仔猫をモフリたいなら、一緒にヴァーチャル世界を旅しないかい?(旧:キャラメイキングで猫選んだら、ログアウト出来なくなりました) 作:猫つまみ
何時ものログイン地点から始まったのだが、初心者のレベル上げ用の場所として設定されていて、魔物の数が半端ではなかった。
今の俺では、小さなスライムにすら勝てる筈がない。
そう思った途端、恐怖に狩られた俺はひたすら走った。正直、何処をどう走ったのか……それすら覚えていない。
草原が終わったと思ったら、暑さと砂しかない砂漠へと迷い込んでしまった--。
そして--今現在砂の上を歩く俺は、もうヘトヘトだった。
「暑い……ってか、バーチャル世界なのに、暑さ感じるって、どうなってんの?」
なるべく日陰を探しながら歩いているのだが、歩けど歩けど砂、砂! だった。
「……猫は好きだけど、この暑さは勘弁して欲しいよ」
体毛が太陽の光りを吸収する感じに、ジワジワと火照って行く。
「あ……やば……い。もう、だ……め」
砂の上に倒れる俺は、あはは。と、笑うしかなかった。
意識がなくなって行く……このまま、死ぬのだろうか? こんな訳の分からない世界で……。
「……うぶ?」
薄れ行く意識の中、誰かが俺を抱えている様にも思えた。ほんの一瞬だけ金の糸の様な何かが見えたが、やがて俺の意識は途切れてしまう。
★★★
--凄く美味しそうな匂いがするので、もう朝なのかと思ってしまう。
俺は今、どんな状態なのだろうか? ログアウト不可は、夢だった。もしかしたらそうかも知れない。
自然と、脳が作った夢だったのではないだろうか? そう思えてしまう位に、現実的過ぎるからだ。
《ぐぅ~ー》
俺は眠ったまま、鼻を動かす。少しずつ眠っていた脳が活性化して行き、周りの音を読み取って行く。
俺の知ってるバーチャル世界のゲームは、五感なんか存在しなかった。負けたらその場で終了。そのまま近くの教会だかに勝手に転送されて、死ぬ直前までのレベルに戻る。
これが、俺の知ってるゲームだった。
――それなのに、こんな事になるなんて。
――泣いても良いですか? 誰に訪ねる訳でもなく俺は、ちょっとだけ涙を流した。
「大丈夫?」
誰かが俺を見てるのだろうか? だったら、見ないで欲しい。こんな情けない俺を見ないで……。
心の底からそう思えてしまう程に、精神的に参ってしまっていた。
「大丈夫? ミルク飲める?」
目をそっと開けると金髪が俺の顔に当たって、ちょっとくすぐったかったりもする。
「……」
「どうしたの?」
首を傾げた俺の行動が、不自然だったのだろうか? この人物は、俺の顔を覗き込む。
「はい。ミルクよ。私は、砂紗って言うの。宜しくね?」
俺の頭を撫でながら冷たいミルクを差し出してくれたので、遠慮なく飲みほす。
「びっくりしたわよ。小さな仔猫が、砂漠のど真ん中で倒れてるんですもの」
金髪の女性は、ちょっと変わった格好をしていた。
胸には、木で出来た胸当て。靴は普通の靴とは程遠い、鉄製のブーツだった。けれどそれはゲームだから。で終わるだろう。見た目が、女神みたいに美し過ぎるのだ。女性特有のふくよかな胸に、大きく綺麗な青い瞳。金髪碧眼の美女だった。
「冒険者……なのか?」
猫が喋れる訳がないので、言葉を口にしてしまった俺は慌てて、「にゃあ~」と言い直そうとしたのだが……。
「あら。喋れるの? もしかして、【神獣】なのかしら?」
聞き慣れない言葉に俺はついつい「何だそれ?」と、言ってしまう。
「【神獣】はね? この世界を司るとされている動物の事なのよ。喋れたりするらしいし……」
じっと俺を見る目は、少しキラキラと期待した目だった。
「……残念だけど、俺はそんな高貴な存在なんかじゃないよ。君は、NPC……じゃ、ないよね?」
念のため聞いてみる。
「え? ええ、そうよ。この家は、魔物を倒したお金で最近手に入れたの」
「ふぅーん。そうなんだ」
俺は猫の様に、ガシカジと足で顎をかいてしまう。
「えっと、俺はクリスって名前なんだ……なあ。ちょっと聞きたいんだけど、いいかな?」
猫の姿で首を傾げる俺が、この目の前の女の人にどう写ってるのか、それは俺には分からない。
「良いけど……その前に」
ひょいと持ち上げられた後、突然抱っこされてしまう。
「んまぁ。可愛い~。何でこんなに可愛いのぉー。モフモフ~」
「ちょっ……!」
ジタバタ動いても残念な事に、仔猫の力ではどうにもならなかった。
「はあ。満足したわ」
ほっこりした顔してるみたいだけど、俺は、ぐったりなってしまう。
「久しぶりのモフモフだったから、つい。ゴメンね?」
怒ってる事を察知したのか、平誤りみたいな感じで余って来てる。
ふと俺は、この少女が言った言葉に引っ掛かりを覚えた。
『久しぶりのモフモフだったから……』
この言葉を思い出し、ハッとなる。
「感覚あるのか!?」
四本足で立ち上がりながら、目の前の美女に訪ねる。
「……何も知らないのね?」
少し寂しそうに語るこの女の人は、何が言いたいんだろうか?
「昨日だったかしら? お昼以降にログインした人達は、全てログアウト不可な状態なのよ。あの会社はそれを隠しながら、このゲームを運営し続けてたらしいわ」
どうやらログアウト不可は、俺だけだはなかったらしい。
「今も運営してるのか?」
ズイと寄って聞いてみる。
「してるみたい。ただ、流石に公になり始めてるみたいだから、暫くの間はログインしないで下さい。って表示出てるけどね」
「つまりは、俺がログアウト出来なくなった辺り……多分だけど。その時以降は、ログイン規制されてるって事だよな? で、それ以前にログインしちゃった人は……」
コクリと頷く目の前の女性の姿を見た俺は、次第に悲しくなって来た。
こんな絶望とも言える現実を……叩きつけられたのだから。