のんびり平和に鎮守府運営。
武蔵はまだまだ。
暇だと捗りますね。
「提督。そろそろお昼の時間ですわよ」
紙がめくれる音と文字を書く音だけが響いていた室内に、熊野の声が耳に届く。
「もうこんな時間か。
秘書艦でも特に僕に付き合う必要はないから、食堂で鈴谷とでも食べてくるといい」
「いえ、その……」
デスクに指で『の』の字を書きながら、どうも歯切れが悪い。
「どうしたんだい?」
「実は少々申し上げにくいのですが」
「遠慮無く言ってみるといいよ」
「で、では……」
そう言うと制服の乱れを正して居直る。
いちいちこういう仕草が上品さを
「わ、わたくし! 『こんびに』とやらのサンドイッチを食べてみたいですわ!」
「コンビニ? そこまで大したものではないと思うのだが」
「そんなことないですわ!」
熱が入ったのかテーブルに手をつき、前のめりに熊野は語り始める。
重大な要件かと思っていた分拍子抜けはしたが、また違った意味で凄みのある気を放ってくる。
「むしろ短い手間暇で色々なものを作り出す。
それがどのような味がするのか大変興味がありますの!」
「そ、そうか? じゃあこれから買いに行こうか」
「ぜ、是非!」
目をキラキラを輝かせながら話す熊野に押されつつも、その頼みを断ることはできなかった。
コンビニへと向かう道を熊野と並んで歩く。
着任してからずっと気を張っていたであろうから、少し気分転換になるといいが――。
「前々から気になってたんですのよ?
ただ前の場所では近くに『こんびに』がなくて、ずっとその話を聞くだけでしたから!」
あれからハイなテンションを保ち続けている熊野に相打ちを続けること数分。
目的の場所にたどり着く。
「こ、ここが……。こんびに!」
胸の前で手を合わせ、歓喜に打ち震えている。
馴染み深い僕にとって、そこまでのものなのかと微妙な気持ちになるが、彼女が喜んでいるので良しとしよう。
意気揚々とコンビニに突撃していった熊野の後を、苦笑いしながら追いかける。
しかし中に入ってからも彼女のテンションは全く衰えるところを知らない。
「見たことない商品がいっぱいですわ~!」
「く、熊野。あんまり大きな声は出さないようにな?」
「申し訳ありません提督。少々はしたなかったですわね」
謝りながらも店内のあちこちへと目が動いて、その好奇心までは抑えるに至らない。
サンドイッチという目的のものがあったにも関わらず、購入までに多少の時間を要した。
「今日はサンドイッチだけですが、いずれは他の商品にも手を出してみたいですわ」
そう言いながらほっこりした顔でコンビニのビニール袋を胸に抱いている熊野。
そんな彼女の横顔を盗み見ながら声をかける。
「僕も軽く食べれるものにしたし、鎮守府のベンチでランチでもしようか」
「賛成です!」
初めて見た熊野の満面の笑顔に癒されながら来た道を戻った。
「『こんびに』のサンドイッチも意外といけるんですのね。予想以上ですわ!」
「きっと作っている側も、君の言葉を聞けば喜ぶと思うよ」
「これなら今度挑戦するものにも期待が持てますわね。その時はまたよろしくおねがいしますね。提督」
「声をかけてくれればいつでも付き合うさ」
先ほど買ってきたサンドイッチに熊野は幸せそうな顔でパクついていた。
昨日始めて会った時の彼女は近寄りがたいような硬い印象だったが、今はそんなことはない。
ベンチに並んで昼食を取る程度には近づけたみたいだ。
(艦娘も、歳相応の女の子なんだな)
そんな風に思うのだった。
「ご馳走様でした。大変満足いたしましたわ」
「喜んでもらえてよかったよ。僕が提案したわけではないけどね」
「いいえ、付き合っていただいて本当にありがとうございました。――っ」
お礼の言葉をいいつつ欠伸を噛み殺す熊野。
「まだ時間があるなら少し寝るといいよ。今日は朝が早かったんだろう?」
「し、しかし……」
「僕が起こしてあげるから。目を閉じるだけでも、ね?」
「ではお言葉に甘えて」
そう言って目を閉じてから整った寝息が聞こえてくるのは早かった。
着任して初日の慣れない秘書艦としての任務と早起き。
そこそこに疲れていたのだろう。
ふと、肩に重みを感じる。
体制が崩れ僕のほうに寄りかかってきていた。
微かだがシャンプーの匂いがそよ風にのって鼻をくすぐる。
春の日差しを浴びながら寝入る熊野を起こさないようにおにぎりを口に入れ、休憩のギリギリまで彼女を寝かせてあげようと思う。
普段は慌ただしい鎮守府に流れる穏やかな一時を、僕は楽しむことにした。
--あとがき
誤字脱字とかあったら教えてね。