ロシウ老師の存在を知って、私達の住まう世界に対して恐怖心を抱いてしまったユーリをどうにか宥めた後、私はユーリを元に戻した後ではやてと
Overview
はやてと管制人格の元へと向かう途中、具体的な行き先をまだ聞いていない事に気付いたユーリはリヒトに早速尋ねてみた。なお、流石にリヒトとの体の大きさが違い過ぎる事からユーリはどう頑張っても走ってついていく事ができず、結局は飛行魔法でリヒトの隣を飛んでいく事になった。……実は父親となったリヒトと一緒に地面の上を走りたかったというのは、ユーリだけの秘密だ。
「ところで、お父さん。一体何処に向かっているんですか?」
そこで、リヒトは行き先と共にこれから行う事について説明を始める。
「夜天の魔導書の中枢とも言える場所だ。はやてと管制人格はおそらくそこにいる。そこでまずは夢を見せられているであろうはやてを起こし、魔導書の制御をある程度取り戻してもらう。修復を行うのはそれからだが、防衛プログラムが本格的に暴走を開始するまで時間は余り残されていない筈だ。……どうやら、私が起こす必要はなかった様だな」
最後にその様な事を口にしたリヒトの目の前には、既に意識を覚醒させて管制人格に新たな名を与えているはやての姿があった。
「もう闇の書とか呪われた魔導書なんて、世界中の誰にも呼ばせたりさせへん! だから、新しい名前。わたしが付けてあげる。強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール。……リインフォース」
正直な所、ここで外野が声をかけるのは野暮であるとリヒトは思ったのだが、流石に時間が殆ど残されていない事からあえて声をかける。
「どうやら、こちらでもまた祝福の風の名を頂いた様だな。やはり主上とはやては根本的な所で同じなのだろう」
すると、はやてとリインフォースとなった管制人格は揃って声を掛けたリヒトの方を向く。
「リヒトさん!」
はやてはリヒトと久しぶりに会った事で喜びを露わにしたが、リインフォースはこの場を訪れるまでに時間が掛かった事について腑に落ちない様子であった。
「平行世界の防衛プログラム。いや、真なる夜天の守護騎士と呼ぶべきか。やはり貴方に「夢」は通用しなかった様だな。それにしては、ここに来るまでにかなり時間がかかった様だが」
リインフォースから飛び出した「平行世界の防衛プログラム」という言葉に、はやては思わずリインフォースの方を向き直った。一方、リヒトはリインフォースが抱いた疑問に対して端的に答えた後で、二人にとっての朗報をがある事を伝える。
「管制人格。いや、もはやリインフォースと呼ぶべきか。それはこちらに向かう前に色々とやるべき事があったからだ。……それと朗報だ。おそらくお前もはやても何一つ失う事はないだろう」
「「えっ?」」
二人が揃って首を傾げていると、リヒトは夜天の魔導書の修復作業についてに説明を始めた。
「ザフィーラが齎してくれたデータのお陰で、夜天の魔導書の修正プログラムを作り上げる事ができた。後はそれを適応させる事でバグやデータの破損を修正し、正常化させる。ただ、当初は外部から干渉せざるを得なかった為に暴走を繰り上げてしまう恐れがあったのだが、お前が私を魔導書の内部空間に取り込んでくれたお陰で内部から直接手を打つ事ができる。正に災い転じて福と為すと言った所だな。そこで修復作業の内容なのだが、まずお前についてはこのままではたとえ暴走の直接的な原因である防衛プログラムとその追加ツールを切り離したとしても、バックアップ機能の誤作動によってそれらを永遠に生み出し続ける事になる。だが、修正プログラムを適応すればこの問題は解決し、お前は本来の使命を全うできる様になる筈だ。また、その膨大な量で夜天の魔導書に過剰な負荷をかけているデータの整理も合わせて行う。その際、守護騎士達を魔導書から切り離し、はやてのリンカーコアと直接接続する事ではやてだけの守護騎士とする予定だ。これについての不満は騎士達からは特に出ないだろう」
リヒトの説明を受けたリインフォースは半ば夢心地の状態でリヒトに確認を取る。
「……私は、主や騎士達と共に生きてもいいのか? 偉大な魔法や知識を記録し、後世に役立てるという本来の使命を果たす事ができるのか?」
これに対して、リヒトは力強く頷いて肯定した。
「もちろんだ。お前はこれからこの優しき夜天の王と心を取り戻した騎士達と共に穏やかで優しき日々を歩んでいくといい。数百年に渡って苦難を強いられてきたのだ。騎士達と同様にお前もまた報われるべきだろう」
リヒトの言葉を聞いたリインフォースは力が抜けた様に地面に膝をつけると、両手を顔に当てて泣き出してしまった。一方、はやては歓喜の余りに泣き崩れてしまったリインフォースの頭を撫でながら言葉を掛けると同時に、リヒトに対しては感謝の言葉を告げる。
「良かったなぁ、リインフォース。それと、リヒトさん。本当にありがとうございます」
しかし、リヒトははやてからの感謝の言葉を一旦棚上げにした。修復が完了しない限りははやてもリインフォースも救われないからだ。
「礼を言うのは、修復作業が終わってからにして欲しい。ではユーリ、始めるぞ」
「はい、お父さん!」
ここでようやくユーリの存在に気付いた二人は、リヒトに対するユーリの呼び方にまたもや首を傾げる事になった。
「「……お父さん?」」
だが流石に時間が圧していた為に、リヒトはユーリに関する説明を聞くのを後回しにする様に二人に頼む。
「詳しい話を聞くのは後回しにしてほしい。今は僅かな時間も惜しいのだ」
すると二人とも時間がないのを察したのか、揃って頷く事で承諾すると早速修復作業を開始した。
修復作業を開始してから十分後。作業は順調に進行していた。
「守護騎士システム「
ユーリが雲の騎士の切り離しと再接続が終了して次の作業に入る事をリヒトに伝えると、リヒトが担当する作業の進捗状況について確認してきた。それに対してリヒトは、己の担当する作業の進捗状況をユーリに伝える。
「管制融合騎であるリインフォースに搭載されているシステムデータの修復作業はすべて完了した。後は夜天の魔導書修復の本命と言える防衛プログラムだが、これを実質乗っ取っている追加ツール「ナハトヴァール」がある以上、この場での修復は無理だ。この分では、一度切り離して防衛プログラムをナハトヴァールごと実体化させた後にコアを露出させ、そこから直接修正するしかないな。リインフォース。防衛プログラムの切り離しについては、魔導書の管制を司るお前が行う必要がある」
リヒトがリインフォースに防衛プログラムの切り離しを依頼すると、リインフォースはそれを了承した。
「解った。ただその為には、現在外で動いている防衛プログラムを外の者達に止めてもらわねばならない」
リインフォースが防衛プログラム切り離しの為の条件を告げると、はやてがその連絡役を立候補した。
「それやったら、わたしが外におる人達に伝えよか? 一応わたしが夜天の魔導書の主やから、外の人も話を聞いてくれると思うんやけど」
はやての提案は至って妥当なものであり、リインフォースが断る理由など何処にもなかった。
「えぇ。お願いします、我が主」
リインフォースがはやてに外への連絡を頼むと、はやては早速外にいる者達へと呼び掛け始めた。
「外の人、聞こえますか?」
……ただ、このはやての呼びかけを聞いていたのは、何もなのは達だけではなかった。
Overview end
「これで、ようやっとわたしの記憶しとる内容と話が繋がったなぁ」
私がはやてとリインフォースとなった管制人格と合流して修復作業に入り、最終段階にまで及んだ所までを話すと、主上はようやくといった面持ちになられた。ここで、私はこの時に外ではどうなっていたのかをよく知らない事に思い至り、主上に尋ねてみた。
「そう言えば、私の方も外ではどの様な状況であったのかを余り良く知りませんな。私の居場所を察知したロシウ老師があちらの世界への扉を開き、ロシウ老師の実体化を継続する為に動けなくなった主兄殿の代わりに主上とリインがあちらの世界へ出向かれ、なのは達にご協力為された事までは解るのですが……」
すると、主上は一つ頷いた後で私が夜天の魔導書の内部空間にいた時に外で何があったのか、それを私にお教え下さる事になった。
「うん、そうやな。この際やから、わたし達が向こうに到着してからの話をしようか。……と言っても、ユーリにとってはかなり衝撃的な話になるんとちゃうかなぁ?」
そこで、主上はユーリの方を見て、何処か申し訳なさそうなお顔を為された。更にリインも当時の役割を話す一方で、明らかにユーリを気にして言葉を続ける事を躊躇う様な素振りを見せる。
「はやての全力戦闘の影響が現実世界に及ばない様に隔離結界の強化に勤めていたので、私もその時の戦闘の一部始終を見ているのですが……」
……リインがあそこまで言い難そうにするとは。一体、主上はあの時に何を為されたのだ?
私は当時の主上の所業について、早くも不安を抱き始めてしまった。するとユーリも私の心情を察して不安になったのだろう、私の手をギュッと握ってきた。明らかに怯えの色を見せ始めたユーリの様子を目の当たりにした主上は、少々肩を落としつつも当時の事をお話しになる事を決められた。
「ま、まぁ折角ここまでリヒトが話をしてくれたんや。こっちの方も話をせんとスッキリせんわ。でも、こんな小さな女の子に怯えられるって、やっぱりあの時はやり過ぎたんかなぁ……?」
そうして、今度は主上が語り手として、平行世界に到着されてからの話を始められたのだが、主上は前置きとして私が内部空間に取り込まれてから主上達が到着されるまでにそれなりに時間が経っていたらしいと仰った。確かに戦場が街中から海上へと変わっていた事から、残されていた者達が奮闘していたのは間違いなかった。
ただ、その時の様子を知る術が本人から話を聞く以外にない事を、私は少々残念に思った。
Side:高町なのは
リヒトさんと闇の書さん、じゃなかった。夜天の魔導書さんは激しい戦闘を繰り広げていた。その間に交わされる言葉に、私は何度も心を動かされた。
本当にやりたい事ができずに苦しんでいる、夜天の魔導書さん。
特にリヒトさんに対して「妬ましい」と言った夜天の魔導書さんの気持ちを私が考えていると、意外な所から意見が出てきた。
『Master, I can understand her feelings.』
「レイジングハート?」
『If I can't help you, I would not be able to forgive myself like her. Because it is my raison d'être to help you.』
レイジングハートの意見を聞いて、私は理解した。
「夜天の魔導書さん。本当は、はやてちゃんの役に立ちたいんだね。でも、それができないから、あんなに悲しんでる」
その苦しみや悲しみを思ったら、私は泣きたくなってきた。そして、リヒトさんはこの場にいる誰よりもその気持ちを理解して、夜天の魔導書さんに手を差し伸べ続けていた。特に「道具にも魂が宿る」というリヒトさんの言葉を聞いた時、私もフェイトちゃんもハッとなった。
……さっきまで私が戦っていたヴィータちゃんやフェイトちゃんが戦っていたシグナムさん、それに私達のリンカーコアを蒐集したシャマルさんもそう。あの人達には、確かにはやてちゃんを慈しむ心があった。私達を傷付けたり苦しめたりする事に対して申し訳なさみたいなものも感じられた。だから、リヒトさんの言っている事は正しいって実感できる。夜天の魔導書さんも本当は解っている筈。でも、それを素直に受け入れられないでいた。
そして、フェイトちゃんがとうとう我慢できずに飛び出してしまった事で、事態は最悪の方向へと向かいつつあった。
「まさか、平行世界の防衛プログラムを我が内に封印し、夢の世界に沈めることができるとは。これで、私を打倒し得る唯一にして最大の障害がなくなった。……なくなってしまった」
何故なら、フェイトちゃんと入れ替わってしまった事で、リヒトさんが私達の眼の前で消えていってしまったのだから。
フェイトちゃんは、自分の行動のせいでリヒトさんが身代わりになってしまった事を酷く悔やんでいた。
「……私のせいだ。私がリヒトさんの言う事を聞かずに先走ったせいで、私の身代わりになって消えてしまった。私、一体何度失敗して、その度にリヒトさんに迷惑をかけたら気が済むの?」
正直に言えば、私も一番頼りにしていたリヒトさんがいなくなった事ですっかり気を落としてしまっていた。そこに、力強い声で語りかけてきた人がいた。
「諦めるのはまだ早い!」
「ザフィーラさん……?」
そう。夜天の魔導書が暴走を始めた時にその場にいなかった事でヴィータちゃん達みたいに消滅させられずに済んだザフィーラさんだ。ザフィーラさんはリヒトさんの現状とこれからしなくちゃいけない事を私達に教えてくれた。
「長は敵対者捕縛用の内部空間に取り込まれただけだ! まして、そこで見せられる都合のよい夢などに溺れる様な惰弱な方ではない! ならば、我等の為すべき事はただ一つ!」
先にザフィーラさんのこの言葉に答えたのは、フェイトちゃんだった。……その目には、力強い輝きが戻っている。
「……リヒトさんが戻ってくるまで」
そして、フェイトちゃんの言葉を私が続けた。
「夜天の魔導書さんを足止めする!」
私達の返答に対して、ザフィーラさんは「正解だ」と言ってくれた。そして、私達に指示を出す。
「そうだ! 管制人格の前には俺が立つ! 二人は俺の援護を頼む! ただ重ねて言うが、絶対に俺より前には出るな! これが守れないと、今度こそ死ぬぞ!」
「「はい!」」
ザフィーラさんの指示に私達は即答で応じる。……それを守れなかった代償が、リヒトさんの戦線離脱なのだから。
「やれるのか、青き狼? 防衛プログラムには遠く及ばないお前に」
夜天の魔導書さんはそうザフィーラさんに問い掛けてきたけど、ザフィーラさんに迷いはなかった。
「確かに、災禍を遮る雲の使命に目覚めたとはいえ、俺は長には遠く及ばない。それは純然たる事実だ。……だが」
ザフィーラさんはここで自分の魔力を一気に跳ね上げる。……あくまで私の感想だけど、リヒトさんと戦った時より魔力量が上がっていると思う。
「夜天の誓約を見失っている今のお前ならば、俺でも相手取る事は十分可能だ!」
だから、ザフィーラさんのこの言葉には強がりとか見せ掛けとかそういった要素は全くなかった。
「……それに、援軍も来るぞ」
ザフィーラさんが援軍について触れた時、私はユーノ君やアルフさん、それにクロノ君の事だと思った。……でも、ザフィーラさんが言っていたのはユーノ君達じゃなかった。
「済まない。遅れた」
そう言ってやってきたのは、クロノ君だった。ただ、クロノ君は何処かクロノ君の面影のある男の人と一緒だった。さっきザフィーラさんが「巻き込まれた民間人の保護については手を打ってある」と言っていたけど、きっとクロノ君と一緒に来たこの人が動いてくれたんだと思う。……ただ一つだけ気になったのは、その男の人の左頬が少し赤く腫れている事だった。
すると、ザフィーラさんは割と気安い様子で男の人に声をかけた。
「フッ。早速一発殴られた様だな」
すると、男の人は少し苦笑いを浮かべていた。……でも、その苦笑いには何処かホッとしている様な感じがした。
「仕方ないさ。民間人の保護に出向いたらバッタリ出くわすなんて、何とも言えない再会の仕方をすればね。……ところで状況は? リヒトがいない様だが」
「正直に言えば、かなり悪い。……長が夜天の魔導書の内部空間に取り込まれた」
男の人からリヒトさんの事を尋ねられたザフィーラさんは、リヒトさんが夜天の魔導書さんに捕まっているのと変わらない状態である事を伝える。すると、男の人は凄く驚いていたけど、すぐに落ち着きを取り戻すとおかしな事を言い出した。
「何、リヒトが! ……いや。リヒトがやろうとしていた事を考えると、むしろ好都合かもしれない」
……好都合? 一体、どういう事なんだろう?
私は首を傾げたけど、ザフィーラさんも同じ事を考えていた様で、それでもやる事は変わらないと言った。
「ハラオウンもそう思ったか。……尤も、やる事は変わらんがな」
……ただ、聞き逃しちゃいけない言葉があった。
「ハラオウン?」
フェイトちゃんがそれについて触れると、クロノ君の面影のある人は自分の名前を名乗り始めた。
「リンディとクロノが世話になっているみたいだね。私はクライド・ハラオウン。クロノの父親で、リンディの夫だ」
「間違いないよ。僕が保証する」
その名前を聞いて、クロノ君がそれが正しい事を保障して、そしてその意味を理解した時、私は大声を上げて驚いた。
「えっ? ……えぇぇぇぇっ!!」
「だ、だって、クロノのお父さんは十一年前に……!」
フェイトちゃんもかなり驚いている様で、言葉が上手く出て来ないみたいだった。それでもフェイトちゃんの言いたい事が解ったみたいで、クライドさんは自分の事情を話してくれた。
「実は乗艦していたエスティアが消滅する直前に、偶々実体化しようとしていたザフィーラが私を助けてくれたんだ。ただ彼は治療手段を持っていなかった為に、その時既に重傷を負って気絶していた私に凍結魔法を使用する事で延命処置を施してくれたんだ」
「あ、あの。それだったら」
クライドさんの事情を知ってに何かを提案しようとしたフェイトちゃんに、クライドさんは自分が今日何をする予定だったのかを話し始める。
「リンディに会ってほしいと言いたいのかな? だったら、心配しなくてもいい。実は今日、体の調子が完全に元に戻ったから、リンディやクロノのいるマンションを訪ねる予定だったんだ。……それがこの様な事になってしまってね。もっと感動的な再会にしようと思っていたのに、これで全てが台無しだよ」
「そ、そうなんですか……」
フェイトちゃんは言葉の上では納得した様な事を言っているけど、まだ頭が混乱しているのは私の目から見ても明らかだった。……だって、フェイトちゃんの視線がちっとも落ち着いてないから。フェイトちゃんの反応を見ていたクロノ君も完全に苦笑いを浮かべている。
「僕も父さんの事を随分と美化していたみたいだ。お陰でさっき再会して少し話した時に、父さんには結構茶目っ気があったのを思い出した。……けど、これでもう母さんが時々夜中に泣く事がなくなると思ったら、色々と複雑な気持ちが全部吹き飛んでしまったよ」
「その割には「これは母さんを泣かせた分だ!」と言って、思いっきり殴って来たけどね」
クロノ君は軽く笑みを浮かべてクライドさんの事を許す様な事を言っているけど、クライドさんから実は一発殴った事をバラされるとムッとした表情に変わった。……こんなにコロコロ表情が変わるクロノ君を見るのは、きっとこれが初めて。
「正直に言えば、お前が息子と再会して上手く行くのか心配していたが、どうやら丸く収まった様だな。何より、息子に殴られるのも一発で済んだ様で何よりだ」
そんなクロノ君とクライドさんのやり取りを見ていたザフィーラさんがクライドさんに少しからかう様な言葉をかけると、クライドさんも苦笑いを浮かべて切り返す。
「だが、クロノのお陰で私の不安は全て払拭された。……後は」
ここでクライドさんとザフィーラさんが同じタイミングで向きを変えると、手を前に翳した。それと同時に夜天の魔導書さんが放った攻撃魔法が二人の防御魔法によって防がれる。
「目の前の問題を片付ければ、万事が丸く収まるな」
クライドさんはそう言うと、その手に持っていたデバイスを夜天の魔導書さんに向かって構えた。それに合わせる様にザフィーラさんがクライドさんの隣に立って身構える。
「元時空管理局提督の力、宛てにさせてもらうぞ」
「あぁ、宛てにしてくれ。こちらも盾と謳われる夜天の守護獣の力、当てにさせてもらうさ」
更に、クロノ君もお父さんであるクライドさんの隣に並んだ。
「父さん。この事件が解決したら、母さんと三人で一緒にミッドチルダの家に帰ろう。僕も母さんも、父さんに話したい事がいっぱいあるんだ」
「そうだな。私もお前やリンディの口から直接話を聞きたい。……闇の書となって以降、何百年にも渡って連綿と続けられてきた悲劇の連鎖。それを今ここで止めてみせる。それが、十一年前に死んでいた所を生き永らえた私が為すべき事だ」
このクライドさんの言葉に、私とフェイトちゃんはお互いに向き合って深く頷き合うと三人の後ろからレイジングハートとバルディッシュをそれぞれ構えた。
夜天の魔導書さんは今までずっと悲しい想いをしていた。だから、それを止めてあげたい。……そう思ったから。
夜天の魔導書さんが私達が戦闘態勢を取ると、頭の上に手を翳して真っ黒な魔力の塊を作り始める。……あれは一度リヒトさんが使った所を見た事がある。自分を中心とした広い範囲に純粋な魔力波を放射する広域攻撃魔法、デアボリック・エミッションだ。
これを見たフェイトちゃんは、リヒトさんと初めて模擬戦した時の体験からソニックフォームという高速戦闘特化だったバリアジャケットを元の形に戻した。唯でさえ乏しい防御力を更に削った状態のままでいるのは、自殺行為でしかなかったから。
「闇に沈め。……デアボリック・エミッション」
夜天の魔導書さんは呪文の詠唱を終えてデアボリック・エミッションを発動させる。すると、ザフィーラさんが私達の前に出た。
「そうはさせん! 我築くは、厄を遮る
そして、リヒトさんの防御魔法であるアイゼルンマウアーを私達を囲う形で使用し、強烈な魔力波を遮り始めた。前に使ったのがリヒトさんだから単純には比較できないけど、ジュエルシードの暴走で発生した竜巻を簡単に防いでしまったアイゼルンマウアーが軋みを上げている事から、あの魔力波がどれだけ強烈なのかがよく解る。
……そして。
「まさか、お前一人でデアボリック・エミッションを防ぎ切るとはな。……蒼き狼」
夜天の魔導書さんが何処か感心した様な表情で言った通り、ザフィーラさんは攻撃を完全に防ぎ切ってみせた。
「俺は盾の守護獣。味方の無傷こそ我が誉れ。この程度の攻撃から味方を守り切れずして、どうして盾を名乗れようか。……さて、先手はそちらに譲ったのだ。今度はこちらから行くぞ!」
ザフィーラさんはそう言って狼に姿を変えると、フェイトちゃんでもやっと出せるかどうかというスピードで夜天の魔導書さんに体当たりした。たぶん、リヒトさんがさっき使ったスレイプニールという瞬間加速魔法をザフィーラさんも使ったんだと思う。
「クッ!」
夜天の魔導書さんは両手で防御魔法を使ってザフィーラさんの体当たりを防いでいるけど、流石に勢いまでは殺し切れずに次第に後ろの方へと押され始めた。
「オォォォォォッ!!」
それを見て取ったザフィーラさんが雄叫びを上げると共に魔力の出力がさらに上がって、夜天の魔導書さんを海の方へと押し出していった。私達は二人を追って、海の方へと飛んでいく。私達が二人に追いついた時には、ちょうど人の姿に戻ったザフィーラさんが大声で叫びながら拳を放つ所だった。
「ディヤァッ!」
すると、まるでガラスが砕けた様な音が辺りに響き渡った。これを見て、夜天の魔導書さんは少し驚いた表情を見せた。
「私の魔力障壁を一撃で破壊しただと? 如何に障壁破壊の技能があるとはいえ、本来なら一撃での破壊は無理な筈だ。先程のデアボリック・エミッションを防ぎ切った防御といい、其処の黒い魔法使いに匹敵するスピードといい、ここまで私を押し出したパワーといい、お前はもはや私の知る蒼き狼ではない。……平行世界の己の技と記憶を継承したというのは、本当だったか」
そこに、一時的に無防備になっている夜天の魔導書さんに向かってクライドさんが魔法を放つ。
「フリージングカノン!」
以前クロノ君が見せてくれたブレイズカノンによく似た砲撃魔法が夜天の魔導書さんに当たると、その部分が凍り付いた。その事実に、夜天の魔導書さんの表情が少し苦いものを噛んだ様なものへと変わる。
「クッ! まさか凍結の魔力変換資質を持っていたとはな。だが、私の騎士甲冑を抜くには至らなかった様だ」
確かにその通りだった。……でも。
「正確には少々違うのだが、まぁいいさ。それよりも、安心していていいのか? まだ防御障壁は回復していないのだろう?」
クライドさんが見せてくれたんだ。今なら砲撃魔法が届くって。だから、私は障壁が回復しない内に得意な魔法を撃つ。
「ディバインバスター!」
すると、フェイトちゃんとクロノ君もそれぞれの砲撃魔法を私に合わせて放ってくれた。
「プラズマスマッシャー!」
「ブレイズカノン!」
すると、夜天の魔導書さんは私達の魔法に向かって右手を向けて防御魔法を展開する。
「盾」
……でも、こうして夜天の魔導書さんが私達に意識を向けている隙をクライドさんは見逃さなかった。
「それを待っていたよ。……囲って縛れ、グレイシアケージ!」
クライドさんは夜天の魔導書さんに接近して持っているデバイスを突き付ける。すると、夜天の魔導書さんの周りが見る見るうちに凍り付いていき、とても大きな氷の中に夜天の魔導書さんを閉じ籠めてしまった。
「確かにこれ程強固なバリアジャケットを纏っている以上、凍結魔法を直接当てても効果は薄い。だが、防御障壁のない状態で周りを氷で固めてしまえば、そう簡単には身動きがとれなくなる。魔法とは、何も敵に直接当てる事で効果を発揮するものばかりではないのだよ」
……こんな魔法の使い方もあったんだ。
私はクライドさんによって魔法の奥深さをまた一つ知らされた。でも、事態が急変したのはその直後だった。
氷の中に閉じ込められた夜天の魔導書さんから、余りに膨大な赤い魔力が放出されたのだ。その影響で、折角夜天の魔導書さんの動きを封じ込めていた氷が完全に砕けてしまった。この異様な光景にザフィーラさんは驚きを隠せないでいる。
「何だ、この途方もない魔力量は! この様な切り札が管制人格にあるとは、流石に俺も聞いた事がないぞ!」
クライドさんもまた凄く驚いていた。でも、この変化に何か思い当たる事があるみたいだった。
「しかも、はやてさんとも管制人格とも魔力の質がまるで違う! これではまるで別人じゃないか! ……いや、待て。リヒトが「記録から抹消されているが、守護騎士システムの搭載と防衛プログラムの追加ツールの搭載の間に夜天の魔導書が大きく改竄された痕跡がある」と言っていたが、まさかこれの事か!」
このクライドさんの発言を聞いたクロノ君は、状況が最悪の方向に向かっている事を理解していた。
「師匠はそんな事を仰っていたのか。だが、そうなると不味いな。この分では、師匠はこの異常魔力への対処に専念しなければならなくなるから、早期の帰還が期待できない。……こうなった以上、僕達だけで彼女をどうにかするしかない」
クロノ君から伝えられた言葉に、私は怖くなった。本当に私達だけでできるのかって。きっと、心の何処かでリヒトさんに頼り切っていた所があったから。
……でも、そうじゃない。リヒトさんも言っていた。平行世界の問題はその世界に住まう者達で解決するべきだって。だったら、今こそリヒトさんの言葉を実践しないといけない。だから、夜天の魔導書さんは私達だけで何とかする。
私はそう決意すると、レイジングハートをギュッと握り締めた。
……この時、私は知らなかった。
「まさかリヒトを探しにきて早々、こんなどエライ魔力に遭遇するとは思わんかったなぁ」
「そうですね。これ程の魔力はここ数百年、兄上殿やロシウ老師、そしてはやて以外では感じた事がありません。それに、どうもリヒトの魔力があの魔力の発生源のすぐ側から感じられますから」
「まずはあの魔力の発生元をどうにかせんとアカンちゅう事か。……リイン、とりあえずこの隔離結界の補強と維持をお願いな。わたしは、あそこに向かう」
「そうでもしないと、全力が出せませんからね。解りました、はやて」
「ほな、行ってくるで」
「お気をつけて」
リヒトさんの世界から、最強の助っ人がやって来ていた事に。
Side end
いかがだったでしょうか?
大魔王はやて降臨まで、あと少し。
では、また次の話でお会いしましょう。