赤き覇を超えて 外伝 夜天光の騎士   作:h995

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2019.1.19 修正


第十五話

Side:高町なのは

 

 リヒトさんの最大最強の一撃によって、防衛プログラムのコアを取り込んで強化されたナハトヴァールはあっという間に打ち倒されてしまった。

 

「それで今、リヒトが全部ブッ飛ばした事で目の前にコアが出て来ているんだけどさ。 ……何か、再生する気配が全然ないみたいなんだけど」

 

 アルフさんが全く反応のないコアを見て首を傾げていると、エイミィさんからまたしても驚くべき事が伝えられた。

 

『えぇっとね。皆、落ち着いて聞いてね? ……コアの活動、完全に停止しちゃってるの。魔力反応が安定値を示しているから、どうも暴走状態から脱したみたい』

 

 ……この報告を聞いた時、この場の空気が凍り付いた様な気がした。

 

「ゴメンなさい、エイミィ。今、到底信じられない様な内容が貴女の口から聞こえてきた様な気がしたのだけど」

 

 リンディさんも流石にすぐには信じられなかったらしくてエイミィさんに改めて確認したけど、エイミィさんの答えは変わらなかった。

 

『艦長。申し訳ありませんけど、今私が報告した事は全て事実です。グレアム提督もこの分析結果に間違いがない事を確認しています』

 

 すると、はやてさんがどうしてこんな事が起こったのかを説明し始める。

 

「アレには超速再生があるから、コアが露出しとる極僅かな時間での勝負になると思うたんやけどな。それがこんな事になったんは、たぶんコアが余りに強烈な一撃をピンポイントで食ろうた事で処理落ちしたからやと思う。まぁ放っておいたら怨念が処理落ちしたコアを再起動させてしまうんやろうけど、流石にこれだけ時間の猶予があれば十分ケリをつけられる。……それにしても、あんな大きな体の中を高速で自由自在に動き回るコアの位置を一瞬で見極めるわ、そこに最大最強の一撃をピンポイントでぶち当てるわ、その余波だけであの巨体を消し飛ばすわで、一体リヒトは何処までパワーアップしとるんや?」

 

 ……ウン。クロノ君が何が起こっても「リヒト師匠だから」で済ませたくなるって気持ちが凄く解る。こんな事、リヒトさんしかできそうにないから。それに、最後のリヒトさんの力については、はやてさんの想像を完全に超えていたみたいでしきりに首を傾げていた。そんなはやてさんにリインさんが声をかける。

 

「おそらくですが、今のリヒトであればかの剣帝(ソード・マスター)とすら互角に渡り合えるでしょう。それに、これはこれで私達にとっては非常に好都合です。はやて、一気に決めましょう」

 

「そやな。そんじゃ行くで、リイン!」

 

「はい」

 

 はやてさんがリインさんから促される形で、二人は早速行動を開始した。

 

「「ユニゾン、イン!」」

 

 リインさんが光の球となってはやてさんの胸の中に入ると、それに合わせてはやてさんのバリアジャケットが変化していく。体には新たに純白のコートが纏われ、更に白いベレー帽が加わった。姿の方もはやてちゃんと同様に髪の色が栗色から銀色へと変わる。ただ目の色についてはリインさんの影響が強いのか、鳶色から深紅へと変化していた。そうして姿が変わり終わった所で、はやてさんは魔力を高めながら呪文の詠唱を始める。

 

「月の光よ。荒ぶる魂を鎮め、不浄なる魔を祓いたまえ」

 

 はやてさんは呪文を詠唱すると、両手を下からすくい上げる様に胸の前まで持っていく。すると、そこに光の粒子が集まってきた。

 

「……フルムーンレクト!」

 

 そして魔法を唱えるのと一緒に掌の上に集めた光の粒子を両掌ですり合わせる様にしてから、そのまま右腕を前へと伸ばす。すると、右掌から放たれたとても温かな光がコアを包み込んでいった。そんな幻想的な光景に私が見惚れていくと、光に包まれたコアに変化が現れた。

 

「コアの形が変化していくぞ。……これは、狐か? 」

 

 ザフィーラさんが言った通り、真っ黒なコアは真っ白な子狐に変化してしまった。ただ、この真っ白な子狐には何処か禍々しい造形のネックレスが首に掛かっていて、しかもおでこに角が一本生えていた。真っ白な子狐は軽く身震いしてからあたりをキョロキョロ見渡すと、リインフォースさんの所で視線が止まった。そして、一目散にリインフォースさんの元へと走り出すと、そのまま体を駆け登ってリインフォースさんの右肩で立ち止まる。

 

「あっ、ヤベェ!」

 

 ヴィータちゃんは思わずクラーフアイゼンを身構えたけど、その後に続く光景を見るとまるで力が抜けた様に構えを解いた。……真っ白な子狐は、リインフォースさんの頬に自分の顔を擦りつけていた。

 

「ねぇ、リインフォース。何処か異常は出ていない?」

 

 シャマルさんがそう尋ねると、リインフォースさんは少しだけ目を閉じてから答え始める。

 

「……いや、特に異常は見当たらない。それに、どうやらこの子は私に懐いてくれた様だ。詳しく調べてみないと断言はできないが、おそらく害はないだろう。何より、この防衛プログラムとナハトヴァールが融合した存在が私と共に在るお陰で、先程の様な暴走体を生み出す心配もなくなった様だ。まぁ防衛プログラムもナハトヴァールも健在なのだ、それも当然だな」

 

 リインフォースさんの答えを聞いたはやてさんは、これで防衛プログラムとナハトヴァールの問題が解決したと宣言した。

 

「これで防衛プログラムとナハトヴァールは本当の意味で一つとなって、全く無害な新しい存在として生まれ変わった筈や。それで後は念の為にそっちのリインとわたし、そして夜天の魔導書にもフルムーンレクトを使えば、ベットリ張りついとる怨念も浄化されて一件落着やな」

 

 このはやてさんの発言の後に、ユーリちゃんがシグナムさん達について説明する。

 

「それと雲の騎士(ヴォルケンリッター)についてですけど、内部空間で私が担当した処置によって夜天の書から切り離されて、八神はやてさんだけの守護騎士になっています」

 

「よって、以前ヴィータに教えた様にフルムーンレクトの特性である万全の状態への回帰の影響で消える事もないだろう」

 

 最後にリヒトさんがユーリちゃんの説明を補足する形で話が終わった。話を聞き終えたはやてちゃんは、リヒトさん達に尊敬の視線を送っていた。

 

「凄いなぁ。ホントに皆の絶望を希望に変えてくれたんや。……これが、向こうの世界の「魔法使い」なんやな」

 

 そんなはやてちゃんの尊敬の視線を受けて少し照れ臭そうなはやてさんは、ここで話をユーリちゃんの今後に関するものへと変えてきた。

 

「さてと、これでこっちでやるべきことはだいたいやり終えたなぁ。後はユーリに関してやけど、とりあえずわたしが夜天の書を通じてエグザミアを制御しつつ、これからどうするか考えていこうか?」

 

 はやてさんがそう提案した時だった。

 

『はやて、聞こえているかな? 聞こえていたら、返事をして欲しいんだけど』

 

 ……クロノ君に良く似た、でも少しだけ高い声が聞こえてきたのは。その声に真っ先に反応したのは、呼び掛けられた本人であるはやてさんだった。はやてさんは早速声の主に確認を取る。

 

「ひょっとして、クロノ君か?」

 

 ……クロノ君?

 

 私は思わずクロノ君の方を向いたけど、クロノ君は首を横に振った。という事は……。

 

 私がその可能性に思い至ると同時に、声の主はそれを肯定してきた。つまり、初めてリヒトさんが来た時に話に出てきた平行世界のクロノ君であると。

 

『そうだよ。良かった、上手く通信が繋がった。一誠さんが念の為にそちらの世界を観測できるか確認してほしいと、僕に依頼してきたんだ。それで調べてみたけど、どうやらこちらで観測できる平行世界の様だね』

 

 平行世界のクロノ君がそう言うと、はやてさんは納得した表情を見せた。どうも「イッセイさん」という人が、はやてさん達を助けてくれたというお兄さんみたいだ。

 

「流石アンちゃん、やる事に卒がないなぁ。そやけど、これは好都合や。なぁクロノ君、ちょっと相談があるんやけどえぇかな?」

 

『相談? 悪いけど、手短に頼むよ。平行世界間の通信については、短時間ならともかく長時間となると上から別の許可を貰わないといけないんだ』

 

 はやてさんから相談を持ち掛けられた平行世界のクロノ君は、説明を手短にする様には言ったけど相談には応じてくれるみたいだった。それを聞いたはやてさんは早速ユーリちゃんに関する説明を始めた。

 

「解ったで。それじゃ説明するけど、実は……」

 

 そうして五分程でユーリちゃんの現状についての説明が終わると、平行世界のクロノ君は全てを理解できたみたいだった。……少しだけ話は聞いていたけど、向こうのクロノ君ってすっごく頭が良いみたい。

 

『……成る程ね』

 

「それでクロノ君。……いけそうか?」

 

 はやてさんからできそうかを訊かれて、返ってきた答えに私は驚いた。……向こうのクロノ君、頭が良い「みたい」じゃなくて本当に頭が良かった。

 

『本人の協力とエグザミアの制御を担当していた構築体(マテリアル)達の基礎データを提供してもらえれば、一年で何とかしてみるよ。断片的なデータしかなくて完全に手探りだったイデアシードの再現に比べれば、難易度はかなり低いからね』

 

「流石クロノ君。頭の出来はアンちゃんとタメ張れる天才少年技師の面目躍如や。でも、そうなると……」

 

 はやてさんが平行世界のクロノ君の頭の良さを褒め称えた後、必要な条件を満たすとどうなるのかに思い至ったのか、ユーリちゃんの方を向いて申し訳なさそうな表情に変わる。でも、ユーリちゃんは強かった。

 

「私、行きます」

 

「……えぇんか?」

 

 はやてさんの念押しにも、ユーリちゃんの気持ちは揺るがなかった。

 

「はい。だってエグザミアの問題が本当の意味で解決すれば、お父さんやお母さんとずっと一緒に居られるんですよ。それに何百年もの間、ずっと一人ぼっちだったんです。だから、あと一年くらい我慢できます」

 

 ユーリちゃんの意志が固い事を確認したはやてちゃんは平行世界のクロノ君に声をかける。

 

「……クロノ君」

 

『解った。ユーリ・エーベルヴァインについては受け入れる為の準備が整い次第、僕がそちらの世界まで迎えに来る。ただ準備については二、三時間で終わるけど、時間の流れが速いそちらでは丸一日待ってもらう必要があるんだ。そこでだけど、一誠さんには僕から事情を説明しておくから、それまでそちらで待っていてもらえるかな?』

 

 平行世界のクロノ君から出された提案に対し、はやてさんは承諾する事を伝えた。

 

「まぁしょうがないなぁ。まさか、クロノ君が来るまでユーリをこの世界に一人残して自分達だけ帰る、なんて無責任な事をする訳にはいかんし、それに元の世界で言えば帰ってくるのが少し遅うなるくらいやから、アンちゃんも解ってくれるやろ」

 

 こうしてユーリちゃんに関する話がまとまろうとした所で、リヒトさんが一つだけ訂正を求めてきた。

 

「クロノ。済まないが、一つだけ訂正してくれ」

 

『リヒトさん?』

 

「ユーリ・エーベルヴァインではない。……私とリインの娘、ユーリ・ツァイトローゼだ」

 

 リヒトさんがユーリちゃんの名前をそう訂正した時、ユーリちゃんは嬉しさの余りにリヒトさんへと思いっきり抱き着いてしまった。その様子が解ったのか、平行世界のクロノ君は少しだけ苦笑いが入った様な声で訂正する事をリヒトさんに伝える。

 

『……解りました。手続きはユーリ・ツァイトローゼで行います』

 

 そうして平行世界のクロノ君の通信が切れると、今度はそれまでの間、はやてさん達は何処で過ごすかが問題となった。

 

「さて。クロノ君がユーリを迎えに来る事になったから、わたし達は一晩この世界で過ごさなあかん訳やけど……」

 

「あっ。それやったら、わたしの家に……」

 

 まずははやてちゃんが名乗りを上げたけど、その前にリヒトさんからダメ出しを食らってしまった。

 

「その前にはやて。君は結果的に無断で病室を飛び出した事になっているのだ。ここはまず病院に戻って、主治医の先生に謝罪しなければならないのではないのか? 当然、騎士達も保護者としてはやてに付き添う必要があるだろう」

 

「……あっ」

 

 はやてちゃんは嫌な事を思い出した様な表情をした後、がっくりと肩を落とした。

 

「リヒト師匠。ここは僕達が活動拠点にしているマンションに」

 

 次にクロノ君が名乗りを上げたけど、リヒトさんはクライドさんを含めた親子三人で話をするべきだと主張した。

 

「クロノ、この際だ。クライド殿とリンディ提督の三人でしっかり話をした方が良い。クライド殿は本来そのつもりでマンションに向かう予定だったのだからな」

 

「……解りました、リヒト師匠」

 

 はやてちゃんもクロノ君もダメとなると、残ったのは当然私の家。

 

「あの、それなら私の」

 

 そう思って声を掛けようとしたんだけど、その前にはやてさんからダメ出しを食らった。

 

「あんな、なのちゃん。唯でさえ、こんな夜遅くにお外をほっつき回っとるんやで。そこに見知らぬ人間を何人も連れ込んだら、恭也さんと桃子さんのお説教は確実や。……恭也さんも桃子さんも怒ると怖いんは、なのちゃんもよう知っとるやろ?」

 

 はやてさんの指摘に、私は何も言い返せなかった。

 

「うぅっ。そう言われると確かにお兄ちゃんもお母さんも怒る時はかなり怖いし、それに今日ばかりはお父さんも怒るだろうし……」

 

「あれ? こっちのなのちゃんは……」

 

 ここで私が口にした事にはやてさんは何故か首を傾げてしまった。

 

「どうかしましたか?」

 

 それが気になった私ははやてさんに尋ねてみたけど、何でもないと誤魔化されてしまった。

 

「いや、何でもあらへん。気にせんでもえぇよ」

 

 そうしてクロノ君達が拠点にしているマンションも私の家もダメという事になり、リヒトさん達は結局はやてちゃんの家に一晩泊まる事になった。決め手になったのは、ザフィーラさんのこの発言。

 

「長。先程はあの様に仰られましたが、ここはやはり主の家がよろしいかと。幸い、見かけが幼いヴィータであれば主の保護者として付き添う必要はありませんし、私もおりますれば無人にはなりませんので問題にはならないでしょう」

 

 ザフィーラさんの発言にはやてちゃんは喝采を上げた。そしてすぐさま家に泊まる許可を出す。

 

「ザフィーラ、よう言うた! あっ、もちろん私は全然構わへんよ。むしろ大歓迎や!」

 

 ここまで言われると、流石のリヒトさんも否とは言えなかったみたいだった。

 

「それが妥当か。……主上、よろしいですか?」

 

「そうやな。それじゃ、一晩お世話になるで」

 

 リヒトさんからの意志確認に対してはやてさんが受け入れる事を明言した事で、リヒトさん達ははやてちゃんの家に泊まる事になった。

 

 ……お別れの時が、近付いて来ていた。

 

Side end

 

 

 

 エグザミアを有する事で無限の魔力を持つとも言えるユーリが恐怖に震える程の強大な力が駒王学園の方角に現れ、銀殿が主兄殿の援軍として急行してから既に一時間。

 ……力が激しくぶつかり合い、膨大な赤いオーラが天に向かって立ち上り、更に赤い龍が天へと昇っていくのを目の当たりにした私達は、ともすれば主兄殿の元へと駆け付けたくなるのを必死に押し留めていた。やがて、最初に比べて明らかに小さくなった力がこの場を立ち去ったのを確認して、私達はようやく警戒レベルを下げる事ができた。

 

「……もう大丈夫でしょうか?」

 

 ユーリが私達に確認を取ると、主上は少し思い悩まれた。

 

「う~ん。……一先ず、こうしとこうか?」

 

 主上はそう仰られると、シュベルトクロイツを軽く一振りする。

 

「次は、当てるで」

 

 主上はそう仰られたが、ユーリは何処か訊き辛そうな表情を浮かべながら主上に尋ねてみた。

 

「あの、ハヤテ。一体誰に向かって言っているんですか?」

 

「そうやなぁ。さっきからずうっとこっちを見とるストーカー、かな?」

 

 主上はそうお答えになられたが、ユーリには少し難しかったらしく首をしきりに傾げていた。

 

 

 

Interlude

 

「な、何だ。あの少女は。まさか、神滅具(ロンギヌス)禁手(バランス・ブレイカー)で作った隠蔽用の結界で身を隠していた俺に最初から気付いていたとでも言うのか……?」

 

 そこにいた青年は、はやての底知れぬ力に戦慄を覚えていた。

 

 ……兵藤一誠の家族を襲撃して、その動きをある程度拘束する。仮に失敗しても、その時は兵藤一誠に関わる者達に対する威力偵察として利用する。

 その目的の為、彼は旧魔王派の者達を裏で煽って兵藤家を襲撃させたのだ。だが、その目論見は何処からともなくやってきた幼い少女 ―ユーリ・ツァイトローゼ― によって脆くも崩れ去ってしまった。

 上級悪魔十数人が全力で魔力を放ってもまるで通じない圧倒的な防御力。背中から翼の様な炎を生やしたと思えば、それが剣や槍、更には巨大な手となって次々と一撃で沈めていく絶大な攻撃力。そして、それ等の両立を可能にした、無限と見紛うばかりの膨大な魔力。

 

(真っ向勝負では勝ち目が薄いな。それなら、搦め手から攻略するか)

 

 彼はユーリに対して正面からの勝負を避けて搦め手から攻略する事にした。そうしてはやて達の監視をしながら考えをまとめ終えて、いざ引き上げようとした所、彼の頬を何かが掠めていった。彼は慌てて後ろを振り向くと、彼の後ろで立っていた木の一本にとても小さな穴が開いていた。その穴は、彼の頬辺りの高さにあった。彼はその穴を作った物が掠めていったと思われる頬に手をそっと当ててみる。……その頬からは、生温かく滑った液体が流れ出ていた。

 

「次は、当てるで」

 

 その直後にはやての口から出された言葉の意味を理解した時、青年は戦慄を覚えると共に長居は無用と転移魔法でこの場を離れた。だが、転移し終えた時には既に頭を切り替えていた。

 

「参ったな。どうやら、赤き天龍帝(ウェルシュ・エンペラー)の妹は兄と同様に規格外らしい。……この先、彼女が俺達の前に立ち塞がれば、同じ魔術師である俺が抑えるしかないな。規格外の魔術師を抑えられるのは、規格外の魔術師だけだ」

 

 そう己の魔術師としての能力を規格外と自負する青年の名は、ゲオルク。

 

 既に活動を開始した一大反抗組織である禍の団(カオス・ブリゲード)に所属する魔術師にして、伝説の悪魔メフィスト・フェレスと契約したゲオルク・ファウスト博士の子孫である。……そして、彼は神をも殺し得るという神滅具の一つ、絶霧(ディメンション・ロスト)を有していた。

 

Interlude end

 

 

 

 主上が敵の斥候に警告を兼ねて魔力弾を一発、抜き撃ちで放った事に気づいておらず、未だに首を傾げているユーリの様子を主上は微笑ましげに見つめていたが、やがて話題を駒王学園の現状確認へと変えた。

 

「まぁ、そっちの方はもうえぇやろ。後は駒王学園の方やけど、どうもロシウ先生が外に出とるみたいやから、念話でどないなっとるのかを確認してみるわ」

 

 主上はそう仰せになると、直ちに念話を使用し始めた。念話はまもなくロシウ老師と繋がり、そのまま会話が始まった。すると、リインが主上の邪魔にならない様に小さな声で話しかけてきた。

 

「リヒト、ユーリがこうして私達の所に帰って来たのです。約束を果たさないといけませんね」

 

 ……そうだった。

 

「あぁ、そうだな。その際には、お前との間に子供を授かった事も合わせて伝えなければな」

 

 私はあの子達と約束を交わしているのだ。……時が来れば、必ず会いに行くという約束を。

 

 

 

 あの夜天の魔導書に関する騒動に決着をつけた翌日の夜中。その日はクリスマスであり、奇しくも積もる程に雪が降った事でホワイトクリスマスとなった。

 一面の銀世界となった海鳴市の高台で、私達は全ての手続きを終えてこの世界を訪れたクロノにユーリを託していた。

 

「では、確かにユーリをお預かりします」

 

「頼む、クロノ。どうか、この子に本当の自由を与えてやってほしい」

 

「はい、必ず」

 

 リインとクロノがそうしたやり取りを交わしている傍らで、私はユーリに大人しく待っている様に言い聞かせる。

 

「ユーリ。エグザミアの問題が解決したら、私が必ず迎えに来る。それまで、大人しく待っていてくれ」

 

「はい、待っています。お父さん」

 

 ……結局、この約束はユーリが我慢できなかった事で果たされる事はなかったのだが。

 そして、ユーリがクロノの元へと向かうと、クロノは杖を一振りして転移魔法を発動した。

 

「では、僕達はこれで」

 

「お父さん、お母さん。……行ってきます!」

 

 そして、二人は平行世界のミッドチルダへと転移していった。

 

「それじゃ、次はわたし達やな。リヒト、今から帰る為の準備を始めるけど、別れの挨拶はその間に頼むで」

 

「御意」

 

 主上がそう仰せになられたので私が承知の旨を伝えると、主上はベルカ式の魔方陣を展開して転移魔法の準備を始められた。帰還用の転移魔法に必要な魔力については、主兄殿が予め神器(セイクリッド・ギア)を使ってご用意されていたのだ。その間に、私はこの世界で出会った者達と別れの言葉を交わし始める。

 

「……皆、これでお別れだ。時間の流れが大きく違う上に平行世界間の移動に膨大な魔力が必要となる以上、こちらには早々来れないだろう。だから、たとえ今回の様な事態が今後起こったとしても、私達を当てにはしない様にしてくれ」

 

 私が今後の事について私達を当てにしない様に釘を指すと、なのはは寂しげな表情を浮かべた。

 

「そうですよね。それにこっちの半年がそっちの半月になるなら、リヒトさんにとっては数ヶ月ぶりでもわたし達にとっては数年ぶりになっちゃいますし。でも、やっとわたしのやりたい事が見つけられたのに、目標にしたい人達に出会えたのに、次に会えるのは随分先になるってやっぱり寂しいです」

 

 なのはの意外とも言える反応に私が首を傾げていると、今度はシグナムも私との別れを惜しむ様な事を言い出した。

 

「私もです、ナハトヴァール卿。尊敬に値する師と巡り会い、真の紫電一閃も見せて頂いた上に剣の手解きまでして頂きました。後は、私が真の紫電一閃に至る所を見て頂きたかったのですが……」

 

 二人がともすれば情けないとも受け取られかねない事を言い出したので、私は少し喝を入れるつもりで言葉をかける。

 

「なのは、シグナム。その目標は、主上や私が側にいなければ叶わないものなのか?」

 

「「えっ?」」

 

 私のかけた言葉に大して、二人は虚を突かれた様な反応を見せてきた。私は主兄殿から教わった言葉を元に二人を諭していく。

 

「昨日の夢は、今日の希望であり、明日の現実である。……ロケット開発の父と呼ばれるゴダードという科学者の言葉だと主兄殿から教わったが、その通りだと私も思う。二人は既に胸に抱いた夢を掴むべき希望へと変えた。ならば後は、明日の現実へと変えていけばいいだけだ。そして、己の夢や希望を現実へと変える事ができるのは、あくまで己だけなのだ」

 

 私が言いたい事を全て言い終えると、先に応えてきたのはシグナムだった。

 

「……解りました。それなら、私が真の紫電一閃を完成させる所を見る事が叶わぬ事を後悔させてみせましょう。それが、我等が長にして我が剣の師である貴方への恩返しとなります」

 

 すると、それに触発される形でなのはも今後の目標を伝えてくる。

 

「私も絶望してしまった人に胸を張って「貴方の最後の希望だ」と言えるようになります! それが私の見つけた夢であり、希望ですから!」

 

 二人がはっきりと目標に向かって努力する事を宣言してくれたので、ここで私は一つの約束を交わす事にした。

 

「その意気だ。ただ、このまま別れては少々味気ないな。だから、一つ約束をしよう。クロノがユーリの抱える問題を解決するのに必要だと見積もった時間は一年。それくらいの時間があれば、ここに来るのに必要な魔力も十分溜まっている事だろう。そこでだ。ユーリの問題が解決した暁には、その報告の為にこの世界を訪れよう。その時には、長い時を経て成長した姿を私達に見せてくれ」

 

 それは再会の約束であり、横目で主上の方を確認すると主上は頷いて頂けたのでこの約束は成立する。それを知ってか知らずか、なのはは感激した様子で改めて誓いを立ててきた。

 

「リヒトさん……! はい! その時までに、私、一生懸命努力して、はやてさんやリヒトさんに追い付いてみせます!」

 

 そのなのはの様子に、私はほんの僅かであったが危ういものを見出した。そこで、一つだけなのはに忠告を与える。

 

「そうか。だが、なのは。これははやてにも言った事だが、本当にどうしようもない時には他人(ひと)に助けを求める勇気を君も持った方がいい。一人では、強くなるのも強くあるのも限界がある。その様な時は、人を頼るのもけして悪くはない。少なくとも、君の周りにいる者達は君の声に応えてくれる。……なのは。君は、けして一人ではないのだから」

 

 私にしてみれば、今言った事を心の片隅にでも置いてもらえればよかった。だが、なのはの反応は私の想定から完全に外れたものだった。

 

「……あっ、あれ? どうして、どうして涙が止まらないの?」

 

「なのは……?」

 

 急に泣き出したなのはの事を心配そうに見つめるフェイトに対し、はやては何かに思い至った様でなのはに確認を取る。

 

「……なのはちゃん。ひょっとして、一人ぼっちで寂しい思いをした事があるんやないの?」

 

「はやてちゃん?」

 

 はやてから突然尋ねられたなのはは答えを返せずにいたが、はやては自身の実体験を絡めた上でなのはが何故急に泣き出すに至ったのかを語っていく。

 

「わたしもシグナム達が現れるまで一人暮らししとったからな。一人ぼっちの寂しさはよう知っとる。きっと、皆が居っても寂しさがまだ残っとって、自分が頑張らなまた皆が居らん様になるって、心の何処かで思い込んどったんやな。そやけど、リヒトさんのさっきの言葉でもう一人ぼっちにはならへんってなのはちゃんの心が理解して、残っとった寂しさが消えてくれたんやと思う。さっきの涙は、きっとその証やで?」

 

 その言葉にハッとなったなのはは、やがて涙を拭うと私に向かって頭を下げてきた。

 

「リヒトさん。本当にありがとうございました。……わたし、もっと皆と色々お話ししてみます。でも、魔法のことだけじゃない。もっと色々な事を、心の籠った温かい言葉で」

 

 周りの者達と、もっと積極的に心と言葉を交わしていく。

 

 そう宣言した時のなのはの明るい表情を見て、私は先程感じた僅かながらの危うさが消えているのを確認した。そして、私はなのはの宣言を肯定する。

 

「あぁ。その方が良い。……私にしてみれば、そちらの方がずっとなのはらしい」

 

 その後も、この場にいた者達と様々な言葉を交わした。ただ、会話の内容は今後の事が殆どだった。

 

 私の教え子であるクロノ執務官とユーノについては、クロノ執務官は引き続き執務官としてロストロギアによる災害や次元犯罪に立ち向かっていく道を、ユーノは今回利用した無限書庫に収められている情報の整理をする事で皆を支えていく事をそれぞれ選んだ様だ。何とも二人らしい進路に、私は笑みを浮かべながら激励した。

 

 クライド殿については、一度ミッドチルダに戻って正式に管理局を辞職する事となった。グレアム提督やクロノ執務官からは復職を望まれたが辞職の意志は固く、「十年以上前に死んだ者が今更生き返って戻って来ても、その間ずっと頑張ってきた者達の邪魔にしかならない」という言葉が決定打となって、二人は諦めた。そして住まいをこの海鳴市に本格的に移して、そこで仕事を探す予定との事だった。元々リンディ提督もそのつもりだった様で、話はスムーズに進んだ様だ。そうして、最後はクライド殿と握手を交わした。

 

 フェイトについては、管理局に正式に入局して将来はクロノ執務官と同様に執務官を目指すとの事だった。なお、現在リンディ提督から養子に誘われている事を教えられ、おそらくは受け入れる事になりそうだと小さな声で教えてくれた。……目の前で母親から訣別されたフェイトには、新しい家族と共に幸せな日々を送って欲しいものである。

 

 はやて達については、昨晩泊まった時に色々と語り合っていたので、この場で特に話す事はなかった。

 

 ……そして、ついにその時が来た。

 

「別れの挨拶は済んだな? ほな、始めるで。……リージョンゲート、オープン!」

 

 元の世界に繋がる時空の門を開いた主上は、ここではやてに向かって最後の言葉をかける。 

 

「こっちの世界のわたし! 本当にキッツいのはこれからや! そやけど、負けたらアカン! えぇな!」

 

「わかってる! でも、わたしは大丈夫や! 家族が、皆が一緒やから!」

 

 主上の言葉に対するはやての力強い返事と迷いのない眼差しを確認した主上は励ましの言葉を贈った。

 

「その意気や!」

 

 そして、なのはもまた私に最後の言葉をかけてきた。

 

「リヒトさん! わたし、頑張ります! でも、わたし一人だけじゃなくて、皆で一緒に!」

 

 そのなのはの言葉に対し、私は頷く事で答えを返した。

 

「そうだ、なのは。君はそれでいい」

 

 この場にいるのは、とても芯が強い子達ばかりだ。なのはが皆で一緒に頑張る事を受け入れた以上、たとえなのはが間違えそうになっても、誰かが必ず止めてくれる。……もう何の心配もいらなかった。私が何処か感慨深いものを感じていると、リインが呼び掛けてくる。

 

「リヒト、帰りましょう。私達の世界へ」

 

 この地で妻となる事を受け入れてくれた最愛の女性の言葉に、私は頷いた。

 

「あぁ」

 

 やがて、主上は平行世界間の転移魔法を発動する。

 

「それじゃ、これでホンマにお別れや! リージョンジャンプ、発動!」

 

 こうして、私達は元の世界へと帰っていった。……その心に、爽やかな想いを抱いて。

 




いかがだったでしょうか?

では、引き続きエピローグをお楽しみください。
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