赤き覇を超えて 外伝 夜天光の騎士   作:h995

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2019.1.16 修正


第九話

Overview

 

 自分の世界における旧き時代の夜天の王にして心腹の友であるエーベルヴァインによって齎された新生カイゼルシュベルトの力で夢の世界を脱したリヒトは、覚えのある魔力反応に向かって一直線に向かっていた。

 

「……ここか」

 

 やがて、リヒトが辿り着いた先には金髪の幼い少女が胸の上で両手を組んだ状態で眠りについていた。その姿に、リヒトははっきりと覚えがある。エーベルヴァインから託された、彼の()に間違いなかった。しかしリヒトの接近に気付いたのか、少女は宙に浮くとそのままの状態から回転して直立した状態へと変わっていき、やがてゆっくりと眼を開いていく。

 

「ユニット起動。無限連環機構、動作開始。システム「アンブレイカブル・ダーク」、正常作動」

 

 この時、少女の口から飛び出して来た言葉に、リヒトは首を傾げた。

 

「アンブレイカブル・ダーク。不滅の闇といったところか。……だが、ユーリにその様なシステム名称など付いていなかった筈だが?」

 

 納得のいかないリヒトを置き去りにしながら、リヒトがユーリと呼んだ少女は言葉を続けていく。

 

「視界内に侵入者を確認。魔力波長のデータベースに該当者あり。……防衛プログラム、起動確認」

 

 そうしてリヒトの姿を確認した所で、ユーリは初めてリヒトに声をかけた。

 

「貴方は、防衛プログラムですか?」

 

 ユーリのこの言葉に、リヒトは激しい衝撃を覚えた。

 

「……私の事が解らないのか?」

 

 リヒトはどうにか外面を取り繕いつつユーリに確認を取ってみると、ユーリはまず謝罪を以て答えを返し始めた。

 

「……済みません。貴方は私の事を知っているみたいですけど、私は貴方の事を思い出せません。私に解るのは、貴方が防衛プログラムである事だけです。それより、早くここから離れて下さい。そうしないと、私は貴方を壊してしまいます」

 

「どういう事かな?」

 

 ユーリからここから離れる様に言われたリヒトがその意図を尋ねると、ユーリは己の身に起こった事を話し始めた。

 

「皆が私とエグザミアを制御しようとしました。夜天の魔導書と私を接続する事で、魔導書を通じて直接制御する事も試みました。だけど、結局は誰も私を制御できませんでした。だから、私に繋がる全てのシステムを破断して、別のシステムを上書きして、闇の書に関わる全ての情報から私のデータを抹消して、闇の書の奥底に私を必死に沈めたんです。夜天の主も管制人格(マスタープログラム)も知りえない、闇の書が抱える本当の闇。沈む事無き黒い太陽。影落とす月。故に、けして砕け得ぬ闇。それが、私なんです……!」

 

 ユーリは最後の方では泣きそうな表情で語り終えた。全てを聞き終えたリヒトは、ここでエーベルヴァインが伝えた言葉の内容に関する理解を得た。

 

「エーベルヴァインが言っていたのは、こういう事だったのか。確かに、核となっているエグザミアの制御プログラムである紫天の書やそれを扱う構築体(マテリアル)達と切り離されてしまえば、制御できないのは当然だ。それにエグザミアについては、緊急事態に備えて紫天の書の代わりに夜天の書でも制御できる様に予め作られてはいるが、作り出された世界が異なる夜天の魔導書にまでは流石に対応していない。しかも、それ等の強引な処理の影響で記憶の一部がメインデータから消去している様だ。だが、まだバックアップ用のサブが生きている筈。……いや、紫天の書を扱えるディアーチェ閣下が不在な今、バックアップからの再インストールすら自分ではできない。そういった不慮の積み重ねがこの現状を生み出している訳か」

 

 そう言いながらも、リヒトがその場から離れないのを見たユーリは更に警告を重ねていく。

 

「早く、早く私から離れて下さい……! これ以上はもう、魔力の増大と破壊プログラムの実行を抑え切れません……!」

 

 実際、ユーリからは余りに膨大な魔力が放出されており、しかも放出量の増大は留まる所を知らない。やがて一定の基準を超えたのだろう、ユーリの変化が一気に加速した。

 

「うっ……! ウアァァァァァァァッッッ!!!!!!」

 

 ユーリが絶叫を上げ続ける中、やがて纏っていた白い衣装を赤く染め、髪や瞳の色を変化させ、更に顔や体には入れ墨の様な模様が入っていった。そして両肩に魄翼と呼ばれる赤い霧の様な物を浮かばせると、ユーリはリヒトの方に顔を向ける。

 

「……戦闘モード、移行完了。これでもう、私は貴方を破壊するしかなくなった」

 

 このユーリの変わり果てた姿を見た時、リヒトの怒りは頂点に達した。……この様な機能など、ユーリには搭載されていなかったと。その燃え滾る炎の様な激しい怒りを胸に沈めながら、リヒトはユーリに語りかける。

 

「悪いが、君に破壊される訳にはいかないな。何故なら、私は君を託されたのだから」

 

「私を託された? ……私には、そんな事を頼んでくれる存在なんていない」

 

 リヒトから出てきた「託された」という言葉に対して、ユーリは悲しげに否定した。しかし、それをリヒトは否定する。

 

「いるのだ。君が覚えていないだけで。故に、私は君が自ら砕け得ぬと言ったその闇を切り払い、君が本来いるべき(そら)へと帰す!」

 

 リヒトはそう宣言すると、魔力を戦闘状態にまで高めた。すると、ユーリはリヒトが敵対行動を取ったと判断したのか、いきなり攻撃を仕掛けてきた。

 

「セイバー!」

 

 その声と共に広げた両手から剣と呼ぶには余りに長大な炎を放出した。本来はそのまま両側から挟み切る様にして敵を攻撃するのだが、仕掛けた相手が余りにも悪過ぎた。

 

「遅い!」

 

「……えっ?」

 

 瞬間加速魔法であるスレイプニールを使用できるリヒトにとって、その攻撃は余りに隙が大き過ぎたのだ。あっさりとユーリの懐に入り込んだリヒトは、ここで魔力爆縮を用いた「技」を仕掛ける。

 

「少々痛いだろうが、我慢してくれ。ティターネンツォルン!」

 

 リヒトの放った右拳から激しい爆発と衝撃がユーリの体に直接叩き込まれるが、ユーリは僅かに表情を歪めただけだった。そして、そのままカウンターを仕掛ける。

 

「ウッ! ……ナパームブレス!」

 

 ユーリは重力と炎を混ぜ合わせた巨大な赤黒い球体を作り出してリヒトを呑み込もうとしたが、その時には既にリヒトはユーリの間合いの外にいた。そこでリヒトはダメージが思った程には入っていない事から、ユーリの強さについて解析する。

 

「完璧に入った筈のティターネンツォルンの当たりが浅い。どうやら想定より魔力障壁が堅い様だ。いや、あれは障壁を十層単位で重ねているな。それに、先程の炎の剣に重力と炎熱の融合攻撃といった魄翼の攻撃転用。どちらもまともに食らえば、たとえ防御が万全でも危ないだろう。そして、それらはエグザミアの生成する膨大な魔力があってこそ成立する。……動きは素人そのものだが、それを補ってなお余りある強大な攻撃力と防御力。それが砕け得ぬ闇(アンブレイカブル・ダーク)としての強さか」

 

 リヒトがユーリの強さについてある程度の答えを出した所で、ユーリの魔力量が更に増大した。……次元航行艦の動力炉をも容易く上回る出力を一個人で発生させるなど、通常ならまず絶望的と言っていい。

 

「だが、この程度ならまだ私一人で対処できるな」

 

 しかし、更に悪い状況下に置かれた事が何度もあるリヒトにとって、現在の状況など余り驚く様な事ではなかった。

 やがてユーリが魄翼を赤い槍に変えて打ち出すと、リヒトは時の隧道を用いたカウンターを仕掛ける。しかし、ユーリの防御力は己の攻撃を防ぎ切れない様な脆いものではない。カウンターとして返された自分の攻撃を耐え切ったユーリは、今度は魄翼を翼状に広げると絶叫を上げながら無数の魔力弾を放った。

 

「アァァァァァァッッ!!!!」

 

 魔力弾の余りの数と密度を前に流石に躱し切れないと判断したリヒトは、鉄壁の名を冠する防御魔法を展開する。

 

「アイゼルンマウアー!」

 

 アイゼルンマウアーはユーリが放った無数の魔力弾を全て遮ってみせた。どうやら魔力弾自体の攻撃力はそれ程でもないらしかった。ただ、ユーリの絶叫が苦痛によるものであると察した事で、リヒトは時間が余り残されていない事を悟る。

 

「不味いな。生成した膨大な魔力に耐え切れずに、体が自己崩壊しかけている。これでは、時間をかけて攻略する余裕はないか。……ならば!」

 

 そこで、リヒトはドラッヘボーゲンを手に取るとそのままドラッヘボーゲンによる最大攻撃であるドンナーシーセンを放つ。しかし、ドンナーシーセンを見て取ったユーリは放っていた無数の魔力弾をリヒトが放った必殺の矢に集中させる事で相殺する事に成功した。その直後に取ったユーリの行動を目の当たりにしたリヒトは驚愕する。

 

「クッ、ウゥゥゥゥゥッ……」

 

 ……ユーリが己の腹に右手を突き刺したのだ。その際、ユーリの魔力が突き刺した右手に集まって来ているのを察したリヒトは、ユーリが何を考えているのかを理解して思い留まる様に言い聞かせる。

 

「なっ! まさか、エグザミアから攻撃用の魔力を直接取り出すつもりか! 止めるのだ! その様な事をすれば、システムの自己崩壊が本格化してしまう! そうなれば、もはや取り返しがつかなくなるぞ!」

 

 しかし、ユーリは苦しみながらもリヒトの言葉に耳を貸そうとしなかった。

 

「そ、それでもいい。私はただ全てを破壊するだけ。……いいえ。もっと早く、こうすれば良かった。破壊しか齎さない私が壊れてしまえば、もう誰も傷つかないで済む」

 

 もはや自滅を望んでいるとしか思えない言葉とその内容に相反した透き通る様な笑みを浮かべたユーリの姿を目にした時、リヒトは思わずユーリを叱りつけてしまった。

 

「この馬鹿者が! 管制人格もそうだが、何故こうも自暴自棄になりたがる! 諦めるのは、まだ早い!」

 

 しかし、ユーリは笑みを浮かべ続けるだけで、もう何も反応を返そうとはしなかった。その姿にユーリが己の消滅を望んでいる事を見て取ったリヒトは、新生した愛剣による一撃で活路を見出す決断を下す。

 

「もはや一刻の猶予もない。……渾身の一撃に全てを懸ける!」

 

 そして、リヒトは腰に差した鞘からカイゼルシュベルトを勢いよく抜き放ち、そのまま正眼に構えた。すると、リヒトの騎士甲冑の胸部中央にある宝玉からカイゼルシュベルトの刃へと炎熱変換された魔力が照射され、刃が真っ赤に加熱されると同時に膨大な魔力が蓄積されていく。

 

「ドンナーシュトラール!」

 

 そして、円を描く様にしてカイゼルシュベルトを天に掲げると、そこからそれこそ天をも貫かんばかりの巨大な魔力と熱量の融合エネルギーの刃が放出された。炎熱変換した魔力を刃に照射する事で魔力と熱量を融合させ、それを剣を媒介として放射する事で全てを切り裂く強大な刃とし、更には雷のエネルギーをも取り込んで必殺の一撃を振り下ろす。

 

 それがリヒトの最大奥義、ドンナーシュトラールである。

 

 なお、リヒトはヒドゥン襲来においてこの奥義を限界を超えて使用する事で一誠が限界まで倍加を蓄積する為の時間稼ぎを成し遂げているが、今のドンナーシュトラールにはその時のものに匹敵する程の威力が秘められていた。

 一方、ユーリが己の胸に突き刺していた右手を抜き始めると、その右手には巨大な赤い剣が握られていた。

 

「エンシェントマトリクス……!」

 

 ユーリは膨大な魔力が込められた赤い剣をリヒトに向かって投げ放つ。

 

「デイアァァァァァッッッ!!!!!!」

 

 それと同時に、リヒトの気迫の籠った声と共に魔力による大気の鳴動によって発生した雷さえも取り込んだ巨大なエネルギーの刃が勢いよく振り下ろされ、ユーリが放った赤い剣と真っ向から衝突した。

 

 ……拮抗は、一瞬だった。

 

「そんな……! エンシェントマトリクスが、こうもあっさり……!」

 

 自分にとって最も強く、それ故に信頼も置いていた攻撃が簡単に破られた事に対してユーリは驚愕と共に(おのの)くが、本当の恐怖はこれからだった。エンシェントマトリクスを切り裂いた巨大なエネルギーの刃は、そのまま何十層にも重ねられた防御障壁をまるで紙切れの様に切り裂いていく。

 

 ……エンシェントマトリクスと何十層にも渡る防御障壁。

 

 自分を砕け得ぬ闇としていたものを軽々と切り裂いた巨大な刃を目の当たりにして、ユーリは観念した。

 

(これなら、エグザミアはともかく自分を構成するデータは確実に破壊される筈。……これで、楽になれる)

 

 ユーリは何処か解放された様な想いを抱きながら、エネルギーの刃が自分の体を切り裂いていくのを静かに受け入れた。……不思議と、痛みを感じなかった。

 

「今だ! メンテナー権限、発動! システム点検の為、エグザミア機能停止!」

 

 非殺傷設定を施したドンナーシュトラールでエグザミアから生成される魔力を全て破壊したリヒトは、ユーリから一時的に全ての魔力が失われているのを確認した所ですぐさまユーリに近付いて頭に触れた。そして、メンテナー権限を発動してエグザミアの制御コマンドを打ち込む。

 ……実は、リヒトはユーリと構築体の誕生に深く関わっており、ユーリ達のメンテナンスを行える権限を与えられていたのだ。その為、ユーリとエグザミアはリヒトから打ち込まれた制御コマンドを何ら抵抗せずに受け入れる。

 

「メンテナンスの為、エグザミア機能停止。システムU-D、シャットダウン」

 

 核であるエグザミアがその機能を停止した事で、それを動力源とするシステムU-Dもまたシャットダウンする事になる。それにより、禍々しさが先に立っていた戦闘モードから元の姿に戻ったユーリは瞳を閉じて意識を閉ざした。ここで、リヒトは大胆な手に出る。

 

「メンテナー権限により、ユーリ・エーベルヴァインにインストールされているシステムデータを全て削除! 削除終了後にサブメモリーのバックアップデータを再インストール! そして再インストール終了後、エグザミア再起動!」

 

 サブメモリーのバックアップデータが生きているのを見越して、ユーリの全システムデータを削除する事にしたのだ。構築体達と切り離される一方で戦闘モードの様に元々搭載されていなかった機能がユーリに付与されている事から、夜天の魔導書と同様のバグがユーリにも発生している可能性が高いと見て、リヒトは虱潰しに修正するよりはバックアップデータを用いたリカバリーを施した方が良いと踏んだのである。そうして、全ての処置が終了した所でユーリの瞳が再び開かれた。

 

「エグザミアの再起動を確認。ユニット起動。無限連環機構、動作開始。システム、オールグリーン。……私、生きてる?」

 

 意識を取り戻したユーリは、自分がまだ生きている事に対して信じられないといった表情を浮かべる。一方、元に戻ったユーリを見て、リヒトは最後の仕上げに入った。

 

「これで最後だ。システム点検の結果、エグザミアの制御系統に異常を確認。通常稼働では暴走の危険がある為、メンテナー権限によりエグザミアの稼働モードをアイドリングに移行。以後、異常への対処が終了するまで稼働モードの変更を凍結」

 

 エグザミアをアイドリングさせる事で必要最小限しか魔力を生成できないようにした所で、リヒトは安堵の息と共にユーリの頭から手を離す。

 

「これでこの場は大丈夫だろう。本格的な対処をどうするのかはこれから考えるとして、後は君が笑顔を取り戻すだけだ。……ユーリ」

 

 リヒトがユーリの名を呼び掛けると、自分の事だとはまだ思い出せていないユーリは小首を傾げた。

 

「ユーリ……? それが、私の名前ですか?」

 

 ユーリの問い掛けに対し、リヒトは彼女の名前を由来と一緒に教える事で答える。

 

「そうだ。ユーリ・エーベルヴァイン。それが、君の名前だ。姓は私の世界における歴代の夜天の王の中で最も心穏やかであり、また聡明であられた心腹の友と同じもの。そして名は死産だった友の娘に名付けられる筈だったもの。……つまり、君は正真正銘夜天の王の娘であり、夜天と暁の間に生まれた紫天の子なのだ」

 

 リヒトに己の名とその由来を伝えられたユーリは早速自身の記録を検索し始めた。

 

「記録検索。……一件、該当」

 

 その次の瞬間、ユーリはまるで靄の掛かった様な頭の状態が次第にクリアになっていくのを感じた。……そして。

 

「……今、全部思い出しました。先天性の魔力欠乏症で体が弱くて、せっかく授かった子供も死産で失って、その影響で二度と子供を作れなくなったお母さん。そんなお母さんの為に、夜天の王だったお父さんとお父さんに仕えていた貴方と司書(ビブリオテカール)の三人が夜天の書に収められた叡智を総動員して作った特定魔導力生成機関永久結晶(エグザミア)。それを核とする盟主の私とエグザミアの制御プログラムである紫天の書を扱う王のディアーチェ。王を補佐する理のシュテルと力のレヴィ。そんな私達四基は、夜天の王だったお父さんとまるで朝日の様に暗く沈んだ皆の心を明るくしてくれるお母さんの子供であり、沢山の星が輝く夜空と朝日が昇る暁の間に現れる紫色(ししょく)に染まった(そら)を織り成す者。だから、紫天の子。……私、破壊と殺戮の為とか夜天の魔導書を乗っ取る為とかそんな事ではなくて、ただ皆に望まれたから人として生まれてきて、そして皆からいっぱいの愛情を注がれて、優しい心を育ててもらったんですね」

 

 全てを思い出したユーリは、静かに涙を流していた。……その涙は、歓喜によるものだった。

 

「どうやら思い出せた様だな」

 

 リヒトが確認を取ると、ユーリは頷きながらリヒトを当時の名で呼んで返事とした上で感謝の言葉を伝える。

 

「はい、騎士(リッター)。私に大切な事を思い出させてくれて、ありがとうございます」

 

 ユーリが完全に記憶を取り戻したのを確認したリヒトは、ここで本来ならユーリと共にある筈の存在について尋ねた。

 

「ユーリ。……構築体達は一体どうなった?」

 

 すると、ユーリは悲しげな表情を浮かべて自分の知る限りの事を話し始めた。

 

「詳しい事は私にも解りません。この世界で気がついたら私一人だけで、ディアーチェ達との繋がりも確認できませんでしたから。ただ、エグザミアがある以上、外部から物理的に破壊するのは不可能な筈ですから、たぶんベースとなるデータを内部から破壊されたんだと思います……」

 

「そうか……」

 

 ユーリからこの世界で初めて目覚めた状況を聞かされたリヒトは、既に構築体達が喪われている事を悟った。……もし健在であれば、おそらくはユーリを救い出す為の行動を取っていたと思われるからだ。

 一方、構築体達の事を話した事で気を落としていたユーリであったが、気を取り直すとエーベルヴァインの妻から言伝がある事をリヒトに伝える。

 

「……それと、お母さんから貴方に言伝があります」

 

「何と?」

 

「たった五年だったけど、あの人と貴方達の三人が遺してくれたこの子達のお陰であの人が亡くなり、貴方達が次の主の元へと旅立った後も幸せに生きていけました。だから、私が死んだ後のこの子達の事をお願いします。……お母さん、最期は笑顔でお父さんの元へと旅立ちました」

 

 最後にエーベルヴァインの妻の最期の様子をユーリから伝えられたリヒトは、静かに故人を偲んだ。

 

「そうか……」

 

 だから、この後に飛び出したユーリの爆弾発言に思わず了解の返事を返してしまった。

 

「ですから、これからよろしくお願いします!……お父さん!」

 

「そうか、解った。……ハッ?」

 

 余りに想定外の発言に思わず尋ね返してしまったリヒトを見て、ユーリは顔を少し俯かせながら申し訳なさそうに確認を取る。

 

「……いけませんか?」

 

 その様なユーリの様子に居たたまれない気持ちを抱いたリヒトは、少々慌て気味にそうではないと否定してから自分を父と呼んだ理由について尋ねた。

 

「いや、そういう訳ではない。ただ、何故そういう事になったのかが解らないのだ」

 

 すると、ユーリは自分がリヒトを父と呼んだ理由について説明し始める。

 

「これも、お母さんから言われていたんです。私がいなくなった後で誰かに悪用されない様に、私が死ぬと同時に紫天の書を次元の狭間に転送する手筈になっているけど、もし何かの巡り合わせで騎士や司書に再会した時には思いっきり甘えちゃいなさいって。それに、貴方は私達を作ってくれたもう一人のお父さんだから……」

 

 少し恥ずかしげな表情を浮かべたユーリから説明を受けた事で、リヒトは何故この世界に飛ばされてきたのかを理解した。

 

「……そういう事か」

 

「えっ?」

 

 ユーリがリヒトの反応に首を傾げていると、リヒトは平行世界に飛ばされたばかりの時の事を話し始める。

 

「この世界に飛ばされてきた時、私は確かに幼き少女が助けを求める声を聞いたのだ。今思えば、それはユーリの声だった気がする。だとすれば、私はユーリの助けを求める声に応えてこの世界にやってきた事になるのだろう。主上や主兄殿、そしてリインには申し訳ないが、私はユーリの声に応えて良かったと思っているよ」

 

 リヒトからその様な事を言われて、ユーリはもう嬉しくて堪らなかった。

 

 この人は、お父さんはけして届かない筈の私の声に応えて遠い世界から助けに来てくれた、と。

 

「……お父さん!」

 

 だから、ユーリは新しい父となったリヒトに笑顔で抱き付いた。……尤も、身長が180 cm後半と長身であるリヒトの腰の当たりが頭になる為、リヒトが立っていると手が回るのがどうしても腿辺りになってしまうのだが。それに、新しい親子が親交を深める時間の余裕が今はなかった。

 

「ユーリ。悪いが、今は時間がない。このまま私と一緒に来てくれ。内部空間にいる今が好機だ。夜天の魔導書を修復するぞ」

 

 リヒトが夜天の魔導書の修復に取り掛かる事を告げると、ユーリは素直に承諾する。

 

「はい!」

 

 そして、二人は管制人格とはやてがいるであろう場所に向かい始めた。

 

Overview end

 

 

 

 私がユーリを砕け得ぬ闇から元に戻した所まで話をすると、主上は納得したご様子だった。

 

「成る程なぁ。確かにそんな事を言われたら、リヒトに懐くんは当然やな。でも今のリヒトの話やと、わたし達があっちに到着したんは」

 

 ここで主上から話を振られたリインは、平行世界に到着した時期について言及し始めた。

 

「はい。ちょうどリヒトとユーリが戦い始めた頃でしょう。何せ、向こうに到着した途端に膨大な魔力を察知しましたから、あの時は少々焦ってしまいました」

 

 このリインの最後の言葉に主上も同意なされた。

 

「ホントやな。わたしも、あれには全力で魔法使わなあかん思うてな。その魔力の発信源やった向こうのリインに対して全力全開で行ったんよ。……今思えば、向こうのリインにはかなり可哀そうな事をしてしもうたなぁ」

 

 ……ユーリ。私が相手で運が良かったな。

 

 私は当時のユーリが幸運に恵まれていた事を悟った。

 

「お父さん?」

 

 その様な事を考えていた私に何かを感じたのだろう。ユーリが私に呼び掛けてきた。そこで、もし主上と戦っていた場合の勝敗についての私の見解をユーリに伝える。

 

「当時の主上が全力となると、砕け得ぬ闇であったユーリではまず勝てなかっただろう。膨大な魔力量だけで勝てる程、主上はけして甘くない」

 

「どういう事ですか?」

 

 私の見解を聞いたユーリは私に説明を求めてきたので、私は主上の魔法と能力について掻い摘んで説明した。

 

「考えてみるといい。半径数百 mに渡って展開される無数の魔力弾。しかも魔力弾一個一個になのはの砲撃魔法と同等クラスの魔力が込められている為に、辺り一面が主上の魔力光によって白一色に染まるのだ。そして何より、主上は当時既にこの極大レベルの魔法を三つも並行して使用できた。……正直な話、我が主である事を差し引いたとしても、私は主上を相手取るのを極力避ける選択をするだろう。その意味では、主上と戦わずに済んだユーリは幸運に恵まれ、逆に主上の全力を一身に浴びる事となった向こうのリインは不運だったと言えるだろう」

 

「……ハヤテ、実は凄かったんですね」

 

 私の説明を聞き終えたユーリは、かなり無礼であったが主上に対して見直す様な発言をする。それに対して主上は苦笑いを浮かべながらもユーリを窘められた。

 

「ユーリ、「実は」は余計や。……けどまぁ、アンちゃんはわたしが使えん様な特殊な魔法を色々使えるし、ロシウ先生に至ってはわたしが上なんは魔力量だけで、後は使える魔法の数も技術もわたしなんかよりずっと上やからな。そやから、わたしがそこまで凄いか言われると、正直首を傾げてしまうんよ」

 

 確かに、主上の仰られている事は私も正しいと思う。……思うのだが、同時に主上にはご自身がお持ちになられている力がどれだけのものか、もう少しご自覚頂きたいとも思うのだ。

 

「……お父さん。数多の叡智を蓄えている夜天の書を携えた夜天の王よりも魔法を多く扱える魔導師って、一体何なんですか? ひょっとして、お父さん達の世界にはそんな魔導師がいっぱいいるんですか?」

 

 現に、主上のご発言にかなりの恐怖を感じたらしく、私にそう問いかけてきたユーリの顔は少々引き攣っていた。

 




いかがだったでしょうか?

リヒト達の世界における紫天の書は、「もし製作者と夜天の書へ放り込んだ者が全くの別人だったら」という仮定を元に独自設定してあります。予めご了承ください。

では、また次の話でお会いしましょう。
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