赤き覇を超えて 外伝 夜天光の騎士   作:h995

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2019.1.17 修正


第十二話

「……まぁ、リヒトとユーリが知らんのはこんくらいやな。ここから先は私達が合流してからの話になるし、今更やからそろそろお開きにしようか?」

 

 私とユーリの知らない場面の話を終えた所で、恐怖に震えるユーリを見た主上は暫く落ち込んでしまった。やがて主上は気を取り直すと、話をここで打ち切ると仰せになられた。確かに話すべき事は既に話し終えているので、ここで話を終えても問題はないだろう。そう思った時だった。

 

 ……この場にいた者達が全員、駒王学園のある方向を向いた。

 

「な、何や。この桁違いな力は。こんなん感じたの、二年前のヒドゥン以来やで」

 

 主上は感じ取られた力の余りの強大さに、少なからず恐怖で体を震わせている。だが、無理もない。

 

「外部からでは絶対に破壊できず、無限とも言えるくらいの魔力を生成するエグザミア。それを核とする私も余程の事がない限りは滅びたりしませんけど、今感じた力はエグザミアによる魔力生成の理論限界値を大幅に上回っています。……お父さん。私、今初めて本当の意味で相手の事を怖いって思ってます」

 

 エグザミアによって無限に魔力を生成できる為、実は主上さえも上回る魔力量を誇るユーリが圧倒的な力の差に震える程、この力の持ち主は余りにも強大だった。リインの方も永き時を生きてきた経験から恐怖で体を震わせる事こそなかったが、明らかに不安げな表情を浮かべている。

 

「しかも、あちらには兄上殿達が首脳会談を行っている駒王学園があった筈。一体、駒王学園で何が起こっているのでしょうか?」

 

 リインの問い掛けに対し、主上は首を横に振る事でお応えになった。

 

「……解らへん。そやけど、これだけは言える。こんなんどうにかできそうなの、わたしが知ってる中ではアンちゃんだけや」

 

 主上の仰る通りだろう。そして本当なら、この中では最も強い力を持っている私が主兄殿の元へと単身助太刀に参じるべきなのだ。……しかし。

 

― 僕に恩義を感じてくれるなら僕の妹であるはやてちゃん、……いや、はやてを守り抜く事で返してほしい。それで僕は十分だ ―

 

 初めて主兄殿にお会いした時にお命じになられた事が、私の頭から離れない。

 

 ……もし、この場に主兄殿があられたならば。

 

 そう考えた時に、私が為すべき事は何なのかを理解した。

 

「主上、我等はこの場に留まりましょう」

 

 私は、この場で跪くとここでこのまま待機する事を主上に進言した。主上もリインもまるであり得ない物を見たと言わんばかりの驚きの表情で私を見ている。おそらく、主上は「主兄殿の助太刀に向かうべき」という言葉が私から出てくると思われたのだろう。それだけに、実際に私から出てきたのが想像の真反対だった事に驚かれたのだ。そして、それはリインも同じだろう。

 ……当然、強大な敵に臨んで臆病風に吹かれた訳ではない。そこで、私はこの場に踏み止まるべき理由を主上に説明する。

 

「主上が二年前のヒドゥンを思い起こされる程の強大な力の持ち主です。もしその様な者と主兄殿達が戦う事になり、その余波がここまで届く様であれば」

 

 ここで私が何を危惧したのが、主上はご理解なされた。

 

「お父ちゃんとお母ちゃんを守れる(モン)が、ここにはわたし達しかおらん。……そう言いたいんやな」

 

「ハッ、その通りでございます。主上。我々をここに残していかれた主兄殿のお気持ち、どうかお酌みになって下さいませ」

 

 私は跪いた状態のまま、頭を深く下げて己の進言を入れて頂く様に重ねてお願いした。……主兄殿は、ご自身のご家族を守る様に私達に仰せになられた。その対象にはご尊父とご母堂はもちろん、実は主上も入っている。

 ならば、主兄殿が駒王学園にいる強大な敵を退けてこの家にお帰りになられるまで、この家とご家族を何としてでもお守りする。それが、私が今為すべき事だった。そして、主上は私の進言が終わってから暫く沈黙した後に決断を下された。

 

「……解った。お父ちゃんとお母ちゃんはもちろん、アンちゃんとイリナお義姉ちゃん、アウラの三人が帰ってくるこの家を守る為、わたし達はここに踏み止まる。そやけど、アンちゃんへの援軍に出せる戦力はちゃんと出さんとアカン。そうせんと、そのうち強引に家を飛び出してしまいそうや」

 

「……左様ですな」

 

 この様なやり取りの後に主上と私が視線を向けたその先には、既に小屋から飛び出して主兄殿があられる駒王学園の方角をじっと見つめている銀殿がいた。

 

 

 

 主上が銀殿に主兄殿の助太刀へ向かう様に仰られると、銀殿はすぐさま主兄殿の元へと駆け出していった。

 

「銀。ここを動けんわたし達の代わりにアンちゃんの力になってあげてな」

 

 主兄殿の元へと馳せ参じる銀殿の背中に向かって、主上はその様なお言葉をかけられていた。その後、主上は深呼吸を一度行うと、ユーリにリインの代役としてこの家とご尊父、ご母堂を守る様に言いつけられた。

 

「……さて。こうして踏み止まる事を決めた以上、わたし達はしっかり家を守らんとアカンな。ユーリ。こっちに来て早々に悪いんやけど、お腹の中に赤ちゃんがおって無茶ができんリインの代わりに頑張ってもらうで」

 

「はい。私、もうすぐお姉ちゃんになるんです。だから、何かあったら一生懸命頑張ります」

 

 主上のお言いつけに対してその様に返事を返しながら気を張るユーリの姿を見て、主上は微笑ましい物を見た様な表情を浮かべた。

 

「それもそうやな。ホンなら、お願いな」

 

 主上はユーリにそう仰られると、視線を駒王学園の方へと向けた。私達も同様にそちらへと視線を向ける。そうして駒王学園から迫り来るやもしれぬ災厄に備えながら、私は主上のお話しになられた後の事を思い返していた。

 

 ……夜天の魔導書の内部空間から脱出した後に行われた防衛プログラムとの最終決戦。その直前におけるリインとのやり取りを。

 

 

 

Side:高町なのは

 

 はやてさんが抜き撃ちラグナロクで夜天の魔導書さんを操っていたプログラムをブッ飛ば、もとい停止させた事で、はやてちゃんが魔導書の制御を掌握する事ができた。そのお陰で、はやてちゃんは無事に元に戻ってきたし、魔導書にリンカーコアを吸収されて消滅してしまったヴィータちゃん達も復活した。夜天の魔導書さんは、はやてちゃんにリインフォースという新しい名前を付けてもらっていた。

 

「主上。リヒト・ツァイトローゼ・フォン・ナハトヴァール、只今を以て御身の元へと帰還致しました。夜天の王を守護する騎士の身でありながら一年近くに渡り主上の元を離れた不忠、誠に申し訳ございません」

 

 そして、魔導書の内部空間に取り込まれていたリヒトさんもまた戻ってきた。今は空中で魔方陣を展開、その上ではやてさんに跪いて帰還の報告をしている。こういう姿が全然おかしくない、それどころか凄く似合っているのは、やっぱりリヒトさんが紛れもなく「騎士」だからだと思うし、そんなリヒトさんに平然と受け答えができるはやてさんもやっぱり「王様」なんだって思う。……ただ、はやてさんが語った内容には流石に驚いた。

 

「その分やと、アンちゃんが月一で出向く様になった平行世界と一緒で時間の流れる速さにかなり大きな差があるみたいやな。リヒトが居らん様になってから、こっちじゃまだ一月も経ってへんよ」

 

 それはリヒトさんも同じだったみたいで、驚きの声を上げる。

 

「何と!」

 

「そやから言うとる程に長い間居らんようになっとった訳やないし、そもそも私の元を出奔した訳やないから無問題(モウマンタイ)や」

 

 リヒトさんに突然いなくなった事については問題ないと伝えた後、はやてさんは私の方を見ると何やら感慨深げな表情を見せてきた。

 

「でも改めてよう見ると、こっちのなのちゃんは何や勇ましい感じやな。向こうの元気で明るく甘え上手ななのちゃんとはえらい違いや」

 

 ……なのちゃん。

 

 今までは誰からも呼ばれた事がなくて、はやてさんが呼んだのが初めてになる呼ばれ方だけど、何故か凄くしっくりくる。それどころか、何で今までそう呼ばれなかったのか、かえって不思議なくらいだった。

 

「えっと……」

 

 私が自分の気持ちに戸惑っていると、はやてさんが改めて自己紹介を始めた。

 

「あぁ。そう言えば、なのちゃん達にはちゃんとした自己紹介しとらんかったな。わたしがリヒトの主で向こうの世界で夜天の王やっとる、兵藤はやてや。同一存在のあの子より年上なんは勘弁してな。そんで、もうすぐここにやってくる銀髪の美女が」

 

 そう言って、はやてさんが視線を向けたその先には。

 

「リヒト!」

 

「ぐっ! ……この馬鹿者! 最高速で飛び込んで来る者があるか! 自分と相手が大怪我をしたら、どうするつもりなのだ!」

 

「す、済まない。私とした事が、完全に我を忘れていた……」

 

 銀髪で凄く綺麗な、よく見るとリインフォースさんに凄く似た人が物凄いスピードでリヒトさんに突っ込んで来て、それを何とか受け止めたリヒトさんから叱られてシュンとなっているという何とも言えない光景があった。はやてさんも流石に少し絶句していたけど、すぐに紹介を再開する。

 

「……今、リヒトに叱られてシュンとなっとる残念な美女が、リインことリインフォース・フォン・ナハトヴァール。わたしの持つ夜天の書の管制プログラムにして融合騎や。因みに、さっきまで綻び掛けとった隔離結界をわたしが全力を出せる様に補修強化しとったのは、このリインやで?」

 

 ……えっと。こっちもリインフォースさんなら、リインさんでいいよね。それじゃ、もしリインさんがいなかったら、はやてさんの魔法の余波で隔離結界が崩壊していたんでしょうか?

 

 はやてさんの口から飛び出した恐るべき事実に、私は戦慄していた。

 

 そんな中、リヒトさんが何かを決心したみたいで一つ深く頷くと、叱られた事でシュンとなっているリインさんに話しかけ始めた。

 

「リイン、この際だ。数百年前の返事、今こそ伝えよう」

 

「えっ?」

 

 数百年前の返事という言葉に、リインさんはハッとなってリヒトさんと瞳を合わせる。

 

「私の妻に、不朽たる祝福の風「リインフォース・ツァイトローゼ」となってくれ。好意の告白に対するものとしては少々飛躍し過ぎとも思うが、これが私の返事だ」

 

 そんなリヒトさんから飛び出して来た言葉は。リインさんへの堂々としたプロポーズだった。

 顔が凄く熱くなっていくのが、自分でも解った。皆から見れば、私の顔は今凄く真っ赤になっていると思う。そこでふとフェイトちゃんの方を向くと、フェイトちゃんも顔が真っ赤だ。ザフィーラさんとクライドさんはどうも話を聞いていた様で納得の表情だったけど、クロノ君はポカンと口を開けて驚いていた。それに、はやてちゃん達は話に全くついて行けていないみたいでしきりに首を傾げているし、リインフォースさんに至ってはまるで自分がプロポーズされたみたいに感じたのか、明らかに動揺していた。

 ただ、シャマルさんだけは皆と全然違う反応をしていた。手を当てて口を塞いでいるし目は涙ぐんでいたから、きっとショックを受けているんだと思う。ひょっとして、シャマルさんはリヒトさんの事を……?

 そして、リヒトさんからプロポーズされた当の本人であるリインさんの方はと言えば、最初は何を言われたのかよく解っていない様子だったけど、次第にその綺麗な目からポロポロと涙が零れ始めた。でも、その涙は悲しいからじゃないってすぐに解った。だって、泣いているリインさんの表情は凄く綺麗な笑顔だったから。

 

「返事を伝えるまでに、随分と遠回りをしてしまったな」

 

 何処か遠くを見ている様なリヒトさんの発言に、リインさんは少しだけ拗ねた様な表情を見せる。……大人の、しかも凄く綺麗な女の人にこんな事を思うのはちょっと変だけど、リインさんがすっごく可愛い。

 

「……本当にそうですね。私が貴方への想いを告げたその翌日に心無き雲の騎士(ヴォルケンリッター)達と挿げ替えられてしまった為に、永い間貴方の返事を聞けずにいました。それで二年前にようやく解放されたかと思えば他人行儀に接し、いつまで待っても返事をしようとしてくれない。貴方のその態度に私がどれだけ歯痒い想いをしてきたか、お解りですか?」

 

 さっきとはガラリと言葉使いを変えたリインさんがリヒトさんにそう詰め寄ると、リヒトさんは今まで自分がリインさんに対してどんな事を思っていたのかを話し始めた。

 

「私が不甲斐ないばかりに、闇の書へと変貌して以降の数百年に渡る血塗られた業をお前一人に押し付けてしまったのだ。お前が許す許さないではない。私自身がお前に合わせる顔がない。……そう思っていた」

 

 このリヒトさんの気持ちを聞いて、私は夜天の魔導書さんと同じである事に気付いた。……大切な人を苦しめてしまい、でも手を差し出して助けられなかった事への罪悪感。夜天の魔導書さんもリヒトさんも、そんな思いを何百年も重ねてきたんだって。

 

「だが、この世界で様々な人達と出会い、様々な形で接している内にそうではない事に気付かされたよ。ただお前に対する罪悪感と過去への感傷に浸って歩みを止める事でお前を悲しませ続けるよりも、解放された私との再会を喜んでくれたお前を自分の手で幸せにする方が遥かに大事なのだとな。だから、リイン。もう一度だけ言おう。これからはただ夜天の王に仕える同士というだけでなく、妻として私と共に生きてくれ」

 

 でも、リヒトさんが夜天の魔導書さんと違うのは、最終的に自分で乗り越える事ができたという事。……その手助けを私達ができたというのなら、ちょっと嬉しい。

 そして、実は飛び込んできた時からずっとリヒトさんに抱き着いていたリインさんは、リヒトさんの胸に顔を沈めた。そんなリインさんは、誰がどう見ても幸せそうだった。

 

「リヒト。私は今、世界に生を受けてから最も幸せを感じています。私の長年に渡る願いが今、叶ったのですから。これからは夫婦として、共にはやてを支えていきましょう」

 

 リインさんの承諾の言葉を受け取ったリヒトさんは、リインさんの頭をそっと撫でていた。

 

「そうだな」

 

 この瞬間、一組の新しい夫婦が誕生した。……ちょっと場違いな気がしないでもないけど、そんな細かい事はどうでもいいの。 

 すると、リヒトさんはリインさんとのやり取りの間ずっと側にいた、私達より年下に見える女の子を呼んだ。

 

「おっと、忘れる所だった。ユーリ」

 

「はい、お父さん。お久しぶりです、司書(ビブリオテカール)

 

 ……リヒトさんが、お父さん?

 

 女の子からとんでもない爆弾発言が飛び出したけど、リインさんはその女の子と顔見知りだったみたいでその子に確認を取っていた。

 

「お前は……! まさか、ユーリなのか?」

 

 リインさんの確認に対して、女の子はそれを肯定した上で名前を名乗った。

 

「はい、その通りです。夜天の王の娘である紫天の子、ユーリ・エーベルヴァインです。でも今はお父さん、リヒト・ツァイトローゼの娘です。だから、お母さんと呼んでもいいですか?」

 

 ……もう、何が何だかさっぱり解らないよぉ。

 

 そんな混乱しっぱなしの私の気持ちを代弁するかの様に、リインさんがリヒトさんに説明を求める。

 

「リヒト、一体どういう事ですか?」

 

「簡単に説明すれば、私達の世界における歴代屈指の主であらせられたエーベルヴァイン様の奥方様が天に召されると共に次元の狭間に封印された紫天の書がこちらの世界に流れ着き、こちらの夜天の王がユーリを紫天の書から切り離してそのまま夜天の魔導書に組み込んだらしい。だが、紫天の書から切り離された事でユーリの力を誰も制御できなくなり、やがて闇の書と化した夜天の魔導書の奥底に沈め込む形で封印されたとの事だ。その為、それ以後の夜天の王はおろか夜天の魔導書のあらゆるデータを管理するリインフォースですらもユーリの事を全く知らなかった様だ。そして色々あってその事実を知った私は夜天の魔導書の奥底で眠っていたユーリを救い出し、ユーリに託されていた奥方様のご遺言もあって、ユーリを私の娘として引き取ったという訳だ」

 

 リヒトさんの簡単な説明を聞いたけど、正直言って私にはチンプンカンプンだった。でも、リインさんは違ったみたいで納得した様に何度も頷いていた。

 

「……つまり、こちらの夜天の書とは私達もまた少なからず因縁があったという事ですか」

 

 そこで、ユーリ・エーベルヴァインと名乗った女の子が申し訳なさそうにリインさんに声をかけてきた。……何だか、ギュウッて抱き締めたくなるくらいに可愛い。

 

「あの……」

 

「あぁ。済まないな、ユーリ。それで先程の返事だが、もちろん良いぞ。リヒトが父親になる事を受け入れたのなら、私もユーリの母親となる事を受け入れよう。リヒトと違って、私が母親では少々頼りないかもしれないが、よろしく頼む」

 

 リインさんがお母さんになる事を受け入れた事で、不安げなユーリちゃんの表情がまるで花が咲いた様に明るい笑顔に変わった。

 

「ハイ! こちらこそ、よろしくお願いします! ……お母さん!」

 

 今度は新しい親子の誕生に立ち会えた事で、私の心はとても温かくなった。でも、何かを忘れている様な……?

 

 そこで、はやてさんが手を叩いて意識を自分に向ける様に仕向けてきた。

 

「ハイ、そこまでや。わたしもいっそこのままハッピーエンドで終わらせたい所やけど、そん前にまず片付ける事がある事を思い出そうなぁ。そんで、まずはいつの間にか現れたあの黒くてデッカイ塊について話を聴こか。なぁ、こっちの世界のわたしにわたしの時は夜天の書が元に戻った時に消えてしもうた雲の騎士?」

 

 ……そうだった。私達、今の今まで暴走していた夜天の魔導書さんと戦ってたんだった。

 でも雰囲気に流されず、かといって空気を読んで切りのいい所でスッと入っていけるはやてさんはちょっとカッコいいなって思った。それはヴィータちゃんも同じだった様で、何だか目がキラキラしてる。どうもザフィーラさんやリインフォースさんからリヒトさんやはやてさんの事について軽く説明してもらったみたいだ。

 

「……スゲェ。ザフィーラから説明聞いた時には信じられなかったけど、ホントにはやてがでっかくなってる。しかも騎士みてぇにキメる所はビシッとキメていて、ギガカッコいい!」

 

 それとは逆に少しだけ暗い表情をしていたシャマルさんは、すぐに穏やかな微笑みを浮かべるとはやてちゃんとの共通点を見出した。

 

「でも、皆を包み込む様な優しい雰囲気も持っているわ。この辺りは、やっぱりはやてちゃんなのね」

 

 それに、シグナムさんははやてさんの魔導師としての強さに注目していた。

 

「ただ、魔法の技量については完全にあちらの方が格上の様だ。今や我々の中では最強となったザフィーラならともかく、我々では三人掛かりでも勝てる気がしない。……これが、主はやての可能性なのか」

 

 そして、はやてちゃんは何処かそわそわしていて落ち着かないみたいだった。

 

「何や、少し落ち着かんなぁ。まるで遠くに居って長い間逢えんかったお姉ちゃんに逢うた様な気分や」

 

 ……何となく、解るかもしれない。私だってもし平行世界の、しかも年上の私に出会ったら同じ事を感じちゃうと思うから。

 

 このはやてちゃんの発言には、はやてさんも少し苦笑いを浮かべていた。

 

「まぁ実際、わたしの方が二個上やしな。そんな風に感じてもおかしゅうないと思う。因みにわたしの大親友のなのちゃんがこっちのモンとは基礎理論が色々と違う魔法に出会うたんは、一年前の四年生の時や。そやから、一年ばかしこっちが早まったってとこやな」

 

 ……そっか。向こうの私ははやてさんの大親友なんだ。だから私の事を「なのちゃん」って呼んでいるし、はやてさんにとっては慣れ親しんだ呼び方だから、言われた私もちっとも変な感じがしなかったんだ。

 

「まぁ今は一先ず脇に置いといて、まずは黒くてデッカイ塊について話を聴こうか? たぶん、そっちが切り離した防衛プログラムやないかとは思うとるんやけど」

 

 ここで改めて現状を確認する為の話を聞こうとするはやてさんに応じたのは、リインフォースさんだった。

 

「はい、仰る通りです。平行世界の我が主。では、詳細を説明させて頂きます」

 

 そうして、リインフォースさんの説明が始まった。

 

「現在、あの中では夜天の魔導書から切り離された防衛プログラムが今まで蒐集した魔力を元に実体を形成しており、あと十分程で実体化を完了して暴走を開始します。その際、周辺のあらゆるものを取り込みながら侵食していき、最終的には複数の次元世界をも取り込む事態にも発展しかねません。ですから、早急に対処する必要があります」

 

 ……何だか、ジュエルシードの時より大変な事になっちゃったみたい。ここで、クロノ君が管理局が用意している対策について話し始める。

 

「既にアースラには闇の書となっていた夜天の魔導書が暴走した時の対抗策として、アルカンシェルという魔導兵器が搭載されている。今までは最終的にアルカンシェルを使って消滅させてきたし、今回も使用許可が既に下りている。ただ、僕としてはリヒト師匠を始めとしてこれだけの戦力が揃っている以上、わざわざアルカンシェルを使う必要はないと思っている。……それでも使う事があるとすれば、それは今この場にいる全員が何らかの形で戦闘不能になった時だろう」

 

 ここで、私はアルカンシェルの事についてクロノ君に尋ねた。

 

「クロノ君。アルカンシェルを使うと、一体どうなるの?」

 

「そうだな。もし今の状況で使ったとすれば、防衛プログラムは跡形もなく消滅する。ただし、その時は海鳴市諸共という事になるだろう。……こう言えば、戦略級魔導兵器には流石に馴染みの薄いなのはでもアルカンシェルの威力が想像できるんじゃないか?」

 

 クロノ君からとんでもない事実を聞かされた私は、即座にアルカンシェルの使用を反対した。

 

「えぇ~! ダメ! そんなの、絶対にダメ!」

 

 そこに、リヒトさんが別の視点から反対意見を出してきた。

 

「加えて私が調べた所、リインフォースと防衛プログラムは対になっており、どちらか片方が失われた場合にはもう片方に搭載されているバックアップデータを元に再生する様になっている。しかもこのバックアップデータは常時更新されているので、再生された防衛プログラムには暴走の危険性が残されたままだ。それでは意味がない。その為、夜天の魔導書を完全に修復する為には防衛プログラムもまた修復しなければならず、その際にはコアを露出させる必要があるのだ。……よって全てを消し去ってしまうアルカンシェルは使えず、今この場にいる者達だけで防衛プログラムのコアを露出させなければならない」

 

 確かにそれしかないけど、本当に大丈夫かな?

 

 リヒトさんの説明を聞き終えた後で私はちょっと不安になったけど、それを転移してきたユーノ君がすぐに無くしてくれた。

 

「コアの露出までなら、理論上はリヒトさん達が不参加でも十分可能だよ」

 

「ユーノ君!」

 

 そこに、実は夜天の魔導書さんとの戦闘が激化した時に備えて、ユーノ君と一緒に封時結界の展開と維持に回っていたアルフさんも現れた。

 

「アタシもいるよ。お待たせ、フェイト」

 

「アルフ!」

 

 そうしてユーノ君の意見を聞いた上でクロノ君が決断を下した。

 

「……そうだな。この問題はあくまでこの世界のものだ。だからこの際、この世界に住まう者である僕達だけで解決するべきだと思う。ただ、リヒト師匠」

 

 クロノ君から呼び掛けられたリヒトさんは自分の為すべき事を解っていたみたいで、防衛プログラムの修復は自分が受け持つ事を言い出して来た。

 

「解っている。防衛プログラムの修復は私がやろう。流石にその作業は、修正プログラムを作り上げた私でなければ無理だからな」

 

 でも、ここではやてさんがオカルトめいた事を言ってきた。

 

「それもあるんやけど、リヒトは気付かへんかったの? こっちの夜天の魔導書にも怨念が大量にこびり付いとるんやけど」

 

「申し訳ございません。私はまだ精神世界面(アストラル・サイド)を認識するまでには至っておりませんので……」

 

 リヒトさんが平謝りしているのって、凄く珍しいかもしれない。逆に言えば、それだけ魔法方面でははやてさんの方が上って事になるのかな?

 ……だから、はやてさんが魔導師の基準であるリヒトさんは「専門は接近戦で魔法そのものはあまり得意ではない」って言ってたんだ。

 

「まぁ元が元やから、そういった方面に不得手なのはしゃあないわ。でもそうなると、いくらプログラムを修復しても怨念がそのままやとまた歪めてしまうから余り意味がないで。そこで、()()の出番や。使うタイミングはこっちの世界の皆がコアを露出させた所でえぇやろ。特性の関係上、ひょっとしたらリヒトの出番がなくなるかもしれへんけどな」

 

 アレって何だろう? それに、リヒトさんの出番がなくなるって一体?

 

 私は凄く気になったけど、リヒトさんは自分の出番が無くなっても全然構わないらしかった。

 

「それはそれで私の望む所でございます。……いえ。どうやら事はそう簡単には済まぬ様です」

 

 そう言って、リヒトさんが視線を向けた先では。

 

「……なぁ。私の気のせいなんかな? 黒い塊がいつの間にか二つに増えてるんやけど」

 

「いえ、我が主。気のせいではありません。確かに、一つ増えています」

 

 防衛プログラムが、二つに増えていた。

 

 私達の想像の斜め上な光景を前に、私達は暫く絶句してしまった。

 

Side end

 




いかがだったでしょうか?

長年の願望が叶って結婚したものの相手がいつの間にか子連れになっていたリインと、告白すらできずに恋が終わってしまったシャマルの心境や如何に。

では、また次の話でお会いしましょう。
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