追記
2019.1.15 修正
Overview
拳の激突から始まった、リヒトとザフィーラの一騎討ち。この二人の戦いは、余人の割って入る余地など全くないものであった。
至近距離から拳の応酬を何度も重ね、それが膠着状態に陥ると間合いを一旦離し、そこから高速飛行で突撃して再び拳を交える。これらのやり取りを音速の領域で行っていた。
「ディヤァァッ!」
こうしたやり取りの中で間合いが離れると、ザフィーラが拳に魔力を集めた後にまるで砲弾の様に撃ち出した。
「甘い! 返すぞ、ザフィーラ!」
これに対してリヒトもまた掌に魔力を集め、自分に放たれた魔力砲弾ともいうべきものに向かって掌底を繰り出す。すると、魔力砲弾は放った本人の元へとそのまま弾き返されてしまった。
「ハァッ!」
しかし、ザフィーラも然る者で、魔力砲弾が当たる直前に己の魔力を一瞬だけ全身から放出する。これによって、跳ね返されてきた魔力砲弾を掻き消してしまった。
「やはり、強い。しかも、この技量で余芸の類というのだから、流石と言うべきか。……だが!」
ザフィーラはここで一応の主目的である時間稼ぎの為、距離が離れているのを利用して得意の拘束魔法を発動する。
「撤退までの時間は稼がせてもらう! 縛れ、鋼の軛!」
ザフィーラは己の魔力で形成した青白い杭の様な物を十数本形成すると、それをリヒトに向かって放った。しかし、リヒトはザフィーラと全く同じ魔法で冷静に迎撃する。
「覇を妨げるは、鋼の軛!」
双方から放たれた青白色と紫色の魔力の杭が衝突、相殺していく。こうして暫くの間は同じ魔法の撃ち合いとなったものの、それもすぐに止まった。
「……本来なら、俺の魔法を軽々と撃ち砕き、そのまま俺を拘束していた筈だ。俺の放った魔法に合わせて、使用する魔力の量を調整しているな」
ザフィーラは己の放った魔法とその威力を一瞬で見極めた上で同じ魔法を相殺する程度に手加減して放つ事のできるリヒトの技量に内心感服すると共に、本来なら平行世界の自分達を率いる将となる筈だった男に対する敬意を新たにする。その一方で、リヒトの方もまたザフィーラの力量に少しばかり驚いていた。
「ザフィーラの動きが私の予想よりかなりいい。これなら、リインが相手でもかなりいい勝負ができるだろう。どうやら、平行世界のザフィーラにこちらの世界の人格プログラムが搭載された事で、私の想定よりかなり強化されている様だ。……異なる世界の同一人物が影を交えて一つとなる事で、あらゆる理を超越した神とも言うべき存在へと至る。単純に当てはめる訳にはいかないが、まさかベルカの建国伝承にあった始まりの王の誕生秘話をザフィーラが再現してしまうとはな」
そう言いながらも、リヒトは口元に笑みを浮かべていた。己の救えなかった
こうして、異なる世界で夜天の守護騎士を務める二人の男が互いの力を認め合う一方で、アルフとユーノはリヒトの強さを身を以て知っているだけに、一人でそれなりに渡り合っているザフィーラの強さに顔がすっかり青くなっていた。
「……多少押されているとはいえ、あのリヒトと真っ向から打ち合えてる。一体何者なんだい、あの使い魔」
「解らない。解らないけど、これだけは言える。あの使い魔に対しては、今の僕達じゃ束になっても敵わないって事が」
一方、模擬戦の時とは桁違いのスピードで戦っているリヒトを見て、フェイトは自分が再現するにはどうすればいいのかを考えていた。
「リヒトさんとあのザフィーラと名乗った使い魔のスピード。もし今の私が出そうとしたら、魔力の配分のほぼ全てをスピードに注がないと届かない。バリアジャケットだって、防御力を棄てて高速機動に特化させないと無理だ。……リヒトさん、あの時は本当に手加減していたんだ」
そして、なのははリヒトとの相性の悪さに半分涙目になっていた。
「うぅっ。やっぱりリヒトさんには勝てる気しないよぉ。以前の模擬戦でやられたカウンターといい、普通の攻撃でディバインバスターと同等クラスの魔力弾を簡単に打ち返せる事といい、わたしがかろうじて反応できるフェイトちゃんよりも更に速い事といい、わたしとの相性が本当に最悪だよ。だからと言って、近付いて攻撃しようとすればもっと話にならないし……」
だが、彼女達はリヒトが頼りになる、というよりは
その一方で、なのはを襲撃してきたヴィータとその仲間であるシグナムは既にシャマルと合流していたものの、ザフィーラの戦闘力が今まで知っていたものより数段上である事に驚きを隠せないでいる。
「一体、どうなっている? あのザフィーラの強さは、確実に私を超えているぞ」
「……ザフィーラ。ひょっとして、思い出さなきゃいけない事ってこれの事だったのか?」
しかし、シグナムは同時にリヒトとザフィーラの力量差にも気付いていた。
「だが、それ以上に恐ろしいのはあのツァイトローゼという男だ。現時点では雲の騎士でも最強であろうザフィーラを相手に優勢を保っている。このまま行けば、ほぼ確実に奴が勝つだろう。……ベルカの技法と叡智を伝え守る者、か。この様な時と場所でなければ、ぜひとも手合わせを願いたい所だ」
シグナムがベルカの騎士としての想いを吐露している所で、シャマルが声を掛けてきた。
「シグナム、ヴィータ。転移の用意が出来たわ……」
そう報告するシャマルの表情はいつもの様に温和なものであったが、無理にその表情を作っている事にシグナムはすぐに気付いた。
(本当に上手くいかないものだな)
シグナムはそう思いながら溜息を一つ吐くと、シャマルに撤退開始の指示を出す。
「あぁ、解った。シャマル、ザフィーラが奴から離れたらすぐに転移を開始してくれ。今回は不安要素が余りにも多過ぎる。ザフィーラの言う通り、一度退いて体勢を立て直すぞ」
一方、撤退が決まった事で、真実を知って精神的に疲労困憊だったヴィータは何処か安堵していた。
「アタシも、今日はもう何も考えたくねぇ。アタシ達が忘れちゃいけない事を忘れている事といい、闇の書の本当の名前が別にある事といい、本当に色々あり過ぎたぜ」
そう言って、ふとリヒトとザフィーラの方を向いた時だった。
「ザフィーラ!」
ザフィーラが強烈な一撃を食らってしまったのを見たヴィータは、思わず彼の名を叫んでしまった。これを見て、戦況が一気に不利になったと悟ったシグナムの決断は早かった。
「シャマル、私が仕掛ける! 私が攻撃すると同時に転移を開始しろ! レヴァンティン! カートリッジ、ロード!」
シグナムがヴィータのグラーフアイゼンにもあったギミックを起動すると、彼女の魔力が爆発的に上昇した。圧縮魔力を込めたカートリッジをロードすることで瞬時に爆発的な魔力を得るというベルカ式魔法の最大の特徴であるカートリッジシステムだ。シグナムはその魔力を愛剣であるレヴァンティンに込めると、リヒトに向かって鋭く切り込んでいった。
一方、ザフィーラの一瞬の隙を突いて強烈なボディブローを入れたリヒトは、一度間合いを取って様子を窺う素振りを見せつつ、念話でザフィーラに確認を取る。
〈どうだ?〉
このリヒトの問い掛けに対し、ザフィーラは事が上手く行った事を報告する。
〈……どうやら、上手くいった様です。あちらの私が使っていたベルカの技法の数々に加えて、長が皆の盾である私の為に用意なされていた新たなる力もこの身に修める事ができました。これで、暫くは時間稼ぎができます〉
……そう。リヒトはボディブローをザフィーラに入れた瞬間、ザフィーラに偶然組み込まれた平行世界のザフィーラ用の人格プログラムの起動コマンドを送信したのだ。事が上手く運べた事を確認したリヒトは、ここでザフィーラに新たな指示を与える。
〈了解した。それでは、貴公の魔力供給で管制人格の起動まで何とかこじつけてくれ。そして、何としても夜天の魔導書の現状を聞き出すのだ。その情報と私が無限書庫で集めた情報を元に、修正プログラムを作成する〉
ザフィーラはその指示を受け入れると共に、主であるはやてには余り時間が残されていない事をリヒトに伝える。
〈承知しました。ですが、長、お急ぎ下さい。主に対する魔導書の侵食は、その進行速度を速める一方です〉
シグナムがリヒトに斬り込んできたのは、その直後だった。
「紫電一閃!」
正直な所、この一撃がリヒトに通用するとはシグナムは思っていなかった。ただ、この攻撃を躱させる事でリヒトをザフィーラから離し、そのまま転移魔法によって撤退する事を目論んでいたのだ。だからこそ、この時のリヒトの対応はシグナムの想像から完全に外れていた。
「その程度の剣閃で紫電一閃を称するなど、笑止!」
……シグナムは、目の前の光景が信じられなかった。
「な、何だと! 私の紫電一閃を、魔力を纏っているとはいえ片手で掴み取っただと!」
しかも、シグナムとレヴァンティン双方の魔力資質である炎熱変換によって、その刀身は炎を発する程に高熱化しているにも関わらず、である。その上、シグナムは知らない事だが、リヒトはこれを利き腕でない左手でやっていた。余りにも信じ難い光景を前に、当事者であるシグナムはもちろん、リヒトの実力を知るザフィーラさえも完全に硬直してしまう。
一方、「炎を纏って振るわれる剣を魔力を纏った片手で掴み取る」という妙技を平然とやってのけたリヒトは、シグナムに紫電一閃について指導する。
「シグナム、一つだけ教えておいてやろう。紫電一閃とは、物の力に頼って放つものではない。……それを理解したら、顔を洗って出直してこい!」
リヒトはそう言うと、空いている右手に魔力を纏わせてからレヴァンティンに向かって手刀を振り下ろした。
「レヴァンティン!」
シグナムの愛剣は、リヒトの手刀によって刀身の中程で綺麗に圧し折られてしまった。その光景を目の当たりにし、更には折られた刃をヒョイと投げ返されたシグナムは、刃を受け取りつつも必殺の剣を軽々と止められた上に愛剣を造作も無く圧し折られるという剣士としては最大級の屈辱に身を震わせる。そしてリヒトを睨みつけると、いつか必ず雪辱を果たす事を宣言する。
「まさか、頑強なアームズデバイスである我が愛剣を手刀で圧し折るとは。……この屈辱、烈火の将の名に懸けて必ず晴らすぞ! リヒト・ツァイトローゼ!」
そして、シグナムとザフィーラはそのまま転移していった。それと同時にヴィータとシャマルもまた転移でその場を離れている。リヒトは転移していくシグナム達を見送った後、軽く溜息を零しながらシグナムの評価を下した。
「……やれやれ。あの紫電一閃の出来では、魔力の強さはともかく剣の腕は修行を終えて私の元を離れる直前のシグの方がまだ上だったぞ。どうやら私達の世界では完成には至らなかったカートリッジシステムの恩恵を受けた為に、かえって剣の腕を磨き損ねてしまった様だな」
……即ち、精進の足りない未熟者と。
「さて、なのは達にはどう説明したら良いものか……」
リヒトは襲われたなのはや助けに来たフェイト達三人に対してどう説明しようか、頭を悩ませていた。
Overview end
「……と、言った所だな」
私はなのはが襲撃を受けた時の話をこう締め括った。
「それで、あちらのなのは達には当時どの様に説明なされたのですか?」
リインからそう問われた私は、当時の事を振り返りながらどう説明したのかを語っていく。
「当時発生していた魔導師連続襲撃事件を始め、それに闇の書が関わっていて、襲撃犯がいわば実体化した魔導プログラムである事をまずは伝えた。その際、流石に私が夜天の書の防衛プログラムである事、そしてあちらのザフィーラがこちらの雲の騎士の記憶と技を継承した事を話す訳にはいかなかったが、その代わりとして闇の書の事を粗方調べ終えている事を伝えたのだ。闇の書の本当の名が夜天の魔導書である事を知っていたのもその為だとな」
因みに、無限書庫で闇の書について調べたり、そこで夜天の魔導書という本当の名を知ったりしたのは紛れもない事実なので、特に疑われる事はなかった。
「そうでしたか。……それで、その後は?」
リインはこの説明で納得した後、話の続きを促して来た。……とは言っても、大した話はできないのだが。
「実を言えば、その後も何度かなのは達と雲の騎士達との戦闘が行われたが、私はそれに参加していない。ユーノの協力で無限書庫で情報の洗い直しをしながら、ザフィーラから密かに受け取った夜天の魔導書に関する最新情報とのすり合わせを行い、それ等に基づいて密かに修正プログラムを作っていたのでな。ただその様な事ができたのは、なのはとフェイトのインテリジェントデバイスがこのままでは勝負にならないとしてカートリッジシステムを強引に搭載させた事で二人が雲の騎士達と同じ土俵に立てた事もあるが、それ以上に魔導書のはやてへの侵食を阻害する事に専念する為、明らかに格上であるザフィーラがはやての側を離れられなかったというのが最も大きな要因だろう」
私がその時にどう動いていたのかを説明すると、リインは意外そうな表情を浮かべた。
「意外ですね。貴方はむしろ率先して戦いに臨んでいたと思っていたのですが」
……確かにリインの言う通り、もしこの騒動がこの世界で起こっていたことであれば、私は率先して動いていただろう。しかし、あの時はそうではなかった。
「あの当時、私がザフィーラとかなり本気で戦ってみせた事で、なのは達は私に依存しかけていた。それこそ、私がいればどのような問題も解決してくれるとでも言わんばかりに。しかし、私はいずれ主上や主兄殿、そしてお前の待つ元の世界へと帰らなければならない。そうして私が元の世界に帰った後で再びジュエルシードや闇の書の様な大きな事件が起こった時、果たしてなのは達は自らの意志と力で困難に立ち向かえるのか、不安になったのだ」
私がその時に何を考えたのかを伝えると、リインは納得してくれた。
「平行世界の問題はその世界に住まう者達で解決するべし。……そういう事ですね」
「そうだ。それにいくら因縁があったとはいえ、私自身もまた平行世界の問題に対していささか前に出過ぎていた事に気付き、その様な己を戒める意味合いもあって後方支援に回る事にしたのだ。……尤も、そのせいで、カートリッジシステムを初めて使用した時の戦いにおいて、なのはとフェイトが魔力蒐集の憂き目に遭ってしまったのだがな。どうもカートリッジシステムという強大な力を実際に使った事でその万能感に酔ってしまい、その隙をシャマルに突かれた様だ。お陰でその後一週間、なのは達が動けなくなった事で雲の騎士達はかなり大胆に動いていたらしい。まぁ、なのは達にとってはこれも良い経験だっただろう」
私が距離を置いてから早速なのは達がやらかしてしまったのは、当時のなのは達はやはりまだ幼い子供であったという事なのだろう。
この話をした私も、話を聞いたリインも、二人してなのは達の失敗談に苦笑いを浮かべながら、当時のなのは達に思いを馳せた。そうして少しばかり感慨に浸った後、私は話を再開した。
「そうした事もあった末に、はやてのタイムリミットが来る前にどうにか修正プログラムを完成させる事ができたのだ」
……そう。はやてのタイムリミットには、確かに間に合ったのだ。
「ですが、その割には……」
リインがこの様な事を言ってくるのも解る。本当に全てに間に合っていたら、主上とリインは単に私を迎えに来るだけで良かったのだから。
「あぁ。確かに、はやてのタイムリミットには間に合った。しかし、夜天の魔導書を闇の書たらしめていた強化プログラムの暴走には間に合わなかった。その結果、お前もよく知るあの事態に陥ったのだ」
結局、私ははやてが家族を失って絶望するのを防げなかったのだ。しかし、その前にリインに話しておくべき事があった。
「だが、その前にザフィーラから夜天の魔導書の情報を受け取った時の話からしようか。おそらく、お前が一番聞きたかった事の筈だ」
この言葉を聞いて、リインはハッとなった。そして一つ頷くと話をする様に促して来た。
「……解りました。それでは、お話し下さい」
そして、私はザフィーラから情報を受け取った時の話を始めた……。
Overview
ヴィータがなのはを襲撃してから十日余りが経過した。
その間、なのはとフェイト、正確には彼女達のデバイスであるレイジングハートとバルディッシュが自らカートリッジシステムの搭載を含めた強化改修プランを提示し、これを受けて時空管理局本局のメンテナンススタッフであるマリエル・アテンザがそれに着手、その結果としてレイジングハート・エクセリオンとバルディッシュ・アサルトへと生まれ変わった。
そして、つい三日ほど前に未だに魔力蒐集を続ける雲の騎士達を捕捉し、この時既に無限書庫でリヒトと共に夜天の魔導書に関する情報を洗い直していたユーノを除くメンバーで戦いを挑み、数の差で優位に戦いを進めていた。 ……そして、戦況が優位である事とカートリッジシステムが齎す強大な力の恩恵による万能感につい酔ってしまった事でなのはとフェイトが油断した結果、スピード重視の為にバリアジャケットの防御力が低いフェイトがシグナムによって足を止められた隙を突いて、シャマルが物体の取り寄せ魔法である旅の鏡を使用、そこからフェイトのリンカーコアを捕獲した。更にフェイトが魔力蒐集を受けているのを見て動揺したなのはの隙を突いて、今度はヴィータが胸部に装甲破壊の一撃を入れてバリアジャケットを破損させた。それを好機と見たシャマルはフェイトの魔力蒐集を切り上げてからダメージを受けてふら付くなのはのリンカーコアを捕獲、事態の急変を察したクロノからの横槍が入るまで魔力蒐集を続けたのである。
そこまでの話をなのはとフェイトの見舞いに行ったユーノから聞いて、リヒトはなのはもフェイトもやはりまだ幼過ぎると溜息を一つ吐いた。
それに加えて、この時の戦いにはザフィーラが参戦しておらず、フェイトが奇襲を受けるまで優位に戦いを進められていたのもそのお陰である事を、この時の戦いに参加していたメンバーの全員が理解していた。
その後、ザフィーラが現れなかった事もあって引き続き無限書庫で調査をしていたリヒトは、ザフィーラからの念話連絡を受け取った。
管制人格から現状を聞き出した。ついては詳細な情報を長に直接手渡したい、と。
リヒトはユーノに一言入れてから、なのは達のいる第97管理外世界へと向かった。ザフィーラと落ち合う場所は海鳴市内にある小さな公園であり、リヒトは一足先に指定された場所に到着すると、ベンチに腰掛けて独り言を零していた。
「灯台元暗しという事か。ザフィーラも随分と大胆な事をする」
……しかし、そうではなかった。
「長、お待たせしました」
ザフィーラから声を掛けられるまでも無く、リヒトはザフィーラの接近に気付いていた。しかし、腑に落ちなかったのは、ザフィーラが狼形態のままである上に同行者がいた事だった。
「いや、それについては先程ここに着いたばかりだから問題はない。……その御仁は?」
リヒトはザフィーラにそう尋ねると、答えたのはその動向者だった。
「貴方が平行世界における夜天の守護騎士か。初めまして。私の名は、クライド・ハラオウン。十一年前に死にそこなった、時空管理局の提督です。……いや、時空管理局の頭に元を付けないといけないかな?」
リヒトは同行者の名乗った姓に聞き覚えがあった。そこで、クライドと名乗った同行者に対して質問する許可を求める。
「ハラオウン? ……一つ、お尋ねしてもよろしいかな?」
「えぇ、どうぞ」
クライドが快く許可を出した事で、リヒトは同じ姓を持つ母子について尋ねてみた。
「もしや、奥方とご子息の名はリンディとクロノではありませぬか?」
このリヒトからの問い掛けに対するクライドの反応は凄まじかった。
「リンディとクロノをご存知ですか!」
物凄い意気込みと共に身を乗り出して尋ねてくるクライドに対して、リヒトは冷静にリンディとクロノとはどういった関係なのかを伝えていく。
「えぇ。ハラオウン提督には色々と世話になっており、クロノに至っては私の教え子です。けして一を聞いて十を知る様な天才ではありませんが、一を積み重ねて十と為し、やがて百へと至らせる努力家でありますので、師としては大変教え甲斐があります」
すると、クライドはまるで遠くを見つめる様な素振りを見せた。
「そうですか。クロノは、そこまで大きく成長しているのですか……」
……いや、明らかに遠くにいるであろうクロノに想いを馳せていた。そのクライドの様子を見たリヒトはザフィーラに説明を求める。
「ザフィーラ。貴公には一体どういう事なのかを説明してもらうぞ」
「承知しました」
ザフィーラはリヒトの求めに即座に応じると、クライドに関する説明を始めた……
Overview end
いかがだったでしょうか?
……という事で、実はリヒトが来る前から歴史改変が起こっていたというオチでした。
では、また次の話でお会いしましょう。