赤き覇を超えて 外伝 夜天光の騎士   作:h995

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2019.1.15 修正


第四話

Overview

 

「話を、聞いてってばっ!」

 

 なのはは突如自分に襲い掛かってきた少女 ―ヴィータ― に対し、攻撃を捌きながらディバインシューターを遠隔操作してヴィータの動きを止めると、間合いを離してから砲撃魔法のディバインバスターを放った。ただし、狙いを明らかに外し、自分にはこれだけの攻撃力がある事を示す威嚇射撃として。……この時のなのはの失敗は、威嚇射撃にも関わらず手加減せずにディバインバスターを撃ってしまった事だ。その結果、威嚇射撃にも関わらずにヴィータが砲撃魔法の強烈な衝撃波に煽られてしまい、彼女が大切にしていた帽子をボロボロにしてしまったのだ。

 

 この瞬間、ヴィータの頭の中から容赦の二文字が消えた。

 

 ヴィータの手にしたハンマー ―グラーフアイゼン― に搭載された弾丸を装填する様なギミックが稼働すると、その形状が前方に鋭いピック、後方に噴射ノズルがついた特異的なものへと変化した。そして、噴射ノズルから生み出される推力によって攻撃力と機動力が増大したヴィータの一撃は、防御力の高いなのはの防御魔法を破り、なおかつなのはの愛杖であるレイジングハートを容易く破壊した上でなのはを高層ビルの内部にまで吹き飛ばした。なのはが吹き飛ばされたダメージにふらつきながら立ち上がろうとすると、そこに追い打ちをかけようとヴィータがアイゼングラーフを振り上げて襲い掛かってきた。体がまともに動かないなのははそれを確認すると、とっさに防御魔法を発動しようとした。しかし、先程防御魔法を破られたなのはは内心ヴィータの攻撃を止められる自信がなかった。……本来ならば、ここでなのはは一撃まともに入れられている筈だった。

 

「そこまでだ」

 

 しかしこの時、ヴィータの振り上げたグラーフアイゼンを片手で掴んで止められる者がこの世界にいた。

 ヴィータは信じられなかった。如何に攻撃途中で中途半端な体勢だったとはいえ、噴射ノズルを全開に噴かせたラケーテンハンマーを片手で掴み、更に止めてみせるなど、仲間の中では最も腕力のあるザフィーラでも無理だったからだ。彼女は内心の動揺をどうにか抑え込むと、一旦後ろに下がって間合いを取ってから自分にとっての邪魔者に食ってかかる。

 

「何だ、テメェは! 邪魔すんな!」

 

 しかし、その漆黒の鎧と赤い外套(マント)を身に纏った邪魔者 ―リヒト・ツァイトローゼ― は冷静に対応し始めた。……その胸の内には、ヴィータ以上の怒りを抱きながら。

 

「それはこちらの台詞だ、紅の鉄騎。ようやく安らぎの日々を得た筈の貴公が、何故再び殺戮と破壊を齎そうとする。それが貴公の主の望みだとでも言うつもりか?」

 

 このリヒトの言葉を聞いた瞬間、ヴィータは気付いた。この男は、自分達の行動が主の知らない独断によるものである事を知っていると。だから、ヴィータは余計に腹立たしくなった。

 

「テメェ、知ってんのか! だったら、解ってんだろ! このまま行けば……」

 

 ヴィータの言いたい事は解っていたものの、リヒトはそれを承知の上で真実を伝える。

 

「だが、魔力を蒐集しても結果は同じ。待っているのは、周りを巻き込んでの自滅だけだ」

 

 しかし、ヴィータはそれを出鱈目だと一蹴した。……いや、一蹴しようとしたというべきだろう。

 

「デタラメ言ってんじゃねぇ! 闇の書の事を一番知っているのは」

 

「貴公達ではない。夜天の書の全てを管理・運営する管制融合騎だ。夜天の書、いやこちらでは夜天の魔導書というべきか。その追加ツールであり、夜天の主もしくは夜天の魔導書が非常事態に陥らねば発動できない防衛プログラムの欠点を補う為に組み込まれた守護騎士システム、雲の騎士(ヴォルケンリッター)。その一騎に過ぎない貴公では、夜天の叡智を悪用しようと企てる悪しき主を排除する為に搭載された最終防衛機能は止められない」

 

 リヒトから齎された情報を聞いたヴィータは、一体何の事を言っているのか解らなかった。だから、つい邪魔者である筈のリヒトに質問してしまった。

 

「夜天の魔導書? ……何だ、それ? それに最終防衛機能って何だよ?」

 

 このヴィータの発言から、雲の騎士達は何も知らされていない事を悟ったリヒトは最終防衛機能について説明を始める。

 

「最終防衛機能とは、防衛プログラムが主の性根を悪と断定した場合、または主として登録されていない者が魔導書を所持していると判断した場合、その対象となる者を魔導書の内部空間に強制的に取り込んで全ての魔力を強奪した後に自己消滅する事で魔導書の悪用を未然に防ぐ、正に夜天の魔導書の最後の切り札とも言うべき極秘機能の事だ。最終防衛機能が発動した後は、魔導書に搭載されているバックアップ機能で魔導書のみを再生する仕組みになっている」

 

「……えっ?」

 

 リヒトから最終防衛機能について聞かされたヴィータは今度こそ絶句した。そしてリヒトは今までの調査に基づいて推測した、夜天の魔導書が暴走するに至った原因について語り始める。

 

「本来なら再生終了時点で防衛プログラムによって停止される様になっている筈だが、おそらくは再生後の再起動の際に不具合を起こして停止コマンドが発動しなくなっているのだろう。しかも、防衛プログラムを通常時にも使用できる様に歴代の主が幾度も改良を試みた結果、防衛プログラムから管理者としての認証を得られなくなってしまっている。それらが重なった結果、魔力の強奪が魔力蒐集の終了する前から発生する上に魔力蒐集の終了後は最終防衛機能によって守護騎士達は魔導書の中に回収される一方、主は取り込まれて魔力を全て強奪される。更にその後、防衛プログラムが異常事態と認識、魔導書の安全確保の為にその周辺を破壊し尽くす形に変貌してしまっている。……本当に覚えがないのか?」

 

 このリヒトの言葉に触発されたのか、ヴィータの脳裏にはある光景が浮かび上がってきた。

 

「あっ、あぁっ……! お、思い出した。思い出しちまった! 確かに、前々回は最期、アタシ達もその時の主も皆まとめて闇の書に飲み込まれていた! 何で、何でアタシはこんな大事な事を今の今まで忘れてたんだ……ッ!」

 

 そして、ある事実を悟ってしまったヴィータは、絶望の余りに腰の力が抜けて両膝をついてしまった。

 

「……それじゃ。それじゃ、アタシ達のやってる事に意味なんて全くねぇじゃねぇか! チクショウ! チクショウ! ……チクショウ」

 

 ヴィータは悔しさの余りに何度も床を拳を床に叩きつけていたが、最後は拳をゆっくりと振り下ろして力無く床を叩くだけになった。

 一方、一時は死すら頭を過ぎった状況から一変した事で理解が全く追い付いていないなのはは、リヒトに何がどうなっているかを尋ねた。

 

「あ、あのう。リヒトさん?」

 

 しかし、リヒトはもう暫く待つ様になのはに頼む。

 

「なのは。済まないが、もう少しだけ待っていて欲しい。今、悪さが過ぎた紅の鉄騎を叱った上で真実を伝えているところだ。……彼女にとっては非常に残酷な真実ではあるが、それも致し方ない」

 

 そこに、なのはの異変を察した者達が駆け付けてきた。

 

「なのは! 助けに来たよ! ……って、あれ?」

 

「……何だか、すっかり落ち着いてしまってるね。でもよく考えたら、今日はクロノを含めた全員で掛かっても一分持たせられない程に強いリヒトがこっちに来てたんだった。それなら、いくらなのはと連絡とれないからって、アタシ達が慌てる必要はなかったね」

 

「でも、なのはが無事で本当に良かった」

 

「ユーノ君! アルフさん! ……フェイトちゃん!」

 

 なのはが少々場違いながらも友人達との再会を喜んでいると、幾分落ち着きを取り戻したヴィータがリヒトに尋ねてきた。……ただ、その声には覇気というものがまるでなかった。

 

「……なぁ。夜天の魔導書ってのは、闇の書の本当の名前なんだろ? 本当ならアタシ達が知ってなきゃいけないのに忘れていた、いやたぶん()()()()()()()()()事すら知っているんだ。だったら、魔導書に殺されかけてるアタシ達の主をを助ける方法だって、当然知ってるんだろ?」

 

 それは、正に懇願というべきものだった。リヒトはヴィータの余りの変わり様に内心申し訳なさを感じながらも、心を鬼にして現状を説明する。

 

「その通りだ。ただし、今となってはもはや使えないだろう。最も簡単なのは、夜天の魔導書をバグの発生以前の状態に戻す事で防衛プログラムを正常化し、それによって最終防衛機能を停止させる方法だ。しかし、暴走の原因の一つに追加機能の過剰な搭載がある以上、追加機能の全てを消去しなければ正常化する事は無理だろう。それには、当然貴公達も含まれる。……貴公達が現れる前であれば、今代の主を説得する事でそれを実行できた。しかし、長い付き合いの中で貴公達を「家族」として受け入れた今となっては、その方法をけして認めないだろう。私ならば、とある魔法を用いる事で強行する事はできるが、それでは心優しい今代の主の心を深く傷つける事になる。余りに深すぎて、心が壊れてしまいかねない程に。何より、悪意ある力を浄化する事で万全の状態へと回帰するその魔法が、神秘の要素の薄い魔導科学の産物である夜天の魔導書に本当に効果があるのか、使う事しかできない私には実際に試してみないと解らないのだ」

 

 リヒトの説明を聞いたヴィータは乾いた笑い声を上げた。

 

「ハハハ。はやての命を救えても、心も一緒じゃないと意味がないって事か。なんてこった。アタシ達を一人の人間として接してくれたはやての優しさが、この期に及んで仇になるなんて。……一体、何処まで呪われているんだよ。はやても、アタシ達も」

 

 リヒトから絶望を突き付けられる形となった紅の少女の瞳から、涙が零れ落ちようとしていた。……自分の口から主の名前が飛び出すという致命的な失態に全く気付かないくらいに、ヴィータは絶望していた。

 新たな人物が乱入してきたのは、ヴィータが絶望の淵に沈みかけたその時だった。

 

「ヴィータ、一体何があった?」

 

 剣を携え、髪をポニーテールに纏めた、如何にも女剣士といった凛とした雰囲気を纏う女性がヴィータに何があったのかを尋ねる。彼女にとって、今のヴィータの姿は夢想だにしていなかったものだったからだ。一方、声を掛けられたヴィータは覇気のない声である事を持ち掛ける。

 

「シグナムか? ……なぁ、もう魔力蒐集を止めないか?」

 

 ヴィータからシグナムと呼ばれた女性は、仲間からのあり得ない提案を耳にして信じられない思いを抱いた。

 

「ヴィータ。お前は何を言っている?」

 

 シグナムからその意図を尋ねられたヴィータは、魔力蒐集をやめる事を考えるに至った理由をシグナムに語り始める。

 

「思い出しちゃったんだよ。魔力蒐集が終わった後に待っているのは、希望じゃなくて破滅だったって事を。そして、アタシ達の今やっている事に意味なんてなかった事も。……こんな事、思い出さなきゃよかった」

 

 零れ落ちる涙を拭おうともせずに語るヴィータの姿を見て、シグナムは痛ましさすら覚えた。

 

(設定年齢通りの精神を持つヴィータは、やはり魔力蒐集のメンバーから外すべきだったか。……いや、今からでも遅くはない。血生臭い事から離して、主はやての護衛に専念させよう)

 

 そう判断したシグナムは、ヴィータに新たな指示を与える。

 

「……ヴィータ。ならば、お前は主の側に付いていてくれ。後は私達でやる」

 

 しかし、ヴィータはこのシグナムの指示を聞いた時、彼女の意志が何処にあるのかを察した。……シグナムは、はやてを死へと追いやる魔力蒐集をこのまま継続するつもりだと。だから、ヴィータは猛反発した。

 

「シグナム! お前、アタシの話を聞いていたのか!」

 

 一方、シグナムもまた魔力蒐集に対しては不退転の決意を固めていた。どれだけ自分達が血に塗れようとも、心優しき主を必ず救ってみせると。だから、シグナムはヴィータの言を受け入れられる筈がなかった。

 

「あぁ、聞いているとも。だが、その様な事を信じられるとでも思うか? それに、もはや我等は止まらぬ! いや、止まれぬのだ!」

 

 この二人のやり取りを聞いていたリヒトは、遥か昔に己の剣技を伝えた弟子の事を思い返していた。

 

「聞き分けの悪さは、あの者と同じか。烈火の剣聖、いや雲の騎士においては烈火の将だったか。どちらにしても、あの泣き虫シグが随分と出世したものだ。……当人でない事は解っているのだが」

 

 泣き虫シグ。

 

 この言葉がリヒトの口から飛び出した時、シグナムとヴィータは揃ってリヒトの方を向く。

 

「な、泣き虫シグ。シグナムがそんな呼ばれ方するなんて……」

 

 ヴィータはまるで「あり得ない事を聞いた」とばかりに酷く驚いていた。

 

「待て! 何なのだ、その不名誉な呼ばれ方は! その様な呼ばれ方をされたのは、これが初めてだぞ!」

 

 一方、言われた当人であるシグナムは顔を真っ赤にして怒っていた。……シグナムにしてみれば、闇の書の守護騎士の将である自分がその様な呼ばれ方をされる等、恥辱以外の何物でもなかったのだ。しかし、言った張本人であるリヒトは激しく怒るシグナムを前にしても涼しい顔をしている。それどころか、剣を取って戦う様に促して来た。

 

「それはそうだろう。その様に呼ばれたのは、貴公であって貴公ではない。どういう意味かを知りたければ、剣を取れ。剣聖と謳われるまでに至った貴公の剣とその魂、私に見せてもらおうか」

 

 リヒトにとって、シグナムは自ら鍛えた弟子をモチーフにした存在である事から、彼女に対しても何処か弟子として見ている所があった。「我が師の師は我が師も同然」という言葉がある様だが、どうやら弟子に対しても同じ事が言える様だった。……正確にはいわば弟子のコピーなので、弟子の弟子とは言えないのだが。

 

「……いいだろう。私は雲の騎士を率いる烈火の将、シグナム」

 

 リヒトに促されたシグナムは愛剣であるレヴァンティンを静かに抜き、そして名乗りを上げた。リヒトもまたその名乗りを受けて、自らの名を名乗る。

 

「ベルカの技法と叡智を伝え守る者。夜天光の騎士、リヒト・ツァイトローゼ」

 

 このリヒトの名乗りを聞いたシグナムは動揺を隠せなかった。

 

「なっ!」

 

「何を呆けている、シグナム! 二人の騎士が向かい合い、一度名乗りと共に武器を掲げたのなら、相手が誰であっても情け容赦は一切無用! まさか、騎士の礼儀を忘れた訳ではあるまい!」

 

 リヒトにそう叱りつけられたシグナムは気を取り直して剣を構えたものの、余りにも予想外な人物の名前が出た事で未だに冷静さを取り戻せないでいる。しかし、無理も無かった。

 

「クッ。確かにお前の言う通りだ。だが、想定外にも程があるぞ。まさか、相手がシャマルの……」

 

 何故なら、相手であるリヒトは仲間であるシャマルの……。

 

 

 

 一方、リヒトとシグナムが対峙しているビルからかなり離れた別のビルの屋上では、ヴィータと別れて行動していたザフィーラが緑色の法衣を纏った女性 ―シャマル― と合流していた。しかし、そのシャマルはその身を激しく震わせている。……激しく動揺しているのは、誰の目にも明らかだった。

 

「そんな。どうして、貴方がそこにいるんですか? どうして、私達の前に敵としているんですか? ……リヒトさん!」

 

 三ヶ月前、図書館ではやてと一緒に出会い、はやてが自分達に遠慮しなくなる切っ掛けを作ってくれたリヒトに対して、彼女は淡い想いを抱いた。初めこそ自分自身の気持ちに戸惑いを隠せないでいたが、三ヶ月という時間は彼女に自分の気持ちがどういったものなのかは理解させるのに十分だった。その後はリヒトとは一度も会わなかったのだが、それが逆に想いをより強いものへと変えていった。……だからこそ、リヒトが自分達の敵として対峙している現状を前にしたシャマルは、完全に冷静さを失っていた。そして、それを見抜けない様なザフィーラではない。

 

「……シャマル、撤退するぞ。俺が殿(しんがり)を務める。お前はいつでも転移できる様に準備してくれ。支援役のお前がこの調子では、我等はまともに戦えない」

 

 ザフィーラはシャマルに即時撤退する様に伝えた。しかし、未だに動揺が収まらないシャマルははやてが死に至るまでの猶予が余り残されてない事から即時撤退というザフィーラの提案に難色を示した。

 

「で、でも、これ以上手間取ると、はやてちゃんの命が……!」

 

 この動揺激しいシャマルを見て、ザフィーラは取り乱さない様に強く叱りつけた後、速やかに撤退する事を強く言い付ける。

 

「シャマル! 気をしっかり持て! 今、何をしなければならないのか、我等の参謀であるお前が解らない筈がないだろう! 今は体勢を立て直す為に一旦退くんだ、解ったな!」

 

 ザフィーラはそう強く言い付けた後にシャマルが何度も頷いたのを確かめると、直ちにシグナム達の元へと向かった。その心中には、けして叶う事のない恋をしてしまった仲間に対する申し訳なさを抱きながら。

 

「……すまない、シャマル。お前のその恋は、けして叶う事はないだろう。何故なら、長の心には既に……」

 

 同時に、リヒトが自分達の前に現れてくれた事で、何故かリヒトを「長」と呼ぶこの守護獣には希望が見え始めていた。

 

「だが、これはまたとない好機だ。後は、俺が長から今後の方策を授かる事さえできれば……!」

 

 このザフィーラの変化は、後に多くの者達に大きな福音を齎す事になる。

 

Overview end

 

 

 

 ヴィータがなのはの魔力を狙って閉鎖領域を展開した事に気付いた私は、すぐになのはの元へと急行した。私がなのはの元に到着した時には、既になのはの愛杖であるレイジングハートが中破していて、底から更に追撃されようとしていた。私はそこに割って入り、ヴィータに夜天の書、いやここでは区別する為に夜天の魔導書と呼ぼうか。その夜天の魔導書の真実を伝えたのだが、その落ち込み方は酷いものだったよ。

 ……設定年齢が八歳で精神もそれに応じたものになっているヴィータにとって、自分達が良かれと思ってやっている事がむしろはやてを死に追いやる行為でしかないという真実はやはり重過ぎた様だった。

 やがて、閉鎖領域の展開によって通信が繋がらなくなっていたのか、フェイト、ユーノ、アルフの三人が異常を察して駆け付けてきた。更に、ヴィータの元にはシグナムが駆け付けてきた。私はつい弟子であったシグナムのオリジナルと同じ様に彼女と接してしまい、私と戦う様に促してしまった。

 ……私が剣を教えたシグが烈火の剣聖と呼ばれるまでに至ったのは知っている。しかし、実際は一体どれだけ成長したのか、シグをモチーフとした烈火の将シグナムの剣から判断しようと思ってな。

 だが、シグナムが私の名乗りを聞いて何故か酷く動揺したので、騎士の礼儀を持ち出して一先ずは落ち着かせた。ただ、それでも万全とは言い難いシグナムの精神状態では、シグの成長を見極める事は到底出来そうもなかったよ。そこで、早々に剣を跳ね飛ばして撤退に追い込もうと思い至った時だった。本来の姿である狼の姿で、ザフィーラがシグナムとヴィータの救援にやって来たのは。

 ……今思えば、きっとこの時であったのだろうな。私があちらの世界に降り立ったのは、偶然でなく必然であったと悟ったのは。

 

 

Overview

 

「シグナム、ヴィータ。この男の相手は俺がする。二人は転移魔法の準備が終わるまで、シャマルを守ってくれ」

 

 シグナム達の元へ到着したザフィーラは、リヒトの相手を自分がする事を二人に伝える。しかし、騎士としての名乗りを既にリヒトと交わしていたシグナムはそれを受け入れようとはしなかった。

 

「待て! この男とは既に騎士としての名乗りを交わした! だから、この男とは私がやる!」

 

 騎士の誇りに拘る余りにシグナムの視野が狭くなっていると感じたザフィーラは、シャマルの時と同様に強い言葉でシグナムを諌める。

 

「騎士の誇りと個人の拘りを履き違えるな! 今、最も優先するべきは何だ!」

 

 このザフィーラの強い言葉に、シグナムは冷静さを取り戻した。そして、将としては不甲斐ない姿を見せたと苦笑いを浮かべる。

 

「これではどちらが将か解らんな。解った、ここは撤退しよう。……ただ、無理はするな」

 

 リヒトと対峙した時点で、たとえ死力を尽くしても勝機は薄いとシグナムは理解していた。だから、無理をしない様にザフィーラに指示を出す。

 

「解っている。俺自身、勝てるとは思っていない」

 

 ザフィーラもそれは百も承知である事をシグナムに伝えると、シグナムと入れ違いでリヒトと対峙した。シグナムはヴィータに「撤退するぞ」と声をかけると、未だ気落ちしているヴィータを強引に立たせてシャマルの元へと向かう。この間、なのは達はシグナム達の後を追おうとはしなかった。正確には、動く事すらできなかったと言うべきだろう。……リヒトの前に立つザフィーラの横を通り抜けられる気が全くしないのだから。

 

「待たせたな。では、始めよう」

 

 ザフィーラはそう言うと、その身を狼から獣人のものへと変えて名乗りを上げた。

 

「夜天の主に集いて災禍を遮る雲の一騎。盾の守護獣、ザフィーラ」

 

 このザフィーラの名乗りを聞いて、リヒトは驚愕せずにはいられなかった。そして、「夜天の書」に属する存在だけに通じる特殊な念話でザフィーラに呼び掛ける。

 

〈ザフィーラ。よもや、貴公は〉

 

 すると、同じ念話でザフィーラから返事が来た。……それはリヒトにとって、正に驚天動地の事実だった。

 

〈やはり、この名乗りでお気づきになられましたか。我等が長よ。長がご想像なされた通りです。どうやら長があちらの心無き我等の為にご用意なされたものの、愛剣であるカイゼルシュベルトの崩壊と共に次元の狭間へと消え去った筈の人格プログラムが、奇跡的にこの私に組み込まれた様です。そしてつい先程、僅かなりとも人格プログラムが機能し始めました。……ですが、他の者にはその様な傾向が見られず、残念ながら人格プログラムを得られたのは私のみの様子〉

 

 ザフィーラから想像の埒外である答えを聞いたリヒトは、そこである事を確認した。

 

〈その分では、まだ記憶のみで我々の世界のベルカの技法を修めてはいないという事か〉

 

〈仰せの通りです。ただ、長が私の人格プログラムを正式に起動すれば、あちらのベルカの技法を修める事ができるでしょう。もっと早く私の人格プログラムが起動していれば、長の手を煩わせる事も無くあちらのベルカの技法を修め、更にあちらの手法で魔力を生成して魔導書に供給する事で主への侵食を多少なりとも抑えられたのですが……〉

 

 ザフィーラがまだ不完全である事を聞き出したリヒトは、ここで一芝居を打つ事にした。

 

〈では、このまま私と一戦交えるのだ。その中で貴公に一撃当てると同時に、貴公の人格プログラム用の起動コマンドを送信する。だが、手は抜くな。こちらの世界の主上の家に張り付いていた監視者の目が、今はこちらを向いている〉

 

 リヒトからの指示を受けたザフィーラは、以前からの懸念が当たっていた事に納得しながらそれを承知する。

 

〈……時折、妙な視線を感じるとは思っていましたが、やはりそういう事でしたか。承知しました。では、長を相手取るには余りに不足とは思いますが、私とお手合わせ願います〉

 

 こうして密かにザフィーラと示し合わせたリヒトは、ザフィーラの名乗りに応じる形で改めて名乗りを上げた。

 

「ベルカの技法と叡智を伝え守る者。夜天光の騎士、リヒト・ツァイトローゼ」

 

 お互いに名乗りを上げた後、二人は素手で構える。……そして。

 

「いざ!」

 

「尋常に!」

 

「「勝負!」」

 

 お互いの拳が激突する事で、夜天光の騎士と盾の守護獣の一騎討ちが始まった。

 

Overview end

 




いかがだったでしょうか?

正直、この話に対する反応が怖い所ではありますが……

では、また次の話でお会いしましょう。
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