Side:兵藤はやて
わたしやリインの知らん所をリヒトが話し終えたから、今度はわたしの番ちゅう事やな。でもその前に、リヒトはともかくユーリは全く知らん事になるから、まずは平行世界にわたし達が向かうまでの半月の間に何しとったかを簡単に話そか。でも予め言うとくで、ユーリ。絶対に「自分のせいや」なんて言うたらあかんよ。えぇな?
……そんで、わたしとリインの目の前で突然姿を消したんやけど、それから一週間のリインはホントに酷かったんよ。どうもリヒトが挿げ替えにあった時の事がトラウマになっとったらしくてな、リインはそれこそ不眠不休の死に物狂いでリヒトの事を探し回ったんや。サーチャーを世界中に飛ばして蟻一匹見逃さんばかりに精査しとるし、魔力が尽きるまで自分で空飛んで捜し回ったりもしとる。でも何処をどう探してもリヒトが見つからんでな、とうとう精根尽き果ててしもうてそのまま塞ぎ込んでしもうたんや。結局、一週間かけて世界中を探しても見つからんちゅう事は平行世界に飛ばされた可能性が高いって、アンちゃんとロシウ先生が結論を出してな。それに基づいて探し始めたから、ドンナーシーセンを使うた時のリヒトの魔力の波動を感知できたんよ。
……これはあくまでもしもなんやけど、リヒトの魔力を感知すんのがもう少し遅かったら、リインは精神崩壊しとったかもしれへん。それだけ、リインは精神的に追い詰められとったんや。
あぁ、ユーリ。さっきも言うたけど、自分を責めたらアカンよ。リヒトも言うとったやろ。ユーリの声に応えて良かったって。そやから、なっ? ……って、どうしてリヒトもそんなに落ち込んどるんや! 何々、自分がいなくなった時の気持ちが解るかとリインから訊かれた時に、解ってしまえばリインと離れて別行動をする事ができなくなりそうだから解らない方が良いって言ってしもうた?
……ウン。確かに、今後もアンちゃんの護衛に就く事が何度もありそうなリヒトはこん時のリインを知らん方が良かったかもしれへんなぁ。けど、今はもう大丈夫やと思うで。何たって、二人の愛の結晶がリインのお腹の中にいるんやからな。これでリインもリヒトが必ず自分
……そんじゃ、話を戻すで。
そんなやったから、リヒトがおる平行世界が見つかった時には真っ先に自分が迎えに行くってリインが言って聞かんかったんや。まぁアンちゃんがロシウ先生の実体化の維持の為にどうしても動けん様になってもうたから、どの道わたしとリインが平行世界までリヒトを迎えに行くしかなかったんやけどな。
そうして平行世界に渡ったわたし達なんやけど、繋がった場所があっちのリインとなのちゃん達が戦っとった海の上とは結構離れとってな。どエライ魔力を感じた事もあってリインを隔離結界の強化と維持に残して一人で向かった分、どうしても空飛ぶスピードが出んで結構な時間掛かってしもうたんよ。たぶん戦い易い様に街中から海上に戦場を移したんやと思う。リヒトがおらん様になっても、なのちゃん達はよう頑張ったんやろうな。
……ただな。そんな頑張りも空しく、わたしがそこに着いた時には皆もうボロボロになっとってな。なのちゃんのバリアジャケットちゅう騎士甲冑みたいなモンは所々破けてる上に煙まで出とるし、あっちのなのちゃんの友達のフェイトちゃんは何ちゅうか「当たらなければ、どうという事はない」とでも言わんばかりのうっすいモンをよりにもよって広域魔法が得意な相手に着とるっちゅう訳分からん状態や。それにクロノ君によう似たっていうか、たぶん向こうのクロノ君やろな、それとそのクロノ君によう似た男の人も二人して凄く
そんなボロボロの一方に比べて、わたしともリインとも違う赤い魔力を発しとる向こうのリインはまるで無傷やったんや。まぁ魔力量から言えば、一頭の象に蟻がたった数匹で立ち向かう様なモンやから無理もないんやけど、今思えばユーリがまだ
どうしたん、ユーリ? その「疑ってます」と言わんばかりの目は? 言うとくけど、別に出るタイミングを計った訳やない。そこに到着したんが、本当に偶々いいタイミングやっただけや。……嘘やないで?
Side end
Side:高町なのは
「私のせいだ。こうして皆が追い詰められているのは、リヒトさんがまだ魔導書の中に囚われているから。そして、リヒトさんがそんな事になってしまったのは私の身代わりになったから。全部、全部私のせいだ。どうして、どうして私はこんな風にしかできないんだ……!」
私の隣で、顔を俯かせたフェイトちゃんが自分を責めていた。そんな事無いって、言いたかった。フェイトちゃんを止められなかった私にも責任があるって、そう伝えたかった。……でも、そんな事ができるだけの余裕がある状況じゃなかった。
夜天の魔導書さんから余りにも膨大な赤い魔力が放出されてから、全てが変わった。その魔力量の差で、ザフィーラさんのバリアブレイクもクライドさんの巧みな魔法戦術も全く通用しなくなってしまった。当然、私達の魔法も届く訳がない。更に夜天の魔導書さんは戦い方を変えたのか、赤い蛇みたいな生き物をいっぱい呼び出すと私達に
そこで、私はレイジングハートに促される形でまだフレームの強度不足で使用を禁じられていたフルドライブを解禁、そこから起死回生を狙ってA.C.S.で特攻を仕掛けた。そして、どうにか障壁を抜いて至近距離からディバインバスターの強化版であるエクセリオンバスターを放ったんだけど、夜天の魔導書さんは完全に無傷。どうも体中から発せられている赤い魔力だけで全て防ぎ切ってしまったみたい。一方、私の方はバックファイアでバリアジャケットは所々破けちゃう程にボロボロになってしまった。
もっと、頑張らなくちゃ。
そう思っているんだけど、頭の片隅から別の声が聞こえてくる。
……もう、いいんじゃないかなって。
私は弱気になる自分を追い出す様に頭を横に何度も降るけど、声は一向に消えてくれない。それどころか、フェイトちゃんの心が折れてしまいそうになっているのを見て、声は更に大きくなってくる。……私自身、何をやっても全く通じない夜天の魔導書さんに対して心が折れそうになっていた。
「そこの女の子二人。絶望するんはまだまだ早いんとちゃうかな? 魔法使いは誰かにとっての最後の希望なんや。それをそんな簡単に諦めたらあかんよ」
一人の女の子の声が聞こえてきたのは、正にそんな時だった。私を含めた皆がその声の方を向いた。すると、そこにいたのは黒いバリアジャケットを纏った、私やフェイトちゃんより少しだけ年上で、はやてちゃんにとてもよく似た女の子だった。
右手には剣で十字を形作った先端を持つ杖を持っているし、左手は夜天の魔導書さんが持っている本によく似た本を抱えているから私達と同じ魔導師である事はすぐに解った。すると、その女の子を見たザフィーラさんが凄く驚いた。
「何と……! まさか、自らこの世界にお越しになられるとは……!」
このザフィーラさんの反応を見た女の子は、ザフィーラさんに本人で合っているかを確認する。
「一応、リヒトと挿げ替えられた心の無い
一方、尋ねられたザフィーラさんは言葉使いや態度をリヒトさんの時と同じ様にして返事した。
「はっ。確かに私が夜天の主に集いて災禍を遮る雲の一騎、盾の守護獣ザフィーラでございます」
女の子はザフィーラさんの名乗りを聞くと、リヒトさんが何処にいるのかを尋ねてきた。
「色々と聞きたい事はあるんやけど、まずはリヒトが今何処におるんか知っとる?」
「長は現在、夜天の魔導書の敵対者捕縛用の内部空間に囚われております。本来であればその様なものに長が囚われる事などなく、また囚われたとしてもすぐさま脱出なされている筈なのですが……」
女の子の問い掛けにザフィーラさんは正直に応えたけど、最後の方で言い淀んでしまった。でも、それを見た女の子は大体の事情を察したみたいだった。
「ウン。何でこっちのザフィーラさんがリヒトの事を「長」と呼んでるのか解らんけど、それ以外は大体解ったで。要するに、あの子の中で少々厄介な事が起こって、リヒトはそれに対処しとるっちゅう事でえぇな? それなら、こっちの方はわたしが何とかしよか」
女の子が膨大な魔力を放っている夜天の魔導書さんを自分が何とかすると平然と言ってのけた事に、私は驚いた。そして、ザフィーラさんはそんな女の子の態度に大して驚かずに、それどころか逆に謝り出した。
「長のお迎えにこの世界にお越しになられた所を私の不甲斐無さによりお手を煩わせる事になってしまい、真に申し訳ございません。本来なら、この世界の問題はこの世界に生きる者である我々が解決するべきなのですが……」
「それについては、気にせんでもえぇよ。既にリヒトが深く関わってる以上、主であるわたしもこの件についてはトコトン付き合うで」
ザフィーラさんの謝罪に対して気にしない様に伝えた女の子の「主」という言葉に、夜天の魔導書さんが驚きの表情を浮かべる。
「まさか、貴女は……!」
夜天の魔導書さんの反応を見た女の子は、ニヤリと笑みを浮かべると自分の名前を名乗ってきた。
「私立駒王学園初等部五年、兵藤はやて。旧姓は八神や。そんでリヒトの主、つまりは平行世界の夜天の王や」
……つまり、平行世界からやって来たリヒトさんの主である、平行世界のはやてちゃん。
その事実に真っ先に反応したのは、夜天の魔導書さんだった。
「お下がり下さい、平行世界の我が主。私は貴女を傷付けたくはありません。赤い魔力の影響か、今の私は私以外の存在を悉く排除しようとしています。今は何とか抑えていますが、それも長くは持ちません。ですから……!」
夜天の魔導書さんは平行世界のはやてちゃんに対して明らかに懇願していた。自分でも抑えが利かなくなっているから、せめて平行世界のはやてちゃんだけでも、って事だと思う。でも平行世界のはやてちゃん、というよりは年上だからはやてさんって呼んだ方がいいのかな? 夜天の魔導書さんの懇願に対してムスッとした表情になった。
「……その言い草やと、わたしじゃ勝てへん言うとる様に聞こえるんやけど?」
このはやてさんの反応を見た夜天の魔導書さんは、自分でもよく解らない力を勝てない理由に挙げようとした。
「私自身よく解りませんが、これ程強力かつ膨大な魔力の前には如何に夜天の主と言えど……」
……でも、ここで夜天の魔導書さんの言葉が途切れてしまった。
「夜天の主と言えど、何や? そこで言葉が途切れてしまうと、続きが気になってしゃあないんやけど」
剣十字の杖を夜天の魔導書さんに向けたはやてさんのやった事に、夜天の魔導書さんも私達も言葉を失った。
「なのはの至近距離からのエクセリオンバスターでも抜けなかったあの強大な魔力を、たった一発の魔力弾で簡単に抜いた……?」
呆然としたフェイトちゃんの口から零れ出た言葉は、あまり大きな声じゃなかったけど不思議と私の耳に残った。
……はやてさんが放った魔力弾は夜天の魔導書さんの赤い魔力を貫き、肩を掠めて通り過ぎていった。しかも、掠めた部分のバリアジャケットを軽々と破きながら。
「あ、あぁぁっ……! だ、駄目です。これ以上はもう抑え切れません! 早く、早くお逃げ下さい!」
でも、そのせいではやてさんを敵だと認識してしまったらしく、夜天の魔導書さんははやてさんを排除しようと暴走し始めている。本人はそれを必死に抑え込もうとしているけど、本当にもう抑え切れないみたいだった。
「大丈夫。心配せんでもえぇよ。それよりも言うとく事があるから、よく聞いとってな」
はやてさんは必死に暴走を抑え込もうとしている夜天の魔導書さんに対して安心する様に伝えると、ここで一つの事を宣言する。
「貴女が流すその涙は、わたし達夜天の主従が必ず止める! リヒトが別の所で戦っとる今、ここにいるわたしが最後の希望や!」
そして、はやてさんと暴走を抑え切れなくなった夜天の魔導書さんの戦いが始まった。先手を打ったのは、夜天の魔導書さん。
「先程の射撃魔法を見る限り、遠距離からの魔法の撃ち合いはこちらが不利。それなら、距離を詰めて接近戦に持ち込んでしまえば……!」
表情がなくなってしまった夜天の魔導書さんは、はやてさんが接近戦が苦手と踏んで距離を詰めようと高速飛行で突撃してくる。はやてさんは牽制の為に射撃魔法を何発が放つけど、夜天の魔導書さんは防御力に物を言わせて強引に距離を詰めてきた。……たぶん、私が同じ立場なら同じ事をしていたと思う。
でも、望み通りに距離を詰めて魔力を集めたパンチを放つ夜天の魔導書さんは、そこでそもそも前提が間違っていた事を突き付けられた。
「確かに、わたしは接近戦はあんまり好きやない。……でも、全くできへんなんて事、わたしは一言も言ってへんよ?」
その右手に握った剣十字の杖で夜天の魔導書さんのパンチを綺麗に受け流してから、反対側の石突きで夜天の魔導書さんの腹部を突いていた。
「杖術のイロハくらい、護身術としてリヒトに叩き込まれとる。そやから、これぐらいは何とかできるんよ」
でも、流石に石突きでの攻撃は通っていないみたいで、夜天の魔導書さんはそこから離れて体勢を立て直す。
「接近戦もそれなりにこなすとなれば、下手に長引かせればこちらが不利か。ならば、この膨大な魔力量を生かして強力な魔法による物量戦で押し切る」
夜天の魔導書さんはそこでベルカ式とミッドチルダ式の魔方陣を組み合わせた様な巨大な魔法陣を展開する。
「響け、終焉の笛」
ベルカ式の三角形の魔方陣の頂点から膨大な魔力が集まってきている事から、夜天の魔導書さんは明らかに私にとってのスターライトブレイカーの様な魔法を放とうとしていた。でも、それを目の当たりにしたはやてさんは少しも慌てていなかった。はやてさんは剣十字の杖を右手から離すと、自分の前に浮かせて呪文の詠唱を始める。
「甘いで! 古の大いなる力よ。守られし究極の秘法を今こそ。隠された威力を解き放て!」
すると、剣十字の部分に私がスターライトブレイカーを使う時に集束させる魔力がちっぽけに思えるくらいの魔力が集まり始めた。そして、二人は同時に最大火力と思われる魔法を発動する。
「ラグナロク」
「アンちゃん直伝、ギガ・プラズマ!」
夜天の魔導書さんから放たれた三本の赤い魔力による砲撃魔法とはやてさんから放たれた一本の白い魔力の砲撃魔法が真っ向から衝突した。でもしばらくすると、はやてさんの魔法が夜天の魔導書さんの魔法を押し戻し始めた。それを見た夜天の魔導書さんはここで一時的に元に戻ったらしく、凄く驚いている。
「くっ、お、押されている! ラグナロクどころか以前蒐集した白い魔導師の集束型砲撃魔法すら凌駕する威力だと! これが二年後の我が主の力! これなら、あるいは……!」
……でも、本当に凄かったのはこれからだった。
「まさか、これでわたしの攻撃が終わりと思うとるんか? だったら、甘々やで! 次はロシウ先生から教えてもろうた、北欧神話の大魔法や! ……汝、その諷意なる封印の中で安息を得るだろう」
はやてさんはそう宣言すると、ギガ・プラズマという魔法を使いながら次の魔法の為の呪文を詠唱し始めた。変化に気付いたのは、クロノ君だ。
「……羽?」
クロノ君の声にハッとなって周りを見渡すと、辺り一帯に羽みたいな形の光が舞っていた。その幻想的な光景に少し見惚れてしまった私は、そこで羽の動きに変化が出た事に気付いた。
「光の羽が上の方に集まって、幾つもの光の輪を作っていく!」
そうして光の輪が出来上がった所で、はやてさんは呪文の詠唱を終えて新しい魔法を放つ。
「永遠に儚く。……セレスティアルスター!」
……その光景を見た私は、もう声すら出せなくなっちゃった。
「なっ! 光の輪からラグナロクと同等の威力の砲撃魔法だと! それも何発も! まさか、これは広域型の攻撃魔法か!」
上の方から降って来る砲撃魔法に驚く夜天の魔導書さんにこの時できたのは、赤い魔力の圧倒的な防御力でやり過ごす事だけみたいだった。
「幾ら私でも、ラグナロクを撃ちながら防御魔法を使用するのは不可能だ。もしこの赤い魔力がなかったら、これで終わっていた。ただ、これ以上攻撃が続けば流石に持たない。 しかしこれ程の大魔法を人間が、しかも単独で同時に行使できるものなのか? 防衛プログラムといい、我が主といい、一体平行世界はどうなっているのだ?」
……でも、はやてさんの攻撃はまだ終わっていなかった。
「ゴメンなぁ。実はな、こっから更にわたしのオリジナル魔法に続いていくんよ」
はやてさんは申し訳なさそうにそう言うと、三度呪文の詠唱を始める。
「夜天に瞬く億千の星よ! 眩き流星となりて、不浄なる者に鉄槌を下せ! グリューヘン・メテオール(Glühen Meteor)!」
この光景を見た時、私は思わず自分のほっぺたをつねっちゃった。……だって。
「今度は、辺り一帯が魔力光で染まる程に展開された無数の魔力弾による広域攻撃魔法! しかも、魔力弾一つ一つが白い魔導師の砲撃魔法と同等クラスだと!」
夜天の魔導書さんが言った通り、一発一発にディバインバスター並の魔力が込められた魔力弾がはやてさんを中心とした半径数百 mに渡って浮かんでいたのだから。
もしそこら中に待機している数え切れない位の魔力弾の全てが、夜天の魔導書さんに殺到したら。……私はそれから先の事を考えるのをやめた。
「これが、わたし個人の最大の
はやてさんがそう宣言すると同時に、無数の魔力弾が夜天の魔導書さんに殺到し始めた。辺り一帯の白い光は徐々に夜天の魔導書さんを中心として集まっていき、それを示す様に上から降ってくる砲撃魔法と一緒に魔力弾も赤い魔力を削り取っていく。しかもその衝撃のせいで最初に使ったラグナロクという砲撃魔法が維持できなくなったのか、いつの間にかはやてさんのギガ・プラズマが夜天の魔導書さんの目の前まで迫っていた。
「この様な大魔法を一度に三つも並行使用しておきながら、なおも平然としているとは。これが、明日を得た我が主の強さなのか。平行世界の存在とは言え、最後は我が主の手で終わせてもらえるというのは、案外悪くないのかもしれないな……」
夜天の魔導書さんがそんな事を言った直後、はやてさんの使用した魔法の全てが赤い魔力を突き抜けて夜天の魔導書さんに直撃した。
「……凄い。あの赤い魔力を使われてからは、殆ど有効打を出せなかったのに」
未だに夜天の魔導書さんに当たり続ける魔法を目の当たりにしたフェイトちゃんの口から出てきたのは、はやてさんの魔法の凄さに感服したものだった。一方、私の方もはやてさんが戦う前に宣言した事を実現した事について触れてみた。ただ、つい「はやてちゃん」と言ってしまったので、すぐに「はやてさん」に訂正する。
「はやてちゃん、……じゃ駄目なの。向こうが年上みたいだから、はやてさんかな? はやてさんが言った通り、本当にわたし達の最後の希望になっちゃった」
ここで、クライドさんが最初にはやてさんが私達に言った言葉を口にする。
「魔法使いは誰かにとっての最後の希望、か。正に、私達魔導師にとっての理想だな……」
すると、それが聞こえていたのか、未だに魔法を使用しているはやてさんが自分にとって「魔法使い」とは何なのかを教えてくれた。
「そんでもってな、魔法使いは絶望を希望に変えるモンなんよ。そやから、誰かにとっての最後の希望なんや。その手本はわたしとリイン、そしてリヒトを優しい月の光の魔法で救ってくれた、わたしの自慢のアンちゃんなんよ」
絶望を希望に変える、誰かにとっての最後の希望……!
はやてさんの言葉を聞いた時、私の中で今まで足りなかった何かがピタッと嵌まった様な気がした。そして、そこから溢れ出る熱い想いを私は素直に受け入れる。
……これが、わたしの進む道。私の魔法で、誰かの絶望を希望に変える。そんな「魔法使い」に、わたしはなる。
今まで見つける事ができなかった、アリサちゃんやすずかちゃんの様な「将来の夢」。それが私にもとうとう見つかった瞬間だった。
はやてさんはその後、ある程度攻撃が通った所でまず目の前に浮かせていた剣十字の杖を右手に取った。これで極大の砲撃魔法が止まり、更にそれからしばらくして上から降って来ていた光の砲撃も止んだ。やがて、この辺りの至る所に浮いていた白い魔力弾が全てなくなったのは、全ての魔法が夜天の魔導書さんに当たり始めてからだいたい十分程経ってからだった。
そこには、バリアジャケットがボロボロになって今にも倒れてしまいそうな夜天の魔導書さんがいた。……でも、しばらくすると様子が変だと気付いた。
「夜天の魔導書さん、どうしたんだろう? 全く動こうとしないなんて」
私が思っていた事をそのまま口にすると、はやてさんは表情を苦いものを噛んだ様なものへと変える。
「あかん。ひょっとすると、わたしの世界で言う所の最終防衛機能の発動カウントダウンが始まってしもうたかもしれへん。この状態になったら、もう殆ど猶予が残されておらん筈や。まぁいざとなったら時の隧道で成層圏まで送り込んで、そこで超重力を利用した極大消滅魔法ブチ込んで跡形もなく吹き飛ばす事ができるんやけど、これはホントに最終手段や」
はやてさんの口から伝えられた、衝撃の事実。それじゃ、このままだとリヒトさんごと……?
でも、それについては杞憂だった。
『外の人、聞こえますか?』
聞き覚えのある声が、夜天の魔導書さんの方から聞こえてきたからだ。
「あれ、この声は……」
「はやてちゃん!」
夜天の魔導書さんからはやてちゃんの声が聞こえてきたという事は。私達がその答えを出す前に、はやてさんが答えを口にしていた。
「へぇ、自力で魔導書の制御を奪い取ったんか。こっちのわたしもなかなかやるなぁ。でも、グッドタイミングや! ここまで来れば、後は非殺傷設定で思いっきりブッ飛ばすだけや!」
でも、その後に出てきた言葉に私とフェイトちゃんは揃って首を傾げる。
「「ハァッ?」」
すると、はやてちゃんははやてさんの言った事が正解である事を伝えてきた。
『何や、わたしによう似た声の人が居るみたいやけど、それで正解です。強力な魔力攻撃で、表に出ているプログラムを停止させて下さい。それで、コントロールをこっちが掌握できます』
このはやてちゃんの説明を受けたはやてさんは早速無詠唱かつ魔力のタメなしで魔法を使った。
「わかった、ホンなら行くで! ……ラグナロク!」
……ただし、使ったのは「ラグナロク」という夜天の魔導書さんが切り札として使用した魔法だった。
『ちょっ』
夜天の魔導書さんも、はやてちゃんの驚く声も、はやてさんの放ったラグナロクにあっさりと呑み込まれてしまった。……あんまりと言えばあんまりな光景に、私達は暫く言葉が出なかった。その内、フェイトちゃんがはやてさんの使った魔法について解説する。
「さっき向こうが切り札の様に使った魔法をタメなしの抜き打ちで撃ったのに、なのはのスターライトブレイカーとそう変わらないくらいの威力が出てる。……ひょっとして、あれを私のプラズマランサーみたいに連射できるのかな?」
何とも恐ろしい事をフェイトちゃんが語り終えた所で、私は改めて実感した。
「何だか、目指す先は凄く遠いみたい……」
でも、いつか必ずはやてさんに追い付いてみせる。だって、もうそうするって決めちゃったんだから。
私はついに見つけた「将来の夢」に向かって全力全開で頑張る事を誓った。
Side end
主上があちらのリインフォースを鎮めた所までお話しになった所で、私達は完全に言葉を失った。特にユーリは恐怖に体を震わせながら、私の手を握り締めている。
一方、それをご覧になられた主上はすっかり肩を落とされていた。また声こそ小さいものの、私の耳には「やっぱりあん時はやり過ぎやったんやな。ハハハ……」と乾いた笑い声と共に当時の行いを後悔、反省する主上の言葉が聞こえていた。念の為、私はその時の一部始終を見ていたリインに確認を取る。
「リイン」
「……残念ですが、はやてが仰った内容に捏造や誇張の類は一切ありません。全て真実です」
首を横に振りながらのリインの言葉を受けて、私は頭を抱えたくなってしまった。
いかがだったでしょうか?
大魔王の薫陶を受けて、魔王が爆誕しました。
次元世界の夜明けは近い。
では、また次の話でお会いしましょう。