のんびり平和に鎮守府運営。
そろそろ武蔵出していい?
「あら提督。今頃ご出勤? 鈍間のね?」
執務室の扉を開くとソファーに腰掛け紅茶を飲む、栗髪の重巡・熊野が声をかけてきた。
本を読みながらカップを傾けるその様は上品なお嬢様にしか見えない。
「これでも20分前の到着だったんだが、早いね熊野」
「そのくらい秘書艦としては当然ですわ」
「参ったな。君を任命したのは僕だが、どうもこれからの任務は手が抜けなそうだ」
言っている間にデスクに着くと、彼女は手に持った本を閉め来客用のテーブルに置き、書類の束をこちらに持ってくる。
「私が秘書になったからには、中途半端は許しませんわよ?」
「覚悟しておくよ」
いかにも真っ直ぐな彼女らしく、執務の前に釘を刺してくるのは流石だ。
そう言われずとも間抜けな姿を見せるわけにはいかない、と内心では思っているのは内緒だ。
「では改めまして、本日は午前に本営から通達された書類の確認と報告書の作成。
午後には艦隊演習の視察やドックで開発中の装備の進捗状況の確認ですわね」
「君は通達に目を通したかい?」
「はい。提督がいらっしゃる前に、全部」
全部……。全部?
今までの秘書艦は執務開始と同時に一緒に通達内容を確認していったが、どうも彼女は他のことは毛並みが違うようだ。
なによりも『僕が20分前に来るより先に』ということに驚くべきだ。
もちろんだが軍属の人間は例外なく朝は早い。
その中でも鎮守府の長とも言える提督である僕よりも早くに仕事を開始しているとは驚嘆に値するだろう。
ただ――。
「ふむ」
「?」
「では通達内容に大規模作戦の知らせはあったかな?」
「いえ、今月はきたるべき作戦のための資源の備蓄と練度の向上させよ。――、とのことです」
「なら基本的には中身を確認してのサインや押印をするものが大半を占めるから、そんなに肩肘張らなくても大丈夫だよ」
自然に笑いかけたつもりだったが、彼女は図星を突かれて恥ずかしいのか顔を赤らめてしまった。
フイと背けた行為もまた相応の少女らしい仕草で微笑ましい。
「そ、そんなに緊張なんてしてませんわ!
すこぉしだけ眠たいような気もしますが、無理なんかしていません!」
「いやいや、無理するなとは言ってないさ。
鎮守府のために真剣になってくれるのは嬉しいことだよ」
「当然ですわ。配属された以上、熊野はここの家族になったも同じですから」
「家族……ね」
本営からもある程度離れているこの鎮守府に迅速に援軍が到着することも見込めない。
ゆえに、ここに住む全員が一丸となって戦うことこそ生き残り、前に進む道が開けるというもの。
彼女の言葉は正鵠を射ている。
この建物に務めるもの一人一人ができることをする。
それはみな家族であり、友人である。そのため上下の垣根などほぼ存在しないのに等しい。
その証拠に提督である僕は艦娘からは好きな呼び方をするようにお願いしているのだ。
正式な場では『提督』と呼ぶように徹底はしているが、それはあくまでも例外だ。
「さて、じゃあ書類を片付けてしまおうか」
「はい提督。私は初めてですのでご教授のほどよろしくお願いしますわ」
「お安いご用さ」
手慣れた書類仕事も、彼女によって退屈ではなくなる。
少しだけ昂揚した気分で執務に取り組むのだった。
--あとがき
誤字脱字とかあったら教えてね。