に入る。オットレーも業火が燃え盛る鉄鎚を肩に下げて大蛇を睨み返していた。
「僕たちのようなちっぽけな生き物に攻撃されて少し怒ってるように見えますね。あいつの目がすごいギラギラしてますけど」
「ふむ。攻撃だけならあやつにしていたが・・・。なぜ急に殺意のようなものを込めて睨んでくるのかの。全くもって謎じゃの」
2人が大蛇の様子を注意深く観察していると、さっきよりも速いスピードで大蛇がこちらに近づいて来た。
「なッ!?さっきよりも速くなってないか!」
「避けるのじゃ人の子よ!あんな速さで体当たりなどされたら一巻の終わりじゃ!」
ケインは猛スピードでこちらに迫ってくる大蛇を横へダイビングジャンプして何とか紙一重で避けたが、大蛇の攻撃はそれで終わりではなかった。避けられたことを確認した大蛇はスピードを遠心力に変えて尾で薙ぎ払おうとしていた。
「なんて奴だ!!巨体なくせして器用な事しやがって!」
攻撃の速さと範囲を考えるとどうやっても回避不可なので、ケインはすぐさま立って刀を抜きガードの態勢に入った。オットレーもケインを助け出そうと鉄鎚をもって走り出したが、大蛇の攻撃が予想以上に速く、ギリギリ間に合いそうになかった。
大蛇がムチを連想させる尾を使った攻撃が寸分の狂いもなくケインにヒットした。いくら刀でガードしていても、衝撃だけは緩和することができずに吹っ飛ばされてしまう。刀を地面に突き刺して威力を殺しなんとか壁に激突することは避けることができたが、大蛇に対する恐怖がケインの行動を鈍らせてしまっているのか、足が竦んでなかなか立てないでいた。
「僕もまだまだ修行が足りないみたいだ・・。クソッ」
「大丈夫か人の子よ!!ケガはないか!?」
「大丈夫ですけど体に力が入りません。ちょっと無理しすぎましたか・・・」
「当たり前じゃ!!あんな強烈な技を刀一本で受け止めよって!今回復するからちとまっとれ!」
オットレーは大蛇を一瞬見てこちらに追撃してこないのを確認すると急いでケインに回復魔法を施した。オットレーのおかげですぐ態勢を立て直して再び刀を構える。ケインとオットレーが目を合わせて頷くと、大蛇にもう一度攻撃を仕掛ける。大蛇も二人の攻撃に合わせて尾を振るう。今度はオットレーが大蛇の攻撃を鉄鎚でうまいこと跳ね返し、その隙をついてケインが攻撃を仕掛ける。ケインは刀をただ振るう攻撃ではなく鞘にしまった刀を素早く抜刀して斬りつける『居合』の型をとった。ケインは大蛇に近づきながら居合の型をとり、大蛇のすぐそばについた瞬間居合切りを放つ。しかしまた大蛇の鱗に斬撃が跳ね返されてしまった。2人はもう一度下がって様子見に徹した。
「このままではこちらの体力が切れてしまう。持久戦に持ち込まれてはこちらが不利じゃ。あの鱗をどうにかしない限り手の施しようがないのう」
「急ぎながら居合を放ったからあれですが、居合も普通に刀を振るうよりかは有効だと思いますけど決定打にはとても・・・」
「もう一度儂が魔法を纏った一撃を喰らわすとしようかの。次は雷じゃな」
オットレーから再び大量の魔力があふれ出して鉄鎚へとながれていく。鉄鎚に流れた魔力が今度は黄色に変化し始め、まもなく雷の轟音が洞窟内を支配した。
「儂が一撃を大蛇に与える!もう一度援護を頼むぞ!」
「了解しました!!」
オットレーは鉄鎚を構えて大蛇に向かって走り出す。大蛇は2人に対して牙をむき出しにして噛み砕かんと襲い掛かる。オットレーは真上からの大蛇の攻撃を咄嗟にバックステップしてかろうじて回避するが少し態勢を崩してしまう。オットレーが態勢を立て直す間ケインが大蛇を引き付ける。有効にはとても思えない攻撃を時間稼ぎのため少しでも攻撃の手数を多くする。そうして稼いだ時間を有効活用したオットレーは大蛇の頭の少し下に狙いを定めた。
「強烈な一撃を喰らわせてやるぞい!!少しは大人しくするのじゃ!」
ケインが大蛇を引き付けておいたおかげで大蛇はオットレーの事をそれほど気にはしていなかった。オットレーが声を張り上げて攻撃を仕掛けるときには流石に気が付いたが時すでに遅く、オットレーの轟雷を纏った強烈な一撃が大蛇の首部分にヒットし、くの字に折れ曲がった大蛇は再び壁に激突した。オットレーはケインと合流して大蛇に近づき過ぎないように注意しながら様子を見ることにした。
「これで攻撃が全く効いていなければこちらの勝ちは無いに等しいのう。儂は火と雷の魔法しか心得が無いからの」
「決定打になればこの争いは終わるんですけど・・・。ま、そうは問屋が卸してくれないですよね」
ケインは動き出す大蛇を見て溜息を吐きながらそう言った。全く効いているそぶりを見せていない大蛇だったが、オットレーが渾身の一撃を与えた場所に変化が生じていた。それは今の圧倒的不利な状況を一瞬で有利に好転してくれるものであった。
「あっ!!オットレーさんアレ見てください!!大蛇の鱗が剥がれてます!」
「鱗が取れて肉体があらわになっておるようじゃ。あそこを人の子の刀で切り落とせば一瞬で勝負に区切りがつくぞい!」
オットレーが大蛇に攻撃を当てた場所は鱗が雷の電撃により焦げて剥がれており、鱗が剥がれた場所は綺麗なピンク色をした肉体が姿を現していた。
「この大蛇の弱点属性は雷だったという事ですね。最初からわかってたらこんな苦労しなかったのに」
「あくまで結果論だがの。取り敢えずこれで勝機は見えた。あとはあの場所にどうやって人の子の斬撃を与えるかじゃが・・・」
2人は大蛇を倒すための算段をたてようとしたが、大蛇の攻撃により中断しざるを得なかった。尾を使った攻撃を用いて2人を一度に攻撃しこちらの有利な状況に持っていこうとしていた。考えて行動しているわけではなく本能的にそうしているようで、攻撃の手を緩めることなく何度も何度も同じような攻撃を繰り返していく。2人も大蛇の尾を使った攻撃は完璧に見切ったようだが、大蛇の連続攻撃によって反撃する隙を見失っていた。
「ここにきてこんな攻撃してくるなんてなんて奴だ!」
「完全に儂らの攻撃を封じて体力切れを狙っているようじゃな。それだけは何としても阻止しなくてはいけないの」
2人は大蛇の怒涛の連続攻撃をかわしつつ反撃の狼煙を上げるタイミングを狙っていた。ケインは時折刀を使って攻撃を防ぎつつ大蛇に接近しようと試みるが大蛇の尾の攻撃の威力が上昇し始め、容易に近づけないでいた。オットレーも隙を伺うがなかなか反撃ができないでいた。しかしここで大蛇が尾の攻撃をやめて2人を噛み砕こうと大きな口を開けて襲い掛かってきた。2人は一瞬焦りながらも難なく回避した。
「どうして急に噛みついてきたんだ?尾の連続技で仕留めるのではなかったのか?」
「もしかしたら儂の雷の影響で尾の部分が少し麻痺してきたのかも知れんの。あそこまで連続した攻撃を放っていれば麻痺が回る速さが上がったかもしれんの」
「という事は今がチャンスですね!あの大蛇に速く斬撃をあてないと!」
大蛇とまたにらみ合いを始めた2人はひそかに作戦を練っていた。
「僕は流石にあの高さまで飛べないし、かといって自分の刀を投げるわけにもいきませんし・・・」
「なら儂にいい考えがあるぞい。ちと耳を貸すのじゃ」
オットレーはケインに小さく耳打ちをした。ケインはオットレーの考えた作戦を聞くや否や驚愕の表情を見せたが、うまくいけば一瞬で戦いに終止符が打てるためその作戦に一か八か賭けてみることにした。
「では手筈通りに頼むぞい!」
「わかりましたがちゃんと加減してくださいよ!?」
「まかせておくのじゃ!」
2人は一斉に分かれて走り出した。オットレーは大蛇の顔部分に近い場所で大蛇の気を逸らしていき、ケインは尾の方にまで走っていく。そして攻撃しながら大蛇の気を自分に逸らすようにしながら素早くオットレーの方まで移動する。
「オットレーさん頼みます!!」
「わかったぞい!!大蛇よしかと受け止めよ!この一撃で貴様に引導をわたしてやるわい!」
ケインがオットレーの方へと全速力で走り、オットレーは鉄鎚を下から振り上げるような形で構えている。そしてケインがオットレーとの距離約1メートルまで来たところで両足で踏ん張って体を捻って大蛇の方に方向転換しながら軽く飛び、それに合わせてオットレーが渾身の力で鉄鎚を振りぬいた。オットレーが振りぬいた鉄鎚の接地面にケインの両足を合わせ、まるで人間大砲のようにケインを大蛇の方へ吹き飛ばした。
「これで終わりだッ!!!」
ケインは大蛇の肉体が露わになっている横を通り過ぎる瞬間居合切りを放った。居合切りをまともに喰らった大蛇は肉体が露わになっている場所から夥しい量の血が吹き出し、大蛇は横に倒れながら大量の光の粒子になって消えてしまった。残ったのは地面に付着した大量の赤黒い血液だけだった。
「よし!これで一件落着じゃn「僕を助けてくださいよ!!!」おっと忘れとったわい」
ケインはオットレーに吹き飛ばされた勢いを殺すことができずに斜め上へと依然上昇していた。オットレーはやれやれといった表情を浮かべながら鐘を大蛇の攻撃から守った魔法を展開して壁の激突を防ごうとしたが、その必要はなかった。
「全く危ない事しちゃってぇ。死んだらどうするつもりだったのかしらぁ?」
「え?いったい誰の声ですか?それよりも早くたすけt」
「よっとぉ。これにて一件落着ねぇ」
ケインは吹き飛ばされている感覚から少しの衝撃と共に何かに包まれているような感覚になった。ケインは恐る恐る顔を上げると、そこには伝説の魔獣とされ数多くの伝承が残っている謎多き生命である竜の顔が確認できた。ケインは何が起こっているのか全然つかめていなかったが、時間が経つにつれて事の重大性に気が付き無意識に驚愕の声を上げていた。
おはこんばにちはLEGENDです。今回はケインとモコが主となって活躍させました。リリスファンがいるとは思えませんが、次の機会にはちゃんと活躍させますので今回は大目に見てください。
ボスキャラみたいな大蛇と戦わせましたが、やはり戦闘描写が上手く書けているかが心配です。書き溜めたものでもあるので、少し違和感があるかもしれませんが、誤字脱字と同じくご一報いただければ幸いです。
この話の最後に、物語の名前にも出てくる竜が登場しました。『竜の軌跡』と謳っているので、話の主軸にはやはり竜が関係しないとね。では。