仔猫をモフリたいなら、一緒にヴァーチャル世界を旅しないかい?(旧:キャラメイキングで猫選んだら、ログアウト出来なくなりました) 作:猫つまみ
ちょっと遊びも含んだ浅瀬でのやり取りは、ログアウト出来なくなったという事実(現実)の悲しみを、少しだけ和らげてくれた。
実際、こうでもしないとやっていけないのが現状なのだから。
俺達は、夜の川を下っていた。普通夜だと危なくて野宿とかして過ごすのだが……。
これには、理由があった。
この川は、昼間になると大量の魔物が水を飲みに来る川と設定されているらしく、そんなのに出くわしてしまったら、今の俺達ではかなり厳しいだろう。だって、スライムにすら苦戦してた位だからさ。
だから俺達は、昼間は森の中でぐっすり眠ってやり過ごす事にした。そして魔物が居なくなる夜に出発という訳だ。
「クリス……どう? 運営と連絡取れそう?」
砂紗の赤い髪が、俺の目の前の画面を隠す。
「砂紗……画面見えない」
右前足で色々な画面を弄っていた俺は、この赤い髪のせいで、画面が遮られてしまった。
「え? あっ、ごめんね」
二本足で立つ俺を、上から覗き込む様な形で見ている。
真っ赤な髪が月明かりの中で揺らめく炎を表しているかの様に、ユラユラと揺れていた。
俺達は、夜だというのにバナナボートに乗っていた。
エルサとマナの二人は、ぐっすり眠っていた。
「ふう……駄目だな。何の反応もない。それ所か、これを見てみろ」
俺は、ある画面を見せた。
【お客様サポートセンター】
どのゲームにもあるであろう、その名の通りの場所だ。
バグなどが発生した場合、大抵ここに連絡を取れば解決したりするのだが……。
【エラー。このサポートは、無効です。】
そう。これしか出て来なかったのだ。
「やっぱり、無理みたいね?」
ちょっとだけ残念そうにする砂紗を見て、慰めの言葉を言えと言われても、俺には何も思い付かない。むしろ、俺の方が慰めて欲しい位なのだから。
「運営……この事態をどう思っているんだろな? そもそも、運営が営業してるのかさえ怪しい」
俺の言っている"営業してるのかさえ怪しい"という言葉に砂紗は、少しだけ引っ掛かりを覚えたらしく、ほんの数秒程度ではあるが、考え込んでいた。
「……それって、現実世界の運営会社に何かあったって事?」
そんな砂紗の言葉に俺はタシタシと叩きつける形で、尻尾で答える。
「……まあ、ここで言って始まらないだろうな」
このまま何事もなく、川を下りなたいなぁ。
俺は、一生懸命バナナボートを引っ張って泳いでくれているペンギンの後ろ姿を眺めながら思った。
――思った矢先、思い通りに行かないのが今のヴァーチャル世界なんだよなぁ……。
ザッバァーーン!
「え!?」
砂紗はビックリして、ボートの上に立つ 。その振動で、ボートがグラグラと勢い良く揺れた。
「わっ! な……何!?」
気持ち良く眠っていたエルサとマナの二人は、突然起きた地震の様な振動で目が覚める。
「あ……あれは……!」
川の中から現れたのは、大きな蛇だった。
青色の身体に竜の様な鱗まで付いていて、蛇の様に長い胴体。眼光鋭く、口からはヨダレが垂れていた。
「……蛇かよ」
引きつった俺の顔をみた砂紗達は、目の前の魔物が大物だという事を瞬時に察知した。
「どうするの!?」
エルサが身を低くしながら俺の元へと寄って来た。
「戦うべき……なんだろうけど、ここだと部が悪い。ペンギンさん、急いで浅瀬に向かってくれ!」
ペンギンはコクリと頷いてから、身体に力を入れた。そして――ジェットコースター並のスピードで、浅瀬に向かって泳いで行く。
「あれの弱点分かるの?」
「知るわけないだろ!?」
水しぶきと、ボートの周りの波の音が大きい為に、大声で話さないと聞こえなかった。
「あっ! 浅瀬ですよ!!」
マナが指さした先は、確かに浅瀬だった。
そのまま浅瀬に到着すると、直ぐ様バナナボートから降りて戦闘体勢に入る。
「ペンギンさんは、ボートの死守な」
ペンギンは、合点承知! という様に、筋肉を見せる。
「あれは、データにない奴だ。恐らくバグだろうさ。きっと強い。マナは、何時でも回復術を掛けれる様に準備しておいてくれ」
「はい! 分かりました」
スカートの裾を両手で持ちながら、あの蛇が来れないで有ろう距離まで走る。その後ろには、ボートを引っ張るペンギンが居たりもするのだが……。
今は、あの蛇に集中だ。
「砂紗。君は、俺が呪文を唱えるまでの時間稼ぎだ。いいか!? ゲームオーバーになったら、生きたまま化石になるって事を忘れるなよ!?」
了解。そう言った砂紗は、肩に担いでいた剣を両手で持つ。そして、俺よりも前に立った。
「エルサ、君は……」
見ると、エルサの手には武器が握られていた。
「私も戦えるよ。今までそうして来たんだもの」
そう言うエルサの持っていた武器は、身の丈よりも大きな綺麗な装飾が施された弓だった。金色の弓――とでも言うべきだろうか……。
エルフは戦闘技術に癖がある為に、中々扱いが難しい。
その理由の一つが、この弓だった。
エルフのみに許された身の丈よりも大きな弓は普通の弓とは違い、己自身の命中率に左右される。一般的な弓は命中率パラメーターが補修されているので、弓を扱った事のない人でも簡単に命中する仕組みになっている。
しかしエルフの使う専用の弓には、補修パラメーターが存在せず、自身の命中率に頼るしかなくなるのだ。
これがエルフの扱いが難しい理由の一つにもなっている。実際は、他にもあるのだが……。
説明してる暇は、なかった。
「来るぞ!」
俺のこの言葉を合図に、夜の川での戦闘が開始したのだった。