Side:高町なのは
……凄い。
ちょっと情けないけど、これしか私には言い様がなかった。
ザフィーラさんが動きを完璧に封じて、ユーリちゃんが結界ごとナハトヴァールを切り分けて、そしてリインさんがその下半分を消し飛ばす。この流れる様な連携を目の当たりにして、私は思った。
これが、皆で頑張るって事なんだって。
「なのは!」
ユーノ君が強い口調で私に呼び掛けてきたからハッとなって防衛プログラムの方を見ると、何って言ったらいいのか、色々な生き物がグチャグチャに入り混じっているような物凄い光景が広がっていた。これを見たアルフさんは引いちゃっているし、シャマルさんもちょっとウンザリしている。
「ウッワァ……」
「何だか、凄い事に……」
ここで、アースラでデータを解析していたエイミィさんから通信が入る。
『やっぱり、並の攻撃じゃ通じない。ダメージを入れた側から再生されちゃう……!』
でも、クロノ君はその事実を前向きに捉えていた。
「いやエイミィ、ここはむしろ逆に考えるべきだ。並の攻撃でもしっかりとダメージは通っている。それなら、完全に無防備な状態から極大の一撃を加えればコアを一気に露出させる事ができると。それを踏まえた上で、ここは防衛プログラムに対応されるのを防ぐ為、下手に攻撃せずに動きを拘束する方向で行くべきだ。父さんがいる今なら、それができる」
『クロノ君?』
エイミィさんが首を傾げていると、クロノ君はユーノ君に声をかけてきた。
「ユーノ、君も手を貸せ。流石に僕一人では手が足りない」
「解った」
クロノ君の呼び掛けにユーノ君が即答で応じると、クロノ君は皆に新しい指示を出す。
「他の者はここで待機だ。父さんにはエターナルコフィンの準備をしてもらわないといけないし、僕達の中でも特に高い攻撃力を持つなのは、フェイト、そして八神はやての三人にもコア露出の仕上げの為に魔力を温存してもらう必要がある。だから、他の者達には父さん達を守ってもらう」
それはつまり、ここはクロノ君とユーノ君だけで防衛プログラムの動きを止めるという事。それに気付いた私は、二人が無茶するのを止めようと必死に声をかける。
「クロノ君、ユーノ君! いくら何でも、二人だけじゃ無理だよ!」
でも、ユーノ君は自信に満ちた表情で私の呼び掛けに応えてきた。
「なのは、僕なら大丈夫だよ。……クロノ、いけるよね?」
ユーノ君から尋ねられたクロノ君は、軽く笑みを浮かべながら不敵な言葉と共に答えを返す。
「ユーノ、君は誰に訊いているつもりだ? 僕は時空管理局の執務官だ。それに、平行世界のベルカにおける稀代の騎士、リヒト・ツァイトローゼの一番弟子だぞ」
このクロノ君の返事を聞いたユーノ君は、満足げに頷くとクロノ君に何かを始める事を呼び掛けた。
「上等! それなら、行くよ!」
「あぁ!」
そして二人が目を閉じて精神を集中させると、ユーノ君は緑、クロノ君は青とそれぞれの魔力光が胸の当たりで輝き始めた。しかもその魔力光は次第に強くなっていき、直接見るのが困難になってきた。そして、魔力光の輝きが限界に達したと見て、二人は同時に声を上げる。
「「臨界突破! エクスプロージョン!」」
その次の瞬間、私は思わず声を張り上げてしまった。
「ユーノ君とクロノ君の魔力が急に強くなっちゃった!」
「私達がカートリッジを使用した時に似てる……!」
私もまた、フェイトちゃんが口にした事と同じ事を感じた。すると、クロノ君がフェイトちゃんの発言を訂正してきた。
「逆だ、フェイト。僕達が君達に似ているんじゃない。君達が僕達に似ているんだ」
「えっ?」
フェイトちゃんが首を傾げると、ユーノ君が今自分達がした事を説明し始めた。
「今僕達が使ったのは、平行世界ではとうとう完成しなかったカートリッジシステムの源流である古代ベルカの秘儀で、己の生成した魔力を肉体に限界まで蓄積圧縮した状態から全開放する事で理論限界値を超える魔力を一時的に生成する事ができる様になるんだ。僕達は魔力を蓄積圧縮する対象をリンカーコアにする事で再現している。因みに、これを教えてくれたリヒトさんは当然使えるし、平行世界の自分から記憶と技を受け継いでいるというザフィーラさんもおそらくは使える筈だ」
リヒトさんに教えてもらった。その発言を聞いた私は、ユーノ君が羨ましくなってつい拗ねた様な事を言ってしまった。
「えっ! ユーノ君、自分だけリヒトさんに教えてもらうなんてズルイよ! わたしだって教えてもらいたかったのに!」
すると、ユーノ君はリヒトさんから教わったベルカの秘儀を使用する為のある条件を話し始める。
「なのは。このベルカの秘儀は魔力の制御を全て自分でやらないといけないんだ。だから、レイジングハートと二人三脚で魔法を使っているなのはじゃこの技術の習得は無理なんだよ。僕の場合はデバイスが適合しないから自分で全て制御しないといけなかったけど、それがかえってベルカの秘儀に対する適性を築き上げていたんだ」
「僕は一応ストレージデバイスのS2Uを使っているが、あくまで術式の発動と演算処理の補助が目的だったし、魔力制御に至っては自分だけでこなしてきたのが幸いした。お陰で、リヒト師匠からこのとっておきを教わる事ができた。なのはやフェイトには悪いが、要は今まで僕達が積み重ねてきたものが偶々ベルカの秘儀と上手く咬み合った。ただそれだけなんだ」
ユーノ君に続いてクロノ君もそう言って来た事で、私は納得するしかなかった。……いくら何でも、レイジングハートとお別れしてまで身につけるものじゃないと思ったから。
「以前、リヒト・ツァイトローゼから「紫電一閃とは、物の力に頼って放つものではない」と言われた事があったが、それはこういう事だったのか」
その一方で、ユーノ君やクロノ君の説明を聞いたシグナムさんは初めて会った時にリヒトさんから言われた事を思い出して、納得した様な表情を浮かべていた。
「クロノ、行くよ!」
「あぁ!」
そうしてリヒトさんから教わった事について説明を終えたクロノ君とユーノ君は、膨大な魔力を生かしてかなり速いスピードで防衛プログラムの両脇に取り付くとある魔法を発動させた。
「「暴虐を縛れ、グレイプニル!」」
……そう。プレシアさんの事件の時、模擬戦でリヒトさんが使った拘束魔法、グレイプニルだ。魔法の勉強を始めてから教わったミッドチルダの文字が装飾の様に刻まれた青と緑の鎖が魔方陣から何本も現れて、防衛プログラムを絡め取っていく。すると、防衛プログラムは次第にグレイプニルから逃れようと激しく暴れ始めた。それを必死に抑え込もうとするユーノ君の額からは既に大量の汗が流れていた。
「クッ! いくらグレイプニルでも、この巨体でこれだけ激しく暴れられると流石にきつい!」
「だが、確実に効いている! そうでなければ、ここまで必死に抵抗したりはしない筈だ!」
……そうだ。最初にユーノ君とアルフさんが動きを止めに行った時にはあんなに激しく暴れたりはしなかった。それがあそこまで暴れているという事は、それだけグレイプニルを嫌がっているという事。ユーノ君もそれを確信したみたいで、けして退かないという決意を見せる。
「だったら、クライドさんの準備が終わるまで持ち堪えてみせる!」
「その意気だ、ユーノ! ……ここは僕達が必ず抑え込む。だから、後は頼むよ。父さん」
ユーノ君とクロノ君が必死に防衛プログラムを抑え込む中、エターナルコフィンという魔法を準備しているクライドさんはリンディさんと言葉を交わしていた。
「いつ以来かな? 二人で一緒に戦うのは」
「私がクロノを身籠って、それを機に産休と育児休暇を取って以来だから十五年ぶりよ。クライド」
「そうか。もうそんなにも時間が経ったんだな。まだ小さかったクロノもあれだけ大きく成長する訳だ。……リンディ。私が、いや俺がエターナルコフィンを発動して防衛プログラムに当てた直後に低ランクの簡単な物でいい、その周辺を結界魔法で封鎖してくれ。それで外へ逃げようとする冷気を押し戻して、魔法の効果を増幅させる」
「解ったわ」
リンディさんとの打ち合わせが終わると、クライドさんは自分のデバイスに呼び掛ける。
「デュランダル、十一年も待たせてしまって済まなかったな」
『Don't mind it.』
長い間ずっと待たされたのに、気にしていないって。……デュランダルって、結構カッコいいのかもしれない。
「そう言ってくれるか。……やるぞ、デュランダル!」
『OK, Boss.』
クライドさんはそう言うと、デュランダルという自分のデバイスに魔力を注ぎ込んでいく。
「こっちはユーノとクロノが動きを封じている。後は向こうだけど……!」
アルフさんがそう言ってナハトヴァールの方を向くと、いよいよ向こうの主力であるリヒトさんが動いた。
「夜天の誓約の元、王と魔導書の叡智を守護する夜天光の騎士。リヒト・ツァイトローゼ・フォン・ナハトヴァール。心腹の友より託されし剣を以て、幾百年に渡る悪意の闇を断つ! ……カイゼルシュベルト!」
リヒトさんは名乗りを上げた後、腰に差した鞘から剣 ―たぶん、これがカイゼルシュベルトだと思う― を勢いよく抜き放つとそのまま前に真っ直ぐ構えた。すると、リヒトさんが纏っている鎧の胸の部分にある宝玉から真っ赤に燃える炎が剣の刃に向かって発射される。そしてその炎で刃が真っ赤になるのと一緒に私の全力に近い量の魔力がカイゼルシュベルトに蓄積されていく。
「グルートケーフィヒ!」
そこからリヒトさんがカイゼルシュベルトを思いっきり横に振り抜くと、上半分しか残っていなかったナハトヴァールに向かって真っ赤な光弾が飛び出した。その光弾はナハトヴァールに当たると、ナハトヴァールを包み込むくらいに大きくなって完全に閉じ込めてしまう。
「ドンナーシュトラール!」
ナハトヴァールが完全に動けなくなったのを確認したリヒトさんは円を描く様にしてカイゼルシュベルトを天に掲げると、そこからそれこそ天をも貫かんばかりの勢いで物凄い量の魔力が放出された。その魔力にリヒトさんの上空の大気が震えたのか、何だか雷がゴロゴロと言い始める。そして、そのゴロゴロ言っていた雷さえもカイゼルシュベルトから放たれた魔力に集められると、リヒトさんは魔力を放出したままカイゼルシュベルトを勢い良く振り下ろした。
……えぇっと。まさか、あの放出されている魔力ってフェイトちゃんのザンバーフォームと同じ様な魔力の剣だったのかな?
そうしてリヒトさんがナハトヴァールの上半分を文字通り真っ二つにしながら焼き尽くしていくのを目の当たりにして、私は完全に言葉を失ってしまう。一方、ヴィータちゃんはシグナムさんに声をかけていた。
「なぁ、シグナム」
すると、シグナムさんはまるで観念するかの様にリヒトさんの事を認める発言をした。
「これ程の力量差を見せられては、もはや認めるしかないな。……リヒト・ツァイトローゼ。いや、フォンを名乗られている以上はナハトヴァール卿とお呼びするべきか。この方こそが、我等夜天の守護騎士の長である事をな。だがそうなると、シャマルに人を見る目があったという事か」
「でもよ、シャマルには悪いけど、運がなかったとしか言い様がねぇな。向こうには既に結婚すら考えていた別の相手がいて、しかもついさっきプロポーズして受け入れてもらったんじゃもうどうしようもねぇ」
このヴィータちゃんとシグナムさんのやり取りとリヒトさんの事をジッと見つめるシャマルさんの切なそうな表情を見て、私は確信した。
……シャマルさんは、リヒトさんの事が好きなんだって。
それは同時にとても残酷な事なんだって事も解っていたけど、私がシャマルさんにできる事は何もなかった。……ただ、リヒトさんの強烈な一撃によって、こっちの戦況が一気に好転した。
「魔力が急激に低下し始めた……? 防衛プログラムを乗っ取っているナハトヴァールが弱体化したのか! それなら、今だ! 父さん!」
クロノ君の呼び掛けに応じたクライドさんは、デュランダルを掲げると呪文の詠唱を始める。
「悠久なる凍土。凍てつく棺の内にて、永遠の眠りを与えよ」
そして、デュランダルを振り下ろすと同時に準備していた魔法を発動させる。
「凍て付け!」
『Eternal Coffin』
すると、デュランダルから凄い量の魔力が防衛プログラムに放出された。
「そこの二人、後ろに飛んで! 時の隧道!」
それと同時にこっちの様子を確認していたのか、はやてさんが時の隧道の魔方陣を自分の手元とクロノ君やユーノ君の後ろを繋ぐ形で使用してきた。二人ははやてさんの指示に従って魔方陣に飛び込む。この時、飛び込む直前までグレイプニルを維持していたのは流石だって思った。そして、クロノ君とユーノ君が防衛プログラムから離れたのを確認したリンディさんはクライドさんとの打ち合わせの通りに結界を展開する。
「今! 封鎖結界、展開!」
その次の瞬間、クライドさんから放たれた魔法が防衛プログラムに直撃した。防衛プログラムは魔法の当たった場所から凍りつき始める。更に魔力の一部が当たった際に外に逸れるのをリンディさんの結界が押し戻すから、次第に別の場所からも凍り始め、ついには余りの冷気によって結界内が真っ白になって中の様子が解らなくなった。
一方、直前まで防衛プログラムを抑え込んでいたユーノ君は安心した様にホッと息を吐く。
「あぁ怖かった。逃げ出すのがもう少し遅かったら、僕達も氷漬けだったよ」
……そんなギリギリまで、ユーノ君達は頑張ったんだ。だから、その頑張りを絶対に無駄にしないって、私は改めて決意する。クロノ君の方ははやてさんに感謝の言葉を伝えていた。
「済まない。全力で抑え込んでいたから、自力での退避が難しかったんだ。お陰で助かった」
すると、はやてさんはクロノ君に対して気にしない様に言ってきた。
「気にせんでもえぇよ。お安い御用や」
「それで、結果は……?」
クライドさんが魔法を放つのを止めると、次第に結界内が白くなっていたのが晴れてきた。……その結果。
「防衛プログラムの動きが、完全に止まっています!」
シャマルさんの言った通り、防衛プログラムは綺麗に凍り付いていて動きが完全に停まっていた。それを確認した後のリンディさんの指示は早かった。
「ここで仕掛けます! なのはさん! フェイトさん! 八神はやてさん! 三人の最大火力で、防衛プログラムのコアを露出させなさい! 」
私はリンディさんの指示を承知すると同時に、フェイトちゃんとはやてちゃんに呼び掛ける。
「はい! 行くよ、フェイトちゃん、はやてちゃん」
私の呼び掛けに二人は頷く。そして、私は自分の持つ最大の魔法を使う為、今まで使って来た魔力の残渣を集め始める。
『Starlight Breaker』
「全力全開! スターライト!」
フェイトちゃんはザンバーフォームのバルディッシュを掲げると、そこに雷を集め始めた。
「雷光一閃! プラズマザンバー!」
そして、はやてちゃんは。
「あんな、リヒトさんも向こうのわたしも防衛プログラムの事をちゃんと直すって言ってくれたんやで。そやから今は、ゆっくりお休みな。……響け、終焉の笛! ラグナロク!」
防衛プログラムに優しくそう話しかけると、さっきはやてさんが抜き打ちで使ったラグナロクを使う為、魔力を魔方陣に集めていく。こうして、私達三人の魔法の準備が終わると、三人一緒に魔法を放った。
「「「ブレイカァァァァッ!」」」
私達の放った魔法が防衛プログラムに直撃すると、私の桜色とフェイトちゃんの金色、そしてはやてちゃんの白色の三色の魔力光が入り混じった状態で爆発し始める。そうして防衛プログラムが爆発の中で削られていく中、シャマルさんはペンデュラムの様なデバイスで円を作ると、瞳を閉じて集中していた。そして、暫くすると力強く瞳を開く。
「捕まえ……たっ!」
シャマルさんは掛け声と一緒にデバイスで作った円を小さくすると、そこには黒く輝く塊があった。……たぶん、アレが防衛プログラムのコア。そうして、私達が防衛プログラムのコアの露出と確保を終えた次の瞬間だった。
「シャマル!」
ヴィータちゃんの声にシャマルさんがハッとして後ろを振り向くと、そこには防衛プログラムの方にもあった女の人の上半身の形をしたナハトヴァールの一部が迫って来ていた。その姿は既にボロボロでスピードもかなり遅く、リヒトさんのドンナーシュトラールという攻撃がそれだけ強力だった事を物語っているけど、コアの確保に集中していたシャマルさんの隙を突くには十分だった。
「クソッ、アタシの魔法じゃ間に合わねぇ!」
ヴィータちゃんが苛立ちを露わにしているし、比較的余力のあるアルフさんも隙を突かれたのか、明らかに反応が遅れていた。私達も強力な魔法を使った後で魔力が殆ど残されていないから、簡単な魔法一つ使うのも難しい。だから、私達には対処できなかった。
……そう、
「そうはさせん!」
そして私の想像通り、シャマルさんに襲い掛かろうとしたナハトヴァールに立ち塞がったのは、右手にカイゼルシュベルトを、左手にドラッヘボーゲンを携えたリヒトさんだった。リヒトさんはカイゼルシュベルトとドラッヘボーゲンを振るうとナハトヴァールの両手を切り捨てて何もできない様にしてしまった。すると、ナハトヴァールは急に方向転換して、シャマルさんが確保した防衛プログラムのコアを口に咥えてそのまま飲み込んでしまう。
「あぁっ! 防衛プログラムのコアが!」
シャマルさんは自分の使命を果たせなくなった事を悔やむ様な苦痛の表情を浮かべると、そのまま俯いてしまった。
「シャマル、一旦退くぞ!」
リヒトさんはカイゼルシュベルトとドラッヘボーゲンを一旦仕舞うと、シャマルさんの腕を取ってそのままナハトヴァールから離れていく。それと同時にナハトヴァールの体が急に脈打ち始めると、その体から真っ黒な魔力が噴き出して実体化する前の大きな黒い塊になった。
「グゥゥッ……! ガァァァァァァァァァッッ!!!!!!!!」
そして、ナハトヴァールが雄叫びを上げると黒い塊は消え失せ、さっきよりも更に巨大な、そして凶悪な化物となってその場に現れた。ここでエイミィさんから通信が入る。
『艦長……』
「エイミィ。ナハトヴァールについて報告を」
『……最悪です。ナハトヴァールは現在、なのはちゃんのスターライトブレイカーでも破壊できるかどうか解らない程の強度を持つ防壁を四重で展開しています。しかも先程露出した事でマーキングできたコアについては、あの巨体の中を高速で移動していて、現在も位置の特定を急いでいますが作業は困難を極めています。これらを受けて、グレアム提督は現時点を以て防衛プログラムの修復を断念、アルカンシェルによる最終処理を決定しました。ですが想定される防壁の強度から言って、たとえアルカンシェルでも仕留め切れるかどうか……』
リンディさんからナハトヴァールに関する報告を求められたエイミィさんから帰ってきた答えは、余りにも残酷だった。そして、このエイミィさんの報告を聞いたシャマルさんは涙を流して俯いてしまった。
「想いが叶わないのなら、せめて少しでもいいからリヒトさんの力になりたかったのに。私が、私がもっとしっかりしていれば、こんな事には……!」
好きな人に振り向いてもらえないなら、せめて少しでも力になりたいというシャマルさんの言葉とそれすらも叶わなかった痛ましい姿に、私の胸は凄く痛くなった。
……シャマルさん。本当に切ないよ。
「シャマル、俯くな。前を向け」
でもだからこそ、好きなリヒトさんからかけられた言葉が悲しみに沈むシャマルさんの心に届いた。
「失敗を悔やむな、とは言わない。ただ、災禍となるものを前にして視線を落とすな。貴公は夜天の主に集いて災禍を遮る雲、
このリヒトさんの言葉に、シャマルさんはハッとなって俯いていた顔を上げる。
「リヒトさん……」
「それに、今回の件はナハトヴァールを仕留め切れなかった私にこそ咎がある。ならば騎士たる者、己の失態を己の力で雪いで挽回しなければならない」
リヒトさんはあくまで自分の責任である事をシャマルさんに言い含めると、シャマルさんの肩にポンと手を置いた。
「シャマル、後の事は私に任せよ。貴公は力を使い切った皆を癒してやってくれ。それが、風の癒し手である貴公の務めだ」
リヒトさんはシャマルさんにそう言って肩から手を離すと、一人でナハトヴァールの前に出始めた。
「リヒト、様……!」
そんなリヒトさんの背中を、シャマルさんは涙を浮かべて見送った。
「さて、やるか」
リヒトさんはそう言うと、腰に差していたカイゼルシュベルトとドラッヘボーゲンをもう一度手に取って魔力を高め始める。すると、その魔力に反応して二つの武器がとても強い光を発し始めた。余りにも眩しかったから思わず腕を上げて光を遮ってしまったけど、そこで私は眩しいながらも二つの武器がリヒトさんの中に光となって溶け込んでいくのが見えた。そして、二つの武器がリヒトさんの中に溶け込むと同時に光はすっかり収まってしまった。すると、リヒトさんは何かを悟った様な表情を浮かべる。
「……そうか。そうだったのか。残渣とはいえ異なる世界の己と一つとなった事で得られたのは、何も単純な力だけではなかった……!」
そして、リヒトさんはナハトヴァールと対峙すると新たな力を使う事を堂々と宣言する。
「悪意の闇よ、見るがいい。二人の偉大な王より託されし力が一つとなって生まれた、大いなる力を……!」
ここから、リヒトさんはユーノ君とクロノ君が使ったベルカの秘儀を発動した。
「エクスプロジオーン!」
その瞬間、さっきのドンナーシュトラールの時よりも更に凄い魔力がリヒトさんから噴き上がった。そんなリヒトさんに誰よりも驚いたのは、はやてさんとリインさんだった。
「なぁリイン、リヒトの事なんやけど。……さっき受け取った最新の情報より更にパワーアップしとらへん?」
「は、はい。私も確認致しましたが、流石にここまでの力は扱えなかった筈です。先程のドンナーシュトラールについては、最新の情報の範疇だったのですが……」
リヒトさんを最も知る二人ですら驚く程の魔力を、今のリヒトさんは引き出している。その事実が、私達の希望となった。
「カイゼルシュベルト!」
そして、リヒトさんは胸の前で両手を構えて魔力を集めると、天に向かって魔力を打ち出した。
「何もない上空に魔力を飛ばした? どうして? ……って、空からカイゼルシュベルトが降ってきた!」
フェイトちゃんが今見ている光景に驚いていると、リヒトさんが上に掲げた右手で天から降ってきたカイゼルシュベルトを掴む。そして目の前に持ってくると、何故か畳まれていた鍔が広がった。
……何だか、とってもカッコ良かった。
「なのは。あれがカッコいいのは同意するけど、本当ならそれは男の僕が言うべき台詞だよ? ……そして左手にドラッヘボーゲンを呼び出したんだけど、何故だろう?」
どうも思っていた事がつい口から出ていたみたいで、ユーノ君は私を少し呆れた様に見ていた。そして、続けてリヒトさんがドラッヘボーゲンを呼び出した事に首を傾げていた。でも、本当に驚くべきはここからだった。
「それで、右手のカイゼルシュベルトの鍔に左手のドラッヘボーゲンを重ねて……! そんなのありかい!」
アルフさんの驚く声に合わせる様に、クロノ君が何が起こったのかを口にしていく。
「……カイゼルシュベルトとドラッヘボーゲンが融合して、一つの巨大な剣となったのか? だが、それにしては内包した魔力が余りにも膨大すぎる! アレはもはやロストロギアだ!」
そう。カイゼルシュベルトとドラッヘボーゲンが一つになって、背の高いリヒトさんより明らかに大きな剣となった。その剣の名前を、はやてさんが高らかに宣言する。
「あれが復活したカイゼルシュベルトとアンちゃんが作ったドラッヘボーゲンが合体して生まれた、勝利の神剣! その名も、ジーク・カイゼルシュベルトや! ……でも、さっき確認した時にはこんなんなかった筈なんやけどなぁ?」
最後の方ははやてさんも首を傾げていたけど、そんな事はお構いなしにリヒトさんはジーク・カイゼルシュベルトを前に出して真っ直ぐに構える。すると、さっきのドンナーシュトラールと同じ様に鎧の胸部の宝石から膨大な量の魔力が炎となってジーク・カイゼルシュベルトの刃に注がれ始めた。刃は魔力を貯め込むのと一緒に次第に真っ赤になっていく。ここで、エイミィさんからとんでもない事実が伝えられた。
『す、凄い。リヒトさんの今の魔力値、アースラに搭載されている動力炉の最大出力を完全に超えてる! しかもまだ上昇し続けていて、止まる気配が全くないよ!』
そんな圧倒的な魔力を放出しているリヒトさんに皆が驚く中、ザフィーラさんだけは納得した表情を浮かべている。
「それだけの魔力が、あのジーク・カイゼルシュベルトという長の新たな愛剣に凝縮されているという事か。流石は長だ。我等とはもはや次元が違う……!」
一方、シャマルさんはまるで祈る様な視線で見つめていた。
「リヒト様……!」
次の瞬間、リヒトさんは真っ赤に輝くジーク・カイゼルシュベルトを真っ直ぐに振り上げる。
「ドンナァァァッ、シュトラァァァァルッ!」
そしてそのまま正面に振り下ろすと、ジーク・カイゼルシュベルトから眩いばかりの光が放たれた。
「剣から解放された魔力の余波が、ドラゴンとなって防衛プログラムに突っ込んでいった! しかもそれがバインドになってあのナハトヴァールの巨体を障壁ごと拘束してるって、なんてバカ魔力だよ!」
するとヴィータちゃんが言った通り、ジーク・カイゼルシュベルトから放たれた魔力の余波がバインドとなってナハトヴァールの動きを完全に止めた。それを確認したリヒトさんは、ナハトヴァールに向かって突撃を始める。
……その体に纏った魔力を黄金に輝かせながら。
「膨大な魔力の余波で相手の動きを封じ込め、励起状態となった事で金色と化した魔力を纏いながら一直線に突撃する。まるでリヒトが烈火の将のモチーフとなった泣き虫シグに剣を教えていた頃に、極意である「敵に近付いて斬る」を実践してみせた時の様だ。……ただ前だけを見据えて、何処までも真っ直ぐに突き進み、立ち塞がるもの全てを斬り払い、夜天の王を始めとする皆の命と未来を護り抜く。何とも、あの人らしい」
リインさんがリヒトさんが取った行動の解説をすると、シグナムさんは驚きを露わにした。
「そ、それでは、ナハトヴァール卿はいわば私の剣の師! ……という事は、今から見せるものこそが」
シグナムさんがここから先は一瞬たりとも見逃さないとばかりにジッと見つめるその先では、リヒトさんがナハトヴァールの目の前でジーク・カイゼルシュベルトを振り上げていた。
「ウオォォォォォッッ!!!!!!」
そして、気合の雄たけびと共にジーク・カイゼルシュベルトを振り下ろす。……その結果。
「なのはのスターライトブレイカーですら破壊が困難な筈の障壁を四重で展開しているのに、それごとナハトヴァールを一刀両断、しかも一緒に叩き込んだ魔力で実体化した肉体を消滅させてコアを露出させるなんて……」
ユーノ君が言った通り、リヒトさんがジーク・カイゼルシュベルトを振り下ろしながら向こう側まで駆け抜けた後、ナハトヴァールの肉体の上半分が斬られた所からゆっくりとずり落ちていく。そして、ある程度ずり落ちたところで斬られた所から膨大な魔力が天に向かって立ち上り、ナハトヴァールの肉体を消滅させていった。
そうして立ち上っていた魔力が消え去ると、その場にはさっき見たばかりの防衛プログラムのコアとよく似た、でも二回りほど大きな黒い塊があった。たぶん、ナハトヴァールのコアと防衛プログラムのコアが融合した結果だと思う。
すると、リヒトさんが繰り出したドンナーシュトラールの一部始終を目の当たりにしたシグナムさんは感嘆の声を上げ始めた。
「これが、これこそが真の紫電一閃、ドンナーシュトラール! 己の限界を超えた魔力の全てを剣に込めて、必殺の意志と共に全てを断ち切る! 我等が長にして我が剣の師たるナハトヴァール卿! このシグナム、真の紫電一閃をこの目にしかと焼き付けましたぞ!」
シグナムさん、何だか今までのイメージと全然違う様な……?
一方、ユーノ君はリヒトさんが成し遂げた事に対して完全敗北を宣言する。
「それにしても、僕達が防衛プログラムを相手に死力を尽くしてようやくやり遂げた事をそれと融合してより強大となったナハトヴァールを相手にたった一人であっさりやられてしまうと、もう悔しさすら湧いてこないよ」
そして、クロノ君がリヒトさんに対してある結論を出した。
「僕はもうリヒト師匠が何をやっても、「リヒト師匠だから」で片付けてしまいそうだ。執務官としてそれはどうかとは思うが、仕方ないじゃないか。……だって、リヒト師匠なんだから」
最後の方は普段とは少し違う言葉使いになっていたのは、きっとクロノ君も驚きの余りに思わず素になっちゃったからだって思う。
……あれからもう十年以上経ったけど、その時の光景を私は未だに忘れられない。それどころか、たぶん一生忘れる事はないと思う。
だって、はやてちゃん達に希望の夜明けを齎したのがはやてさんのあの魔法なら、リヒトさんのドンナーシュトラールは夜天の魔導書を闇の書へと変えた悪意の闇を斬り祓った最強最後の一撃なのだから。
Side end