赤き覇を超えて 外伝 夜天光の騎士   作:h995

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2019.1.14 修正


第二話

 平行世界に飛ばされて早々に世界が破滅しかねない程の大きな騒動に遭遇した私は、主上に仕える守護騎士としての責務を果たす為に介入を試み、無事に騒動を収める事に成功した。その後、時空管理局なる組織に所属する次元航行艦アースラに赴き、そこで初めて現状を知る事となった。

 その最中、フェイトが母親であるプレシア・テスタロッサに虐待されている事が解った事で、私はフェイトの母親の元へ向かう様に提案し、クロノ執務官を通じて責任者であったリンディ・ハラオウン提督に承認された。ジュエルシードを求める理由については未だはっきりしない為、とりあえずはフェイトに対する児童虐待を絡めてプレシアに任意同行を求める形にしたのだ。その際、向こうが妨害する可能性がある事から、まずは私が先行して妨害があった場合には私一人で道を切り拓く事を提案した。

 これに対してその場にいた者達が全員反対してきたので、それなら私を相手に全員掛かりで五分、しかもこちらが攻撃できるのは最後の一分のみで誰か一人でも立っていられたら考えを改める事を伝えた。すると、舐められていると思ったのだろう、程度の差はあれ殆どの者が私に対して遺憾の意を示して来た。ただ、出自が獣である故か、私から何かを感じ取ったであろうアルフだけは特に何も言ってこなかった。

 そうして、なのはとユーノ、クロノ執務官、フェイト、そして明らかに渋々ではあったがアルフの五人を相手に模擬戦を行ったのだ。

 

 ……結果はどうだったのか、か。

 

 リイン。逆に訊くが、仮に一年前のお前が戦う事になったとして、数百年に渡って積み重ねてきた経験とロシウ老師を師に仰いでからの一年間の研鑽とは、その程度のハンデを背負っただけで勝てなくなる程に軽いものなのか?

 

 

 

Interlude

 

 リヒトの単騎先行の話から見縊られていると感じたなのは達は、五人がかりでリヒトに挑む事にしたのだが。

 

「どうした、五人とも? 私はまだ一度も魔法らしい魔法を使っていないのだが」

 

 五人にそう言ったのは、バリアジャケットと呼ばれるなのは達が用いるミッドチルダ式魔法の防護服に相当する騎士甲冑を展開せず、更には飛行魔法はおろか身体能力の強化魔法すら使用していないリヒトだった。その言葉に反応したユーノが、抜き打ちで拘束魔法のチェーンバインドを放つ。

 

「クッ。チェーンバインド!」

 

 しかし、魔法の鎖がリヒトを捕える事はなかった。

 

「駄目だ。魔力を集束した両手で完全に捌かれて、魔法がリヒトさんの体にまで届いてくれない。それならと両手足を狙ったら、瞬間的に魔力を集めてバインドに流し込む事で術式を破壊、一瞬で解除してしまう。普通ならバインドを破壊できるだけの魔力を集束するのにかなり時間が掛かる筈なのに。……純粋な体術と魔力操作の速さだけでここまで魔法を防御・無効化する人なんて、僕は初めて見たよ」

 

 今まで持っていた常識を覆されたユーノが驚きを露わにする一方、この場にいる者の中では戦闘経験が抜きん出ているクロノは苦い表情だ。

 

「しかも、僕が攻撃を仕掛けながらも設置したバインドにも全く掛かってくれない。信じられないんだが、どうやら設置箇所を全て把握しているみたいだ。バインドの扱いにはそれなりに自信があったんだが、こうまで通じないと少々ショックだな」

 

 だが、だからこそ魔法に頼らない戦い方を実行する彼からは学ぶべき所が多い。クロノはそう前向きに捉える事にした。

 しかし、人生経験を含めて色々と不足しているものが多いフェイトにはクロノ程の切り替えの良さがある訳ではなく、己の攻撃が全く通用しない事に大きな衝撃を受けている。

 

「スピードは私の方が速いのは間違いない。それなのに、完全に後ろを取ってから攻撃しようとしたら、バルディッシュを掴まれたり、間合いを外されたりしてそもそも攻撃すらさせてもらえない。それならとフォトンセイバーを放っても振り向き様の拳の一振りで砕かれる。まるで、あの人の背中に目がついているみたいだ」

 

 フェイトは知らない事だが、実はリヒトもまた一誠や瑞貴、祐斗といった剣士組と同様、目で姿を見て、耳で音を聞き、肌で大気の流れを感じ、意志の流れを察し、そして力の流れを読み取るといった、己の全てを使って敵の動きを捉える事がこの時点で既にできていた。流石にそこまでは解り様がないのだが、一歩引いた所から見ていたアルフにはリヒトが全てを把握している事が解り、それをフェイトに伝える。

 

「フェイト、やっぱりもうやめよう? 離れて見ていたから解ったけど、アイツはフェイトの動きが完全に見えているんだ。……ウウン、フェイトだけじゃない。アタシ達全員の動きを把握している。何をどうやってなのかは、アタシには解らないけど」

 

 そして、全く攻め切れずにいる現状に業を煮やしたなのはが、とうとう自慢の砲撃魔法を解禁した。

 

「もう、こうなったら! ディバインバスター!」

 

『Divine Buster』

 

 人工知能を持つインテリジェンスデバイスと呼ばれるなのはの杖、レイジングハートの機械音声と共になのはの魔力光である桜色の魔力砲が放たれる。その大きさは正に砲撃と呼ぶに相応しいものだった。

 

 ……ただ、それ故になのはのこの一手は最悪手となる。

 

「なのは、ここでの砲撃魔法は迂闊に過ぎる。残り一分になった以上、遠慮なく手を出させてもらうぞ」

 

 リヒトがそう宣言した次の瞬間。

 

「戦闘終了まで、残り一分!」

 

 オペレーターを務めていたエイミィから、模擬戦の残り時間が一分となった事を告げられた。つまり、リヒトの攻撃制限が解除されたのだ。そして、それから間もなく最初の脱落者が出た。

 

「ユ、ユーノ君!」

 

 ……なのはは、目の前の光景が信じられなかった。

 

「クッ……! 実際に食らうと、なのはの魔法がどれだけ凄いのか、よく解るよ……」

 

 彼女の眼には、そう言いながら体中から煙を出して墜ちていくユーノの姿があった。

 

「何も考えず、ただ闇雲に砲撃魔法を撃つからこうなる。なのは、火力に優れた者は得てしてカウンターに弱いものだ。まして敵との技量差が大きければ大きい程、君の火力は己と味方を傷付ける諸刃の剣と化す。いくら最も得意とする魔法であっても、砲撃魔法はけして安易には撃つな。さもなくば、その砲撃は敵ではなく己と味方を滅ぼす事になる。よく覚えておくといい」

 

 何故なら、リヒトを完全に捉えた筈のディバインバスターが、リヒトの使用したワームホール型の次元間移動魔法「時の隧道」によって、防御に秀でたユーノを一撃で撃墜してしまったからだ。

 

「ア、アイツの砲撃魔法を次元間移動魔法でフェレットに送りつけて同士討ちさせるなんて、そんなのあり!」

 

 ……魔法を無詠唱で即時発動させる程に極めてしまえば、次元間移動魔法さえも対砲撃魔法のカウンターへと変化する。

 

 その光景を前にアルフが驚愕の声を露わにするが、執務官として様々な犯罪者と対峙してきたクロノもまたこの様な事は流石に初めてだった。そして、その豊富な実戦経験を持つが故に理解してしまう。

 

「彼は僕達を見縊っていた訳じゃない。見縊っていたのは、むしろ僕達の方だった。魔力の扱い一つ見ても解る。彼は魔導師として、僕達とは余りに格が違い過ぎるんだ。……フェイトといったな、君はただ残り時間を全力で逃げ回る事に専念してくれ。これでは、まともに立ち向かっても勝負にならない」

 

 そこで、クロノは残り時間を逃げ回る事で勝ち逃げする作戦を取ろうとしたが、その様な事を許すリヒトではない。

 

「それなら、点でも線でもなく、面で攻撃して逃げ場をなくせばいい。降り注ぐは、血に飢えし凶弾の豪雨。ブルーティガークーゲル・シュツルムシュティール」

 

 リヒトは自身を中心とした全方向に無数の超小型高速魔力弾を一斉に放った。その数は発射時点で数百を優に超え、更に際限なく放たれ続ける。その様は正に魔弾の豪雨。

 幸い、一発一発の威力はそこまでではなかった為に防御力に秀でたなのははもちろん、標準的な防御力を持っているクロノとアルフも防御に専念する事でどうにかやり過ごせたものの、高速戦闘を得手とするが故に防御の薄いフェイトにとっては余りにも致命的だった。

 

「キャアァァァァッ!」

 

 無数の魔力弾による間隙なき弾幕によって躱すという選択肢を潰されたフェイトは慌てて防御魔法を展開したものの、数が余りに多過ぎて次第に削られてしまい、とうとう直撃弾が出始めた。こうなると、後はただ降り注ぐ魔力弾の豪雨に打ちのめされるのを待つのみだ。

 そうして散々に打ちのめされた後に力無く墜落していく主の姿を、自分の身を守るのが精一杯で身動きが取れないアルフはただ見ている事しかできなかった。

 

「フェイト! ……確かに防御が薄いフェイトはあんな攻撃をされると弱いけど、だからってそんな簡単にやれる事じゃない! あれで専門は接近戦で魔法そのものはあまり得意じゃないって、一体何の冗談だよ! だから、アタシはアイツと戦うのが嫌だったんだ! 勝てっこないって解っていたのに!」

 

 もはや最後の方は愚痴になってしまったアルフの叫びの後、リヒトは締めに入る。

 

「これ以上は流石にやり過ぎになるな。そろそろ終わりにしよう。魔の鎖よ、黄昏の時まで暴虐の狼を縛れ。グレイプニル」

 

 リヒトは、リヒトの魔力光である紫色の光を放つ魔力の鎖を放った。ベルカ文字が装飾の様に刻まれたその鎖は、なのは達三人の元へと突き進む。三人はそれぞれ防御魔法を使用したり、躱そうと必死に逃げ回ったりするが、いずれも追い付かれた揚句に防御魔法を容易く抜かれてしまい、わずか数秒程で捕えられてしまった。そして、リヒトの放った魔力の鎖に囚われた三人に大きな変化が現れる。

 

「あ、あれ? 魔力が上手く出せなくなっちゃった」

 

「ア、アタシもだんだん力が抜けていく。何だかもう、起きてるのも辛いんだけど……」

 

 なのはとアルフは魔力が上手く扱えずにいた。それどころか、使い魔であるアルフに至っては意識が朦朧としている。これらの現象から、クロノは自分達を捕えている拘束魔法がどういったものなのかを理解した。……そして、自分達にはもう為す術がない事も。

 

「ただでさえ強固な上に強化魔法の強制解除、更には接触した対象の魔力の削減と魔力生成の阻害効果まで付与されているのか。こうなってしまったら、魔導師である僕達にはもう何もできないな。……リヒト・ツァイトローゼ。僕達の負けだ」

 

 クロノが模擬戦終了までまだ時間を残した状態で敗北宣言を出した瞬間、リヒトの勝利が確定した。そして、それをエイミィが改めて宣言する。

 

「残り時間十五秒を残してのクロノ君の敗北宣言により、この模擬戦はツァイトローゼさんの勝利です」

 

 こうして、模擬戦はリヒトがベルカの騎士の貫録を見せつける形で終了した。

 

 余談ではあるが、グレイプニルをその身に受けたクロノは後にリヒトにグレイプニルの伝授を懇願している。

 

「この件が片付いたら、この魔法を必ず教えてもらおう。執務官である僕にとって、これは極めて有用な魔法だ」

 

 クロノ・ハラオウン執務官は、転んでも唯では起きない逞しさを持つ男だった。

 

Interlude end

 

 

 

 ……理解できた様だな。

 

 たとえあの場にいたのが私でなくお前であったとしても、あの五人の攻撃を四分間凌ぎ、残り一分以内で全滅させるのはそう難しい事ではなかっただろう。まぁ時間稼ぎに回られると少々厄介なのは攻撃だけができないユーノだが、総合力で上回るお前なら問題はなかっただろう。

 そうして、自らの実力を示してみせた私はプレシア・テスタロッサの拠点である時の庭園へと一人先行したのだ。

 

 

 

Overview

 

「今、一体何が起こっているの? コイツは、一体何者なの……!」

 

 モニターで侵入者を確認したプレシア・テスタロッサは、そこで繰り広げられる光景を前に絶句していた。

 

 彼女は拠点である時の庭園に侵入者が現れた事を察知した。最初はそれこそゴミでも片付けるかの様に、傀儡(くぐつ)兵に侵入者を処分する様に命じた。彼女にしてみれば、それで終わる筈だった。しかし、その侵入者がまるで羽虫を払い除ける様に容易く傀儡兵を破壊した事で状況が急変した。彼女は早速サーチャーを飛ばして侵入者を確認すると、その侵入者は六個ものジュエルシードを一撃で完全破壊した上に次元跳躍攻撃を仕掛けようとしたこちらを完全に捉えるという離れ業を立て続けにやってのけた男、リヒト・ツァイトローゼだった。彼女は出し惜しみできる相手ではないと即座に判断し、手持ちの戦力の大半を動員してリヒトを迎撃した。

 

「闇に抱かれて静かに眠れ。……デアボリック・エミッション!」

 

  ……しかし、純粋魔力による広域空間攻撃魔法で迎撃に出した戦力を一蹴されてしまった。

 今でこそ魂を有する魔導生命体となっているが、夜天の書の防衛プログラムでもあるリヒトは夜天の書に含まれる特定ランク以上の知識に関して、主である夜天の王の閲覧許可の是非を判断する権限を有している。つまり、管制プログラムであるリインフォースと同様、彼もまた夜天の書に記されているあらゆる魔法と知識を知っており、その大部分の魔法を使用できるのだ。その上、魔法の技量は主であるはやてやリインフォースに劣るものの、一般的な基準で見れば十分に超一流と呼べる領域にリヒトは立っている。よって、機械仕掛けの兵器程度には、あまり得意とは言えない広域空間攻撃魔法でも十分だった。

 

 そうして、プレシアはリヒトの歩みを全く止められず、リヒトにそのまま城の中へと侵入されてしまった。既に迎撃に向かわせた城内の小型傀儡兵は全て破壊され、現在は大型の傀儡兵を相手取っている所だ。……いや、間もなく「だった」に変わるだろう。

 

「拳に宿る巨神の怒りをその身に受けよ! ティターネンツォルン!」

 

 何故なら、拳を叩き込んだ瞬間に集束させた魔力を爆縮させた事で、大型傀儡兵をたった一撃で木端微塵にしてしまったのだから。

 プレシアは、この監視モニターは一体いつからフィクションの類を映す様になったのかと少なからず疑問を抱いてしまった。それだけ、己の知っている魔法とそれを用いた戦いとは余りにもかけ離れた光景だった。

 なお、この「ティターネンツォルン」は、リヒトが愛剣を失った事による接近戦の攻撃力低下を補う為、一誠から魔力爆縮の理論を教わり、それを元に編み出したものである。つまり、魔法ではなく魔力を利用した「技」である事から、プレシアが感じた事はけして間違いではない。

 大型傀儡兵を排除した後、リヒトはプレシアの知識の片隅に僅かにあったベルカ式に用いられる三角形の魔方陣を展開したかと思うと、その魔方陣を通る様になのはやユーノ、クロノが現れた。リヒトが使用したのは、こちらに来るまでに行った模擬戦において対砲撃魔法のカウンターとして使用した「時の隧道」であり、こちらが本来の使用方法であった。

 プレシアはその中に管理局の執務官を名乗った少年がいた事から、管理局が自分の身柄の確保に来たと確信した。だが、その魔方陣からフェイトとアルフが続けて出てきたのを見たプレシアは、敵に捕まったフェイトの不甲斐無さに激しい怒りを抱き、その身を震わせた。その後、リヒトは魔方陣から出てきた者達と言葉を少し交わすと、別れて行動を取り始めた。

 リヒトは時の庭園の動力源へと向かう一方、フェイトを含めた他のメンバーは真っ直ぐに玉座の方へと向かってきている。なお、フェイトとアルフは特に拘束されてはいなかった為、自らの意志で同行しているのは明らかだった。

 

(……どうやら、あの出来損ないは管理局に私に売るつもりの様ね)

 

 プレシアがそう結論付けると身を震わせる程の怒りが一気に冷めていき、やがて大笑いを始めた。しかし、その笑い声は一切の温かみを孕んではいない。

 

「そう。そういう事なのね。フェイト、貴女はやっぱり出来損ないの失敗作だった。だから、アリシアなら絶対にしない事を平然とやれる。こんなモノに貴重な時間を割いてきたなんて、我ながらなんて無駄な事をしたのかしら。……まぁいいわ。この際だから、教えてあげる。貴女は唯の失敗作のお人形だって事を。私を最初から最後まで裏切り続けたその報い、思い知るといいわ」

 

 およそ娘に向けるものではない筈の憎悪と嗜虐の感情をフェイトに向けるプレシアの視線は何処までも冷たく、そして残酷なものだった。プレシアにしてみれば、フェイトなど所詮は愛娘(アリシア)の代わりにもなれなかったクローンの失敗作であり、ただのゴミでしかないのだから。

 だが、全てを引き換えにしてでも取り戻す事を望んだ愛娘と最後に顔を合わせた時、彼女が何を望んでいたのかを全く思い出せないのは、プレシアの精神が既に破綻しているからかもしれない。

 

Overview end

 

 

 

 なのはやフェイト達と別れた後、私は動力源となっているロストロギアの封印に向かった。

 ロストロギアとは、過去に滅んだ世界や古代文明の遺産の中でも突出した技術力で作られ、現代技術での再現が不可能な代物の事だ。尤も、様々な異世界で知識や技術を修めている主兄殿あるいはその主兄殿との交流を保っているクロノであれば、イデアシードの様に幾つか再現できるのだろうが。

 そうして動力源の封印を終えた後、私は他の者達の元へと向かったのだが、私がそこに辿り着いた時には全てが終わった後だった。

 ……リイン。この時に何があったのかは当事者達から聞いているのだが、お前に話す事はできぬ。これにはフェイトの出生の秘密が大きく関わってくるのだが、はっきり言って他の誰かに話せる類のものではないのだ。いくらお前が私の妻であっても、話して良い事と悪い事がある。許してくれ。ただ、そこで起こった出来事の結果がどうなったのかは話しておこう。

 

 結局の所、フェイトは母親と解り合う事ができなかった。母は娘を置いて遥か遠くの地へと旅立っていったのだ。全てが終わってから暫くの間、フェイトは与えられた部屋に閉じ籠り、一日中膝を抱えて塞ぎ込んでいたよ。それを立ち直らせたのが、なのはだ。なのはは私の言葉を真摯に受け止めてくれたのか、使い魔のアルフにすら反応しなくなっていたフェイトに根気強く話し掛け続け、フェイトの心の傷を少しずつ癒していったのだ。

 ……ただ、陰鬱に沈みがちなフェイトの気を晴らす為とはいえ模擬戦、しかも全力の真剣勝負をなのはが仕掛けたのは、実はフェイトに一度完敗しているらしいなのはがその雪辱を果たす意味合いもあったのかもしれないな。

 なお模擬戦についてだが、あの年代にしては相当に白熱した物となり、最後はお互いの大技をぶつけ合い、例の集束砲撃魔法を使用したなのはが勝利した。正確には、オーバーキルと判断した私がキャスリングの魔法でフェイトと入れ替わり、抜き打ちのドンナーシーセンで相殺したのだがな。全力全開も悪くはないのだが、なのはには「過ぎたるはなお及ばざるが如し」という言葉もある事をしっかりと教え込まねばならないと、あの時に痛感したよ。

 

 その模擬戦から数日後、フェイト達が管理局の本部へと護送される事になった。彼女達が行っていたのは、どうやら管理局が敷いている法に違反した行為だった様だ。まぁ街中で結界を張ろうともせずに魔力流を放ったり、一時は世界の滅亡へと繋がりかねない事態を引き起こしたりしているのだ。当然と言えば、当然だろう。そうしてなのはとフェイトがお互いに別れの挨拶を交わした際、友情の証としてお互いのリボンを交換した後で抱擁を交わし、いつか必ず再会する事を誓い合っていたよ。

 ……この場面といい、なのはとの関係性といい、更には何処か儚さを持った雰囲気といい、向こうの世界においては平行世界の同一人物であるクロノ執務官よりはむしろフェイトの方がこちらのクロノに似ていたな。だからこそお互いに気が合い、そして同性故に親友になった。これが異性だったら、おそらくこちらのなのはとクロノと同様に恋に落ちていたであろうな。

 

 これで、ジュエルシードを巡る事件の内、私が関わった所の話は終わりだ。尤も、私がこの事件に関わったのは本当に最終局面に極めて近かったから、それ程多くは語れんのだが。そうして私の話が一区切りすると、リインが早速話を聞いた感想を私に伝えてきた。

 

「まさか、向こうに転送されて間もなく世界存亡の危機に立ち会っていたとは、思ってもみませんでした。貴方がドンナーシーセンを用いたのは、その時だったのですね。しかし、それにしては少し疑問が……」

 

 リインの抱いた疑問については私も同じ事を考えていたので、自分の推測を交えた上で答えを返す。

 

「あぁ。お前が今思い至った様にこちらの世界と向こうの世界の時間が流れる速さの差から言えば、本来なら私が強制転移された次の瞬間にドンナーシーセンを使用した時の私の魔力の波動をロシウ老師が感知しなければならない筈だ。しかし、実際は世界中に飛ばしたサーチャーの情報から私がこの世界の何処にもいないと結論付けるまでに大体一週間程経過している。私の魔力の波動が感知されたのは、その後だ。これはあくまで推測なのだが、当時はまだヒドゥンの影響が残っていたのかもしれないな。何せ、時の流れを止め、因果律を狂わせるという時の嵐だ。この世界を取り巻く様々な要素に異常が生じていてもおかしくはないだろう」

 

 私の答えを聞いたリインは主上と自分がどれだけ危険な事をしたのかを理解したのか、少々顔が青褪めていた。

 

「そう考えると、実は相当に危ない綱渡りをしていたのですね。私も、はやても」

 

 そう自嘲したリインに対し、私は二度と同じ事をしない様に釘を刺す。

 

「そうだな。下手をすれば、私が訪れた時代の数千年前に降り立っていたという事にもなりかねなかった。それにもう少しだけ時間をかければ、ロシウ老師であれば何ら問題なく私を迎えに来られていたかもしれない。実際、主兄殿の時は全く問題なかったのだからな。……だから、リイン。今後はこの様な事がない様に頼むぞ。私は主上やお前にこの様な綱渡りを二度とさせたくはない」

 

 リインも主上を命の危険に晒したくないという思いは私と同じであったので、私の言を素直に受け入れてくれた。

 

「えぇ。そうさせて頂きます。それで、リヒト。そのジュエルシードという名の魔力結晶体を巡る争いの最終局面で介入してから私達が向こうに着くまでのおよそ半年もの間、一体何をしていたのですか?」

 

 リインから空白期間に何をしていたかを尋ねられた私は、特に隠す様な事でもないので即座に答える。

 

「大した事はしていない、とまでは言えないか。その後、こちらの世界へ帰る為の手段を探る為にリンディ・ハラオウン提督に頼んでミッドチルダに連れて行ってもらった。そこで私は聖王陛下の偉業を讃え、その功績を後世に伝えていく為の聖王教会なる組織がある事を知り、私の知るベルカの知識や歴史とのすり合わせを行う一方で、クロノ執務官に請われてグレイプニルの様に教えても問題のない魔法をいくつか教えたよ。それに合わせて格闘術も教えたせいか、クロノ執務官からは師匠と呼ばれる羽目になってしまった。私は武術ならともかく魔法に関してはロシウ老師や主上、主兄殿、そしてお前程の技量などなかったのだがな。また、時折であったがなのはが無茶をしない様に様子を見に行っていた。ユーノではおそらく抑えにならないと思ったのでな。……それが相当に悔しかった様だ。ユーノから、結界魔法を始めとする己の得意分野の更なる研鑽の為、なのはには内緒で魔法の指導を頼まれたよ」

 

 私はそこで一旦言葉を区切った。そして一度だけ深呼吸して心を落ち着かせると、いよいよ本題に入る事にした。

 

「そうして三月程経った後だったか。なのはの様子を見て、特に問題ないと判断してからここ数年で起こった出来事について調べる為に図書館へと入ったのだが……」

 

 私がここで言い淀んでいると、リインがその時に何があったのかを尋ねてきた。

 

「何か、あったのですか?」

 

 そこで、私は夜天の誓約を背負う者としてけして避けられない宿命と向き合う事になった事をリインに告げる。

 

「あぁ。そこで出くわしてしまったのだ。向こうの世界の主上であるはやて。そして、こちらでは夜天の書が復活する際に露と消え、向こうの世界でははやてと共にあった雲の騎士達の一人、湖の騎士シャマルとな」

 

 ……私の話は、ここからが本番だった。

 

 

 

Overview

 

 時は、リヒトがクロノ達から事情説明を受けている頃に遡る。

 

 リンディの命を受けたエイミィが聖王教会にリヒトについて問い合わせをした所、ある少女騎士が声を荒げて確認を取っていた。

 

「本当ですね! その方は、確かにリヒト・ツァイトローゼと名乗られたのですね!」

 

 その余りの剣幕に、エイミィは怯みながらも間違いのない事を伝える。

 

『は、はい。間違いありません』

 

 すると、その少女騎士は先程とは打って変わって、冷静な受け答えを始めた。

 

「その方は、確かにベルカの騎士で間違いありません。ただ、かの騎士の詳細については機密事項となりますので、お教えできません。ご了承ください」

 

 こうしたやり取りの後に通信が終わり、その少女騎士 ―カリム・グラシア― は一人呟いていた。

 

「どうやら、二年前の預言が現実のものとなりつつあるようですね。……無窮の光。それがまさか人物の名前だったなんて」

 

 カリムは年に一度、二つの月の魔力が揃った時に半年から数年以内の未来を詩文形式で書き出す預言書を作成する「預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)」と呼ばれる希少な能力を持っている。そして、彼女は二年前に現れた預言が現実のものとなりつつあるのを密かに危惧していた。

 

「内容自体は希望のあるものとは言え、預言に記されている星なき闇夜と明けぬ闇。これらが一体何を指しているのか。……まさか、再び現れるというのですか? あらゆる者に破滅と悲劇しか齎さない最悪のロストロギア、闇の書が」

 

 その様な不安を抱く彼女が二年前に作成した預言の内容は、次の様な物であった。

 

 歪み抱く宝石が天と海を乱す時、無窮の光が舞い降りる

 光は歪みを射抜いて天と海を鎮めし後、雷を戒め、星を導き、二人の智者に更なる叡智を齎さん

 やがて夜より出でし雲は星なき闇夜を生み、闇夜は雷を捕えんとして光を呑み込む

 されど光は潰える事無く、失われし友と語らい、新たなる刃を得て輝きを増す

 そして、無窮の光は明けぬ闇に夜明けを齎し、闇夜は光の仕えし王によりて新たな誓約を授かるであろう

 

 この預言が一体何を意味しているのか。この時点では、誰も理解する事ができなかった……。

 

Overview end

 




いかがだったでしょうか?

……これからが、本番です。

では、また次の話でお会いしましょう。
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