仔猫をモフリたいなら、一緒にヴァーチャル世界を旅しないかい?(旧:キャラメイキングで猫選んだら、ログアウト出来なくなりました) 作:猫つまみ
【VRG】このゲームに『楽しい。現実逃避が出来る。』等と、リアルを忘れられる何かを求めた事はないだろうか?
「これは、俺がある日に体験した話。普通の世界とは違う何か……」
「何、浸ってんのよ!?」
突然誰かが、俺の頭をポカリと軽く叩く。
「あ? ああ、美里か」
俺の妹の美里だった。肩まで伸びた黒髪が、少しボサボサになってる。けれど大きな黒い瞳は、俺をジッと捕らえて離さない。
「……あれから、まだ半年なんだね?」
「ああ……」
゛半年゛。
これが何を意味するのか……それは、これから俺が話す実体験で分かるだろう。
「未だに【ノンテル社】からは、何の謝罪もなし……か」
--窓から見える夕陽が夜空へと変わる時のグラデーションが、とても懐かしく感じてしまう。
「さあ、始めようか」
あの世界……とても不思議な体験をした、あの不思議な世界へと、再び足を踏み入れる。
「話してあげるよ。あの世界で起きた真実を……小さくて可愛いあれになってしまった俺が、どうやって生き延びたのかを……さ」
◇◇◇★★★
暑い……暑い……もう嫌だ。帰りたい。
太陽の光がテカテカと降り注ぐ砂漠の中、俺はひたすら歩いていた。裸足だから、足の裏が火傷してしまいそうだった。
「暑いよぉ―」
近くにサボテンを見つけて、それを潰す。チクチクしたトゲが痛いけど、喉の渇きの方が勝ってた。
潰したサボテンからは水がチョロチョロと流れたから、俺は必死にそれを飲み干していった。
その水に微かに写し出された俺の姿は--真っ白な体毛で、とても綺麗な毛並み。長い尻尾には小さな鈴がついていて、動く度にチャリンと音が鳴るのが、ちょっと可愛い。そして、大きく円らな瞳と小さな身体。
……猫だ。でも砂漠には、とても不釣り合いな猫だと、誰もが思う存分かも知れない。
「どうして、こうなったんだ?」
残念ながらそれに突っ込んでくれる人は、誰も周りに居ない。
「死ぬ……」
そのまま砂の上に倒れてしまった。
俺は、必死に思い出す。
……ああ。そういえば……そのまま、ゆっくりと目を閉じてしまう。
◇◇◇
【VR・RPG】
ノンテル社という最近人気急上昇している、ネット関連を中心とした会社が運営しているゲームだ。
その会社が最近始めたらしいこのネットゲームは、サービス開始と共に爆発的人気を泊した。
俺の友達もその人気にあやかって始めたたらしいけど、俺を巻き込んでのゲームだった。
ベッドの上に放り投げてあるヘルメットの様な物……あのヘッドギアを頭に着けると、ゲームの世界でもリアルな感覚を体験出来る。
「興味すらなかったのになぁ~」
元々ゲームに対して俺は、興味の二文字すら浮かばない程に、そっぽを向き続けていた。
でも今の俺は、ヴァーチャルリンクと呼ばれる最近流行り始めたネットゲームにはまってしまった。
最初は友達に勧められて嫌々やっていたのだが、友達がしつこく進めて来たから、仕方なくアクセスしてみた。
――本当に、どうでも良いと思っていたネットゲームだった。
それなのに……
「こんなに、はまっちゃうなんてな」
バイトから帰って来た俺は一目散に着替え、自分の部屋の机にあるパソコンへと向かった。俺の部屋は、机とベッドとクローゼットという至ってシンプルな部屋だったけど、その部屋のあちこちに猫の写真が飾ってあるのは、俺の趣味だからだ。
「よし。始めるか」
誰にも言うでもなく、自分に言うだけ。
俺の家は、普通の家庭だ。親父はサラリーマン。おふくろはパート。一個下に妹がいるが、思春期だかなんだかで最近冷たい。
俺自身、余り格好いい方ではない。至って普通顔。特にそれを嫌がってる訳ではない。
「あっ。大学行かなきゃ……あ―……良いや。休んじゃえ」
大学へ行っても、彼女がいる訳ではなかった。
勉強は、そこそこ出来る方だと思う。得意科目が何かと言われると……。
「美術!」
絵を書くのは、得意だった。ただ残念な事に一般的な大学だから、美術の技術は評価される事がなかった。
「っと。ゲーム、ゲーム……ん?」
ふと、画面の中に不思議な言葉が刻まれているのに気づく。
【キャラクターメイキング当選おめでとうございます。この中から、好きなキャラクターを選んで下さい。】
見た事もないメールに、首を傾げてしまう。
「ふぅん? よくわからんけど……ん? こっ、これは!?」
人から魔物まで様々なメイキングキャラが居たのだが、その中で一際おれのメートル引いてしまう物があった。
「猫来たぁーー!」
白くてふさふさな毛並みの仔猫だった。それを見た瞬間喜びの余り、椅子から転げ落ちてしまう。
「いで!」
でも俺はそんなの気にする事なく、迷わず猫を選ぶ。
「猫かあ。可愛いもんな」
色は白。大きく円らな瞳。
「よし。メイキング完了っと」
俺は、自他共に認める猫好きでもあった。性格が気まぐれだったりマイペースだったりする事もあり、よく「猫みたいだね?」と、言われる。
そのせいなのかは分からないが、俺は猫を見ると餌をあげて撫でたくなる衝動にかられる。
それでも俺は、全く嫌な気持ちにはならなかった。それだけ猫が大好きだという証なのかも知れない。
「よし!猫だな」
迷わず猫に決めた。
でも、この選択が間違い――あり得ない現実の始まりだったなんて、俺は知らなかった。
【ご登録有り難うございます。それでは、新しいキャラクターでの冒険をお楽しみ下さい】
ヘッドギアを着けてそのままベッドに横になる俺は、ワクワク気分で浮かれきっていた。
★★★
目を開けるとそこは……青空が広がっていた何時ものヴァーチャル世界だっだ。
「前のアバは友達に作ってもらったやつだったし、そろそろ慣れた頃だろうから、このアバで行くか」
今の自分は、四本足で毛むくじゃら。にゃんと可愛く鳴く小さな仔猫。
「ああ……幸せ~」
ヴァーチャル(仮想)だとしても、好きな動物になれる事がとても幸せだった。
勿論誰か見てる訳ではないが、猫の真似をするかの様に、ペロペロと足を嘗める。
「俺、何か可愛くね?」
等と思ってしまう辺り、救いようがなのかもしれいが。
「あっ! ヤバい。おふくろが帰って来る時間になるな。一旦戻ってみるか……」
そのまま目を閉じて、【ログアウト】そう叫んだ。
おふくろがゲームばかりするな。と、怒っていた事があった。もしかしたら、怒られるかも知れない。でもそれは、何時もの日常。何のサバイバルもない当たり前の日常。
それに戻るだけなのだが……。
トンビの様な鳥の鳴き声と、ジリジリと太陽の光が俺を照らす。
「――ん? あれ?」
目をゆっくり開けると、そこは――先程まで居た砂漠だった。
「え? え? 何で!? ……ログアウトォーー!」
何の反応もなしだった。本来なら、普通に現実世界的へ戻れる筈なのだが……。
「嘘……だろ?」
そう俺は、ログアウトが出来なくなっていた。
このヴァーチャル世界に、閉じ込められてしまったのだ。
「何でだよ!?」
猫の前足でメニュー画面を開き、【ログアウト】ボタンを押すが……【不正アクセスです】これしか出て来なかった。
「うっそぉー……ん」
こうして俺は、ログアウト出来ないという不思議な出来事に遭遇してしまったのである。