仔猫をモフリたいなら、一緒にヴァーチャル世界を旅しないかい?(旧:キャラメイキングで猫選んだら、ログアウト出来なくなりました) 作:猫つまみ
マナの道案内で、最初の階段を降りた俺達は驚愕した。
「な……なんじゃこりゃぁーー!!」
何がなんだか分からなかった。降りた先は遺跡……ではなく、大きな廃村があった。天井の隙間からは太陽の光が射し込み、ちょっとだけ休憩してもバチは当たらないよね? 的な考えさえ思い浮かべてしまう程に、のどかだった。
「何……これ……」
緑のこけが建物の殆どを覆っていて、元がどんなのだったかさえ分からない。
「……! 崩れたね」
エルサは近くに建てられていた建物に、そっと手を当てる。すると、音もなく手で触った辺りが崩れさった。
「年期入ってるわね……」
俺を肩に乗せながら歩く砂紗は、少しだけおっかなびっくりしてる。
「おい。あんまり怖がらなくても良いんじゃないのか? 見たところ、只の廃村だし」
取り敢えず、スリスリと頬に身体を寄せてみる。
ありがとうと言って俺の身体を撫でる手は、少しだけ汗ばんでいた。
「そう……なんだけど。お化け出たらって思うと……」
お化け……いや、まあ……出ない訳じゃないかもだけどさ?
「皆さーん。こっちに階段ありますよぉ~」
気のせいだろうか? マナの声が、ワクワクしている様に聞こえる。
「まあ、行くか?」
ここで突っ立ていても何も始まらない。少しでも何かが分かるなら、そちらを選ぶべきだろうさ。
俺達は警戒心を解かないまま、階段を降りて行く。
「これって……」
「ケルベロス……」
階段を降りて直ぐの大きな道に、頭が三つの犬がヨダレを滴ながらキョロキョロとしていた。
俺達は、あれに見つからないように近くの建物に直ぐ隠れた。
「ねえ……あれって、地獄の門番とかいうやつだよね?」
エルサはエルフ特有の弓を取り出して、何時でも戦闘開始出来る様にしていた。
「聞いた事はありますけど……あれが、ケルベロスなんですか?」
マナは綺羅を自分の元に抱き寄せながら、チラッとケルベロスを見ている。
「多分な。俺も、文献か何かで呼んだ位だけど……それでも、あれがケルベロスだってハッキリ言える自信はある」
ケルベロス……だってあれは、俺の嫌いな犬の一種だからな。
こう言っちゃあなんだが、俺は昔近所の犬に噛まれた事がある。それ以来、小さな仔犬は大丈夫だけど、大きな犬は大嫌いになった。近くに行くと足が震えてしまい、立てなくなってしまう。
「最悪だぁ~……」
身体全体で、ショックという表情を表す俺。
そんな俺を見てこの女の子達は、トキメいていたりもするんだが……。
今は、それをどうこうしてる暇がない。
「エルサ。君の弓であのよだれまみれの糞犬を狙えるか?」
"よだれまみれの糞犬"
他の現実世界とかの犬は、流石にそれでは可哀想だろう。でもあのケルベロスを見ていると、恐怖が甦って来てしまう。
「……分からない。正直、届いたとしても、貫くとか出来ないだろうし」
俺がアバダーに猫を選んだ理由を知っている(暇な時に話したから)砂紗達は、俺のあのケルベロスに対しての物言いをとやかく言う事はなかった。
「とにかくさ。あれを何とかしなきゃ、進めないんだろ? 砂紗。一人で時間稼げるか?」
「……ちょっと厳しいかな? あれは、普通の魔物じゃないっぽいし。ボスって感じがするわ」
俺の提案は砂紗の無理発言によって、あえなく却下になったよ。
打つ手なしだった。
「あのぉ~……私も砂紗さんと共に戦います」
マナがそっと手をあげた。
「え? いや、でもお前は……」
回復術(ヒーラー)専門の筈のマナが、とんでもない事を言い出したよ。
「大丈夫ですよ。私も戦えますから」
立ち上がり、メニュー画面を操作し始める。
「ふふ。私本当は……リアルでは、柔道の黒帯なんですよ? せめてヴァーチャルの中だけは、女の子らしくって思ってこの職業を選んだんです」
あり得ないよ! って位の爆弾発言をサラリと言うマナ。
俺も砂紗もエルサですら、開いた口が塞がらなかった。
ドスンという強烈な音と共に、俺達の身体は上下に浮き上がってはポスンと落ちた。
マナは、トゲトゲみたいなやつが付いてるハンマーを片手で持ち、開いている方の手で鎖の部分を持つ。
「さあ。行きましょう。女の子を舐めて貰っては困りますから。あの犬さんには、退いてもらいましょう」
俺達が止めるのも聞かず、走り出してしまう。砂紗はサポートする為に、慌てて後を追う。
「そぉーれ~♪」
鎖を強く握り、トゲトゲっぽい物が付いている円形の部分をケルベロスの顔面へ……そんなマナは、何処か楽しそうにしている。そんなシスターとかけ離れているマナを見て俺は、
「女って、こえぇー……」
口からこんな言葉が出て来てしまう。
『グガァーー!』
突然ハンマーで顔面を殴られたケルベロスは、地面に倒れ込む。
「まだですよ。これからです」
何処からともなく吹く風が、マナを勇ましく見せていた。